やはり俺の部活動選択は間違っている   作:屑太郎

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得てして、修学旅行は波乱を巻き起こす

 旅行というのは、準備している時が一番楽しい。というのは一般の人間が一番思う所だ。

 それは修学旅行においても同じことが言える。一緒に行く班決め、どこで飯を食うか、寝る時の部屋割り、それを入念に決める過程が楽しい旅行(笑)への想像を膨らましてくれる。

 おっと、ちょっと毒が出たぞ。

 だが、それは複数人での話。プロボッチはそんな事に惑わされない、誰と班を組もうが一人なのだからウキウキした所で無意味だという事を知っている。

 

 逆をいえば旅行はどこへ行くかではなく、誰と行くかが重要である事を知っているボッチは優秀。

 

 だから、今の状況は。誰とも顔を合わせたくないという状況は、地獄に匹敵する。

 

「八幡、今日調子悪いの?」

「いや、大丈夫だ」

 

 戸塚の心配してくれる言葉ですら今では、少し煩わしい。

 しかも、いつの間に決まったのかはわからないが、くだんの由比ヶ浜も俺の左前に座っているという状況。気まずくてしょうがない。

 

「本当に?酔ったとかじゃなくて?」

「ああ、そうかもな、ちょっと寝る戸塚、悪いんだが俺の荷物からアイマスク取ってくれないか?」

 

 本当に大丈夫だ。ただ俺は見える物を見ようとしなかっただけだ。

 ちょうど、戸塚が取ってくれたアイマスクを被って、いつまでも俺は寝たふりを続けて行くのだろう。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 やさしさは、麻薬だ。一度与えられれば、どうしてもやさしさを求めずにいられなくなる。そして与えられなくなった時、人はなりふり構わず社会的な獣になり果てる。

 麻薬は成分が抜ければ、麻薬が欲しいという衝動自体は抑えられるが、頭のなかでいつまでも麻薬をした時の記憶がどこまでもこびりつくのだという。

 そして、やはり、やさしさは麻薬なのだろう。

 

「比企谷君………この間の話なんだけど」

 

 そう言った女子生徒………海老名は、なりふり構わず俺の所にやさしさを求めた。甘味を享受するように、助けというやさしさを求めただけの切羽詰まった、にこやかな笑顔。そんな優しさを与えられる為だけの笑顔は本来俺に向けられるものではない。

 

「そろそろ次の目的地だ、急げよ」

「待って!」

 

 同じ獣でも、俺と目の前のこいつは、少しばかり、性質が違うと感じた。

 俺は狭い檻の中で、群れから外れ、群れに入る事を拒み、そして群れを理解する事すら否定した獣であるのに対し、目の前のこいつは群れで甘い汁をすすりそれを守るだけの獣のように感じた。

 群れの中で、甘い汁をすすれなくなったのだろうか。それとも、すすれなくなる事を危惧しているのか。

 

「どちらにしろ、俺には関係ない」

「葉山君と戸部君に相談されていたでしょ!?」

 

 本当に勘に触る。その一言を言ってしまうこいつも、その一言で大概を理解してしまう俺も。

 こいつは、葉山グループの一員。そして同じ葉山グループの戸部に告白されようとしている、そうすれば恋愛などしたくないこいつにとっては、そのあとはグループ壊滅必須。楽しいを失ってしまうのだから。

 こいつが言いたいのは、告白の阻止。

 

「だとしても、今俺に話かけるのは悪手だったんじゃないか?後ろ見て見ろよ」

「っ?!」

 

 露骨すぎた、なぜグループ行動が俺、由比ヶ浜、戸部、葉山、こいつ、になっているという事か、たったいま理解した。

 ちょっとしたいたずら心のつもりで、俺は肩に手を置いて戸部に見えるようにこいつに耳元でささやいた。戸部は面白いぐらいに動揺して、俺を見つめた。

 

「あれを見ろよ、止めるなんて無理だろ、必死で、必死すぎて笑えるな」

「でもっ」

「どうでもいいんだろ?誰と誰が付き合おうが、自分のグループにさえ影響がなければ」

 

 俺だってそうした、自分に災いが降りかからないと言って部活マルチに発展するまで放置していたのだから。それでも、一体どの口が言う、どの脳髄がこの思考を許した?だけど、こいつに俺の何が分かる?誰も、俺を見ていないのだから、何を言っても問題ない。

 そこまで思考が駆け巡り、また八つ当たりかと自分を責めた。

 これ以上は自分が傷つくだけだと切り捨てて、俺は肩から手を放して俺と海老名以外の全員と合流した。

 

「ちょ、比企谷君になに話しかけられたんよ海老名っち~」

「な、なんでもないよ。次に行くところ聞かれただけ」

 

 きっとクラスカーストとか気にするなら、俺はきっと結果的にどちらかの肩を持たないといけない状況なのかもしれない。けど、俺は、もう本当にどうでもよかった。

 行き過ぎた自罰的な行動か、それとも、めんどくささを言い訳にした無行動なのか。俺は今でも決めかねていた。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 正直、今日の事はあまり覚えていない。気が付けば夜になっていた。

 その位がちょうどいいだろう、今は普通に過ごしているだけで嫌な時間だ、このまま眠って時間をスキップさせてしまおうか。

 

 そうして布団を取り出そうとしたその時、騒がしくなった、なんでもウノでもやろうという話だ。

 こういう時、ボッチに取れる行動は2つ、混ざらせてもらって気まずい空気を永遠に吸うか、撤退して戻って来た時に気まずい空気で窒息するかの2つ。俺は後者を選んだ。確か1階に売店があったはず、俺は財布と携帯を持って売店の元へ行った。

