やはり俺の部活動選択は間違っている   作:屑太郎

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罠に掛けられて

 事の始まりは、去年の6月頃だった。

 この時からすでに、俺の頭の中ではすでに止めるという言葉が、頭の中で渦巻いていた。毎日グラウンドに隕石降ってくることを願い、そして毎日裏切られて心で泣きながらマネージメント。

 そんな作業的な毎日を望んだが、この先輩によって毎日がハリウッド映画のような息もつかない日々を暮らしていた。

 

 今日も何か振り回されるんだろうなと思ったが、ある意味正解であり意味不正解であった。

 

「もう!もーう!」

 

 半ばマネージャーの溜まり場(2名のみ)と化しているこの空き教室にウシのような声を出して、ついでに頬も膨らませて大変ご立腹なご様子を全身で表現しながら入室した。

 最近は、ニコニコした笑顔で(まあそれでも怖いのだが)入ってきて、散々俺で遊んだ後に仕事に行くのが定例だった。

 先輩が言葉や姿でほんの少しも怒りを出すことが無く、このように普通じゃない姿をするのは、

 これが最初で最後だった。

 そんな珍しい事が俺の身に降りかかり、それなりに心配して藪蛇をつついてしまったのは、誰に責められようか?俺に残された選択は原因を聞くことしかないように思えた。

 

「一体どうしたんですか?」

「聞いてくれるの!?」

 

 そこまで驚かれるともう聞きたく無いのですが?それにしたって何があったのだろうか?

 

「ねえ、比企谷君。もう一度、合宿の計画を練り直すのに付き合ってくれない?」

 

 人に結論から生じるお願いごとをされると、頭がフリーズすることが分かった。いや、俺が聞きたいのはそっちじゃなくて、そこまで怒っている理由を聞きたいのですが?

 

「ああ、えっと37番の涯(みぎわ)君は知っているよね?」

「ええまあ」

「あの涯君の家族が家庭崩壊しちゃって今、お母さんの実家に居るんだって」

 

 聞かなきゃよかった。重すぎる。

 

「逃げるように住む所変えたから通帳や何もかもなくて、合宿用のお金が無くなったんだって」

「いや、警察に」

「言って逮捕されているけど、住んでいる所の名義はお父さん名義で、家庭裁判とか通さないといけないから少し時間はかかるし!」

「ええ…………」

「本人は合宿には自分抜きで行ってくれって言っていたけど、楽しみにしてくれていたのに…」

 

 そんな人の家庭崩壊に付き合ってどうするっていうのか…………おそらく、先輩もやり場の無い怒りに震えているのだろう。ひとまずその怒りを抑えてもらわねば。

 

「いや、先輩。それが家庭の事情なら仕方ないでしょ?俺たちに何も出来る事は無い」

「なんでもあるさ、私が怒っているのは対応が出来ないほど手遅れな時に発見した不甲斐なさだ」

 

 先輩の中で何かのスイッチが入った。口調が若干粗暴になるし、会話をしているようでただの独り言だったりする。勘違いしないように自分を戒めるが、聞いていないわけではなく俺の言葉によって先輩が意思を変えることはないが故に、独り言なのだ。

 こうなってしまっては、先輩が俺の言葉を聞くことはなく、俺に話すことで自分の中を整理するだけの道具のようになってしまう。

 ならば、俺も会話のように条件を確認しよう

 

 合宿は最初に徴収して入金する、そのボーダーが明日まで。

 そのボーダーを過ぎて全員分の徴収をすれば、合宿所の予約が取れなくなる可能性が出てくる。そういう意味でのボーダーだった。

 しかも部活内ではアンケートを取ってしまっていて、部活内で合宿の行先を決めたことを知らせるプリントをこの間発行してしまった所で、持ち物一覧もその中に入っていた。変更と言う手段を取っても、あらゆる所から文句が噴出するのは火を見るより明らかだった。

 

「やれない事はない。この場合、必要なのは金だ」

「最高に分かってるじゃないですか、金が足りないから行けないんでしょ」

「作るか減らすか……………それにしたって時間が足りない」

「本人もいかなくていいって言っていることですし」

「金がないなら行かなくていい、の間違いだふざけるな。私の目が黒いうちは貧乏でやりたいことが出来なくてたまるか」

 

 私怨がこもった声で、それに対しても驚いた。と言うか喜びと安楽以外の感情をついぞ部活内で見たことが無かったから、そのギャップで多くの心労をかけられた。

 

