やはり俺の部活動選択は間違っている   作:屑太郎

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夢に八幡○磯五郎

 とある作家はこう述べた。「あらゆる人生においての書く文章量というものはそこまで変わらない」この作家曰く、この現代社会において文章を(履歴書や作文など)書かない人は居ない。だが、書かないと思っている人でもどこかしら書く事をする、その時期が早いか遅いかの違いだと言っていた。その作家に言わせれば、人間が人を見る時その時の状態が永遠に続くと思い込んでしまう事が多く、「その時」文章を多く書いている人を、書いていない人を見た時多く書いている感じるのだという。

 

 このことに関しては俺も思う所がある、あれは確か中学1年生の時のこと。酸っぱさが舌根にこべりつく中学1年生という生き物、大方の人はここで砂糖を足して甘酸っぱい青春の土台にしていく時期なのだろうが、俺に至ってはこれからカプサイシン過剰摂取で死にそうなほどの辛酸が生成されて行くことになる。

 殺人的酸辣湯(スーラータン)のような過去の第一歩目。当時俺に『中学1年生なのに妹と一緒にお風呂に入ってる』という噂が流れ始めたのだ、原因は小学校3年生にまで遡る。その頃流行ったあのトラップ『ねえ、ちゃんと風呂に入ってる?』だ、その時俺は何をトチ狂ったかはいと言った後「いや、妹と入ってた」と言ってしまい75日間の荒波へと突入してしまったのだ。そして時が流れ中学1年の時めでたくボッチになり、話しかけようとして失敗している日々が続いていた。そんな中いつものように1人で居たときの話だ、とある女子が俺に話かけて来たのだ。彼女は純粋なる善意で話してくれていたのだが、願わくばその女子があまりに男子に人気であったことを自覚してくれと言いたかった、とある小学校が同じなだけの男子が必死にその会話に混ざろうとして『そっ、そー言えばこいつ妹と風呂に入ってるんだよな!?』噂は消えず潜伏するのみ、俺の噂は千里をかけて千里先にも友は居なくなってしまった。

 

 そんなことがなくても一人だったと確信できるけどな!隙あらば自分語りしてるし!

 

 ま、まあ悲しい確信はさておき、その作家に習って俺はこう言わさせて頂こう。「人生においてその人の受ける裏切りは常に一定である」

 裏切りとは期待の消失だ、そうしてどんどんと期待というハードルが下がっていき最終的にキャパがどんどんと減っていき、気持ちが大きくなってしまう。そんな状態が続いた時とりあえずは感じる裏切りは減っていくという訳だ。

 数々の裏切りを経験した俺にとって結果、今の世界は慈愛に満ち満ちている。このように…………

 

「戸塚、少し時間あるか?」

「大丈夫だよ、どうしたの?比企谷君?」

「先日練習の方見させてもらって、こっちで練習内容の再編してみたんだが。選手としてみてくれないか?」

「え?本当?ちょっと見せてもらっていいかな?…………あれ?部活動中に練習計画があるんだけど…………」

「ああ、今さっき仮入部届を出して厚木と部長にも見せた」

「ええ!?な、なんて言っていたの?」

「『いいんじゃね?』だと」

「あ、あははは……………さすがだね、でもなんでここまでしてくれるの?少し忍びないというか」

「2週間って言ったからな、それに部員が20人にも満たない部活位だったら何とかなる」

「…………ありがとう」

 

 身目麗しい少女がにこやかに俺に感謝しているのが世界の慈愛と言わずしてなんと呼ぶ?

 だが俺が話しているのは男だ。…………性別の裏切りはこの方生きてきて十数年たちますけど経験したこと無いんですが!?

