やはり俺の部活動選択は間違っている   作:屑太郎

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委員長のVサイン

 学園祭で必要な物は何か、そう思わずにはいられない。

 

 踊り狂う会議、自分しか見れないだけの、ただの利己主義がどうしようもなく、しかし確実にあの空間で渦巻いていた。

 

 それを踏まえた上で、今回の学園祭を見てみよう。雑用だけが見れる、とっておきの最前列で。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 学園祭開会式、個人的に一番嫌いな朝の時間。我々文化祭実行委員は、かなり早い学校入りを果たしていた。

 

 主な仕事は来賓先生たちの席の用意や備品のチェック、開会式直前の軽い打ち合わせなどが行われる。備品の中には、委員同士の連携をスムーズにさせるための無線機が配られる。片耳にヘッドセットを取り付けた。

 

『聞こえている人、手を挙げてください』

 

 委員長の声が右耳から聞こえてきた。俺は手を挙げた。前は自身なさげな、言っちゃ悪いがへにゃへにゃした声だったが、今は違う。雪ノ下の特訓で、かなり自信が付けられたようだ。

 

 個人的には雪ノ下の特訓少し引いた。具体的に、由比ヶ浜と戸塚を抜いた集めたメンバーの前で書かせた原稿でスピーチさせた。

 三人集めて、その目の前に立たせ、言った言葉は「読みなさい」だけで奉仕部の部室から出て行った。確かに舞台の上じゃ一人だからな、無関心の観客を置くことによって心を鍛えようとしたんだろう。

 

 あと一色の無関心さの演技半端ないって。普通、人の前で体向けずにスマホ弄りだすなんて出来ないって。

 

「あ、あの聞いてください!」

「あ?」

 

 この「あ?」は普通出来ないって…………部活内であんな目されるぐらいだったら俺が先に止めようか!?心は硝子で出来ているぅ。

 

 とまあ、そんな特訓をさせられた後だから、ちゃんと反応が返ってくる事がとても嬉しいようで、頻繁に呼びかけを行っている。まあ、これも一種の絆と言っても良いんじゃないだろうか。

 

『こちら12番雪ノ下、全員聞こえていますか?』

『全員の反応を確認しました。次13番』

『こちら13番ミギワ、全員聞こえていますか?』

『全員の反応を確認しました。ミギワさん、照明は大丈夫ですか?』

『問題なく使えます』

『はい13番、7番。ミギワさん左右さん、照明を2回点滅させることはできますか?…………了解です。登壇者に照明を向けて二回光を点滅。これを、緊急用の合図にします。指示を副委員長か13番雪ノ下さんに仰いでください』

『13番了解』

『7番了解』

 

 いや、本当に見違えるほどだ。なんか頭軽かった奴とは大違いだな。

 

『こちら14番高橋、全員聞こえていますか?』

『全員の反応確認しました。これで点呼は終わります』

『こちら15番比企谷ぁ!』

『あ、素で忘れてました。ごめんなさい』

 

 前言撤回、やっぱこいつの心根ぶち折ってやろうか!?

 クスクスと笑われながら絶対に許さないリストに、どう書き加えてやろうかと思案していると、雪ノ下と目が合った。

 仏壇の目の前のように俺に向かって手を合わせていた。

 

『こちら比企谷絶対に許さない、繰り返す絶対に許さない』

『本当にゴメンって、後で飴玉上げるから』

『こちら比企谷、水に流す』

『『『それでいいのかよ』』』

 

 …………いや、ちげーし。俺が聞いてなかっただけで、俺を居ないものと扱えと指示が出たんだろう。一番最後だしな!

 

『後、15分で生徒会が来ます。生徒会抜きの通しリハやりたいと思いますので、2番3番7番9番、所定の位置へ着いてください』

『『『『わかりました』』』』

 

 怖い、マジ怖い。よくもまあ、俺がやった事とは言え、ここまで効果が出るとは思わなかった。

 練習を重ね、細部にまで努力を費やして。そして、開会式が始まった。

 

『こちら、委員長相模。みんな、今までごめんなさい。やれるだけ、出来るだけ頑張ってきます』

 

 委員長挨拶の前に、無線機からそんな言葉が流れた。

 ああ、努力が報われるとは限らない、でも、そんな不安も吹き飛ばしてしまう程、相模はその場を支配し、盛り上げて、総武高校文化祭は最高にフェスティバっていた。

 

 最後の一言を言いきり、会場のボルテージが最高潮だった。

 終わって引っ込んだ舞台袖で、満面の笑顔でVサインを出した、委員長の姿が妙に印象的だった。

 

 だけど、まだ文化祭が成功したわけじゃない。そもそも成功じゃなくて完遂するものだ。少しだけ、気を引き締める事にしよう。

 

 とはいっても、開会式が終わった後は特にすることもない…………訳ではないが。正直、クラスの出し物の受付やるだけ、下っ端も下っ端、人生の主役になれる舞台が悲劇しかないのも悲しい話だと思いながら、会場の熱気に当てられて痒くなった頭を掻きむしりながら、クラスの持ち場に付くのだった。

 

 

 

 

 

 





ただ、努力は心で誇る物

嗚呼、結末がどれだけ陰惨であろうとも

嗚呼、結果がどれだけ素晴らしい物であろうとも

きっと『努力の醍醐味』はいつだって孤独だ

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