部活。それは、青春の一部を担うが、学生の本分は勉強と、耳にタコが出来るほどに聞いているそれを、無視する訳にもいかない。
一応国語は学年で4位、そして赤点無し、因みに家庭科のテストは2位という高水準、いつでもお婿に行けちゃう。
…………。ここまでおどけて居ないと、さっき見た夢の話を消化しきれないのは。いまだ残る心の弱さなのだろうか。
話はそれたが、俺が言いたいのは成績を見れば胸を張れるほどの自信がある。という事なのだが、その対極に位置する、つまり俺の友人関係を学校内でピックアップすると悲惨な物になる。
一般的な授業日の俺を見て行こう。
朝のショートホームルームの三十分前に登校、朝から部活の準備を済ませておく、具体的には部室棟の3階に上がりカメラを交換して、SDカードを引っこ抜き顧問が管理している金庫に預ける。
PCを引っ張り出して動画編集できる準備を行い、丁度いいタイミングを見計らって教室に入る。
SHR終わった瞬間イヤホンを取り出し耳に突っ込み寝たふり。これを授業間の休みで繰り返す。
もちろん、授業が始まる瞬間の「今起きましたよ」アピールにも抜かりはない。この程度出来なければ、プロのボッチは名乗れない。
(プロボッチとして名を馳せている比企谷さんですが、何かコツみたいなのはあるのでしょうか?)
色々ありますが、第一はコンディション作りです。睡眠許容量が許す限りの睡眠時間、体調管理もそうですが、ボッチは一人ですからね、宿題を忘れても見せてくれる人間も居ません。自分ひとりで何とかできる学力を持っていないと話になりません。
(身に染みる言葉です、そんな比企谷さんがプロボッチになったきっかけってなんですか?)
…………才能…………ですかね…………。
(…………それじゃあ、最後に比企谷さんの持つ夢は何ですか?)
夢か…………持ってたら、プロのボッチとは名乗れませんし、そもそもプロ意識が作られてないと思います。
(と、言うと?)
自らの行動で心まで変えるのが…………プロという物です。
このように、プロボッチは脳内でプロフェッ○ョナル~お仕事の○儀~ごっこをするのも容易い。
まあ、こんな事をするのはとても暇な時だ。
例えば、今やっている学園祭の分担決めとかだ。
「それじゃあ、文実やりたい人居るか?」
前に鎮座する教壇に立ちながら、億劫な顔をした平塚先生を見ればめんどくさいオーラを放って、教室を見回していた。
文実は有体に言えば文化祭全体の雑用係だ。それを理解しているのか一人以外手を上げなかった。
名も知らぬ()女子らしい、どうぞクラスの事なんかあずかり知らぬ所でございますよ。
「あと男子、誰かいないのか?」
ぶっきらぼう極まりない口調で平塚先生がそう言った。
「もう自薦他薦問わんぞ」
そこは問うて下さい先生。
めんどくさくなったか。それにもう一人、クラスのガリ勉責任感君がやってくれるだろう。あとはクラスの方の雑用係に自動的に振り分けられるという寸法。
劇やるなら何でもいいぜ、絶対に主役に据えられないだろうがな!
「先生」
「なんだ葉山?」
「推薦したい奴が居るんですがいいでしょうか?」
「誰だ?」
「比企谷です」
教室の空気が、この場に居る全員の心と呼応するように動揺した。
あの?葉山君?なに?新手のいじめ?前じゃカッコよく書いたさ?
まあ、そりゃ心動揺していますとも。みんな隣と顔を見合わせて「え?誰?聞いた事ある?」とか言ってるでしょうが!?ほら、幻のシックスメンの事なんて無視しよう、な?
「比企谷か、どうだ?やれるか?」
「荷が勝ちすぎていると思うのですが?」(なんで勝手に決めてんだ?)
「葉山だから大丈夫だと思うんだが?」(ほう?この状態で君は教室に残るというのか?)