「比企谷君、協力してくれるかな?」

「いや…………です」

 

 今でも俺は蛇ににらまれたカエルだった。だけど、俺はそこを振り絞ってNOと答えた。

 大体、そんなもの放っておけばいい。基本的に部活は自由参加で、内部で棄却するだけなら何の問題もない

 断るのは確かに修羅の道だったが、このことを一年後、後悔しているのを知っていたのなら、俺はYESと答えたのだろうか。だけどたぶん、無理。

 

「そっか、ごめんね?無理言って。これでもバカみたいだって自覚はしてるんだよ?」

「はあ、そうですか…………」

 

 スイッチを入れた真新しい蛍光灯のようにぱっと意見を翻した。先ほどまで不気味な怒りを収めて、俺にそう言ってきた。やっぱり、この人は何をしても怖い。

 

「うん、これ以上、比企谷君には迷惑かけないよ」

「もう迷惑なら十分受けてるんですが…………」

「ごめんね?…………ありがとう」

 

 マジで勘弁してくれ、あんたやっぱ怖いんですよ!

 そんなことを思いつつ、今日の練習はつつがなく終わった。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 何事も無かったかのように3日が過ぎた、ボーダーは明日だったが、嫌に何も起きなかったことにびくびくしながら今日を過ごしていた。まあ、何も動きは無かったから、先輩の方で動くことは無かったのだろう。少し違うのは、ほんのちょっと筋肉痛が増えた事ぐらいだろう。

 なんか今漕いでいる自転車が少し重く感じた。朝でも何不自由なく過ごせるような期間になってきて嬉しい限りだが、眠気はいつもの倍は感じる。熱くなってくるだろうし、それ以前に寒いと起きれなくなってくる、寒くはなって欲しくないな…………。

 

「あ、比企谷君だ」

「おはようございます…………」

「今日の事で相談なんだけど」

「なんです?」

「ちょっと今日駄目そう」

 

 俺は、今日の仕事で確認することがあったのか?と思ってそう聞いた瞬間、その言葉を残して先輩は糸が切れた操り人形のようにその場に倒れ込んだ。倒れる時に駐輪場の壁に頭をぶつけていたし、何より勢いがヤバすぎる。

 

「えええええええええ!?大丈夫ですか!?…………返事ないし」

 

 こんな言い方は無いかもしれないが、このまま放置していったら末代まで祟られそうな気がする。

 落ち着け、こんな時は素数…………じゃなくて、先輩に行かされた救命講習を思い出せ。

 

 とりあえず、先輩を運ばないと。確か負傷者の腕をつかんで足を引きずるように運べばいいんだよな。あ、割と重い。腰を痛めないように気を付けなきゃ、幸いベストプレイスは保健室の近くで、外と直通だったため駐輪場から遠くなかった。

 外から窓をノックして、中の先生に気づかれるようにした。一回目で、保健室の先生はこっちに来た。

 

「どうしたの?」

「すみません!なんか人が倒れて、どうしたらいいのかわかんなくてここに連れてきちゃったんですけど!」

 

 これは、もう他人に投げるしかないと判断して、保健室に連れて行ったのだが、予想外な反応を返された。

 

「あ、なんだ。清川ちゃんか、そこのベッドに寝かしといて、」

「この先輩そんなぶっ倒れたりしているんですか!?」

 

 驚きながら引きずって、その指定されたベッドまで連れて行った。持ち上げてベッドに転がすのは結構つらかった…………主に精神面で。とりあえず太ももが柔らかかったです。

 

「はぁ…………もう何なんだよ」

「はははっ、役得だね」

「無責任なこと言ってますね」

 

 全く無責任だ。俺が普段からどんな事…………まあ、なんだかんだ部活やっているだけなんだが。

 しかし、今日はおかしい。まあいつもおかしいのだが。…………自分の体調を管理できないほど、先輩が何かをしていたのだ。断った俺が出来た何かの分まで。

 

「そりゃそうさ、それで君はいつもそこでご飯食べてた子だね?」

「見てたんですか?」

「そりゃ近いからね、いるのは分かってるよ。コーヒーいるかい?」

「いえ、遠慮しておきます…………清川先輩って、どんな人なんですか?」

 

 おずおずと、俺はパンドラの箱を開けた。他人のパーソナルスペースを知るのに、別に人間から聞くのは少しルール違反のような気がしたが、ここまで俺に影響を受けているのだから少しぐらいは知ってもいいだろう。

 

