やはり俺の部活動選択は間違っている   作:屑太郎

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やっと一区切りです。先輩との因縁のような何かは、過去では無く、今に移り変わります。


Re:やはり俺の部活動選択は間違っている

 2月の上旬。長い冬を通り過ぎ、春の朗らかな空気がやってくる頃。

 

 俺は今、先輩とららぽに来ています――――

 

「アキラ先輩!二階に可愛い雑貨屋があるんですよ!行きましょう!」

「はっはっは、自由ちゃんは自由だねえ」

「はい!いつも自由がにっこにこ!あなたの後輩自由ヶ丘自由です!」

「可愛いね」

「本当ですか!ありがとうございます!」

 

 うちの先輩は勿論、なぜか別の学校のな!

 

 ◆ ◆ ◆

 

 この惨劇の原因は少し前まで遡り、1月の下旬。今年もバのつく神聖ジジイを理論武装で撃退する月を目前に無意味な理論を武装化するために展開する月だ。そんな上でも下でも受験真っ盛りな時に先輩は当然のようにそこに居た。

 そのことになんの違和感も持っていない所が、末期な部分ではあったがさらに先輩がとんでもない事を言い出した。

 

「今週末、遊びに行こうよ」

「マジで言ってるんですか」

 

 突然の遊びのお誘いだった。震災は忘れた頃にやってくる。ハロウィンを超えてもう一度、一つ気がかりなのはそもそもなんの記念日にでもない時に先輩は動いた事ぐらいか。

 受験はどうしたんですか受験は。

 

「いや、もう進路希望A判定貰ってるからさ」

「そう言って同級生の田中君は別の高校に行きましたよ」

「比企谷君に同級生居たんだ」

「…………」

「いや、進路先知っている位の友達居るイメージ無かったからさ…………」

 

 俺の心をさっくりサクリファイスした先輩に恨みがましい視線を向けて、もう一度遊びに行くという真意を問い直した。罠か?罠なんだろ!?違うんですか?

 

「いや純粋に比企谷君と遊びたかっただけだけど?」

「そう言った罰ゲームの女の子は待ち合わせ場所に来ませんでしたよ」

「なら分かった!私が家に行こう!」

「気遣いが心に染みます」

 

 痛みで。

 

「どうかな?」

 

 上司の誘いと、年上の誘いは断ったら死ぬ、そして女の誘いは乗ったら死ぬ。どちらにしろさっくりサクリファイスされる。まあ、さっきもおんなじだったし、ダブルトラップで断り死ぬのが一番悪い選択、そう俺は華麗にスマートな選択をするんだよ。

 

「はい、でどこに行くんですか?」

「比企谷君が好きな所!」

「お疲れさまでしたー」

 

 帰る準備を一層早めて、鞄を背負って回れ右。

 

「まってー!まってよー!」

「縋りつかないでください、なんですか?俺に死ねって言うんですか!」

「どうして!?」

「場所選びのセンス皆無なので」

「もー!」

「大体、先輩みたいな人に限って俺が選ぶ所に『えー』って言うんです、ソースは妹」

「言わないから!」

 

 ソースは妹、女性思考回路テスターたる妹である。

 だが、妹は女ではあるが、上司や年上ではない。その経験はこの先輩しかいない。詰みだ。

 

「まあ、いいや今回は私の大事な所に連れて行ってあげよう」

「誰かに聞かれたらどうするんですか?」

「その時はその時、時間は前に進むだけ」

 

 目をつむって腕を組み、首を大きく二回振った。過去を見るな系の名言使われても、その過去を経験していない人からの言葉であって全く響かないと思う今日この頃。

 

「と言っても、過去の積み重ねで出来た自分は自分であることを変えられるわけない、最近それに気づいちゃったんだ…………」

 

「なんか言いました?」

 

 実際聞き取れなかった、意識の埒外からの言葉だったのかもしれない。こうして、先輩と二人で出かける事になったのだったが…………。冒頭のような状況になってしまったという訳である。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 そして、しばらくして色々な所を巡った。意外にも先輩は読書経験が豊富で、ライトノベルから文豪のが書いた小説、結構ニッチな本の話題までついていけたのは驚いた所だ。

 

 自由ヶ丘先輩は完全に聞く側に回っていたが、聞き上手で小町との会話を髣髴とさせる。簡単に言えば、質問待ちの疑問を完璧にくみ取ってくれて、適度に物を知っていて適度に知らない、そのギリギリの範囲をカバーしてくれる。この人が中間管理職になった時とんでもない効率を叩き出すだろうと思わせるほどだ。

 

 たまに、自由ヶ丘先輩にチンピラのような鋭く荒々しい視線を感じるが、それさえ除けば歓談として成り立っていたし結構楽しかった。

 

 これまでも、買い出しと称して一緒に出掛けた事があるが、そこまで込み入った話は無い。

 この時先輩に少しでも近づけたら、違った未来もあったのかもしれないと後悔することになる。

 

