やはり俺の部活動選択は間違っている   作:屑太郎

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キセキのトリプルシュート

 

「いらっしゃいませ! こちら劇の参加チケットになります。はい、はい! あと15分で始まりますので、それまで中で待ちますか? わかりました、上映中は出来れば携帯の電源を切ってお待ちください!」

 

 隣で由比ヶ浜が接客しているのを尻目に、人数分の金を計算した。

 

「1500円です」

 

 計算して、ようこそ始まりの村へ見たいな事を言って終了だ。コミュニケーション能力のお化け、由比ヶ浜結衣が、俺の隣で接客をしていた。

 

 末恐ろしさを感じて、黙って接客をしていく。あと1時間。早く終わって欲しい…………。

 

「ねえ、ヒッキー?」

「どうした?」

「この後一緒に、文化祭回らない?」

 

 終わって欲しいと思っているからか、由比ヶ浜の方から話しかけられた。個人としてはまだまだ仕事はあるんですが。まあ、広報用の写真撮りに回る位しかないが。

 あ、でも、女子的なセンス皆無だから連れて行けばボツ喰らうの阻止できるんじゃ。

 

「ぜひ頼む」

「ふぇ!?」

「正直、俺はセンス無いからついてきてくれると助かる」

 

 少し頭を下げて渡りに船で頼んでみた。すると由比ヶ浜は口をパクパクしながら俺を見ていた。やべえ、完全にただの社交辞令である可能性が出て来た。

 

「すまん、由比ヶ浜にも予定はあるよな。というか、クラスの奴らと一緒に回りそうだし」

「ちょっと待って違うし! なんかもう断られる前提でいたから驚いただけだし!」

「お、おう。分かった。これ終わったらすぐで良いか?」

「大丈夫!」

「悪いな、文実の仕事手伝ってもらって」

「へ?」

「文実で写真撮るからそれのついでで…………ってどうした?」

「ヒッキーのバカ…………」

「ええ、まあ終わったら。何か埋め合わせはする。何が良い?」

「駅前のハニトー奢って!」

「了解、明日か来週の日曜日は開いてる。これ以外でもいいけど、俺の都合的に1週間前には言ってくれ」

「う、うん、はぁ」

 

 深いため息を付かれ、その後は何事も無かったかのように喋りながら、客を待っていた。

 

 丁度その話をしていると、後ろの部屋の方からちょっとしたざわめきが聞こえた。きっと、開演したのだろう。これで少しは客が減るか。

 

「今回めんどくさい客が来なくてよかったな」

「ちょっとヒッキー! そんな事言っちゃダメだよ?」

「変な客来なくてよかったな」

「おんなじだって!」

「本当にやばい事もあるんだから」

 

 まあ、それ以上に変な奴が店開いているんだから仕方ない所ではある。

 

「少し休憩だ。途中で入る奴もいるかもしれんから気を引き締めて行こう」

「おー!」

 

 ◇ ◇ ◇

 

「えっと、ヒッキー? その人はどなた?」

 

 そんな気合を入れた後、数分も立たずの場面。由比ヶ浜はドン引きと不思議と疑問を織り交ぜたような、そんな顔をしていた。

 

「変な客だ」

「ちょっと~ヒキ君やっぱり辛辣ぅ」

「今日が生理じゃなくて本当に助かりました」

「ちょっとヒッキー!? デリカシーなさすg「過ぎた後の解放感でテンションヤバいぜ!」!?」

 

 由比ヶ浜はこの一瞬でヤバい人だと感じ取ってくれたようだ、いや、一目見れば分かるな。

 

「自由ヶ丘先輩? 演劇の邪魔になるのでボリューム抑え目でお願いします」

「おっとこいつは失敬、んで、初めまして女の子私は自由ヶ丘自由、自由ちゃんって呼んで?」

 

 由比ヶ浜が困惑している。フリーダムを具現化したような先輩のノリについていけないのだろう。事実、調子に乗らせれば放送コードは引っかかる。

 あうあうと言いながらどう接しようと決めあぐねている間に俺の隣に滑り込むように近寄り、腕を絡ませて人差し指で、のの字を描いた。わざとらしい猫なで声を出して

 

「ねぇ~ヒキ君、彼女出来たなら言ってよぅ」

「違います、失礼ですね」

「彼女に?」

「当然」

「ひゃっほう、ヒキ君流石ぁ~」

 

 この姿を見て海浜総合の文化祭に顔を出さない事を決めた。この心中を知ってか知らずか、自由ヶ丘先輩は突然真面目な声色になった。

 

「戦闘力ヤバくない?」

 

 自由ヶ丘先輩の視線が由比ヶ浜の胸に集中していた。遮るように腕を振った。

 

「やめてあげてください、これ以上は可哀そうだ」

「ちっ。あっ、えっと、名前聞いてなかったね?」

「由比ヶ浜結衣です」

 

 由比ヶ浜さん? ちょっと待って、それ以上情報を渡すとヤバい、ヤバいから。主に俺の保身的な意味で! 