 今ならラブコメの神様限定で殺して見せるほどの怒りを感じているが、まあ、早とちりしたのは俺だ。仕方ないこととは言え、マンツーマンに近い形でマネージャーをやってみたいというのは相手を選ばず俺自身がやってみたいことではあった。

 

「気にしないでいい、明日からこのメニューでやらせてもらうが、良いか?」

「少しきつそうだけど、うん大丈夫!」

 

 具体的に行うのは昼休みに雪ノ下による技術指導、放課後練習に前半は体力強化、後半は試合練習位の心持ちでやっていくつもりだ。テニスに関しては完全に専門外だ、だから多くの人の助力を借りる事になった、この経験は社畜のように聞こえるかもしれないがスキルアップにつながると思っている。

 まず一色への連絡、次に雪ノ下への協力取り付け、練習の視察及び体力面の観察してから図書館に向かい練習方法の創作、日をまたいで練習方法の構築と理論建てに、先ほど言った仮入部届の提出に部長への打診…………部長が途轍もなくいい人で、彼曰く「うん、よく出来ている。まあ、もうそろそろ僕たちも引退だし、次期部長は戸塚君にしようと思っていた所だ、好きにやってみると良い。」と、哀愁を纏った背中は、いわゆる首領の風格を漂わせていた。

 

 後は、考えるだけ。頭の中で想像を膨らませ予想外の事態にも対応できるように。知識を知能を矛に盾に変えろ。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 そうして次の日。

 

「違う、そうじゃない、フォームが崩れがちだわ」

「はい!」

 

 昼に雪ノ下の技術指導が入り……………。

 

「じゃあジョギングから始めるから」

「うん!あれ?比企谷君も走るの?」

「ああ、少しでも同じ視線に立っておかないとな」

 

 放課後に俺の体力トレーニングが入る。もちろん全体の試合形式練習においては参加するが、基本的に俺とマンツーマンでトレーニングをしている。

 そもそもテニス部全体に言えることだが、フォームの粗さなどさることながら、基本的なスタミナが足りなくなり後半に掛けて試合がボロボロになることが多い。現に今サッカー部とほぼ同じ練習量で結構バテが来ている

 

「はぁはぁ…………これ、本当にサッカー部やっているの?」

「ああ、もう少しラダーのスピード上げてくれ、体力が付かないぞ」

「ははっ、サッカー部の人はすごい……………ねっ!」

「後2回!ファイトォー!」

 

 戸塚がやけくそになってラダートレーニングやハードルトレーニングをやっていた。一回やったことがあるがとんでもなく息が上がり、耐性のついていない者は3日寿命を縮める(と思うぐらい疲れる)

 言った通り、2回終わらせて戸塚は座り込んだ。

 

「あ、座りこんじゃダメだぞ」

「はぁはぁ…………ふえ?」

 

 可愛い。疲労でトロンとした目に、チロと出ている舌と絹のような肌に伝う汗の雫が、戸塚の中性というか女性に寄りすぎた容姿が否応なしに動物の本能が想起させる。

 冷や水をかけられたように正気を取り戻したことが幸いして、自分で自分を殴っていた。これ以上考えてたら罪悪感で死にそうだ。

 

「な、んで?」

「あ、ああ。出来れば少し歩いてほしいんだが。…………激しい運動の後だからな、急に動くの止めると逆に体に悪いし、いつまでたっても呼吸を整えられないからだ。少しずつでいい、肩貸そうか?」

 

 身をもって経験しましたとも。

 

「いや、自分で歩くよ」

「そうか、これ。水分補給してくれ」

「ありがとう。ゴクッゴクッあ~染みるぅ」

「大げさな。次はみんなと練習して来い。」

「え?もうそんな時間?…………すごいね、誰より早く来て準備してくれたりとか時間の配分とか完璧だし。いつもこんなことしているの?」

「いや?時間調整は今日初めてやった、早く来たのは、そうしとかないと俺の場合間に合わなかったしな。人数少ないと楽なもんだよ。そういえば、戸塚」

「なに?」

「戸塚はどこら辺を目指しているんだ?どこまで勝てれば気が済む?」

「…………とりあえず地区大会を勝ち進みたいな、一回戦とかは行けるんだけどシードの人に負けちゃったりするから」

「そうか、わかった」

 

