幻想郷の悪魔さん   作:りっく

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紫の冬眠

 

 

「ふいーっ、なんだ、段々寒くなってきてるなあ」

 

 白黒の魔法使いは箒に跨って空を飛んでいた。高く空を飛ぶと吹き付ける風で自然と周囲の気温は低くなる。さらに、幻想郷は現在秋から冬へと移り変わっているため、腕に当たる冷気も強くなっているのだ。

 

 白い息を吐きながら、白黒の魔法使い、霧雨魔理沙は高度を落とした。眼下に広がる風景はこの前まで紅い葉が覆い尽くしていたが、今ではその殆どが地面に落ちてしまい、見るも寒々しい。あの威勢の良かった秋姉妹が縮こまり、生意気な氷精が調子に乗ってくるころだろう。

 

「こんな日は霊夢んところで茶をしばくにかぎるぜ」

 

 魔理沙は陰気な魔法使い、アリスからおすそ分けとして貰った紅茶を持っていた。基本的に霊夢のところへ行くと邪険にされるが、お土産があれば手のひらを返したように親切になる。博麗神社へ向かうときは賄賂、もしくは賽銭を持っていく。これは霊夢の知り合いには浸透した、いわゆる常識である。

 

 魔理沙は妖怪の山を迂回して、真っ直ぐ博麗神社へ向かった。

 

 

「おーい、霊夢ー、遊びに来たぜー」

 

 鳥居をくぐり、地面すれすれに飛行する。

 魔理沙は箒から飛び降りると、石畳にふわりと着地した。

 

「……? いないのか?」

 

 いつもこの昼下がりには縁側でのんびり日向ぼっこをしているはずである。何か急用で出かけているのだろうか。

 

「おじゃまするぜー」

 

 一応そう言ってから家の中に上がりこんだ。紅魔館の地下図書館では本を“借りる”ために黙って入るのだが、ここには魔理沙が借りたくなるような本は全くないため、きちんと断っておく。

 

 しかし家の中はおろか、境内にすら誰もいないようだった。

 

「ちっ、アテが外れたなあ」

 

 魔理沙は畳に寝転がった。霊夢は一体どこへ行ったのだろうか。

 

 手持ち無沙汰に寝転がっていると、ふと目に飛び込んできたものがあった。

 

「……お札?」

 

 床に無造作に置いてあったお札には見たことのない文字が書きつけられている。魔理沙は手に持ってためつ眇めつした。

 

 どうやら霊夢の新作のお札であるらしい。どのような効果があるかは分からないが、あの面倒臭がりだが最強の巫女が作っているものである。夢想封印のようなえげつない技なのかもしれない。

 

 どうにかして自分の研究にも組み込めないだろうか、そう思って熱心にお札を見つめていたため、後ろに立っていた霊夢に気が付かなかった。

 

「なんで勝手に上がりこんでるのよ…」

 

「悪い、居なかったから。ちゃんと入らせてもらうとは言ったんだけどな」

 

「それを聞く人がいなかったら意味ないでしょうに…まあいいわ。何の用?」

 

「紅茶持ってきたんだ。飲まないか」

 

 魔理沙がそう言うと、それまで迷惑そうにしていた霊夢は顔を輝かせて、

 

「それを早く言いなさいよ」

 

台所の方へ持って行った。

 

 

 

「茶菓子は用意できないけど、どうぞ」

 

 霊夢は急須から紅茶を注いだ。紅茶の淹れ方は紅魔館のメイド長に教わったもので、かなりうまい。注がれた茶から立つ香りも心なしか一段と良くなっているような気がする。

 

「おお、美味しいな」

 

「紅茶を淹れるのに急須なんて使ってたら咲夜にいろいろ言われそうだけどね」

 

 霊夢も湯のみで紅茶を飲んでいた。ティーセットは貧窮している博麗神社には手が出せないものであるらしい。

 

「しかし茶菓子を用意できないほど金が無いのか?」

 

「そうね、あんまり事件が起きないから。誰かまた異変を起こしてくれないかなあ」

 

「解決者が異変を求めるようじゃなあ…」

 

