作中に出てくる設定ですが、実際の部活動に似せている所はありますが、各地方や学校毎に違ってくる所があると思います。その点ご容赦をお願いいたします。
故事成語の一つに『前門の虎、後門の狼』というものがある、一つの災難が過ぎてももう一つの災難が間髪入れずにやってくる事の例えだ。似たような言葉は泣きっ面に蜂、一難去ってまた一難、なんて言葉もある。
最近思った事だがどうにも、虎も狼も蜂も俺の周りを四方八方取り囲んでいるようにしか思えない。今頭を悩ませているのは、どれだけ馬力が出ようと、どれだけ活動をしようと、それが続かなければ意味が無く、良いパフォーマンスを考えるには常にランニングコストというのはついて回る事になる。言葉の上であれ、走り続けるのは難しいものであるが、難しいからといって思考は止まるんじゃねえぞ。
「という訳で、きたる夏休み合宿の予算会議を始める」
「先輩、二人だけしかいないんですけど」
そんなセリフがこの空き教室に木霊した。うん、誰も居ない我が家で咳をした時のように響いているな。体感だが、学校でボッチな時と家でボッチな時とでは天と地ほどの孤独感の差があると思う。
合宿の予算会議は俺にも、というか学生が担うにはアホかと思うぐらいに荷が勝ちすぎているが顧問曰く「生徒に決めさせることによって自主決定の訓練になる」とか妄言をおっしゃっている。
「まあ、そう言うなこれでも集めたんだぞ」
「集まってないじゃないですか!?」
「募集対象十余名、結果2だ。何か文句あるんだったら使えるやつ連れてこい」
「何を言…………って、もしかしてあの部室に置いてあったあれって」
ぶっちゃけた話、戸塚のサポートに関してはそこまで労力を使っていない。それにテニス部の仮入部の時にサッカー部顧問に許可を取って、予算会議の収集と選手へのアンケートを実施したのだ。現在6月上旬、合宿期間は8月中旬にあたる、なぜ今合宿か?対応が遅すぎて困らすことは多いが早すぎて困らすことは少ないからだ。
「ああ、選手各位に送った合宿のアンケートだ」
「いつの間にそんな事、用意周到過ぎて気持ち悪いです」
「おっ、合宿の時は正露丸か太○胃散を用意しておこう。そこに気が付くとはさすがだな!」
「真面目に聞いて死んでください!」
「良し、バ○ァリンも追加だ」
「そんなことしても優しくなりませんよ?」
既にバファ○ンで世界は優しくならない事は知っている。
あれは小学校の頃、インフルエンザをバフ○リンでごまかして学校に行った時があった、当時の俺は休むとボッチが加速すると確信していたらしく、それはもう意識が朦朧とした中行ってたのだが、散々ウィルスをばらまいた挙句ダウン。学級閉鎖まで起こして、次に学校に行った時には俺の机の周りはハンセン病療養所さながらの厳戒態勢が敷かれていた事があった。無理、ダメゼッタイ。
「で、持ち物とか細かいのはあとで良いんだ、今日は粗方の方針決めと予算会議だ。ついでに、一色にも部費の出納の管理を覚えてもらう」
「そういえば教えて貰ってなかったですね」
「最初は一色の事不審者だと思ってたからな」
「はぁ!?鏡見て言ってますか!?」
「いや、一年のマネージャーだってこと知らなかったんだよ、そんな奴に出納任せたら何やられるかわからんからな」
あとさらっと酷い事言ってるよね?なんで君といい俺の周りの人は透明感のある悪口を言うのだろうか。最近の飲み物透明にしすぎ問題を髣髴とさせたが、あのなんでも透明にする流れは良くないと思うのだが。
「そんなことは置いといてだな、現在の出納について少し説明するぞ」
といって、俺はいつもパソコンにつけている出納帳をプリントアウトして持ってきた物を一色に渡した。PC最強。結構な型落ち品でもネットにつながなければ何とかなるもんだ。
「さて現在の出納は収入は総勢40人ほどからなる部員の年度初めに徴収する部費(1人当たり2000円)と、学校の生徒会から支給される部活動費で構成されている、この生徒会から支給されるのが厄介で、支給額は活躍すれば上がりその逆は下がる、現在では3万円ほど支給されている。
