全てはゼロイベが悪い。
きゅっきゅっ、カツッ。きゅっきゅっ、カツッ。きゅっきゅっ、カツッ。
そんなリノリウムの床を弾く音が聞こえたのは周りに人がいなかったからだ。いやでも人がいない廊下を歩くと自分の過失の意識が響いてくる様で通りたくはなかった。
それでも、片手に持った紙切れ一枚届けるために、ここの廊下は絶対に通らなければならなかった。
既にギプスは外れていた、だが、筋肉の衰退が激しいらしく、いまだに松葉杖をついている状態だった。嗚呼、歪な三本足の時代。
「俺には無理ですね」
そういったはずだったのに、俺の手に持っているこれは仮入部届と書かれていた。結果は分かっていたのだ、二者択一に見せかけた一方通行で平穏か否かそれだけを選ばせるだけだった。
当然流れた、あの人は部活以外の選択肢をすべて平穏に過ごさせると言ったような物だったから。そうして出会ったことのない顧問に紙を渡しに行った。
「すみません仮入部届を出しに来たんですけど」
「え?仮入部?今更?マネージャーとして?ああ、清川が言ってた奴か、ここに置いといて。問題は起こしてくれるなよ」
「はい」
この二言だけで済んだ。顧問ってこんなもんかと思いつつ、俺は先輩に会いに行った。俺の口調は無意識にとげとげしく、絶対に許さないノートが表層化したようなそれを直そうと苦労した。
「お帰り、どうだった?」
「一言二言釘を刺されただけでしたよ」
「そう、よかった。とりあえずこれ、比企谷君の為に仕事リストを書いて来たの」
俺は、余計なお世話だと思いながら俯いてノートを受け取った。心にもないありがとうを口に出しながら、俺は踵を返した。
「比企谷君」
「何ですか?」
「君に今日を敗北と思う事だけはさせてやらない」
「…………」
現状の勝敗で別れる物全てにおいて敗北を押し付けられて来た人間に何を言っているんだ、あんたに負けて今ここに居るんだ。と声に出したかったが喉元の恐怖が邪魔して出せなかった。ただ絞り出したのは一言だけ、子供のような悪態だけ。
「敗北って何ですか」
『なら、サッカー部にとって、負けって何だと思う?』
何か、言葉に重圧がかけられたような気がした。長い間積み重ねられた情念をそのまま叩きつけられたような。俺はそれに驚き飛び出したネズミのように、もしくは恐怖が蛮勇によって打ち消されたように俺の言葉に障害はなかった。
「試合に負けることじゃないですか?負ければ努力は全て無駄だ」
『もし仮にそうだったら、私たちは既に負けていることになってしまう』
『勝負の舞台にも立てず、勝利の為に雑務をこなす。これが敗北者たる私たちだ』
『ならば、私たちは今、泥塗れの敗戦の中にいる』
「じゃあ負けって何ですか?まさか一心不乱に努力することとか言わないですよね」
『もう何年か後に選手と私たち含めてサッカー部に入ったのは間違いだったと思うことだ』
皮肉ってそういったが、言葉の重みは相変わらず変わらない。
「ま、この仕事は君にピッタリだ」
「何を言って」
『立ち上がるのは敗者の特権だ、試合に負けたところで選手はただ一回立ち上がるだけだ。だが、目先の勝負に負け続けている私たちは、立ち上がり続けることができる』
「君はいつだって立ち上がり続けて来たんだろ?」
「…………人を敗者呼ばわりって神経疑いますね」
「だろ?私もそう思うよ」
先輩が浮かべた苦笑交じりの笑顔と、自分の事のように語る口ぶりが嫌に印象的で。でも、何か救われた気がした、諦めに沈んだ努力をかき回されたような気分で、とても、なぜか不快だった。
「『失敗したっていい、迷惑をかけたっていい、それが私たちだ』明日で待ってる」
本格的に動くのは明日からだという、一応早く帰ってこの中を確認しなければ何を言われるか。それでも、たった一年の辛抱だと思いながら歩みを進めた。
