よくガラスという物質は脆い物の総称として扱われる。普通のガラス製の物は勿論、ガラスで作れない物の前につけてその脆さを形容する。例えば
つまり、全部俺になるようならば八幡という言葉がガラスに取って代わるようになるだろう。八幡のハート。あらやだ腐ってるわ。
とりあえず何が言いたいかというと、物は大切に扱いましょうということだ。
「という訳で一色、この洗濯機を俺だと思って使う様に」
「というか、どうやって学校に持ってきたんですか?」
我がサッカー部に新たなエース。洗濯機君が加入した。
唯一の欠点としては中に置こうと思ったら場所が無く、完全に屋外に置くことになるというのが欠点らしい欠点か。いや、顧問の家にあったやつを持ってきただけという欠点があった、顧問の話だと問題なく動いていたという話なので丁重に頂いておいた。
対策として防護カバーの購入も合わせそれなりに動いている。…………先日あった大会の後(ぶっちゃけ大会の方がスコアカードとドリンク補給位しかないので楽だからほぼ記憶に残ってない)顧問を呼び出し、近況報告をしあった後、こう持ち掛けた「お宅の洗濯機古くなってません?」金を持った俺を見て顧問は悟った。
…………この瞬間、顧問の心労はとんでもないことになっただろう。教師としてのメンツを一瞬で潰す可能性を持った生徒が、大金を持って迫ってくるとか怖すぎるな。
ただ、俺の方は(表向き)出所のわからない金を洗浄できるし、顧問の家の洗濯機が型落ちしていれば新しい洗濯機が手に入るのだ。win-winの関係になるし悪い事じゃない。
「はぁ、あの一週間近くの心労を思えばこれからどれだけ楽ができるか…………おバカなことしてくれて助かったわ」
これがなければ、もはや今でもタライと洗濯板生活だろう。昭和のおばちゃん2018となっている所だった。
「そもそも、マネージャーをよく見てたら分かることだと思うんですけど」
この後輩は俺の痛い所をついてきやがる。
その通り、俺がマネージャーとして入ってくる人間を指導していれば、こんなことにはならなかったかもしれないが、まあ無理だろう。というかキモッで追い返された。もしかしたら、俺が何かをやればもっと別の結果になったかもしれない、と思ってしまう。
「それはそれだ。一応、説明書とか持ってきてある、後で見といてくれ」
「はーい」
部活マルチに至っては今はまだ、爆弾を抱えている状態だ。おそらく何かアクションは起こす事もあるかもしれない、内部を把握していないため、どう出てくるかわからないからだ。
それでも実はアクションはそんなに起きないのではないかとも思っている。マネージャーとして登録されている人数分の料金は、マネージャーから出ていないからだ。全額出ていなくても、キャンセル料から何割か帰ってくると踏んでいたとしたなら、デメリットがなければ動けないし動かない。それでも動いたとするなのら。
「…………マジでやめて欲しい」
「ぼそっとなんか言うの怖いですよ!?」
邪魔以外の何物でもないし、貧乏くじ引きまくりな立ち位置になっちまうからやめて。と思いつつも、仕事を振り分けるあたり部活病過ぎる。
「ドリンクやっとくからトンボよろしく、あと用務員さん見かけたらドライバー借りといて」
「何に使いますか?」
「扉の建付け直し」
一応用務員さんに理由を聞かれた時に答える理由を聞かれた。この間サッカー部員がふざけて取っ組みあったらしくそのおかげで開閉するたびにギギギッっと耳障りな音が鳴る。ギギギッ見たいな音だったらまだいい、キィーーーーーーっとした黒板を爪であああああ。思い出すだけで鳥肌が立つわ。
「はーい。後、今日41お休みです」
「げ、奇数になっちまうじゃねーか。まあ、いいか報告ありがとう」
と言って、俺はそこを立ち去った。…………今度洗剤買ってこよう、いつも小町なに使ってんだろ。
◇ ◇ ◇
そうして、少し始まりこそ変わったが、それ以降はなんの音沙汰もない日常を過ごしたかったのだが。
「キャアアアアアアア!?」
遠くから一色の悲鳴が聞こえた。
「おいどうした一色!?」
俺は反射的に悲鳴の方向に駆けた。部室棟の角を曲がると洗濯機の前で尻もちをついた一色の姿が見えた。周囲には洗濯物が散乱していて、一見しただけでは何が起こったか分からなかったが、何者かに襲われたとかだったら一大事だ。
「一色、大丈夫か?ケガは?」
「だ、大丈夫です」