「込み入った話は出来ないね、私も知っている訳ではないし本人に聞いた方が良いんじゃない?」

「…………」

「ただ、私の所感を言うなら。壊れた子かな?」

 

 妙な回答を得た。何が壊れているのだろうか?そこを考えていると、先生は飲んでいたコーヒーを一気に喉に流して立ち上がった。

 

「これから職員会議があるから、少し留守にするよ。中から鍵をかけておくといい、積もる話があるだろう?」

 

 と言って、その場から先生は姿を消した。…………自由すぎやしないか?と口の中で呟きながら、俺は先輩の様子を見た。ひとまず、状況を聞きたい。

 

「先輩?先輩?生きてますか?清川先輩?…………」

 

 と呼びかけても、何も反応を返さなかった。

 ふと、少し思ったことがある。いつも小町に呼ばれる時は「お兄ちゃん」だったが、めちゃめちゃ怒らせた時に名前で呼ばれたのだ。何か呼ばれ慣れていなくてびくっとなった覚えがあった。

 どうせ何も聞こえていないだろ、と思って、耳元で囁いてみた

 

「にゃっ!?」

「あ、起きた。おはようございます」

「名前呼んだの比企谷君?」

「はい」

「あはは、飛び起きちゃった…………」

 

 跳ねあがるように起きた先輩は乾いた力ない笑顔でそう言った。その顔はひどく動揺しているように見えて、原因不明の罪悪感で胸の辺りがズキズキ傷んだ。

 その痛みに気が付いたら、先輩の全体が見えてきた。目は泳ぎ、しきりに手を擦り合わせていた。どことなく、失敗した子供が親の前で叱られるのを待っているように感じた

 

「俺は大丈夫です、何があったんですか?」

「うっ…………」

 

 呻くような声を出して、俯いたまま小刻みに震えた。その先を見ると、制服が少し濡れていた。

 ええ…………泣いている?プリキュアの誰かだったら、何か優しい言葉を投げかける余裕もあっただろうが、今はただ怖いだけである。

 

「いや、泣かないでくださいよ」

「うううっ……………ごめんねズビッ。ごめんね、迷惑かけちゃって」

「いや、なんかもう訳が分かんないです、なのでここ最近何をやっていたんですか?そしてなんであなたはこんな風にぶっ倒れたんですか?」

「比企谷君は優しいね…………」

「それいま今関係ねえっす」

 

 イラっとしてぶっきらぼうな声を出してしまった。

 

「えっと、最近家に帰ったら安く済むような所がないか探していたかな?それが終わったら深夜バイト入って…………終わったら登校してる感じかな」

「…………いつからですか?」

「…………比企谷君に断られた時」

 

 目を合わせずそう言い放った先輩を見て目の前が真っ白になるかと思うぐらいに呆れ果てた。それを少しでも、ごまかすために矢継ぎ早に質問攻めにした。

 

「ああ、なんでバイト入っているんですか!」

「私の方も少しお金が心もとなくて……ごめんなさい、全部負担すれば行けると思ったんです」

「馬鹿か!3日4日で何とかなる金じゃないでしょう!?」

「でも出来ると思ったんだもん、それに頑張って割と稼いだし!」

「ええ、足りましたか!?」

「無理でした!ごめんなさい!」

「バーカ!」

「ひどい!」

「ええ、大馬鹿野郎ですよ!」

「」

 

 何を隠そうこの俺が!こんなことならさっさと協力した方が利口だった!と言うか、予想以上を上回る馬鹿なのかこの先輩は!

 

「それに、場所探しって何やってたんですか?」

「今更だけど、何かできないかなって…………安い場所に変えるぐらいだったら出来るかなって思ったんだけど…………普通の合宿所で安いのはもう抑えられちゃってるみたい。ネットで調べられる限りは探したはずだし」

「行き場所変えるって、そんな簡単に行くわけがないでしょ!?」

「行かせる。交渉カードもある」

 

 カードって…………部活動内の全員の弱みでも握っているって言いたいのだろうか?耳年増にしたって100年ぐらい経ってません?