 実は事件が無いというわけでもない。この神社に住んでいたはずの針妙丸が一月前に姿を消しているのだ。姿を消す前に指名手配中の天邪鬼を目撃したという話があり、それがさらっていった、或いは針妙丸をだまくらかして連れて行ったのではないかとされている。

 

 しかし、霊夢はしばらく探してそれをやめてしまった。もう指名手配もされている大きな異変の準備をすることなど不可能だと踏んだらしい。そのため、今の幻想郷は平穏に浸かりながらゆっくり時を重ねている。守護者たる霊夢は平穏を歓迎しながらも、やはり退屈に感じているらしい。

 

「でもさっきお金はいただいたから、しばらく生活は出来るわ」

 

「お金?」

 

「さっき人里の方へいって悪霊をひとつ退治してきたの」

 

 妖怪は人里に入ってはならないが、元が人間である悪霊などはそれを無視して人里に潜り込んだりそもそも死んだのに気が付いていないものもいるのだ。

 

「私ゃあいつら苦手だな。大体人に取り付いてやがるから、魔法を撃ちにくいんだぜ」

 

「あんたがパワーにより過ぎなのよ。搦手も用意したら?」

 

「弾幕はパw…」

 

「あんたの信念は何度も聞いたわ」

 

 霊夢はそう言って再び紅茶をすすった。

 

「そういえば退治した霊ってどうなるんだ?」

 

「永遠に消滅よ。あいつら魂そのものだから、魂が死ねば天国にも地獄にも行けない。審判を受けることもできずにその場で消滅する。存在を回復できるのは紫くらいじゃないかしら」

 

「割とキビシイな」

 

「いいのよ。それぐらいで。そうじゃないと今頃あの世は亡者でいっぱいだわ」

 

 魔理沙は空になった湯のみを盆の上に置いた。

 

「そういえばあの札は何だ?」

 

 魔理沙が指差したのは、先程までじっくりと見ていたお札だった。

 

「ああ、それは私の“搦手”よ。引っ付いた敵に霊気を送り込んで操り人形にするの」

 

「おいおい、冗談キツイぜ」

 

「そうね、少々適当に言い過ぎたかしら」

 

 霊夢は少し笑って盆を片付けようとした。

 その時、独特の重低音が響いて空間に切れ目が入った。

 

「……紫か」

 

「当たりよ魔理沙、そして霊夢」

 

「何の用?」

 

 霊夢が尋ねる。

 紫は持っていた扇子をパチンと閉じた。

 

「実はそろそろ冬眠しようかと思ってるの」

 

「へえ、何で私らにわざわざそれを言いに来たんだ?」

 

「いつもは隠岐奈に私の寝てる間の管理を任せてるんだけど、今は用事で幻想郷にいない。もしものことがあったら、あなた達が何とかしてほしいの」

 

「うーん、引き受けてもいいけど……」

 

「何?霊夢は乗り気じゃないの?」

 

「これがたくさん出るなら」

 

 霊夢は指で輪っかを作った。要するに金くれ、ということだろう。霊夢がマネーにがめついことは今に始まったことではない。

 紫はため息をついた。

 

「まあいいわ。報酬は約束しましょう。私はきっかり1ヶ月は何が起きても目が覚めないから。何かあったら藍に言って」

 

 紫は冬眠中無防備であるためスキマ空間の中で眠る。その間、藍だけがその空間の入り口を作り出せるのだという。もし藍が裏切りでもしてその入り口を作らなかったら紫は一生スキマ空間の中で過ごすことになるだろう。

 しかし、紫はそんなことを微塵も心配せず藍を信用しているらしい。

 

「じゃ。私は寝るわ」

 

 紫はスキマの中に入ると、たちまちいなくなってしまった。

 

「まあ、多分何もないでしょ」

 

 霊夢は湯のみの載った盆を持って、今度こそ台所へ片付けに行った。

 

「そうだな」

 

 外は相変わらずのどかな景色が広がっていた。

 




初投稿です。まだ拙いところもありますが、これから読んで楽しんでいただければ幸いです。途中まではミステリー風で進めていこうかと思っているのであとで矛盾のご指摘などありましたら教えていただけると嬉しいです。
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