やはり俺の部活動選択は間違っている   作:屑太郎

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リアルな空気の一人ぼっちでベスト7

 千葉村に行く途中不思議なことに少し昔話することになった。昔といってもやはり一年前の事だったのだが、意外にもその発端は今回の引率である平塚先生から切り出された。

 道中で高速道路に乗っている最中、先生が暇だったから助手席に乗っていた俺に話かけたのだ。俺も、ここで平塚先生に寝られると生存的な理由で困る。といった理由で会話をしていたが、少しばかり後悔することになった。

 

「しかし、あれから調べたが本当にサッカー部のマネージャーをやっているとはな」

「そんなに意外ですか」

「ああ、あんな幼稚な文章を書くような人間が、人のために、なんて考えているとは思えなかったからな」

 

 この先生は、俺を抉る言葉をポンポンと出してくれる。これが年の成せる技か、などと独身や年齢で心の中で小バカにするぐらいしか反抗の手立てがないほど俺にとって的確な言葉だった。

 

「確かにそうですね」

「ははっ否定もしないとはな。もしかしてお前、清川に出会っているんじゃないか?」

「…………まあ、先輩ですよ」

 

 それ以上は無いそれ以下ならきっと大量にあるだろうな。

 

「そうか、思えば最初に比企谷に会ったのは二年が初めてだな。一年の頃は清川の奴は居ただろ?どんな事を話してたんだ?」

「別に取り留めもない……………いや、あの先輩に嫌いだって言われましたよ」

「!?…………珍しいな」

「何がですか?」

「あいつは裏も表も教師たちからしたら少しおかしな優等生だったからな。雪ノ下姉とはまた違った意味で問題児だったよ」

 

 何故そこで雪ノ下の姉が出てくるのか?というか雪ノ下に姉妹がいたのか、まあ、今の話に問題はないな。後ろをちらりと見れば雪ノ下がこちらを見ていた。会話に興味があるのだろうか。

 

「どういう…………意味ですか?」

「人間はコインみたいなものだ、裏も表もあるから人間臭い。だが裏も表も同じ模様だったら、君はどう思う?」

 

 俺は答えなかった。答える資格がないが、心の中ではその答えは散々言ってきたはずだ。

 

「私にはその生き方の根本が狂っているようにしか見えなかったし、事実狂っていた。恥ずかしい話、私の教師生活の中で二度目の敗北だよ、あれは3年やそこらで治る訳がない」

 

 そう言って先生は自分の不甲斐なさを噛み潰すように苦笑していた。

 相手が先生でも地球外生命体のような生態はここにも健在だったかとかそんなボケは出来なかった。ただ、他の人間から見ても先輩はそこまで普通の人間とは違う物なのかと今更ながら実感することになった。

 

「君から見て、清川はどんな奴だった?」

 

 その言葉を聞いて少し言葉の意味を考えた。一瞬先生が何を言っているのか分からないほどに頭が真っ白になった、どうにかこうにか頭の中で言葉を咀嚼して理解した瞬間、数々の思いが去来した。上下左右縦横無尽に視線がさまよい、それが心を伴って亡くなりそうなほど忙しい。

 その無限とも思える沈黙の内に、俺の頬に何かしたいが何も出来なかった後悔が伝って流れた。

 

「…………いつか比企谷とはサシで話さないといけないようだ。これ使え」

 

 右腕を小突くように渡されたハンカチを見て、ようやく頬の違和感を知ることとなった。そしてそんな自分に狼狽えてハンカチを受け取らずに手だけで拭いてしまった。

 俺の行動に嘆息しながら、ハンカチをポケットに戻した。

 

「言い方を変えよう、あいつは君にとって花だったか?」

「はい…………もう、枯れましたけど」

 

 枯れた花に水を戻した所で、それが咲き戻ることはない。先ほどの俺の行為は一番無駄だったと一番俺が自覚していた。

 何か、この先の旅路を暗示するように、俺の心はこの林間学校日和な青空と反比例していた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 運転席と助手席がお通夜のような空気となっている中、後部座席側はガールズトークで騒がしかった。ほんの少し後ろめたかったが、気持ちを入れ替えてボランティアの情報に目を通していると、2時間ほどで千葉村についた。