「それじゃあ、今日はこの辺で。私○○駅まで」

「「俺(私は)は××駅までです…………ん?」」

 

 俺と自由ヶ丘先輩は顔を見合わせた。

 数分後、電車に揺られながら、憮然とした顔の男女がそれぞれ腕組んで深く座席に座っていた。

 

「なんでこうなるかね」

「俺も全く分かりませんよ、合同練習位でしかあってない先輩と遊びに行くなんて聞いてませんし」

「私も合同練習位でしか会ってない後輩と遊びに行くなんて聞いてないよ…………清川先輩、私狙ってたのに、ぽっと出の後輩にかすめ取られるのも聞いてないし」

「E?」

 

 なんか、え?どういう事?

 

「清川先輩、私好きなんだよね」

「はぁ……?」

「だけど、ヒキ君!その先輩の関心は君に向いていて私は悲しい!」

 

 元気すぎるし、悲しさを感じないのだが?あとヒキ君って。撤回させようとしたが、明らかに今後もそう呼ぶつもりだ。

 

「まあ、ヒキ君が想像しているようなことじゃないけど」

「…………?」

 

 今のはどちらにかかっているのだろうか?先輩の関心か自由ヶ丘先輩の好意なのか?

 

「はぁー、結構妬けちゃうなぁー」

「めちゃめちゃ棒読みで言われても」

「本当だよ、先輩は、焦点が人に向いていないんだから」

 

 遠い目をしていた自由ヶ丘先輩は、少し憂いていた。それに気が付いた先輩は軽く笑って「ヒキ君とは、清川先輩がいなくなればいい関係になると思うよ」その気があれば、と付け加えてまた笑った。

 

 これから先、こんな風に先輩が出かけるたびに、どこからともなく自由ヶ丘先輩がやってきて三人で遊んで帰るという事をしていくのが最後まで続いた。

 

 先輩との契約、つまり最後までだ。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 それは、最後は今年の三月。

 それは別れにして出会いの季節が、すぐそこまで迫っているそんな時。今は別れの儀式である卒業式を俺はボーッとした目で見ていた。もうすぐ、先輩がここを出ていくのだと、真に先輩に対して思いを馳せた瞬間だったのかもしれない。

 だが、後悔は心の中になく、どこか胸にぽっかり穴が開いたような物悲しさを感じていて、どこか青春の匂いを感じさせた。

 

 と思えば、俺は頭パッパラパーの口を上に向けて待つカルガモのごとく、何かに期待を持ってしまうだろうと、今一度ぼーっとしていた。

 

 気が付けば、閉会の挨拶が終わり、全体の空気が弛緩したような空気の中最後の一仕事と言わんばかりに中央を向いて先輩たちを見送るなか拍手が鳴り響いた。

 

 最後の一人を見送り、一斉に拍手が鳴りやんでアナウンスで一斉に着席した。素直に座れたのだろうか、何故だか早くなる心臓を無視しながら。どうでもよさそうな話をただ聞き流していた。

 

 昇降口を覗けば、別れを惜しむ人や打ち上げいこうと騒ぐ人もいた、だが先輩の声だけは聞こえない。そのことに目を伏せながら、俺は一つ心当たりを探した。

 

 文化部の部室棟の4階。そこはサッカー部のミーティングに使われていた所だが、そのさらに一つ上には屋上が存在している。文化祭の時の事件の現場だ。

 きっと、先輩はそこに居ると、確信した。

 

 一つ一つ階段を上がると、少しずつこの一年が思い浮かんでくる。

 

 大抵ろくでもない思い出だったが、どう思い出しても先輩の顔と、手の甲の熱さを覚えている。

 

 何でもない一言が、今になって頭の中を巡っている。

 

 何でもない仕草が、今更心を擽っていた。

 

 それでも、一年じゃ覆いきれない量のトラウマが。

 

 それでも、人生大半を占める悔念が。

 

 最後の扉を開ける事に苦心させていた。

 

 『今更言ってどうする?最後か?最後じゃないかもしれないじゃないか!それでも、散々心の中で否定してきたこの熱さをいまさら肯定できるか!どうせ、どうせ裏切られるから、期待しない方が良い、そっちの方が楽だってわかってるだろ』

 

 頭の中で色々考えて、結局動けない。誰かの為とか、誰かを、何かを行動理由にしなければ、動けないのであれば。

 あの時ここで先輩の悪口を言っている奴らと、何も変わらない。脆かったのだと、柔らかい心が必死に痛みで訴える。

 

 どれほどの時間、そこに立ち尽くしていただろうか。1秒が永遠にもそれ以下にも感じた。

 そして、一際大きいため息をついて、その扉を背もたれにして座りこんだ。

 

 無断でこんな所に来ているのだから、もうどこにも戻る必要もない、今日部活がない事が

 

