黙って平塚先生の後ろをトレイントレインされていると空き教室の前に案内された。
いつも使っている空き教室とは違いその一個下の空き教室だった。
「罰って部屋の掃除ですか?いつも部室掃除してるんで慣れてますけど」
「そんなものではない」
ここには七不思議のひとつで化け物的な物と戦わされるとか?…………それ以前に未婚モンスターと戦わされてるが。
すると平塚先生はノックもなしに扉を開けた。
「失礼するぞ」
「先生部屋に入る時はノックをしてから…………何ですか?その後ろでぬぼーっとした人は」
「2年F組比企谷八幡です」
中には一人で椅子に座り読書をたしなんでいる人物が居た。
とりあえず先手を打って自己紹介した、先輩の調教のたまものである。根性を叩きなおすとか言われているので、一応はまともな対応をした方が良いだろ、体育会系の縦社会なめんな。と部活接待モードへと切り替える。…………悲しいかな、自己形成の何かがゴリゴリと挽かれている気がする。
「2年J組雪ノ下雪乃、先生彼は依頼者ですか?」
「いや、依頼者は私だ、彼の孤独体質を改善してほしい」
俺が孤独体質ですと?何を馬鹿な。
「お断りします、必要があるとは思えません」
「ですって」
このまま踵を返して帰ろうと思った矢先、肩を掴まれ教室の内部に引き戻された、ついでに出口を自分の体で塞ぐおまけつき。
おまけと言えば、おまけの代名詞であるビッ○リマンチョコに似たような物、神羅万象チョコが小学校で流行ったことがある。
俺もそのビックウエーブに乗るべく近所のコンビニで買いに走った物だが、三個買い全て同じカードで、そしてガッシャという花の様な目の腐った化け物が出てきた。無論それを持っていようと俺に友達が出来ることもなく、ガッシャ君はブラックヒストリーの深淵に消え、こうしてよみがえってしまった。
「先生。先ほどから彼の様子を見るに、孤独体質には見えないのですが?」
株が急上昇した。この女子わかってる、嘘だとしても、俺のお薬○めたねよりオブラート効果が高いことへの評価がある。
「いや、必要だ。私がそう判断した」
「とんだ暴君だ、というか孤独体質って何ですかね?」
俺がそう言いつつ肩をすくめた、睨むな睨むな。小さいため息をついた、おっと、結婚の運気が逃げている。
「君のように友達がいない者のことだ。そしてその状況の中で自身を孤独と感じず、人間の悪性しか信用しない。複雑に絡まったトラウマと常人には理解しがたい思考回路で孤独を加速させている。簡単に言い直せば、孤独を許容しつつ孤独に順応した人間、もしくは自分の身を孤独の中にしか置けない人間。それの一歩手前が君だ」
前に同じようなことを言われたことがあり、なおかつ自己の評価と全く同じであった。立ち眩みがした、胸中を言い当てられた事そして孤独感、事実と虚無感が渾然一体となって喉の奥に押し込まれている感覚。一息で自身の核心的なところに触れられ、そこまで浅い人間だったのかという混乱と恥の様な物で殴られた。気がした。
雪ノ下だって似たようなものではないのかと言いかけたが、本人の黒い瞳が「貴方とは違うわ」と言うようで。
「別に孤独に順応した人間なんて他に腐るほどいるでしょ」
「確かに、順応した人間はいくらでも居る、だが許容する人間はそうは居ない」
横目で平塚先生を見た、何かを思い出すような顔をしていた。だからなんだという話ではある。
「とまあ、こんな人間だ、更生させるに足る人間であることは分かってもらえたかな?」
「分かりました、依頼を受けさせていただきます」
受けんな雪ノ下とやら。
「そうかそうか、それでは後はお若い二人に任せるとしよう」
任せないでくださいと思いながら壁にかかった時計を見て部活動の時間と逆算してまだ出なくてもいい時間だとあたりを付けた。最悪今日は新入部員の紹介だけで、そのまま流れるように歓迎会をやることだろうし、そのまま俺の存在もお流れになって欲しいものだ。
「椅子貰うぞ」
「どうぞ」
