需要と供給という言葉がある。現在、家庭科室で部活用のスポーツドリンクを作っている所であり、どちらかというと台所がある家庭科室は供給の場に等しい。そして、この後ろの例文の様に意識高い系男子は文章の中に需要と供給のどちらかを入れるのが大好きだ。
俺の偏見ではあるが、基本的に意識高い系男子の起点は確実にこの言葉、需要と供給から始まると考えている。そこからビジネス用語を調べて次第に使い始め「Pardon?」覚えたての中学生レベルで連発するようになる。
このように横文字大好き人間又は意識高い系男子の根底には需要と供給が起点になっている。
しかし、経済学的にも重要な言葉を操る彼らは常に人から避けられている。なぜか?他人にとって意識高い系男子は、もうおなかいっぱいであるからだ。
供給過多、もしくは過少が起こるのは需要の認識がその人物からずれていることが原因だ、これと同じように自己評価が高すぎるが故に自分という需要を誤認する。といった具合に起こる悲しい事故なのだ。
かくいう俺も鼻持ちならなぬ、供給過多といった点では、もはや生まれた時点で意識高い系男子で今となっては意識他界系男子だ、違いは自己評価と他者評価があるか無いかの違い、無いのは後者の方、他界者は現実になんの影響も及ぼさないからな。俺はこの二つと輝く目は子宮に置いてきた。
ということは、俺は小町の出涸らしである可能性が…………まあ、うちの妹はかわいいから問題ない。
さて、このような意識他界系男子である俺は今、需要も供給も関係なくマックスコーヒー味のスポドリを研究開発している。先ほど作ったマッスポ(仮)試作137号はゲロに変わった。
まだ止まらぬ吐き気を我慢しながら、身近な需要と供給のこと、マネジ業について考えていた。終わりの見えないマラソンの様なこの仕事に対して俺は、報酬は先払いだとは言え根本的な楽しさという物は感じられていない、もしくは感じようとしていない。女子マネージャーの言動に心の中でツッコミを入れる部活にも思えてくる。
そんなことはないだろ、と思いはするものの、このマッスポように自分の為に扱う物が発生しているのは事実であり、最近ではなんのためにやっているのか分からなくなっている。
最初は、マネージャーとして連れられた。そして半ば強引に入部届を出し、俺はマネージャーとしての末席を得た。当時では先輩が怖すぎたらしく、現二年生の女子マネージャーは存在しておらず、先輩の引退が決定した後、なだれ込むようにマネージャーの名乗りを上げた。
何故か無性にむしゃくしゃして女子マネージャーに出てけと言おうと思ったが、そんな胆力はなく現在の状況に落ち着いている。最初に述べた俺が仕事を放棄した時の結果から、確実にサッカー部の機能は少なからず混乱するだろう。先輩が守ろうとした場所は少し変わってしまったが、俺が辞めたら確実に変わってしまう気がする。
複雑に絡まった感情はのど元に居座って言葉にはできないが、初期の目標「出来るだけ辞める」から確実にずれているのは確実だ。
だから、最初に強固な意志でゴールを固めろ、ずらされるから
よしタイトル回収。
ただタイトルは回収しても、このマッスポの失敗という不良債権は回収してくれる奴は居なさそうだ。こういうのは一人で抱え込むしかないからな。
不良債権を忍びなく思いながらシンクに流して後始末をしていると、二つの足音がこちらに近づいているのが聞こえた、足音的に雪ノ下と由比ヶ浜さんだ。何故か知らないが、雪ノ下と由比ヶ浜さんとやらはこっちに用があるらしい。
「失礼しまーす」
「いらっしゃい」
予想通りというかなんというか、二人ともなんでここにいる?と思っていそうな驚いた顔をしてこちらを見ていた。かわいい女の子だと思った?残念!ただの愚物でした!因みに今の俺はエプロンと三角巾のハッピーセット、ここに割烹着があれば田舎のオカン。二人に詳しく説明するのも面倒なので、出来上がったばかりのスポドリを指さして頭を振るだけで留めておいた。
俺の合図が伝わったようで雪ノ下は相槌を打って俺に話かけた。
「どうやら、由比ヶ浜さんはクッキーが作りたいそうなの」
「あいよー」
と言って俺は家庭科室の戸棚からクッキー作りに必要そうなものを取り出した。料理部とかでもないのに1年通して使い続けてきたため、もはやサッカー部の城だどこに何があるのか大体把握している。家庭科室でのエピソードは備え付けの冷蔵庫にマックスコーヒー入れてたら滅茶苦茶怒られ、手作りの味噌ピーを渡したら無罪放免になった話ぐらいだろうか?