 禁断のようだった思考を遮るように、背もたれが消失し、バランスを崩した。慌てて後ろを見れば、件の先輩がそこに立っていた。

 

「何やってるの?」

「こっちのセリフですよ」

 

 驚く位スムーズに軽口が出て来た。

 

「もう、最後だって言うのに…………あはははっ」

「なんか…………はい」

 

 もちろん、お世話になった。お礼の言葉を言おうと、思ってしまう程に。

 

「なんというか、この三年間あっという間だった。私の先輩さ、女だけど男より男らしくてさそれでいて私より仕事出来たんだ」

「それは、お近づきになりたくないですね」

「あはは!先輩比企谷君見たら殴っちゃうかも!…………」

 

 無理して上げたテンションを振り返ると酷い惨劇だった時のように、表情には自制が浮かんだ。

 

「…………」

「…………」

 

 沈黙だった。先輩はある言葉を望み、それに俺は答えられない。答えてやることはたぶん普通の人間なら出来るのだろう。だが、この二人に普通なんて物がある訳が無かった。

 

「八幡」

 

 一言名前を呼ばれた。いつもなら比企谷君だ。先輩の目は見れない。

 

「私、貴方が後輩でよかった…………でも」

 

 言うな、言うな、言うな、言うな、言うな、言うな、言うな、言うな、

 言うな!言うな!言うな!言うな!言うな!言うな!言うな!言うな!言うな!言うな!言うな!言うな!言うな!言うな!言うな!言うな!言うな!言うな!言うな!言うな!言うな!

 頼むからそこから先は――――ッ!

 

 

 

「私、まだ。君を嫌いで居なきゃダメ?」

 

 

 

 いつの間にか手の甲の熱は残っていなかった。

 駄目だった、すべてが俺と先輩が居た時間すべてが、全部愛おしく憎らしく感じてしまった。

 だけど、その時間を作ったのは先輩が嫌いって言ってくれたからだ、変わらなかったからだ。

だから頭を空に、堅く、そしてこんな一言で壊れてしまうように、脆かった。

 

 楽しかった日々を、手の平から引きはがされる感覚は、今までのどの痛みより最高に痛かった。

 

 やっぱり先輩は人を陥れる蛇。こんな痛みを与えるためだったのなら。

 

 小学校以来、枕以外で流さなかった涙が、床を濡らした

 

「これは私からのお願いなんだが、もし君がここからさきともだちが一人も出来なかったとする、そしたら君に面と向かって悪口を言った奴と友達になってみてくれ。きっとこれより先の人生の力になる。え?なんでって?ああ、私がそうだったからだ。…………いや、君が大っ嫌いだから、騙そうとしていただけさ。私が居なくても騙されてくれると嬉しいよ」

 

 人生の中で極めて混乱した脳内で、そんな言葉が聞こえて来た。

 そして言うだけ言いきって、先輩は走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何をやっているんだ俺はッ!!

 今から走っても間に合わないかもしれない!だけど、今走らなきゃいつ言うんだ!連絡先も持ってない!家の場所も知らない!そんな儚い関係を、今繋ぎ止めなきゃいけないだろ!

 

 手遅れでもいい!

 

 思い出せ!さっきまで出来たはずだ!一年間のもっと始まりの――――!

 

 

 

『家は総武港駅方面だったりする?』

 

 

 

 思い出した瞬間自転車に乗った。ペダルがうなりを上げて、太ももの乳酸値は留まる所知らぬほど、恋だ。

 そして駅に着いた、あれから駅に先輩を送った事はない。だけど、探さないといけない。

 

 周りには、帰宅ラッシュの学生が多くいた。いつもならと悪態をついたが、だけど、いつもじゃないからこうなっている!

 

 それでも、見慣れた先輩の横顔を見た時は僥倖だと思った。少し並んだ券売機で入場券だけ購入急いでそこに行った。

 

 いつも駅を利用しないが、こんなにもごった返すものなのか!とやはり悪態をつく。先輩にたどり着くには、かなり人込みを押しのけなきゃいけない。

 掻きわけようとしたが、人の波には逆らえなかった。そして先輩が、電車の中に押し込まれて行ってしまう。

 

その前にッ!

 

「先輩!」

 

 いきなりの大声に、周りは非難の視線を向けて、先輩と目が合った。動きが止まった。止まってしまった。それでも、腹の底から声を出さなきゃ、出さなきゃッ!

 

 

 

「俺の部活動選択は間違っている!でもっ!」

 

 

 

 そこで、無慈悲に。いや、そこで慈悲を突っぱねて居た事を知った。

 

 これだけ言ったら、ただの最低野郎だ……………。贖罪のように、言い訳がましく続きを

 

 

 

「でも…………先輩と出会った事を、間違いにしたく…………無かった」

 

 

 

 

 口から後悔を零しても、誰も拾い上げる者はいなかった。

 

 

嗚呼今度こそただの一人ぼっち

 

 

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