 そこで見たのは、確実に(一方的に)見知った顔で、テニスコートを持って争ったあのメンツだった。

 

「平塚先生なんで18番と21番がいるんですか」

「普通に一般のボランティアとしても集めていたのだよ、そういうなら君も戸塚も一般枠だ。あとなぜ背番号で呼んでるんだ?」

 

 ぐうの音も出ねえ。数か月前に嘘を言って撃退したのだが、この中に俺を覚えている奴は居るのだろうか?リア充は頭が軽いからたぶんいない、と信じたい。

 ここでの自己紹介はこんな感じでいいだろ。 

 

「初めまして、比企谷八幡です。今日はよろしくお願いします」

「葉山隼人です、此方こそよろしく」

 

 ほら見ろ、サッカー部が誇る超絶完璧イケメンマスク葉山プロフェッショナルでも俺の事を覚えていない。まあ、馬鹿みたいに低姿勢で俯きがちに喋っているからな!

 とりあえず葉山から紹介されて眼鏡女子の名前は海老名というらしい。

 

「自己紹介の手間が省けたな。それじゃあ向こうにいるのが小学校側の教職員たちだ、挨拶ぐらいはしていけ」

「はい、じゃあ、行こうか優美子」

 

 ものすごく自然に女性をエスコートする手腕は天下一品だな18番。

 複数の先生の前であいさつをして、その次には小学生にボランティアとしての挨拶を交わして、オリエンテーリングが始まった。ボランティア代表として葉山が挨拶していたのだが、普通に流暢にしゃべっていたので本当にむかつくな。

 ずらりと並んだ小学生の前でも喋れなくなる自信がある。ただ、俺はじっとその集団を凝視していた。

 

「それじゃあ私たちも行きましょう」

 

 雪ノ下の先導に任せてひとまず、日程を確認した。

 オリエンテーションは5人1グループで行動してチェックポイントを設定したハイキングコースを進ませて、時間内に戻ってきたらカレーを作らせ一日目は終わり。

 二日目は午前中の自由行動と夜中の肝試しで、三日目に帰る。という日程だ。

 ただ雪ノ下に大見え切っておきながら、千葉村はハイキング的には安全で自然がたっぷりな所だ、そうそうオリエンテーションで怪我はしないと思う。まあ心の傷はどうかわからないが。

 

 俺が小学生だった頃の林間学校は、それはもう子供心ながらに心躍らせて、自作のチェックポイント通過の最短ルートを探してそこを行けば、みんなで遊べる時間が出来るかもしれないと思い独自のルートを構築した。

 結局そのルートは通らず、班の人間についていったのだが「え?ヒキガエルついてくるんだけどキモッ」の一言で心が折れて最短ルートは奇しくも、ルール無用の単独優勝俺という惨劇をもたらした、早く帰ってきすぎて、協調性を持ちなさいうんぬんかんぬんと先生に怒られた。後ろ指刺されながらお説教されたのは今でも心に来る物がある。

 この話から俺が学ぶべきことは。問題が問題でない時、また別の問題によってその問題は変化して顕在化するということだ。

 

「小町とりあえずボッチを探すぞ」

「お兄ちゃん、小さい子から仲間集めするつもりなの?」

「小町、自分の兄をどれだけ侘しい人間だと思っているんだ?」

 

 小町は黙って首を振った。え?思ってるの?