プロのボッチは空気を読むのは得意だ。だから一言も喋らない、関わりを持たない。空気を読んだ結果、心の中で中指を立て、口では事実上の白旗宣言をかますことにした。
◇ ◇ ◇
「テメエ何がしたいんだよ…………っ」
「やだなぁ、落ち着いて」
「これが落ち着いて居られるか!?」
ベストプレイスに一人でのこのことやってきた18。ここをお前の墓場にしてやろうか。
「悪いとは思ってる」
「なっ!?…………なら止めろ!」
「まあまあ、覆水盆に返らずともいうしここはひとつ」
「開き直ってんじゃねえよ!?」
胸の中はもう東映の後ろの荒波のよう。
冷静になれまずは、相手の目的だ。一つ舌打ちをして大きくため息をついた。
「お前が、あんな強引な事したんだ。なんか理由はあるんだろうな?」
「…………雪乃ちゃんを助けてあげて欲しい」
決意を湛えた目で俺に向かってそういった。
雪ノ下雪乃はこいつと幼馴染でもある。彼女が彼を毛嫌いするように、きっと彼も彼女に何かした抱えている感情はあるんだろう。
だがしかし、今の状況とは別だ。俺には何のかかわりあいもない訳で、完全に巻き込まれ損。こういう時にリア充という生き物の群体に対する恐怖が沸いてくる。
「どういう意味だ?」
「一応これでも雪乃ちゃんの幼馴染だからね、失敗するパターンも見えているんだよ」
「なんで雪ノ下が出てくる?」
「雪乃ちゃんが文実に入るのは確実だからだ」
「違う。なぜ、お前が、俺を使って、雪ノ下を助けようとしてんだよ。やるならテメエでやれ」
吐き捨てるようにそういった。
文化祭なんて時期が、俺の心を荒れさせたのだと思う。
「僕が助けようとしても雪乃ちゃんは突き返す、でも君になら」
「…………はぁ。めんどくさ」
怒りと呆れでひどい頭痛が俺を襲った。だから、今の置かれている状況を加味しても、こいつの嫌味を言わざるを得なかった。
「18番、そういうの良い加減直せ」
「直せ?何をだい?」
「奇麗すぎる八方美人だ。みんなの意見を尊重しすぎて何かを逃す」
「…………」
「今回は別だったようだが。1人の奴にしか自分の我を通せないならそんな生き方止めろ、きっといつか、遠くない未来で沢山後悔することになる」
「それこそ、君に関係ないじゃないか」
それこそ、俺が言えることではない事は、俺自身がわかっている。18にはわからない。だから、俺がこうやって言うしかない。
「俺はお前らのマネージャーだ」
そう言うと、18番は苦虫を噛み潰したような顔をして、ありがとうといってその場を去って行った。確実にありがとうを言う顔じゃない事に苦笑いを浮かべながら、そこに立ち尽くした。
「いやぁ青春だねえ」
「うわ!?」
「なに驚いた顔してるの、私の牙城、保健室の前で」
「先生…………。こんな所でたばこ休憩ですか?」
保健室の先生が、窓から口に咥えた煙草を燻ぶらせて顔を出した。
「別にいいだろ?ここは頭いい進学校ちゃんだ、私の仕事は少ない。それこそ、使ったのは君の先輩位だったけどねぇ」
「俺にとっては耳が痛い話です」
「そういえば、あれから清川ちゃんと付き合ったのかい?」
「まさか、俺は先輩の事、好きでしたから。絶対に」
その時、なんていったのか分からなかった。だけど、かなり本心に近い何かだったと思う。その言葉を聞いて、保健室の先生はにっこりと笑って言った。
「バーカ。このクソ童貞」
「先生、結構自由だって言われませんか?」
「なに、妹には負けるさ」
いつの日かの誘惑を胸に、俺は教室に戻った。