やはり俺の部活動選択は間違っている   作:屑太郎

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少しキャラ崩壊します。


ラストチャンスが始まらない

 日本は小さな島国に大量な物を押し込めたような国だ。例えば人口、例えば金といった物理的なものは勿論、人間の悪意でさえ他国より多いのではないだろうか。

 そう、交通事故も他国より多い。が、こんなことになるまで親戚その他もろもろの人間から交通事故にあったという人間はそういなかった。

 自分は大丈夫だろう、自分には起きないだろう、そういう考えが今の俺を形作っていた。まあ、別に、この交通事故の意味があっただけましだ、犬がミンチになるのは見たくなかった。だれも傷つかないハッピーエンドってやつだ。

 世の中には、15時間ほど夜通し歩き、フルマラソンと同じ距離を歩いた結果大型トラックにはねられ、鼻の骨が折れる重症、と報道された結果、掲示板サイトでピノ○オ、天狗、ウ○ップ、カ○ジ、鼻だけ転生した男、などと言われた人もいる。

 そんな奴に比べたら、なんとヒロイックでなんともお涙頂戴なおいしい位置にいられるのだろうか。だが、どんなヒーローも人づてに認識され物語にならなければ意味がなく、俺はヒーローなんて物になれる訳がなかったのだが。別にいいだろ、この世が群像劇かもしれないし。

 

 自分の中に燻ぶった塊を飲み込むようにパックの牛乳を飲み干した。ジュルジュルといった不快な音が生まれ、俺はパックを握りつぶしてゴミ袋代わりのレジ袋に放り込んだ。

 深いため息と一緒に俺は()()()()使()()()立ち上がった。少しの痛みと圧迫感を感じながら、自分に向かって悪態をついた。

 

「滅びろ」

 

 後悔を重ね続けて生まれたような人間だ、すべてなくなってしまえばいいのだろうと思ってそうつぶやいた。ただ、小町がいるから土台無理なんだけどな。

 もう一つため息をついて、俺は教室に向かおうとして踵を返した。

 

「……………」

 

 女子がいた。タイの色からして上級生だった。俺の額に少し汗が滲んだ。

 その女子は髪は短くそろえていて、少し細めな目は顔全体の印象をシャープさせ、それでいて妙にかっちり着こなした女子制服が、ほんの少しの違和感を醸し出していた。具体的にはイメージに合わなさそうな着方だと。

 そんなボーイッシュを絵に描いたような人が、にんまりとした悪意を浮かべていそうな笑顔を俺に向けている、さながら爬虫類の食事相手に選ばれてしまったような悪寒が背筋を凍らせた。

 たぶん時も凍っているように錯覚した、あれだ、教室に突如訪れる静寂の瞬間のような物だ。俺は中学の時そのタイミングで悪態を付いてしまったことがある、軽く泣いた。

 

 よし、今の状況を確認するんだ、相手は一人、一人聞かれたぐらいだから全く問題ない、相手は上級生だし最悪少し広まる位で済む。

 カツカツと松葉杖を鳴らしながら俺はその上級生の横を通った。ミッションコンプリート、あとは悠々と帰るだけ

 

「ねえ、君名前は?」

 

 だと、いつから錯覚していた?と言われた気がした。

 

「私は3年D組清川アキラ、よろしく!」

 

 悪意の塊のような笑顔がさっぱりと消えて普通の笑顔になっていた、中学の時だったら惚れてるぞおい。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 夢見が悪くなおかつ最悪の寝起きだった。

 

 四月の陽気が鳴りを潜め、夏に向かって準備運動でもしているかのような陽気と日差しが、俺の部屋の窓から差し込んで直射日光を顔面に当てられていた。目は覚ましたが、もちろん、そんなものに俺は負けない。今日は土曜日、スーパー○ーロータイムは勿論、プ○キュアだってやっている訳じゃない、土日練習はなぜか休みなんだ、こんな素晴らしい日に惰眠を貪らずして何をする。

 被っていた布団をさらに深く潜り、自分の体温で暖められたエデンでゆっくりと微睡んでいった。

 

「お兄ちゃん、私カラオケ行ってくるから7時ぐらいまで戻らないよ」

「うーい」

 

 突然かけられた声に寝ぼけた声で返した。…………マジ?