 

「いいか?こういう所では様々な問題が噴出する」

 

 さっきの俺の一例もそうだが心折れるような事は、こう言う林間学校だの修学旅行だの浮ついた空気がそうさせるのだ。

 

「勿論、こういうなんたら学校みたいなものは、それを結束やら団結やら集団行動で乗り越えるための問題だ。名目上そう謳ってはいるが、その本質は小学生では上下関係の刷り込みだ」

「小学生では?」

「まあ、中学高校で本質は別れるな。それは置いといて、普段から見下すものを攻撃したり孤立させたりそんなマウンティング行為が日常的に行われていたら、こういう所じゃ浮ついた奴のそれがエスカレートしていく。そして耐えられないほどのストレスが突拍子もない行動を起こす」

「…………全部お兄ちゃんの事だよね?」

「それは言わないお約束だ小町、お兄ちゃんの心が死んじゃうからね」

 

 ジト目でそんな事言うなって…………。

 

「それを小町に言ってどうする気?聞き込みでもするの?」

「まあ、やれるさ。小町フォローよろしく」

「え?」

 

 こういう班行動でのセオリーみたいなのは既に決まっている。例えば、班長での振る舞い。大体班長になる理由は、その班の雰囲気からこいつ班長でよくね?という理由と、めんどくさいからこいつに押し付けちゃえという理由の二択で、前者は雰囲気で見分ける事が出来る。

 なんかリア充臭くて先頭辺りに立っているのがそういう奴だ。小学生だからそれぐらいで済んだ。

 

 リア充は空気に長けている、というかそれしか長けてない。自分が責められている空気も、あいつ賢いんじゃねえか?という空気も、イジメる空気でも。

 そんな空気が「そうでなければいけない」ように語っているのを「そうであるように」振舞うのがリア充。イジメられている奴の空気も知っているのがリア充だ。

 元々リア充というのはリアル充実組という略語だったらしいが、今ではリアルの空気充実組にした方が良いのではないかと思う。

 

 だって、心が一人じゃどんな本当も嘘くさいし、どんな奴でも救えない。

 

 今の俺は1人ぼっちを見つけた所で何もできない、ただ一人でいるから起こる問題“ぐらい”には今の俺になら出来る、いや俺にしかできないと思った。

 だから、俺はリア充な班長を見分けてこう聞いた。

 

「やあ、ボランティアのお兄さんに少し教えて貰いたいことがあるんだ。君のクラスに一人ぼっちの可哀そうな子は居るか?」

 

 そんなような事を聞く。小町にフォローを頼んだのは、俺の目つきや振舞いでおびえさせてしまい、話にならない時の為にフォローを頼んだ。実際小町に任せた方が良かったんじゃないかとも思った所は内緒だ。

 ほどなくして全てのクラスに話しかけたが「そんな奴は居ない」と答えるのが大半だったが、ある一クラスだけは言葉を濁した。彼らの空気がばらしてはいけないと言っているのだから、こうなることは当然といえる。その雄弁な沈黙を聞いた俺は走ってそのクラスのみ調査を続けて、そんな一人ぼっちを発見した。

 

「…………あらまあ」

「やっぱこういうの、どこにでもあるんだね」

「いや逆に一つしか見ない方が不思議だ」

 

 ここの一組だけしか見えてないのか、隠すのが上手いのかは分からないが、とりあえずはボッチだけは見つけてしまった。

 丁度、18番と一緒に行動している女子のグループに、二頭身ほど離れているボッチを発見した。ただまあ、顔の暗さから見て、激しい排斥行動を受けている訳じゃなさそうだった。

 

「どうするの?」

「保護観察」

「何もしない事の体のいい言い方ね」

 

 後ろからいきなり雪ノ下がしゃべりかけてきて、驚きながら振り返った。

 

「あの子の事よね?」

「ああ」

「貴方は助けようとしないのかしら?」

 

 雪ノ下が試すような口ぶりできちんと俺と目を合わせて問いかけた。

 

「何を勘違いしているか分からないが、俺はヒーローじゃねえ。裏も表もハッピーってわけにはいかないし、俺にできる訳がねえ」

「ヒーローじゃないっていうのは同感ね、確かに貴方みたいなのに救われたら死にたくなりそうよ」

 

 今の俺はニヒルな笑いといったら少し語弊がある。だが、少なからず俺は笑っていたしかなり気持ち悪かった。だから答えは端的に。

 

「俺もそう思う」

 

 小学生ながらボッチの彼女をみて、過去の自分と重ねた。ひとまずは、無用な心のケガをしないように気を付けてやろう。

 

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