そんなことはどうでもいい。
「それより、どうしてクッキーを焼くんだ?」
「なんでも男性にお礼をしたいそうよ、だからこうして私が教えてあげようというわけ。それにクッキーなら小麦粉と卵さえあれば何とか出来るもの」
「それはまた…………最悪、男なんて包装さえしっかりしとけばカントリーマアムでも騙されるぞ」
ソースは俺。なんかのイベントに便乗しクッキーを配っていた女子が裏でしゃべっていたのを聞いていて、聞くまで完全に手作りで俺に気がある物だと思っていた自分を殴りたい。
でも、前に小町の手作りクッキーと味が似てたんだよなぁ。そんなまさか。いやいや、そんな訳ない。うちの妹は天使だぜ?
少し寒気がする。ヒッキーレーダーがトラウマ注意報を発令している証拠だ、すると女子二人は下種を見る目でこちらを見ていた。
「比企谷君が思うのは構わないわ、でもこれから努力しようとしている人間の前でその努力を嗤うようなことを口にするのはどうかと思うわ」
「うっ…………由比ヶ浜すまん。ま、まあ人から善意を渡されて嫌な顔する奴は居ないと思うぞ、うん。」
俺の現状として努力に似たこのマネジ業は認められてない。だからと言ってこんな事言うなと言ってくれてる。別に不意を突いて出た言葉だし、そんな意図はさらさら無いが、会話の流れからして超失礼だった。
「ヒッキーも?」
「ああ、最も?有難迷惑的な善意で無ければな?」
雪ノ下は一言多いとぼやいていたが、俺は「じゃあちょっと行ってくるわ」と一言残して、後一言「良けりゃそこにあるスポドリ飲んでいいから」と言い残して部活に顔を出すため、家庭科室から出た。
後ろ髪ひかれるような感じはした、普段のように後ろ指さされるよりかはずっといい。
◆ ◆ ◆
そうして俺は家庭科室を出た後、スポドリの用意をし部室内の清掃をしていた。しかしいつも思うのだが
「先輩?」
まあ、普通に生きていてグレーゾーンの奴に会うことはそんなないだろうし問題無いからいいだろうが、いまさら人の心を理解して群れるような気にもならない。ただ、今思えば、人の感情を完全に理解して群れるような人間と俺の先輩は確実に反りが合わなかっただろう。俺と先輩は他人への無理解という点のみで保っていただけで、もちろん俺に目をくれるような人間でもないような気がする。
もし、完全な他人の感情理解または操作する奴と先輩が出会っているなら、そこは絶対に妖怪大戦争になっていることだろう。
そんな人間想像したら怖いし、俺は確実にお近づきになりたくない。
「あのー、先輩?」
このようにだ、人間だれしもが怖い物、恐ろしいと思う物がある。それが人間でも、動物でも、それが物ですら敬遠する、まあ苦手な物と置き換えてしまってもいいが。因みに俺が苦手な物は下駄箱の中に入っている手紙だ、あん畜生にはいい思い出がない。今度あんな幼稚なクソを置くようだったらその瞬間破り捨ててやろうと思っているぐらいだ。手紙置くぐらいなら直接言えってんだ。
やっぱ止めてください、直接言われるのは雪ノ下ぐらいで十分です。
「先輩!」
なんか外が騒がしいな様子を見てこよう。
「先輩!!」
「うおっ!?」
滅茶苦茶びっくりした。いきなり背後に女子が居るなんて。
ん?今は部室、そして女子、普段は女子なんざ入らない。つまりこいつは部活動中の男子生徒の服を漁るド変態!?落ち着け、落ち着くんだここは大声を出してはならない、この状況は10:0で俺の過失になる。俺の過失になるのかよ。そして言葉で持って撃退し、選手たちの衣服の安全を確保する!