上半身を支えるようにして抱き起してそう聞いた、ただ一色は目がうつろで心神喪失状態になっていた、たぶん大丈夫?と言われれば大丈夫と返す日本人の心位が出てしまったのだろう。ただ目立った外傷や体に土汚れとかは無かったから身体的には大丈夫だとは思う。
「立てるか?」
「ちょっと腰が抜けちゃって、もう少しこのままでいいですか?」
「おう。あと、落ち着いたらでいい、何があったか教えてくれ」
酷く動揺していたので落ち着かせるために深呼吸をさせた。吸ってー吐いてー吸ってー吐いてー(ヒキガエル口くせえよ
!ギャハハハ!)もうこの瞬間全部止まってしまえばいいと思ったが現実は非情である。
おっと小学校の頃のトラウマが出てきてしまった、最近小学生の暴言の方がシンプルに傷つく。今でも我が家にはモン○ミンとリス○リンは常備されてある。
「怒らないで聞いてくれますか?」
「怒らねえよ」
俺の中では一色は常に期待を上回る女だ。俺の期待値ゼロだからできた事。
ぽつぽつと話してくれた。洗濯物を二回に分けて洗濯機で洗い、一回目の洗濯物を干している最中に洗濯機から異音が鳴ったらしい。自分の家の洗濯機では鳴らない音だったので不信に思い、近づいた時に爆発するように洗濯物が飛び出して、驚いた結果こうなったという訳だ。
「ケガ無くて良かった」
「ごめんなさい、せっかく先輩が貰ってきた洗濯機を壊してしまって」
「物はいつか壊れる、気にする事ない」
けど初日に壊れるとは思ってなかったぞ、エースはエースでもガラスのエースだったなおい、つうかよくこれで顧問の奥さん洗濯していたなぁ…………。
と、顧問の奥さんへ、自分を理解してくれない事への同情をこっそりと持ちながら、うちの顧問みたいにはならないと心の中で堅く誓った。だって将来の夢専業主夫だし。
「ここ俺やっとくから、今日は休むなり…………今日の仕事は応援だ」
え?大丈夫?休む?は俺の伝家の宝刀だ。というか先輩見たく一色へ負担掛けないように仕事割り振る事は俺には出来ないから、適宜仕事が辛そうだったら休むように言っているのだが。そもそも一色に至っては、仕事しているように見せられればそれでいいはずなのだ、何故無駄な事をするのか?
などと言ってやろうとも思ったが、頬を膨らませて怒ってますよアピールされたら俺にはどうしようもない、それあざといからやめてくれない?
「なんで私の事を怒らないんですか」
「あ?怒ったってしょうがないだろ?ちゃんと反省している奴に追い打ちかけてどうすんだよ、大体怒ったところで解決するならとっくに怒ってるわ」
そう言った意味で、俺は先輩に指導されたことはあれど、怒られたことは一度もない。すると一色は立とうとした。
「もう大丈夫です、立てますから。っとわわわっ!?」
「まだフラフラじゃねえか、ちょっと移動させるぞ」
それをまた抱き留めてた。
さて、今日は座りこんだ人間を立ち上がらせる方法を伝授しよう。最初に対面します。
ステップ1:足を揃えさせましょう。これはステップ3の行動がやりやすくなる為です。
ステップ2:手を取ります。
ステップ3:両方のつま先を踏みます。
ステップ4:そのまま全体重を後方へ倒すようにして引き上げます。
こうすることによって腕の力だけでなく、自身の体重も効率よく使えます。俺もこれ先輩にやられたなぁ…………。
後は担ぐようにして運び、近くの壁に凭れるように座らせた。
「女の子の足を踏むなんて考えられないんですけど、っていうか結構力あるんですね」
「まあ、50kgぐらいの荷物持つこともあるからな。休むだけ休んだら、俺に報告してくれ」
えっと?説明書これか…………別に特に洗濯機にぶっ壊れた所は見当たらないな。なんでだ?
と思って最後まで説明書をぺらぺらめくっていくと、はらりと紙が落ちた。手紙のような便せんに入っていたそれの中身を見てしまった。
『お手紙でご挨拶させて頂きます、
私が洗濯機を変えましょうと言っても全く聞いてくれ無かったのに、部活の事となれば買おうと思えるなんて、ただお古を扱わせようとするのは主人らしいのでしょう。今回は本当にありがとうございました。
PS、私も昔はマネージャーをしていました、何か相談事があれば一緒にお茶しましょう。こちらまで090…………。』
顧問よ、自己保身じゃなくて自己分析から始めようや…………。
洗濯機の事を一色に伝えて、今日は解散した。ああ、今日は八幡のエース(小町)に早く会いたい。
次回、夏休み林間学校ボランティア編