単純に計算して一年間で11万、それが一年間すべての収入だ」
「確かに入るときに2000円取られましたね」
「それで賄っているからな、それで、ここに前年度の繰越金が1万ちょいで無理すれば最悪12万ぐらいは捻出できるわけだ」
マネージャーになってから扱う金の額が多くなって来ている、悲しいことに全部自分使えない事を除けば金持ちになった気分だ。
「それで次に支出だ」
得てして収入より支出の方が細かいし多い物だ、自由に使える金がない以上しっかりと財布の紐を持たなければいけないのだが。当部活のマネージャーは代々頭がおかしい、より正確にはおかしくされる。PC、テント、部室にある冷蔵庫、これらはすべて歴代のマネージャーが用意したものだ。というかこのサッカー部にはOB会はないんか。
「収支は主にスポドリ代に洗剤や器具の整備に当てられているが大会や遠征にもお金が掛かるしU-15や選手権のオンシーズンがこれからやってくるから、これは加速度的に増えるといった方が良い」
「なるほど」
「で、惰性でやっているとは言え、これで合宿になるとさらに金がかかる。それを補うため今回追加で徴収しようという訳だ」
「事情は分かったんですが、今の段階で予算って決まるんですか?」
「決まるんじゃない、決めなきゃいけないんだ」
「先輩、ブラック企業の無茶ぶりを自らで実践しないでください」
社畜にはなりたくないがそうとも言ってられないというのか?…………帰りたいあの頃へ。ニートしていたい。
「とりあえず去年のプランはまるで役に立たないから、例年通りに合宿所を決めてそれに合わせて予算を決めていく。事前に取ったアンケートから絞り込んでいくぞ」
「これですね、とりあえず候補で仕分けすればいいですか?」
「おう、頼む」
といって一色がプリントに手を伸ばして仕分けした。俺も手伝い数分で終わらせた。
「終わりましたね、これ見ると5つぐらい候補絞ってましたよね。」
「ああ、ばらつきはあるが大体6000円~8000円位でまとめたつもりだ、2泊の予定だから宿泊費だけで15000円って所だな」
「へー割と安いんですね」
「移動費コートの借料費に雑費合わせれば2万は超すぞ」
「うわ、それはちょっときついですね。あ、これアンケートの質問欄に「長野いかないんすか」って書いてあるんですけど」
「死ねって返しとけ」
「長野になんの恨みがあるんですか」
進学校であり、それでいて公立校である総武高校。去年は2万超えるとキツイ先輩が居たので変えた訳だ。
これは先輩の言葉だが『貧乏でやりたいこと出来なくてたまるか』とのことだ。去年は長野県まで行って通常より抑えた金で行くことを可能にしていた。急造プランで行った2泊3日の合宿は記憶に新しくそして二度と思い出したくないものだった。
「…………まあ、今回も危ない橋を渡るかもしれないのは変わりないな」
「何をするつもりですか?怖いんですけど」
「良いニュースと悪いニュースどちらから先に聞きたい?」
これ一度でいいから言ってみたかった嫌いはある。
「じゃ、じゃあ良いニュースからお願いします」
「洗濯機を買えるかもしれない」
「本当ですか!?あれいい加減疲れるし手も荒れちゃうし大助かりですよ!」
小躍りしそうな勢いで俺に詰め寄ってきた。顔が近いぞ。というか悩みが昭和の主婦か。
「悪いニュースはお前がマネージャーをやめるかもしれない」
「私に何があるんですか!?」
「真面目な話なんだがな」
実に真面目な話だ。それでいて俺も危ない橋を渡っているからな。
「さっき言っただろ?募集人数十余名、正確には俺とお前を含めてマネージャーの人数は13人だ」
「え?もっと多くないですか?だってマネージャーのライングループには40人位いますよ?面倒くさいんで通知切ってますけど」
「いや、サッカー部の名簿を見たがマネージャーで登録しているのは11人しかいなかった。つまり、奴ら見学を代わる代わる交代しているんだ」