 

「おいちょっ、こばべっ」

 

 いきなり、ベットから立ち上がったため、つんのめって床と激しいキスをしてしまった。口の中を切ったようで、染みるように鉄の味が広がっていく。落胆の声を漏らしながらリビングに降りて行った。

 リビングには冷えたトーストとベーコンエッグが置かれていた。俺が死なないようにはしてくれたみたいだ。

 

 そんなことより、小町は大丈夫か?何が心配って男がいる可能性があることが一番心配だった。とりあえず、2つほど深呼吸をして、ショートメールで「気を付けて」と送ったあと、どうしようもなくゴロゴロしていた。

 ああ、ぬくぬくとした牙城だ。用意してくれた飯に手を付けて、そんなことを考えた。一通り食べ終わって、食後にマックスコーヒーを飲もうとして、冷蔵庫を開けた時、いつも目に入っているところにマックスコーヒーは存在していなかった。なん……………だと……………。

 

 武にハンマー、さんまにファー、タ○リにグラサンがなくなった時ぐらいの衝撃と違和感を受けた。もっと言うならファーストガン○ムに角が生えていないレベル。角なしはEz-8しか認めん。

 

 ない、ない、マックスコーヒーがない。何かを開けてその所在を探すのは小学生以来だ、もちろん上履きだけに限った話だが。当時のそれ以上の焦りと怒りを持って隅々まで探したが、蒸発したかのようにない。

 最終的な結論として。

 

「はぁ、面倒だが今日買っておくか」

 

 箱で持っていればいいだけの話なのだが、いかんせん懐の事情があり、そんな金はない。切れたらその都度買うしかない。ここだけ切り取ったら違法なブツに手を出しているように聞こえるな。

 

 糖分は人類が最初に生み出した薬物であるBY八幡

 

 突発的に外に行く用事が出来てしまったため少し考えることにした。近場にマックスコーヒーが売っている所が無いため、少し遠出をしなくてはならないからだ。我が家近辺の千葉力が足りていればこんなことにはならなかったのに。

 買い物をする以上、何かついでに買っていきたいんだが……………新刊情報あったか?新作ラノベを買いに行くぐらいしかやることがない。学生で遊びに行くと言ったらゲーセンやカラオケになるだろうが、行ったこともないしこの二つに良い思い出がない。

 中学校の時クラスでの打ち上げで~とか言いつつナチュラルに俺をハブったり、苦笑いしながら「ひ、比企谷もゲーセn…………い、いやそんなキャラじゃないよな。すまん、忘れてくれ」と言われるぐらいの思い出しかない。

 よく考えたら中に入っていない、存在だけで俺を苦しめるとは…………やるな。たぶん権謀術数が渦巻く修羅の国できっと中に入った瞬間殺される(やられる)んだろ。

 

 このように、あーでもないこーでもないと考えていた時、一つ何かささやくように俺の口から漏れ出た一言が俺を狂わせた。

 

「パフェ食いたくね?」

 

 俺の意志ではない別の何かの存在が俺の声帯を操ったかのように、漏れ出たその一言は俺の脳内で反響し思考をパフェに固定させられた。もうパフェしか考えられない、無論サイゼリアで行ってもいいのだが…………なぜだか、俺は今がっつりパフェを食いたい、アホみたいに高いの。頭が悪そうな人種が好んで食いそうな頭悪いパフェを食いたい。確かに金ないけど、それぐらいはある、一日だけならカ○ジレベルの豪遊できるレベルはある。

 

 だが待て、俺がそんな所に行った瞬間に110番の文字が見える。確実に見える。どうすればいい?

 木を隠すなら森の中、紙を隠すなら障子の中……………ならばリア充の中に隠れるなら?