 

 売店の近くにあったベンチで時間をつぶしていると、見知った顔が通った。雪ノ下だ。

 

「あら、比企谷君」

「よう」

「何しているのかしら?今のあなた不審者その者よ?」

「ちょっとな」

 

とだけ言って携帯に目を落とした。明日の予定は大体の自由行動で終わり、今からでも引き継ぎの準備をしておかなければと、メモ帳機能でリストアップしていた。

少し時間が立っても雪ノ下は俺の近くからは離れない、まだ何か言いたい事があるのだろうか?雪ノ下に疑問を持った視線を向けると、一拍おいて雪ノ下が俺に話しかけてきた。

 

「比企谷君、最近一色さんの様子がおかしいの。何か知らないかしら?」

「あー、悪いがこれと言って心当たりはないが、もしかしたら、俺部活やめるしそのせいで心労溜まってるんじゃないか?」

「…………そう」

 

 とだけ言って、雪ノ下は売店の中に入って行った。すまんな雪ノ下、何にも情報は持ってないんだ。

 携帯で時間を見ると、まだまだ時間をつぶさないといけないと思って、もう一度携帯のアプリを開いた。

 

「「「あっ」」」

 

 時間がたち、何の偶然か俺、雪ノ下、平塚先生が顔を見合わせてそんな声を上げた。平塚先生に至ってはコートに夜中にサングラスと、ザ・やましいことしますよ。といった出で立ちだった。

 

「な、なんで君たちがここに」

 

ザ・やましい事しますよというようなセリフを吐いた平塚先生。

 

「ウノから逃げて」

「どんな状況なのよそれは………私は飲み物を、そんな先生こそこんな時間に何を?」

 

その聞き方でも、尋問じみた聞き方になるのはさすがですね雪ノ下さん。

 

「だ、誰にも言うなよ?…………ラ、ラーメンを食べに……」

「はぁ、行ってらっしゃい」

 

俺はそう言うしかなく、再び携帯に目を落とした。

 

「ふむ、だがまあ、君たちであれば良いか、口止めもしておきたいしな」

 

殺される。

 

「大丈夫ですよ、言いふらす友達もいないんで」

 

そういうと、平塚先生が口を開いた。

 

「まあ、そういうな、ラーメンは嫌いか?比企谷?」

「別にそういう訳でもないですよウゴェッ!?」

 

いきなり雪ノ下に胸倉をつかまれてそのまま引きずるように俺を立たせた。え?何か逆鱗に触れました?

 

「行きましょう。先生」

「う、うむ…………そんなに財布を枯らしたいか?まあ、別に良いんだが」

 

そうしてラーメン食べようと、タクシーに乗って移動を開始した。

車内では、俺と先生がとりとめのない話をしながら到着を待っていたが、雪ノ下だけが何か考え事をしているようだ。

 

「どうしたんだ?いつにもまして無口だぞ?」

 

少し心配してみれば、「何でもないわ」と取り付く島もない。

 

しばらくして、到着したラーメン屋でこってり系を堪能して帰った。しかしその帰り道、奇妙な事を雪ノ下から聞かれた。

 

「比企谷君、貴方、海老名という女子生徒の事、何か知らないかしら?」

 

まさか、とは思ったが、戸部が奉仕部に依頼でも出したのだろうか?

そうだとしても、まあ、関係のない事だ。とそう思った。

 

「なんか、クラスのアレだろ?状況は分かっているつもりだが?どうした?」

「その依頼に協力してほしいの」

 

人を頼る事を覚えた雪ノ下は、これ以上ないくらい頼もしくて同時に恐怖すら感じた。

 

「ああ、考えておく」

「今、ここで決めて」

 

その言葉に俺は何も返すことが出来なかった。

最初は、俺を傷つけた事にも気が付かずにのうのうと生きている中学生の時の、もう名前も覚えていない死ぬほど憎み恨んだ誰かのようにならない為だった誰かを傷つけない行為が孤独だった。

だが、今は誰かの流されるまま決めて、傷つけたくなかった人を傷つける間違いをまた起こさない為に。そう、いつの日か鶴見に言ったように俺は決めなければならない。

 

だから…………実に、実に最低な文言ではあるが、雪ノ下との友達関係は、先輩が唆した物だ。この先輩の件は俺が全面的に悪い。だから、先輩が残していったすべての繋がりを俺自身が俺の手で否定しなければならない。

 

「なあ、雪ノ下」

 

雪ノ下は何も返さない。夜の暗闇で表情は分からないが、しっかりと俺の事は見ているようだった。

 

「その一件は協力する、だから、それ以降は。この関係は終わりだ」

 

これは、清算のための宣言。間違っている腐った俺が作った友達を、正しい腐った俺が消す。どちらにしろ腐ってはいるが、間違うよりは幾分かマシだ。

 

「…………そう」

 

とだけ言って、雪ノ下は一言。協力するのに必要な場所と時間だけを告げて去って行った。

その後ろ姿を見て、俺は千葉から離れた京都の地で、中学生の頃の日常が戻って来たような気がした。懐かしく愛しい孤独が蔓延るあの頃へと。

 

ああ、だからこれは惹かれものの小唄だ。

 

何かに惹かれるだけで、何も得られなかった人間の為の優しい優しい諦めの哀歌だ。

 

 

 

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