なんでこんなのを放置しているんだうちの顧問は……………。何とかしてくれるかなという淡い希望がついえた。
「妙な人数の多さを逆手に取ったってことですか?」
「そういう事だ。なんだかんだで部費は払っているが、この分だとマネージャー内でカンパ回して払っているかもな」
実際にマネージャーの人数は多く見える、応援は悪い事じゃないし別に邪魔ではないのだが。カンパを回している可能性が浮上している以上金を払えば、一見合法的に見学ができるというのは女子の視点から見れば魅力的なのだろう。マネージャーという立ち位置を通常より少ない金で、と考えると…………それ以上の金額が見えるぞ。
「一色、今すぐライングループの中を確認していいか?それが嫌だったらお金の徴収を匂わすようなことは書いてないか調べてくれ」
「確認します」
まあ、憶測でしかないが。そんな事やってみろ、こけた時に何言われるかわからん以上、内密に処理するしかない。
「ありました、それもごく最近」
「合宿金の徴収か」
「そうですね、アナウンス程度ではありますが」
これで恒常的か突発的かはわからないが金をカンパしていることの裏付けは取れた、いや取れてしまったのか。別に全員、金さえ払ってしまえば何の問題もなかったのに。
この件が露呈したことでよく考えろ、さっき一色はライングループに40くらい居るといったな?40人もいれば、一人頭500円と少しで11人分の金額は余裕で回収できるし、情報を操作すればそれ以上の金額を搾り取ることができる。どこの誰に流れているかは知らないが、放置しておくことで俺のリスクがでかすぎる。
最悪俺がスケープゴートになって止めるかもしれない、汚点を残して消えるなんてことはあっちゃならない。
「ふーっ、確証はなかったが、藪蛇つついたみたいになってやがる」
「えっと、もしかしてこのライングループのせいでやめさせられちゃうんですか?」
「それはない、そうなるとしたら俺ぐらいだ」
「じゃあなんで私が辞めるなんてことになるんですか!?」
「俺は、ぶっちゃけこいつらを利用し、合宿費を徴収した上で退部させてその丸々を洗濯機費用に当てようとしていたんだが」
「下種!?」
そんなばかな。
「そんな事すれば残ったマネージャーは相当なバッシングを受けると思ってな。その点俺は見られれば最悪選手がケガしているとしか思われないだろ?一色もマネージャー止めれば楽、残った俺も楽でウィンウィンだろ」
「……………そんなの、嬉しくないです」
「まあ、葉山の件はその前にお前で努力してくれとしか言いようはないが、葉山に好きな人でも居ない限り何とかなるだろ」
「そういう意味じゃないですよ」
「あ?」
しかし、このシステムを考えた奴は相当頭がいいんじゃないか?練習を通常より安い金額で練習を見れて、それでいて、自分に利益をもたらす、そしてそれを口コミで広げて行って、倍々ゲームみたいにしていたら?マルチ商法の元締めみたいな事をしているな。
俺がこの立場だったら現在一色が入っているライングループには参加せず、見学料払うグループとマネージャー登録グループに分けてマネジ組に見学組を管理させる方法を取る、できれば自分は……………スマホを持って居ないと嘘をついて、どちらのグループにも属さないことが望ましい。
俺は首謀者がそんなことに頭が回らないように祈るだけなのだが。
「ま、いいや。これからどうするかは情報を集めてからだ、今すぐどうこうする訳じゃない。もしかしたらそうなるかもしれないってだけの話だ」
「ならいいんですけど、私、何があってもやめませんから!」
「お、おう」
何をこうして一色を駆り立てる訳が分からないのだが、やる気を出しているのならいいだろう。
ぶっちゃけ金の事に関してはどうしようもない。これは俺の話だが給食費を盗んだ奴がいて、それをあろうことか俺のせいにしやがったのだ。濡れ衣は先生には分かってはいたが、噂に一つ逸話が追加されることになった。
こうして、宿命の対決とも呼べる俺と金の戦いがゆっくりと幕が落とされたのだ。