 

「殺戮」

 

 誰だお前…………だが現実、俺はリア充ではない、全員殺れば……………。今だけ瞬間的にリア充になる?んなアホな。

 ふと、考えもしない所に到達していた。携帯の電源をつけてとある人物の電話番号を入れた。

 

 プルルルル、プルルルルと個人的には妙に危機感を煽る音が鳴る。出てくれ…………出てくれ…………と祈った、これが(人数的に)ラストチャンスなんだ、ラストチャンスが始まらないなんてことはやめてくれ。

 

 そんな心配をよそに数コールもしない内にそいつは出てくれた。

 

「あら。初めまして、どうしたのかしら比企谷君」

「雪ノ下、パフェ食べたいから一緒に行かね?」

 

 雪ノ下だった。い、いやね?友達ですし?ほかに呼ぶやついなかっただけじゃないから!

 

「なぜ私が一緒に行かなければならないのかしら?」

「ばっか、そりゃお前俺が捕まるからに決まってるからだ。考えてもみろ、うら若き乙女が多くいる所に腐った目の男が入るんだぜ?警察呼ばれるわ」

「自意識過剰ね、それくらいで国家権力は動かないわ」

「前に小町と歩いている時に誘拐と間違われた事があるぞ」

「「……………」」

 

 いや、だって本当のことだもん。小町の進学祝いに少しおしゃれな所でも行こうかとか思ってたらガチで警察呼ばれたんだもん。

 ま、まあ原因は中学二年生でピンポイントで発症する病気を患っていた時に服装が完全なる黒ずくめでアホにグローブををつけていたことが原因なのだが…………。嘘は言ってない、嘘は。

 電話口の向こうで、大きなため息をついた音が聞こえた。たぶん、同じ学校内で逮捕者が出るのが我慢ならないのだろう。

 

「良いわ、それでどこに行くのかは決めているのかしら?」

「おう、数件な。ららぽの近くの所の二軒なんだが……………ん?あ一軒でいいや」

「どうしたのかしら?」

「いやもう一軒の方いまデスティニーとコラボしてるらしくてな、内装が雪ノ下は好きそうじゃないんだ」

「…………」

 

 電話口の向こうで妙に黙っていた。

 

「どうした?」

「い、いえ、ただもう少しコラボの話を聞かせてもらえるかしら?」

「ん?ああ、日替わりでコラボが変わるらしくてな、今日は…………パンさんとコラボしているらしいぞ。来店で何かグッズももらえるらしいしな」

「そっちにしましょう」

「え?で、でも内装とか見たら結構子供むk「パンさんを愚弄するのかしら?」…………心の中じゃいつもパン様って呼んでる」

「そう、それなら問題ないわね」

「パンさん好きなのか?」

 

「何を言っているのかわからないわね、そもそも私が決めたのはコラボしているという点のみよ、コラボしているということはそれなりに名も知れている所なのでしょうし、味という点でも間違いはないと思うわ、それに聞いた話だとコラボするときに出されるものは創意工夫がなされているものだと聞くわ、芸術でもなんでもそうだけれど人間の発想や工夫といった物は他人の人生を豊かにしてくれるのよ、そういった意味で私はもし仮にパンさんが嫌いだとしても人生の豊かさを得る為だけに行くのであって、パンさんが好きでパンさんだけにつられたと勘違いしないで頂戴、その下劣な思考、いつ聞いても不愉快だわ汚らわしい」

 

「お、おう。とりあえず行くってことでいいんだな?」

「かまわないわ」

「じゃあとりあえず、ららぽに到着し次第連絡するから」

 

 と言って通話を切った。…………よくわからないが、友達の意外な一面を見てしまった時の気まずさというのはこういう物なんだろうか。何か好意の深淵を見たような気がした。

 

「よっしゃパフェだ」

 

 だが、そんなものはどうでもいい、今はただパフェを食いたい。




お気に入り登録100件超えました、評価してくださった皆様に感謝を、私自身も評価感想を得られて一安心しております。
今度とも精進していきますので、お目汚しとなるかもしれませんが本作の方、ごひいきにお願いいたします。

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