「サッカー部へようこそ!」
少し驚いて足を止め、後ろ手で手を振った。
◆ ◆ ◆
恐怖の弾丸は視線によく似ている。どれだけ避けようとしても振り切れる物ではなく、遮蔽物を難なく通し、射線も見えず発砲音すら聞こえず、傷跡すら残さない、恐怖の弾丸。と書いてインビジブルバレットと小太りな彼は言った。
だが、途轍もなく怖いだけだ、恐怖を知りそれを自分の物にしてしまえばそれ以上の味方はなく、自らを傷つける事はないとも、小太りな彼は言った。
俺は驚いた、彼が言うような言葉ではないのは勿論、中二ワードが全然足りなかったからだ。相変わらずわけわからんルビを振るのは治っていないが、俺はそれを聞いた。
「ジョ○ョでも見たのか?」
「ガファ!?」
やはり言い得て妙ではあった。恐怖は見えず、知らず、それでいて強大であればあるほど効果的だ。具体的な対処法は貰えると思わなかったが、それに気づかせてもらった彼に俺は礼を言った。
「ありがとうな、今回の小説も面白くなかったぞ」
「グフッ、恐怖の弾丸…………ご覧戴きありがとう」
しかし俺にとって三つは成り立ってしまった、俺は彼女を見ていない、かつ知らないし、それでいて彼女の方が身長が高いのだ。
おっと訂正しておこう、一つだけ知っていることがある、それは彼女の今日の下着は黒であったということだけだ。まあ、今朝転んだ節に見えただけなのだが。…………それはともかく、彼女の視線は弾丸たりえる目つきの悪さだった。
その光景を見たのは、俺と金との戦いが開戦しつつある日から数日の事だった。
現在俺は犯人捜しに難航していた。部活マルチの犯人捜しは思った以上に難しかったのだ、今現在見学グループとマネジグループの洗い出しまでは出来たのだが。それ以上がいけない…………名前でサーチするか?本当にめんどくさい、通常の業務をこなしつつこんな探偵まがいの事をしている。これ以上やったら本当に過労死してしまうかもしれん…………。
だが、その一方で俺は、彼女らを奉仕部を頼るのに拒否感を抱いていた。此方の抱えている事情が事情だ、頭では協力を仰いで快諾してくれたのなら、雪ノ下は怜悧で聡明な頭脳で、由比ヶ浜はその交友関係の広さで助けになってくれるだろう。
だが、こちらの抱えている物も大きすぎる、かもしれないのも事実。雪ノ下なんかはあの性格上明るみに出た瞬間「ほぼ詐欺罪よ、通報するわ」位言ってのけそうなのだ、一人で抱え込むには嫌に大きく、二人で分かつにも俺にはそんな奴は居ないのが悲しいことに現段階で打てる手だ。
という訳でそろそろ、悲しさを一人で抱えきれなくなったので部活が終わった放課後、小町に相談して…………みたかったのだが。
「小町、なんでサイゼに居るのだろうか?」
俺はサイゼに来ていた。正式名称サイゼ○ヤ、我らが千葉県が誇る一大チェーンである。現在本社は赤T黄パンの5歳児が住む県になってしまっているが、都合の悪いことは目に入れないことが大切。だが、それ以上に大切なのはサイゼリアがリーズナブルの頂点、リーズナブルオブリーズナブルである事と、千葉の学生は大体勉強をするときは辛○チキンを貪り、手とノートを油まみれにしながら勉強している故、若者の雰囲気が漂う町のサイゼは巨大な
千葉のひいては全国のあまねく学生を深い懐で受け入れてくれる偉大な企業だという事
「いやははは…………ちょっと小町、近々テストがありましてですね?」
「おっと、もうこんな時間だ。予約したプリキュアみなきゃ」
「お願いおにいちゃん!」
「冗談だよ小町、何がヤバいんだ?」
「数国社!」
「まあ、範囲にもよるぞ?」
「やりぃ!やっぱ持つべきものはお兄ちゃんだよね!」
よっしゃ、そう来たら俺も本気を出さざるを得ないな!