後ろに乱雑におかれた椅子や机の中から無造作に一つ取り出す。そして雪ノ下の対面に座った。読んでいた本を下げて少し訝しげにこちらを見た、めんどくさいことにそこまで費やす時間はないからな。早めに終わらせてしまおう。
「それで、奉仕活動を命じるとか言われて此処まで来たんだが、ここはなんだ?」
「クイズをしましょう、ここの活動を言い当てられるかしら?」
「本命、文芸部。対抗、相談部。大穴、ただ暇している。この中には?」
「ないわ」
「じゃあお手上げだ、答えは?」
「…………奉仕部、その名の通り奉仕する部活よ。」
「驚いた大穴か、悪い悪い、冗談だそんな目で見ないでくれ。まあなんだ?なんでも助けようとしてくれるんか?」
「直接手は下さないわ、例えば飢えている人に魚を与えるのではなく、魚を捕る方法を教える。自己啓発の方法を教えるのがここよ」
「傲慢も甚だしいな。全ての生徒のありとあらゆる悩みを自分一人で解決できると?それともこの世の人間全て、自分より低能で取るに足らないことで悩んでいると思っているのか?自己評価高すぎだろ」
「失礼ね、確かに初対面の人にそのように話かけたら孤独にもなるでしょう」
「これでも改善した方だ、大目に見てくれ。それとも無口なのがお好みで?」
「癇に障るわ、今すぐその話し方をやめなさい」
「うぃっす、無口で」
畜生、ここまでまくし立てて話しているのに一向に折れねぇ、俺の知っている女子の中で一番喋っている気がするぞファッキン。因みに、これまでの会話の最長記録は俺の振られた時の告白、最短記録は俺にあいさつしていると思って舞い上がり元気に挨拶した時の「キモッ」が最短記録だ。勿論そのどちらでも枕を濡らしたことに変わりない。
この会話最長記録を更新した彼女のことは、かと言って好きになるようなことはない、中学生の
そもそも話してみて分かったが、あれだ委員長タイプの亜種。奉仕部などやっているからか、基本的に委員長タイプで世話焼きで、どうしようもなく優しそうだが、いかんせん亜種も亜種。ハリネズミのごとく針を突き出している様な人間、この手合いは確実に俺の心臓を穿ってくる。何せ根底にあるのは親切心なのだから。
何様だとは思うが俺からの雪ノ下の評価は、笑いながら大っ嫌いと言える人間だ。優しさに攻撃性を持たせたステルス機ガール、トロイの木馬でもよろしい。
「…………」
「…………」
暇だからスマホをいじりつつ時間をつぶした。思うにトロイの木馬形式のいじめが一番きつい、友達と、思ったやつが、罰ゲーム。比企谷八幡心の俳句、うっ頭がッ!頭を痛めていると、雪ノ下が話しかけてきた。
「貴方は自分が改善されるべきだと思えないのかしら?」
「ああ、そうだな。だから舞い上がっていつもより多くしゃべっちまった」
実際には喋らない期間が1日でしゃべりたくなり、2日でのど元に塊ができる、そして3日以降で声の出し方を忘れる。取り合えず小町とのハートフルなふれあいによって声を出す状態にまで来ているが。小町マジ戦場の天使。
「言われたことを忠実に受けて揚げ足取り。まるで小学生を相手にしているみたいだわ、先生に死ねと言われたら死ぬような人間なのかしら?」
「そう見えるか」
心酔しているような教師が居るならやっちまう可能性がある。…………なんか熱くなってついうっかり言い返しちまう。やめとこ。好きにやらせるのが一番いいのは過去の経験(妹)から分かっているはずだ。仕切り直して雪ノ下に向かって協力的な体制を整えよう。
「改善ね…………具体的にはどんなことをするんだ?」
「私の様な美少女を相手に会話しているのだから、並大抵の相手と喋れるはず…………と思ってたけれど、そもそも人と会話すること自体に絶望しているようね」
その言葉を少し咀嚼した、少し前にそんなことを語った人間が居たからだ。にやける頬を抑えながら俺は、ある言葉を言った。
「絶望とは少し違うな、俺は嘘をつきたくないだけだ」
「それが人と会話しない理由?ごめんなさい、あなたの言っている意味がよくわからないわ」
「これは…………あー、俺の友達の友達が言った言葉の受け売りなんだがな?」
「驚いたわ、あなた友達が居たのかしら」
