やはり俺の部活動選択は間違っている   作:屑太郎

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私が世界一のハロウィナーだ!

 放課後のこと、ボールの修理をしながら、冬の足音が感じられる10月の終わり。世間ではハロウィンとか言って、頭パーリーピーポーな連中がパーリーするために作られた日を崇めるように企業たちがこぞってありとあらゆるパッケージにカボチャの化け物をつける日。この間豆腐のそれにも付いていた時には戦慄を隠せなかった。

 あらゆる寒さで身を震わせた俺は、修理に一段落つけて倉庫から身を出した。

 

「トリックオアトリート!」

 

 と言っている、体育倉庫まえで何の仮装もせずに仁王立ちしている先輩を冷ややかな目でみた。

 この色気の欠片もないジャージ姿で立っているのは清川アキラ先輩、俺をこの倉庫でボール修理している元凶だ。5か月前バカバカしい手段で俺を追い詰め、このようになっている。外見だけ奇麗な地球外生命体である。

 マネージャーとなってしばらくたって、この先輩の人なりはそこそこに知っているはずなのだが、この先輩はなにを言っているのだろうか?と思う事をバリバリ言ってくれる。流石に慣れたが、たまに面食らう時もある。

 

「なに言ってるんですか?」

「いやー、ごめんね今日ボール使わないんだってさ」

 

 少し肩を落とした、まあ、このボールだっていつか使うかと無理やり納得させながら籠に放った。

 

「寒いから中入ろう?」

「はい、じゃあ今日自主練ですか?」

「そうだね、だから今日は休みだ。あー、さむさむ、私も動く予定だったからジャージだけだよもう」

 

 そう言って先輩はマフラー代わりにした立たせた襟の向こう側で唇を尖らせた。俺もジャージで1人寒い中ボールの修理をしていたのだが。言いっこなしだ、導かれるまま俺は校舎の中に入った。

 連れて来られたのは家庭科室、いつもここで内職する母の如く粉のスポドリを入れてはシャカシャカしている。

 

「という訳でハッピーハロウィン!」

「いや、仮装してないじゃないですか?」

「…………アーヴィング・ゴッフマンによって社会学として提唱されたドラマツルギーという概念を知ってるか?」

「知りませんよ」

「簡単に言えば、全人類全員劇場で演じているような状態ですよという、人間関係の捉え方だ」

「いや、よくわからないんですが?」

「君は私と一緒にいる時、ほぼ敬語だろう?」

「まあそうですね」

 

 いやいや、お前のせいだろと思った。がそういう事だった。先輩の前で言葉を発するたびに敬語になるということは、少なくとも俺は今こういう風に喋るべきだとも思っているし、心の中でも敬語を使っている訳じゃない。

 

「それは私という先輩の前で後輩としてふるまうべき姿として敬語を使っているということだ、妹さんの前で敬語は使わないだろう?」

「とりあえず何が言いたいのか分かった気がしますけど」

「私が私で居るだけで演じているんだ、ならば肉体に仮装なんて意味がない、そもそも演じているのだからな!」

 

 こんな化物じみた演技が常人にできる訳がない。そもそもそんな演技ができる時点で変人であることに変わりはなく、頭の中では化物だったので仮装は必要ないともいえる

 

「詭弁ですけど、妙に反論できないっすね」

「という訳でだ、今日は暇になった、そしてハロウィンなんて催しものがあるんだ頭を軽くして乗っておこうという訳だ」

「…………まさか、ここで30人分のクッキーを焼こうなんて考えている訳じゃ」

「駄目かな?」

 

 非常にめんどくさい…………非常にめんどくさい…………。これで帰ったらこの先輩は一人でやりきるに決まっている…………吐き気がしてくる、逃げたら何言われるかわからないから。それでなくとも一人3枚だとしても大体100枚ぐらい焼かなきゃいけないだろ。

 と言ってスルーした暁にはすべてのクッキーが焼き上がっているに違いない。ふらっととんでもない事をしでかすからな。

 

「俺もやりますよ」

「やったぁ!今度は一緒に作ろう、材料も用意してあるから」

 

 心じゃ不承不承ながらもそうして、俺は先輩と共にクッキーを焼く準備をしていた。

 

「比企谷君、そういえばさ」

「なんです?」

「一応ハロウィンってさ、今じゃ仮装して騒ぐ日になっているけど、元は収穫を祝うための儀式でただの収穫祭的な側面が強いらしいね?」

 

 勿論知っていた、中学3年の頃クラス全員で地域のハロウィン仮装大会に参加しようという話が持ち上がり、心の中で何言ってるんだ受験期に。と思っていたが、クラスの全員が思いの他盛り上がり参加することになってしまった。

 それを理論武装して論破するためにハロウィンを調べ、よっしゃこれで誘われても断れるぜ!とか思っていたらそもそも誘われなかったっていう…………泣いてないから、玉ねぎ切っているだけだから。

 

「そうらしいですね」

「うん、だから。それなら私もハロウィン楽しんでもいいかな?って思ったんだよ」

「どういう事ですか?」

「収穫を祝う気持ちって自分の努力で実になる物を取って自分の物にすることだと思うんだ」

「そんなの結局裏切られますけどね」

 