現在の俺の成績は、
まあ、最近忙しくてサボってしまったのだろう、バツの悪そうな顔をして俺たちは店員に案内された席に座った。ドリンクバー以外は適当に決めて勉強道具を広げてスタンバイ、資金は勿論小町出し「別にいいけど金ないぞ?」「お父さんが小町にボーナスだって」「1ヵ月早いだろ…………」という会話があったのだ。
小町にはメープルシロップ、俺には黒酢をぶっかけるのが親父の流儀だと語っている、唐辛子でない所に小市民っぷりが伺える。最近の働きっぷりを見ていると奴隷に近しい。比企谷家の男が皇帝を取る日はどっちだ!?
「そこはナポレオンだ」
「げっ、なんでこんな初歩を…………」
「というかまだナポレオンって、進み遅くないか?」
「歴史の先生がここら辺の雑談がすごくて…………」
「もしかして神流川先生か?それなら過去問を」「本当!?」
「…………捨てたかも」
「家に帰ったら物置から探そうか?ゴミぃちゃん?」
「ウッス」
次の予定が決まった所で、ドリンクバーの補給に繰り出した。
今思えばドリンクバー、子供の時は味の宝庫だったりするのだ。確実にあるカル○スとなっちゃん、無数にある配分量と組み合わせに魅入られたことは俺だけではあるまい。そういう意味では今でもマッカンとスポドリを混ぜ合わせていた。今でも変わらないな。
あと我儘を言えば、マックスコーヒーをドリンクバーに入れてくれ……………とは言わないが大量の練乳を脇に置いてくれないか。
暖かいコーヒーが出てくる間、そんな取り留めの無い事を考えていると、一度でもサイゼに入った事のある人はお分かりだろうが、大体ドリンクバーは入り口近くに配置されていて、ドリンクバーを使うと新しく入店した人がわかってしまうのだ。
そういうとき、同じ学校の奴が入った瞬間ボッチの習性として気まずくなって目をそらすという習性があるのだが、それが友達と知り合いである時、目を反らさず首をねじ切り首だけ逃げる習性があるようだ(無いです)
「あら、比企谷君。奇遇ね」
「首が取れればよかったのに」
「貴方がボールになってどうするのかしら?」
出来る事なら俺の頭でサッカーしないでください。想像したら猟奇的過ぎる、やなせ先生はそれに気が付かなかったのだろうか。
「ヒッキーやっはろー!」
「うっす、二人揃ってどうしたんだ?」
「テス勉しに来たの、ヒッキーは?」
「こっちもそんな所だ、じゃあな」
さっさとここを切り上げてしまおう、これ以上続けていると何かボロが出てきそうだ。
「また後で」
そういって二人は別の席に着いた。それを見送って俺も自分の席に戻っていった…………去り際の微笑みが、先輩にダブって見えたのは目の錯覚だと思いたい。
「あれ?私のメロンソーダは?」
「あっ」
急いで回れ右して取りに行こうとすると、引き留められた。
「お兄ちゃん私行ってくるよ、気分転換になるし」
「不甲斐ないお兄ちゃんでごめんなぁ」
そういう意味では生まれた瞬間から謝らなければならないのだが。