「やあ、い、良い天気ですね」
「そ、そうですね?」
失敗したっ!とりあえず当たり障りのない会話から弾ませよう作戦が失敗したっ!完全に不審者を見る目になっている!というかお前が不審者じゃないのか!?ということは、男子の衣類を盗むのは当然の義務となっているというのか!?何たる変態!!まて、慌てるな、こうなることは俺と女子の会話じゃ日常茶飯事、黒歴史が一つ増えるだけだ。
「あの、何してるんですか?」
「部活です」
やっちまった。
「やっぱり先輩が幻のマネージャーだったんですね」
「はぁ?」
と思った次の瞬間謎の単語が飛び出してきた。なんだよ謎のって。
「会って話してみたかったんですよぉ」
「…………はぁ」
めんどくさ。そう言いかけてやめた。
「なんだよ」
「どうして先輩はそんな風にコソコソしながら仕事してるんですか?」
「してるつもりはない」
俺は部室を出て、練習試合用にユニフォームを洗濯しに行った。そこにも、この変態は付いてくる。
「でも、歓迎会の時には出てませんでしたよね?」
「やむにやまれぬ事情があってな」
「ふーん、そうですか。実は私、前からというか入部した時から不思議だったんです」
「へえ」
「なんでマネージャーの他の人は何もしてないのに、部活が回っているんだろうって」
「眼の腐った妖精さんがいるからだよ」
俺が言ってて思ったがそんなの嫌すぎるだろ。というか俺のことを認知するかわいそうな奴がいたんだな…………てか見た事ないと思ったら1年のマネージャーの誰かか。
「それで、俺になんの用があるんだ?」
「…………なんでこんな事してるんですか?」
「二度目だ」
「はい?」
「やりたくない、がやらなきゃいけない。俺に話かける様な奴だ、どうせ「みんなでやればいいじゃない」っていうつもりなんだろうが『言うは易く行うは難し、だから言ってやらせるのが一番難しい』だから、そんなめんどくさいことはしないな」
この状況で一番面倒なのは確実に目の前にいる女子なんだが。それにしたって、なんでこんなに話しかけてくるんだ?さっさと要件を言ってくれ。
さっきから思っていることだが、こいつは自分の核心的な物を隠しながら、俺の何かを引き出そうとしている。今はその何かが分からないし、それ自体に不快さはない、ただ小賢しさと言っても、普通の男なら(よく見たら)可愛いルックスにより、プラスに見えるのだろう。ただ計算高さからそれを引き出しているだけで。
まあ、最終的な評価はあざとい奴で終わりだ。享楽的に俺を害するようなアホにも見えない。
「で?お前は何を言って俺を動かそうとしているんだ?」
「私にマネージャーの仕事を教えてください!」
開いた口がふさがらないとはこの時に言うのだろう。俺が?誰かに教える?ありえないだろ。しかし、それ以上に解せない物がある、それは俺に話かけてきたことだ。
「なんのために?」
「え?」
「なんのために覚えたいんだよ」
「え、えっと…………」
「別に、マネージャーの仕事なんてなくても良いんだ。あいつら見て思う、俺じゃなくてもいいほかのだれかでなくてもいい、ってな。だからまずお前は俺に何でやりたいか教えろ」
こう言っとけばこのまま引き下がるだろ。と思った結果の発言だったのだが、完全に俺の的が外れたようで彼女は独り言のように呟いた。
「私は葉山先輩目当てでマネージャーになったんです」
「ああ、なるほどな」
なるほど、俺に話かけた合点がいった。「きちんとマネージャーができる私」よりも、他の女子マネージャーより頭一つ飛びぬけている所を見せたい、という所なんだろう。動機は不純かもしれないがかわいいもんじゃないか。
まあ、そもそも教えるも何も教えなきゃいけない立場なんだけど。
「まあ、いいんじゃねえの?」
「ありがとうございます!」
「明日、用具出すところから始めるから、チャイムと同時にダッシュでよろしく。今日はいいやもう終わってっから」
そう言って俺は洗濯物を干し終わり、その場を立ち去った。
まあ、後輩というだけなら既にできていたんだろうが、俺が先輩になったということを今回の件でまざまざと実感させられた。
『私が先輩だという実感は君がいたからこそ成り立った、ありがとう八幡』
あの時の先輩もこんな気持ちを持っていたのかもしれない。
さてと、雪ノ下のクッキー講座は終わったかな?
俺は今日の仕事を若干残しつつも家庭科室に戻っていった。
没ネタ
「あ、そこのスポドリ飲んでていいから!」
その言葉を受けて比企谷の背中をみおくり、自分たちでクッキーを作る最中のこと。
「少しのど乾いたわね」
「あ、じゃあ置いて行ってくれたこれ飲もうよ!」
そして、いたいけな少女たちはそれを口に含んでしまったッ!
口の中に訪れる甘味と清涼感のダブルパンチ、アホな二律背反を体現した冒涜的な味は彼女らの意識を刈り取るには十分すぎるほどだ!
それでもなお、冷静を保っていた雪ノ下は、霞ゆく視界の中でただ一つの手がかりを残した!
はかなくも!ダイイングメッセージは健闘むなしく『ト』状態で止まってしまった!
急げ八幡!がんばれ八幡!さっさと家庭科室に戻るんだ!割と犯罪になるぞ!
ギャグ色強すぎ次の話に発展しないので没