 ここに入るまで俺はNOと言い続けてきたはずだ、努力を潰されたが故の努力を重ねているのが今だ。

 

「うん、そう思うし、私は裏切られた。けど嬉しいんだ」

 

 そんな皮肉を込めてそういった物をさらりとかわされた。

 というか、今の先輩の話は要領をえないというか、さっきの話とはまだ別に、煙に巻かれているような感覚だ。

 

「言葉は嘘だ、簡単に裏切るけど。私は裏切られてもいいって思えたんだよ」

「俺は嫌ですね」

「うん、だから」

 

 いきなり口に何かが入った。香ばしい匂いが鼻に入り、それが焼きたてのクッキーだということが分かった。気が付いたら端正な顔が近づいていた。にっこりと笑いながらさらに口に入ったクッキーをさらに手で押し込まれ、至近距離にあった顔が離れる。

 

「お菓子くれたから悪戯しないでね?」

 

 この先輩の胸中は知らない、というか分かるべくもない。俺はこれを聞いて先輩は、俺に裏切るなと言っているように聞こえた。…………やっぱり訳が分からなかった。

 

「…………努力はします」

「よろしい」

 

 さっさと作ろうぜと言わんばかりの沈黙で、それから先は黙々と先輩と一緒にお菓子を作って特別な部活が終わった。

 

 

 

 自転車のペダルをギシギシと音を立てながら短くはない道を通学路進んだ。

 すべてのお菓子が焼き終わった時には日も暮れており、秋の日は釣瓶落としとは言うが先人たちの知恵の深さに驚く限りだ。中学までは部活に入ってなかったからこんなことにもならなかっただけなんだがな!帰ったら宿題を終わらせ、千葉テ○ビのアニメ再放送を永遠と見続けるだけのマシーンとなっていたあの時代を振り返ると、今と比べれば結構ましな生活だったんじゃないかとも思う。

 周りに人間がいる者は、それは自分を味方する物ではなく銃口の数だと思え。そろそろ世界は俺に対しての引き金を重くしてほしいね。今じゃ軽すぎて少し動くだけで脳みそお釈迦になってしまう。

 

 …………人間、寒くなれば勉強というか内向的になって深く考ることはあると思うのだ。忙しく夏の熱気が直接脳みそを叩いたような夏休みを終えて、ふと冷静に考えれば…………何やってんだ俺。

(部活で)休んでない夏休みの時期は勿論の事、今までの事だ。

 

 今も、先輩は俺の事が嫌いと公言している。

 

 だが、未だに燃料も投下せず、撤回していないが正しい所なのだろうが、ただ何かが燃え広がるさまをそこで見ているだけの幽かに揺らめく不思議な立ち位置から、今のような…………表面上は…………それも違う、ただ俺の疑念を感じ取りさらに加速させて、俺にブレーキをかけさせているだけ。

 何故俺の疑念を把握したのか、何故自らを餌に人を追い詰める事が出来るのか、何故、という疑問がほとほと尽きない。

 

 家が近づいて来た。そろそろだあの扉の向こうは絶対に宿題以外で学校用の思考は持ち込まない、あの先輩の事は持ち込ませてたまるか。と思った時にはすでに家の扉の前、ドアノブに手をかけようとした時ふとした思い付きのような問いかけを自分にしていた。

 

 先輩のあれは優しさなのだろうか?

 以前なんで俺にこんな事をと、先輩に問いかけた事がある。答えは「言わなかったっけ?」だ、赤ちゃんに向けるような笑みを俺に向けながら、それっきり。

 

「私は君と一緒にいることに対して嫌悪感を持っている」

 

 と最初の方に言われたのをきっちりと覚えている。きっとそれの事を指しているとしか思えなかった。嫌よ嫌よも好きの内とは言う、好きも嫌も言われないただ拒絶されるだけの人生でただ初めての自分を深く突き刺す射矢を、俺はどうにも持て余していた。

 視界の端に映る木枯らしに流れる枯葉のように、俺がマネージャーなんて発端から奇麗さっぱり流し去って欲しいと切に願った。

 

「どうしたのおにいちゃんそんな所で」

 

 後ろからかけられた小町の声に、驚きの声は出さなかった。考えすぎでいつの間にかずっと外で立ってたのか…………夜道に近い暗がりでやっと家に着いたと思ったら腐った目の男が玄関先に立っていると考えれば、それが肉親であろうと衝撃に違いない。それで俺を心配する言葉を出せるということは、もしかして:天使

 いかんいかんと頭を振った俺は鞄の中から焼いてきたクッキーを渡した。

 

「トリート」

 

 確かに小町と過ごしたこれまでに、何かは実ったはずだ。それが俺にもどんなものが分からないけど、それでも嬉しい物だ。

 

「え?お兄ちゃんの鞄から手作りクッキーとマドレーヌが!どんなトリック!?」

 

 小町のマシンガントークを聞きながら、家に入った。

 ハッピーハロウィン。どうかカボチャの化け物よ俺の苦笑を祝ってくれ。

 




2018年11月5日誤字修正
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