「うん、知ってる」
「言い出しっぺも酷いな…………」
そういった小町を見送り俺は自分の宿題に目を向けた。
本来、中学の時から俺は数学が苦手だった、あれは学校の教科の中で唯一本当に積み重ねていかなければいけない教科だから。足し算を理解していない小学生に最初から掛け算を教えても、分からないだろう。そうやっていくつも数式を覚え積み重ねていく事が重要な教科だ。
俺はどこからかつまづき、中学生の頃は本当に何もかもわからず一桁もざらにあるなんて時代もあった。
そして、それをぶっ壊したのは先輩だった。
「ああん?数学が苦手だって?あの先生だったら小テストやるだろ、見せてくれ」
「口調が…………これです」
「……………私の口調はどうでもいい。ほうほう、さては貴様馬鹿だな」
「いきなり口調変えないでください」
「黙れバカめ、今日からテスト終了まで教官と呼べ」
から始まり。
「貴様を小学校送りにしてやろうか!」
「ひいい!」
「明日までにこの公式覚えて来なかったら、黒ランドセルに半袖短パンを着せてお持ち帰りするぞ!」
「マニアックすぎる…………ッ!?」
とまで言われ。
「ここ数日間は悪かったな、全力を尽くしてこい。ここまでやって赤点とか目も当てられないぞ?」
「その通りであります教官!」
「染まりすぎだ、目標点以上行ったら何かおごらせてくれ」
そうしてテストが終わり、結果が帰ってくれば平均点以上の点数があった時は少し目に涙が浮かんだ。それでも先輩のおかげとは言わない、赤点を回避しただけで何を隠そうマネジを回避できる訳ではないからな!
このように得てして回避できない物はあるのだ、どうせ小町もどこぞの馬の骨とも知らぬ奴を見せるなんてことも、回避できる訳がない。おっと、気が早すぎたかな?それでも、いつか連れてきた時には深い懐を見せて置こう。
「ただいま~」
「こんばんわお兄さん!」
「○ね。おい小町後ろの気持ち悪いスタンドはなんだ?」
よっしゃ、こいつを辛味チキンにしてやる。サイゼも辛味チキンまでセルフサービスにしてくるとは恐れ入ったぜ。
「鏡だよお兄ちゃん、大志君ひとまず自己紹介!」
「川崎大志と言います、比企谷さんには同じ塾でいつもお世話になってます!」
「そうか、俺も比企谷なんだけど?」
今の俺の目つきは、そんじょそこらのチンピラを超えているだろう。後器の狭さも。
「すみません!少しお兄さんに相談したいこと「誰がお義兄さんだこのやろう!」すみません!」
「お兄ちゃん漢字が違うよ……………」
こいつ…………俺の熱いまなざしを受けてひるみもしない、やるな。
「お兄ちゃん、話を聞いてあげて?」
「しかたないな……………まあ、座れ力になれるとは思えんがな」
「ありがとうございます」
と言って座った短髪の彼は俺に怖気ずに真っすぐ俺の目を見ていた。小町は俺の隣で心配そうに俺を見つめていた、よせやい照れるじゃないか。え?変なこと言わないか見張り?