 

「結衣ちゃんね、ヒキ君がお世話になってます。私、海浜総合のサッカー部のマネージャーやってるんだぁ」

「そうなんですね、ヒッキーにはお世話に(でも、こっちが助けられてるっていうか)…………私がお世話されてるんですよ!」

「(こんなおっぱい大きくて性的な意味じゃない訳がないという事は)お世話? 犬(的な事)…………?」

「(ヒッキーあの事自由ヶ丘先輩に言ったの)!? はい! 犬にも良くしてもらって」

「良くしてもらって…………(性的な意味で)?」

「自由ヶ丘先輩? 何か邪な事考えてませんか?」

「そんなバカな(それ以外で何を考えられるのか)」

「こっちのセリフですよ」

「ばかな」

 

 日本語をどこかに置いて来たのか。

 俺に女子会話の副音声変換プランは経験値不足で利用できないが、何かが可笑しいような気がするのは間違いないだろう。

 

「あんなことやこんな事、もうしてるのかいヒキ君」

「邪オブ邪ですか」

「性は根源的欲求だよヒキ君」

「自分の趣味嗜好を押し付けないでください」

 

 唯一の救いは隣が「よこしま? 横浜みたいな感じのやつ?」と言った顔をしている事だ。

 万乳引力に魂を囚われた者のエゴに押しつぶされ、結局悲しみだけが繰り返されていく…………。

 

「まあ、結構ヒキ君が楽しんでいるようで安心したよ」

「どこがですか?」

「いやいや、少なからず部活だけなら楽しんでいる節はある、私が言っているのはこういう学校生活全般のことだよ。クラスの出し物とか積極的にやらないタイプでしょ?」

 

 それは、確実にyesだ。それにしても余計なお世話である。

 

「結構、いやかなり心配したんだよ?」

「それはどうも」

「うんうん、出来の悪い喜劇を見てる気分だ」

 

「なんでワンディス入れて来たんですか」

「あはは、やっぱりめっちゃ面白いや。じゃあね! いつかまた会おう!」

 

 そうして、嵐のようにやってきた自由ヶ丘先輩はまた嵐のように去って行った。

 

「な、なんかすごい人だったね」

「ああ、凄くてヤバい人だよ。あの先輩は」

 

 時計を見ると、知ってか知らずか、丁度良くシフトの時間が終わっていた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 シフトが終わる瞬間、由比ヶ浜はクラスの友達にドナドナされていった。

 

 元のさやに納まりながら、俺は一人で文化祭を回っていった。屋台を回ると人が湯水のようにお金を使いながら原価30円を10倍で買っていく。

 

 その詐欺的な場所を摘発するように、写真に捉えていた。

 少し声を掛けて写真を撮ると、少しはポーズをとったりする人間も居たが、それ以上に普通に無視されていた。マジか。

 

 夏は通り過ぎていたが、まだまだ強い日差しは長袖を貫通させて熱を体に伝えた。水分を用意しておけばよかったと今更ながら思った。

 回ってみれば市販のジュースをただ売っているだけの屋台があったので、そこで休憩がてら100円玉を取り出した。

 

 そこでお茶を買った。そこで、何か視界の端に映った見覚えのある短く切った頭に話しかけた。

 

「おう、久しぶりだな」

「あ、お兄さん。お久しぶりです」

「ああ、大志。今日は姉ちゃんの様子でも見に来たか?」

 

 シスコン同盟の片割れ川崎大志だ。なんか、覚えてた。

 

「いや、見たら殺すって」

「言いそうだな」

「それはさて置き、志望校がここなんで見に来ただけなんですけど」

「そうか、あーそれなら今年の選考の担当、たぶん伊勢原先生だから偶然を装って話しかけて来い、好印象で覚えて貰えてたら書類選考で有利に働くかもな」

 

 まあ、実際に確証は無いんだが。よく職員室に呼び出し喰らってると誰が忙しいのかとか誰が何の担当をしているのかなんとなくだが分かる、で持ち回り的に伊勢原先生だと思ったんだが。

 

「こら、うちの弟になに吹き込んでるの」

 

 後ろの姉貴さんはやめておいた方が良いようで。

 

「どうしたんですか川崎さん」

「どうしたもこうしたも、受検でも確証の無い事吹き込むなって話だよ。うちの弟が逆に悪印象与えたらどうするつもり?」

「わりいな大志、今のは忘れろ」

「会話終わったらダッシュで行くつもりでした…………」

 

 悪影響与えてたか。ちっ、まあワンチャンそうなって小町と引き離せればよかったんだが。

 

 川崎姉弟は1分ぐらい話し合って、大志がどこかに行き川崎姉だけが残った。

 

「ありがとう」

「なにが?」

「あれから忙しくてちゃんと言えてなかったけど、ありがとう!」

 

 なんか酷い剣幕でそう言ってきた。色々溜まっている物があったのだろう。

 

「どういたしまして」

「…………アンタ、やっぱおかしいよ」

「お礼の後の言葉じゃねえな」

 

 苦笑しながらそういった。いまだに、川崎姉の顔は険しい。

 

「お人よしが過ぎる」

「妹の」

「だとしても、見ず知らずの人間を助けようとする人間でもない、って思ってる」

 

 だとしたら、俺はなんでこうなっているんだろうなと、自嘲気味に問いかけた。

 

「演劇みたいに演じてるんじゃないの?」

「舞台の上以外じゃとても気持ち悪いだろうな、それは」

「誰を演じているのか知らないけど、とりあえず助かっただけどもうやめな、痛々しくて見てられないから」

 

 はいはい、とおなざりに返して俺は。その場から立ち去った川崎の後ろ姿を、意趣返し的に撮ってやった。ワンちゃん文化祭ホームページに乗ってしまえちくしょうめ、なんて思いながら、再び一人で文化祭を巡っていった。

 

 

 そうして。文化祭はつつがなく終了。成功を収めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ただ成功だった

 

 

 

 

 

 

「なに驚いてるのさ、私はOGだよ? 来ていてもおかしくないじゃないか」

 

 そして俺は、敗北した。

 

 

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