 

「だけど、こうしてぶっ倒れているじゃないですか」

「それはごめん。今度倒れる時は人目につかないように」「そういうことじゃないですよ!?」

 

 イライラするほど先輩のIQが下がっていらっしゃる。何らかの催眠状態にでもなっているのだろうかと思えるほど、会話に要領を得ない。

 何そこ、ぽやっとしているんだ?え?違うの?みたいな顔で見ないでくれよ。いつになくしゅんとした

 

「ごめん、本当に…………」

「心配かけさせないでください」

「なら、無視すればいい。どこまで行っても君と私は後輩と先輩だ、今日だって私の体調悪かったから、君を休ませようとしただけなんだけど…………」

「目の前でぶっ倒れたと」

「いやー、教室までは我慢できると思ったんだけどね」

 

 先輩は恥ずかしそうに頬を掻きながらそういった。本当に、恥かしさの感情以外見当たらなく、俺への非難の感情なんて欠片もないようだった。

 

「比企谷君の顔見たらちょっとね」

「そんなに気持ち悪かったんですか…………」

 

 いや、普通学校で過労によって倒れる人が居るということ自体がまず異常事態だった。

 

「いやいや、顔見て安心したっていうかね?気が抜けちゃったというか…………」

「信用なりませんね、俺の顔見て安心するとか一番ありえませんから。うちの親父なんて出会い頭に俺見るだけで悲鳴上げますし」

「あははは…………お父さんと仲いいんだね」

「突っ込むべきところはそこじゃないです」

 

 こんな状況だったら、追い詰められるくらいなら倒れる前に相談してください。と言いたいが、何を隠そうこんな状況にしたのも俺自身だったから、妙な罪悪感で口が閉じて行く。

 

「私に出来る事なら、何でもやるから…………」

「ん?今なんでもって」

「うん…………」

「じゃあ、休んでください。出来るならバイトもやめて、金銭面でこれを解決しようとしないでください」

「…………」

 

 ものすごく嫌そうな顔をしている先輩にこの言葉を復唱させた。

 

「ごめんね。なんかもう、自分が情けないよ…………」

「こうは言いましたけど、ただ何かをしたいと思った事だけは間違った事じゃないと思いますよ」

 

 なんで俺はフォローしているんだ。おかしいだろ。…………逆に考えるんだ、これが教室まで来られてこんな風にされたら、とんでもない噂が千里を翔ることになる、そう考えればこうやっている事も無駄じゃないはずだ、すべては平穏を得る為に。

 

「それじゃあ俺はこれで行きます」

「えっと」

「今日は休んでくださいね!何かしていたら辞めますから!そのつもりでお願いします!」

 

 今日一日くらい先輩がやっていたことをやるだけなら出来るはずだ、気合入れていくぞ。

 

 この時は、致命的な欠陥に気が付いていなかった。俺、早急に辞める事が目的だったと気が付くのは、一体いつになるのか。この時の俺は全く分からない。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 やはりと言うか、当然の帰結と言うか。部活動が終わった時には、精魂すべての力を使い切って居た。今の俺は部活動に入ってまだ1か月と1週間ぐらいの新人だ、それにその半分はケガで満足に仕事を任せられず、加えて言うなら言い訳に近いがまだ体の本調子じゃない。

 よく漫画の「骨が逝ったか…………」みたいな描写は漫画だけの表現ではなかったりするが、基本的にその時は動けているだけで後の運動にかなりの支障が出るのを今、実際に体験している。

 

「先輩コレ、よくやってるな…………倒れもするわ」

 

 空っぽな部室の前で物言わぬ屍になりながら人手があと3人足りないと切実に思う中、汚い部室

 を恨めしそうに見た。小学生の時にさっさと片付けなさいと言った母の気苦労が知れた、今度から本当に片付けますから…………。

 

 疲れすぎて脳が回らない、糖分が必要だがこんな状態では一切動ける気がしない。動かないと何も出来ないのは事実、最後に残った気力だけで壁に寄りかかりながらも立ち上がった。

 元気に廊下を走り回っている音が聞こえて来て、状況からかみじめな気持ちになって大きな溜め息をついた。ああ、俺は一人で続けることが出来るのだろうかと、個人を磨り潰すようなこの仕事をしてから、そう思い始めていた。

 

「比企谷くーん!!」

「うわああ!?なんですか先輩!?」

 

 元気な足音が近くに来たと思ったら、先輩が飛びついて来た。てか、さっき走っていたの先輩だったのかよ。

 

「やったよ!合宿いけるかもしれない!」

「ええ…………」

 

 何をしているのだろうか、と言うか動くなと言ってなかったか?止めようかなここ。

 そう思って手続きを取ろうかと思っていると、マシンガントークが

 

「と言ってもバイトもなにもしてないよ!考え事するために喫茶店に行っていたら、良いおじ様が居たの!」

「はあ?怪しい事じゃないですよね?」

「いや、私の分の部屋をキャンセルして、浮いたお金を涯君の合宿代にして、私は寝袋でも買えば解決じゃんって思っていたら、丁度キャンプ用品の処分に困っていたおじ様が!」