「実は俺のお姉ちゃんの事なんです」
「そなたも
「最近お姉ちゃんの帰りが遅いんです」
「状況が読み込めん、詳しく話せ」
とまあこれから話してくれたこと要約するとこんな感じだ。
川崎(姉)が最近家の帰りが遅くなっているらしい、最近から夜に出ていき朝に戻ってくるという生活をしているようだ。
不審に思った川崎(弟)が聞いた所、取りつく島もなく「そんな事聞く暇あるならさっさと勉強しろ」と一蹴、で独自に調べた結果、エンジェルラダーとか言うバーの名刺が川崎(姉)の部屋から発見された。なんて言う経緯だ、よく姉ちゃんの部屋に入れるなオイ。
まあ、俺としても小町がそんな事していたらと思うと何をするかわからない、きっと問い詰めて「お兄ちゃんキモイ!」の言葉で撃沈して終わる。いや、終わっちゃうのかよ。だけど沈んでもエンジェル小町も見てみたいものだ。
…………思えばこの
それに俺一回沈没したらもう浮かんでこないし、そういった意味じゃ浮かんできたこいつマジリスペクト、シスターを持つものとして鼻が高いぜ、それでも小町はやらん。
「まあ状況は分かった、お前の姉ちゃんは総武か?」
「そうっす、何かお兄さんなら知ってるんじゃないかと思いまして」
「お兄さんと呼ぶな、しかし……………あ、なあ、お前の姉ちゃんの名前は?」
「川崎沙希です。さんずいに少ないで沙、希望の希で沙希です」
「沙悟浄の沙に希望の希か、痛って!?女の子に沙悟浄ってないですよねすみませんでした!」
小町がジトっとした目でこちらを見ながらわき腹をつねられた、割と痛いんですねこれ。だが小町のジト目も素敵だと思います。
「何か姉ちゃんが危険なことに巻き込まれたら、家族としても見過ごせないんで」
よく言った、と褒めてやりたい。が、現状俺は何もできない、うかつに変な姿勢をとっても期待させるだけだ。
「……………ちょっと待ってろ」
一つ脳裏にひらめいた事がある。もうプライドなんか知るか。席を立って周囲を見回す、明るい髪色だからすぐにわかるはずだ。
そして桃色を見つけてその席に近づいた。同じ総武でもボッチの俺が、光の速さで青春を駆け抜けた俺が、他人に目を向けられるほどの余裕なんて持ち合わせている訳がないだろ?
鞄に持っていた、部活マルチ被害者ライングループのリストに、たったペンで一つ名前を加えて、由比ヶ浜に近づいた。
「由比ヶ浜、少し時間あるか?」
「え?どうしたの?」
「ちょっとな、これを見てほしい」
ラインのアイコンとホーム画面と名前をそのままプリントさせてもらった。さすがに40人弱のそれはめんどくさかったが、手づまりになるのも避けたかった。
少し困惑したような顔をしながらも、記入してもらった。ラインの名前は安直なようで、そのまま学年、クラスまでほぼ書いてくれ、それだけでなく最近こんな噂があるとか、知っている人間の近況まで教えてくれた。
なぜその圧倒的記憶量を勉強に生かせないのかと隣で雪ノ下が頭を抱えていたが、それほどに正確な情報を丸っこい字で書きこんでいく。
10分ほどですべての情報を書き込んでくれた、由比ヶ浜に礼を言って再び席に着く。因みに目下の川崎(姉)に至っては、同じクラスだった。そんな馬鹿な。
「えー驚くべきことに、川崎君のお姉さんは俺と同じクラスだったために調査させていただきます」
「知らなかったんですか…………普通、クラスの全員の名前覚えますよね?」
「大志君、それ以上いけない」
「不問にするが、一つ頼みがある」
「なんですか?」
「これから友達な、姉ちゃんにそういっとけ」
と言って俺は川崎に握手を求めた。こいつには
それ以上に小町が驚いた顔をして俺の顔を見つめた。別に減る物でもないし?それに(ほぼ女子とは言え)戸塚で男の耐性はついた。
「はい!ありがとうございます!」
今日は何もしないという事を告げ、小町との勉強に戻った。ついでに大志も加えてまとめて教えた。というか大志君?君総武ちょっと危ないよ?問題を解くスピードは良いんだが妙にケアレスミスが多い。小町は逆だケアレスミスは全くないが、解くスピードが遅く、時間ギリギリだったりする。
後非常にむかつく所だが、不得意なところがかぶって無く、勝手に教えあっている時もある。俺いるよね?俺いるよね?
そうして2時間ほどたち、俺たちは解散する流れとなった。こんな付け焼刃でどうにかなるものだとは思えないが、せっかく教えたのだから、赤点位は回避して欲しい位は思うのは人情だろ?