「ボールは友達っていうだろ聞き流せ」
先輩と俺は友達の友達を自称している、特に意味もないけどそれを許容してくれる関係ではあった。もう卒業しちまったけど。
「『言葉は人類が作り出した最初の嘘である。』」
「『言葉の主を借るたびに言葉の主の真の姿は見れない』」
「『例えば、私がここで林檎という言葉を言う、君は林檎を想像できるだろう?』」
「『だが、それは林檎という言葉に騙されているに過ぎない、私の想像している林檎とは違うかもしれない。なら、それは私の真実、もしくは君の真実とは違う。つまり嘘だ』」
完全にドヤ顔でしゃべったが、思ったより恥ずかしい先輩の名前は絶対に許さないリストに12回ほどランクインしている。おめでとう今回が13回目だ。八幡の必殺技の一つ枕濡らしが発動してしまう。
「まあ、なんだ俺が言いたいのは、結局喋っても喋んなくても同じなんだから会話に意味はねえだろってことだ」
「極論も甚だしいわ、屁理屈こねて会話を避けようとしているだけでしょう?」
「馬鹿いえ、会話を避ける?それなら平塚先生がここを出て行った時点でダッシュで帰ってる…………って言ってもお前にしたら美少女相手に劣情を持ち、お近づきになるために喋り始めたとでも言うつもりだろうが」
悪意の真意は解りやすいが、善意の真意はわからない。悪意は打算に近く理性的な物であるが、善意は感情に近い物だ、何となくで子猫を拾ったり何となくコンビニの横にある募金ボックスに金を入れる。打算は逆算できるが感情はそうはいかない、だから善意の真意はやすやすとこちらを裏切ってくる危険な感情だ。
「じゃあ、俺用事あるんで」
「待ちなさい!話はまだ終わってないわ」
といった瞬間いきなりドアが開け放たれた。平塚先生が来た、うそ、このまま部活に出れると思ったんだが。
「比企谷、サッカー部は歓迎会に行ったぞ」
「存在を流された…………」
真に危険なのは純粋さ故の残酷か。ひでえことしやがる(棒)
「それで、どうだ?この男は」
「唾棄に値します。社会に馴染めて行けるとは到底思いません」
実際に今さっき所属している部活の集まりから外れたし。違うしー元々出る気なかったしー。そういう所だぞ俺。
「ええ、ですので非常に不本意ですが彼の孤独体質改善させて見せます」
「おいおい、マジかよ。こちらとしては非常にお近づきになりたくないんだが?」
「…………随分と仲良くなったじゃないか」
うん、会話が仲の良さで成り立つならめっちゃ仲いい。この学校に限定すればこれ以上話した奴いないからね。と考えた時点で少し、何かが吹っ切れた、というより先輩の言葉を思い出した。
『これは私からのお願いなんだが、もし君がここからさきともだちが一人も出来なかったとする、そしたら君に面と向かって悪口を言った奴と友達になってみてくれ。きっとこれより先の人生の力になる。え?なんでって?ああ、私がそうだったからだ。…………いや、君が大っ嫌いだから、騙そうとしていただけさ。私が居なくても騙されてくれると嬉しいよ』
少し騙されてみても良いと思った、それ以前に先輩とのかけ事で一つだけ騙されること、という契約があった。それの履行は本人が居ない時にしてもいいだろう。
「不本意です」
「全くだ…………でも、一つ孤独を改善ってだけなら、方法がある」
「おっ、なんだ?」
「断るわ、あなたと友達なんて虫唾が走る」
俺はニヤリと笑った。
「よくわかったな、はははっ。だが、大丈夫、友達ってのは勝手になるもんだ」
そう言ったらこの場に居る二人とも、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてこちらを見ていた、雪ノ下はいらだっているような感じがした。
「改めて自己紹介だ、2年F組比企谷八幡。『嫌いな物は』雪ノ下雪乃だ。『よろしく!』友達になろうぜ」
そんなことはお構いなしに、俺はそう言った。
◆ ◆ ◆
「小町…………」
「スマホ握りしめてどうしたの?」
「俺、友達出来たわ」
いまさらながらに、一つここらでボールが怖い。