 

 もしかしたら、この先輩は本当に馬鹿なのだろうか。思いついても実行できなさそうなことを普通に言って実行する算段をつけてくる。

 確かに俺の指定したことはしてないけど、そんな所に罠をかけなくていいんだよ。

 

「馬鹿なんですか?そんなことしても警察に捕まるのがオチです」

「ところがどっこい、そのおじ様と話が弾んでね、こちらの身の上を話していたら場所を提供してくれたんだよ!」

 

 コミュ力の化け物か。他人からそんなものを引き出すとは。

 

「と言うか場所は?」

「長野県!」

「かかる金は?」

「一人当たりサッカー場代と宿泊費で5000、移動費で2000、食費が4000、入浴で1000!」

「しめて1万2千円ですか…………そこに自分の分は勿論ありますよね?」

「もちろん!しかも体育館もセットであるから雨天の場合でも練習できるよ!」

 

 嫌な予感がしたので、もう一気に聞くことにした。問いかけは「デメリットは?」だ。そう聞いたらやっぱり言いにくそうな顔をして絞り出すように言い出した。

 

「…………ご飯一杯作らなきゃいけない。部員と先生の分」

「色々言いたいことはありますが、また何で?」

「その場所がね、とんでもない田舎…………と言うか山なんだって」

 

 先輩への突っ込みを逸る気持ちをぐっと抑えて話を聞いた。

 低価格で合宿が出来る理由は単純に場所の問題で、そこの公民館に宿泊できるほどの大きさがあるからだった。

 だが馬鹿みたいに量販店が遠く、食事の点ではそこを選ぶことが愚かだと思えるほどの悪条件の中飲むか飲まないかの選択だった。

 

「で、その食事は誰が用意するんですか?」

「私に決まっているでしょ?安心して!こう見えても7年ぐらいご飯作り続けてきたからね!」

「年月はさておいて、そんなに意外じゃないっすね。…………40人以上の物を作ったことはあるんですか?」

「ないね…………できれば協力してくれると嬉しいけど…………」

 

 ここで、断ると俺としてはなんの問題もない。実際、学校の授業を寝て過ごして日々を過ごせば、生活リズムは大幅に狂うがさっきのような夜寝ずにバイトに明け暮れれば大丈夫な所ではある。そこに俺の目の前で倒れたなんて実績が無ければ大万歳なはずだった。

 そこまで無理と言えるのなら、もはや部活もやめたくなるところだが、いまだにこの先輩は正体不明すぎて、今回の事でも恐ろしい。もはや、俺に残された答えは一つしかなかった

 

「ええ、協力させて頂きます。知らん所で暴れるよりましですね」

「暴れるって、ひどいなぁ…………頼ってもいいかな?」

「俺の事が嫌いなら、顎で使うぐらいしてみてください。」

「…………うん、そうだね。やってみる。手出して、グーね」

 

 決意を固めてそう言って先輩は拳を差し出した。苦笑したような表情が嫌に印象的で、俺は同じように差し出し、それを払いのけるようにして裏拳で先輩は俺の手の甲を弾いた。

 

「よろしく!」

「…………意外と手の甲同士でぶつかると痛いんですね」

「うん!そうでしょ?」

 

 満面の笑みを見て、俺の手の甲が熱くてかゆくなった。

 

「もう迷わないから、一緒にやろう!」

「倒れない程度に付き合わさせてもらいますよ……………」

 

 こうして、地獄の合宿が始まった。祭りは準備している時が一番楽しい、というが同時に今一番つらく厳しい仕事が始まった…………。

 

 ◆ ◆ ◆

 

「どうしてこうなった…………」

「どうしてこうなったの…………」

 

 合宿日当日まで、俺と先輩で綿密な計画を練ってきたし、場所のアポイントメントを取り、関係者各位にお詫びの通知プリントを出したり、そもそも合宿の根本から変えていかなければならなかったから、先輩が稼いだお金でかなり前に前乗りして下見してきたり、もはや最後の方は生気が足りてなかっただろう。

 そんな、地獄のような2か月程度を過ごし、朗らかな田舎町にいざ乗り込んで練習しようといった途端に。俺たちは思考の罠にかけられたのだ…………。見ろ。

 

 

 サッカー部員全員が神輿を担いでいます…………。

 

 

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