勉強道具を片付け、立ち上がる時に鳴った背骨の音を恨めしく思いながら小町の会計と大志の会計を待った…………その場で待っていると、年下に払わさせているという罪悪感が這って寄ってくるようで俺は外に出た。
6月の頭であり小雨が降っていた。勉強に集中している間にすっかり暗くなり、なおかつ、勉強している間の雨量で辺り一面のアスファルトすべてを満遍なく濡らしていた。街頭や家の様々な光が濡れたアスファルトに乱反射して、まるで地面のプラネタリウムのようだった。
なんて思うような感受性を持っていたらなぁ、と俺は思っていた。濡れるの嫌だ位にしか思えない俺は時折来る肌寒い風に身を震わせていた。
そんな中、薄ぼんやりと立っていると遠くの方から折り畳み傘を持った女が、サイゼリアの入り口を見張るようにしていたのが見えた。実際には食い入るように見ている訳じゃなく、店から出る尾行対象を待つ探偵のようだったのだが、どちらにしても怪しい。なんというか「そんな所に立ってる位ならどこかに入れば?」と言われるような位置に立っていた。
「会計終わりました」
「おう、じゃあな」
一つ気がかりな所は、俺と小町が帰る方向がその女がいる方向ってだけだ。
いやいや、これ以上は妄想の類だ、小学生探偵レベルの言いがかりだ、気にせず帰ろう。小町と俺は持ってた折り畳み傘を開いて帰路に着いた。
「いやーお兄ちゃんがあんなこと言うなんてびっくりしたよ」
「まあ、友達って言葉だけで成れるし?専業主夫になればママ友作らなきゃいけないからな!」
「捻デレだなぁ、それにしても2年生になってからどんどん友達ができるね、何か心境の変化でもでたの?」
「いや?ボールが友達になっただけだ、今は一人しかいないさ」
少し、その女の近くを通る時に体がこわばってしまって、靴の歩きづらさが俺の転倒を加速した。
神様の悪戯か、女のスカートを見るかの如く転倒した。
「すみません!」
と転んだ時に頭をぶつけ、少しふらつきながらも素早く立ち上がった、女は全く声も上げず、鋭い目つきがこちらを見据え、何かを言いたそうなそぶりを見せたが、それだけでサイゼリアの中に入っていった。
「…………色は?」
「黒だっがふっ!?」
兄にとって妹の右ストレートはそれはもう恐怖の弾丸に等しかった。わき腹はやめてくださいませんか………。
何かしこりを残して今日が暮れていった。
没ネタ
勉強に没頭していると、頭を触られた。不思議に思って隣の小町を見ると、俺に何かした様子もなかった。小学校低学年の頃は小町に悪戯もされたが、この年になっては全く無い。
首をかしげているとさらに触られた。
そうして振り返ったのが運の尽き、ガラスの衝立に頬を押し付けながら俺をにらむ女性の姿が…………
「うおっ!?」
「あっはっはっは、うおっ!?だって!あっはっはっは。ちょっと来いや」
「自由ヶ丘先輩…………死んでください」
「ひどっ!?」
「小町は渡しませんよ!」
「ふっふっふ、この子が小町ちゃんか……………ふっふっふ」
ワザとらしくねっとりとした笑い方をして此方ににじり寄ってくるんですけど!というか自由ヶ丘先輩に小町を渡したら種割れ目になって帰ってくる!
「ふっふっふ、ヒキ君。その子を迅速にこちらに渡すんだ」
「自由ヶ丘先輩が入った墓石の前位なら合わせてやってもいいですよ。というか何するつもりですか」
「それは勿論、隣に座ってふっふっふっふ」
「いや言えよ」
ふた昔前の悪役のような笑い方でごまかされても。あーんなことやこーんなこと考えているに違いない。
「で、ヒキ君何してるの?その子は?」
興味失うのはやっ!?
「今日知り合った浮田大五郎君です」
「私は自由ヶ丘自由!よろしく大五郎君ってそんな訳あるかーい!」
「全国の大五郎に謝ってください、そして目の前の人間に謝ってください」
「ごめん」
ここまで書いて没。
理由:最早おわらんから。