 こう質問することで、本人の中で目指す所として具体化させる。すこしばかりの意識改革程度だ、それでもないよりましだそれを過ぎれば宙ぶらりんになってしまう。

 ふと、部長の声が聞こえた。休憩時間が終わったそうだ。それからは練習には少し外れた。全員分のスポーツドリンクを用意し、球拾いをして、少し疲労を取るための準備をしておこう。

 

「今日の練習上がり!」

「お疲れ様でした!」

 

 そんな野太い声が聞こえて、今日の練習が終わった。

 

「お疲れ」

「ありがとう」

「そうだレモンとか大丈夫な方?」

「特に嫌いではないけど?」

「なら、大きく口開けて」

ひょお(こう?)?「ほれ」ん?すっぱ!?…………レモンのハチミツ漬け?」

「正解、サッカー部で作ってたやつを少し拝借した。止めるか?」

「ううん、すごいおいしい、なんかこんなことも出来るんだね」

「お、おう。あとこれ、おにぎり。筋肉をズタズタに破壊した直後に栄養を与えることによって更なる増大を、って感じなんだが、鮭大丈夫か?」

「ええ!?いつの間に、っていうか手作りだよねこれ!?」

「まあ、鮭焼くぐらいは自分でできるし、今日やった調理実習鮭のムニエルだったし。問題ない」

 

 レモンに含まれるクエン酸とハチミツの疲労回復効果が見込まれる。まあ、気休め程度だが。

 

「明日は休日練習休みだろ?」

「そうだね」

「軽めのジョギングとストレッチ程度で済ませてくれ。2、3日空いていた方がかえって筋肉が付く」

「今日は比企谷君に驚かされるばかりだよ、普通こんなことしてくれないよ?」

「それが当たり前だと思っている奴らも居るって事だ、今日はありがとうな。ずいぶんとキツイ事言ったと思うが、よく頑張った」

 

 俺なら泣いちゃう。そういったら俺に運動した直後の上気して赤らめた頬を此方に向けて戸塚はこういった。

 

「ううん、僕が納得したことだから、それにちゃんと僕の事を考えてくれているって感じがして、嬉しかった…………よ?」

 

 ピクッと指が動いた。コテンと首を傾げながらそういった戸塚を目の前にして、指を動かすだけにとどまった俺を褒めてほしい。偉いぞ俺、すごいぞ俺。

 

「ドウイタシマシテ」

 

 片言でそういう他なかった。

 だが、こうして感謝の言葉を言われるのは悪いもんじゃない。少し、これからのやる気が出てきたような気がする。そうだ、あとで奉仕部に定期報告しないとな。

 

 ◆ ◆ ◆

 電話口で雪ノ下と連絡していた。今回報告するのは、体力づくりの進捗と試合形式練習への昼休み指導のフィードバック状況を報告した。

 

「俺の方からは以上だ」

「比企谷君、一つ質問いいかしら?」

「なんだ?」

「場合によっては失礼になるかもしれないのだけれど、いいかしら?」

「今更何言ってんだ?もっと俺に優しくしてくれていいんだが?とろっとろに溶けるぐらい甘やかしてくれ」

「ふぅ…………じゃあ言わせてもらうけど、とっても気持ち悪いわよ?」

「俺、七味唐辛子ぶっかけろって言ったか!?」

「素直な感想よ」

「一味唐辛子にグレードアップするわ」

 

 辛口な軽口を叩かれつつも、俺は会話を続行しようとした。

 

「普段の貴方の声より浮かれた声しているもの、心配になるわ」

「そらどうも、別にいつもと同じじゃないか?」

 

 実は帰ってきた時に小町に「清水に泳ぐザリガニ」と言わしめたほどだったが、黙っておこう。

 

「まあ、いいけれど」

「それじゃ、お休み」

「おやすみなさい」

 

 こうして、戸塚の強化計画が進んでいった。

 

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