幻想郷の悪魔さん   作:りっく

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Who is the murder?

 

 

 

ー毒殺から3日後ー

 

「今回の事件の犯人? そりゃ、やっぱり寅丸だろう。人里でずっとおろおろしてたってのは苦しい言い訳だな。その間にいくらでも殺しのチャンスはあったし、今回の毒の仕込みだって簡単だっただろ」

 

 妹紅はそう言って、私が持ってきた羊羹を齧った。毒殺のあった後だというのに不用心に羊羹に手をつけるのは、彼女が不死であるため、毒が入っていようがいまいが関係ないと考えているのだろう。

 

 私はその意見に少し納得したような表情を浮かべながら、相槌をうつ。

 

「大体、どちらかが怪しいって言うんなら、私も寅丸も牢屋に放り込めばいいんだ。どうせアリバイがないのは私と寅丸くらいだろう? 霊夢も魔理沙も、やり方がスマートすぎるんだ。だから、阿求みたいに余計に死ぬ奴が出るんだよ」

 

 妹紅は阿求の死に際を思い出したのか、少し眉間に皺を寄せると、茶をぐいと飲んだ。

 

確かに、事件を止めるならその手段が最も有効だろう。しかし、それはあくまで、「犯人がその容疑者たちの中に本当にいた場合」にのみ通用するものであって、最初の絞り込みに失敗していた場合は空振りするため、あまり褒められた戦略ではない。

 

 あの二人がそんなことを考えているのかどうかは分からないが、妹紅の言ったようなやり方はしないつもりであるらしい。もっとも、私自身が犯人であるのだから、それだと捕まらない。霊夢たちのやり方で正解なのだ。

 

 妹紅は私がそんなことを思っているとも知らずに、言葉を重ねようとする。

 

「それで、お前自身はどう思っているんだ? そのためにわざわざ私の家に来たんじゃー」

 

 がちゃん、と妹紅の持っていた湯飲みが割れる音がした。妹紅は、力が抜けたのか、ゆっくりと前のめりにくずおれる。最初はわけが分からないという顔をしていたが、私が少し笑って立ち上がるのを見て、全てを理解したらしい。

 

「……なるほどな、私に一服盛ったってわけか。くそ、油断し……」

 

 妹紅は言葉を最後まで紡ぎだすことはなく、そのまま眠り始めた。

 

「永遠亭の睡眠薬を持っていて良かった」

 

 不死人でも、睡眠は取るし、昼寝もする。死なないという一点を除けば、肉体は通常の人間となんら変わりないのだ。

 

 眠りこける妹紅を予め用意していた木箱に入れ、重しの石を一緒に詰める。あとは、これを水中に投げ込むだけだ。

 

 できるだけ深いところ、そう、ほとんど近寄るものも無く、深い紅魔館の近くの湖がいいだろう。私は、木箱を持ち上げると、湖へ向かうことにした。

 

 

 

 

 妹紅の入った木箱を霧の湖に沈めると、私は自分の家へ帰って来ていた。おそらく妹紅は浮かび上がってくることはないだろう。生き返っても木箱の中は無酸素状態なので永遠に窒息死を繰り返すだけだ。

 

 誰かに見られてはいないかと細心の注意を払ったおかげか、湖へ木箱を抱えて向かう自分を目撃した者はいないようだった。もし見られていたら、目撃者の口を封じなくてはならないので、極力それは避けたかった。

 

「ふう……」

 

 外はもう暗くなってきている。妹紅の始末に少し時間を使いすぎたかもしれない。

 

 しかし何はともあれ、〝死なない〟という厄介な性質を持つ者は排除できたわけである。眠る間際、私の正体を知られてしまったが、後で紫が妹紅を生き返らせて私の正体を探ることはできまい。見動きはとれないが、妹紅は湖の底で生きているからだ。他の奴らは正体を見せていないので大丈夫だろう。

 

 さて、次は誰をターゲットにしようか……

 幸い私は霊夢たちに疑われていない。妹紅の行方不明を利用すれば妹紅の犯人説を強められるし、もう少し大胆に動いてもいいかもしれないー

 

 そう思った丁度その時、扉をノックする音が聞こえた。

 

「お邪魔するぜ」

 

 家の前にいたのは魔理沙だった。私が何か言う前に上がり込んでくる。

 

「だんだん外も寒くなってくるし、参るね、こりゃ。そういえば炬燵もう出したか?」

 

 私が首を振ると、魔理沙は残念そうな顔をした。そしてきょろきょろと周りを見回し、食料の入っている木箱にひょいと腰かける。

 

「ま、いいや。今日は犯人が分かったから教えに来てやろうと思ってな」

 

 私は、誰が犯人だったのか、そして、捕まえたのかを訊いた。

 

「うん、犯人が誰かは今から教えてやる。だけどそいつはまだ、捕まえてない」

 

 と、魔理沙はにやりと笑った。

 

 犯人が分かっているのにまだ捕まえていない? あの二人にしては手際が悪すぎる。それとも霊夢がいないのは、その犯人だと思われている人物を追っているためだろうか。それとも……

 

 

 

 

 

 

 

「私が変だなって思ったのは、阿求の毒殺の時なんだよ」

 

 もしも犯人が死人の数を増やしたいのなら、他の菓子にも毒を入れればいいし、なにも菓子でなくても口に入れるものなら何でもよかったはずである。時間的余裕が無かったのだとしても、毒を入れる菓子の種類はばらけさせるべきだろう。

 

 では、何故犯人は甘納豆にのみ毒を入れたのだろうか。

 この理由は一つしか考えられない。毒殺の対象に霊夢を入れるわけにはいかなかったからだ。幻想郷に住む者なら、霊夢が死ねば結界が解け、幻想郷そのものが崩壊するということは知っている。

 

 万一毒入りの菓子を霊夢が食べたら? その場合は全員が仲良くあの世行きとなる。犯人としては自分も死ぬため、何としてもそれだけは避けなくてはならない。

 

 つまり、霊夢が食べるはずのない物にしか毒を入れないようにしなくてはならなかったのだ。

 

「そう思った時に、丁度誰かさんが霊夢の甘納豆嫌いを知っていたよなーなあ、慧音」

 

 魔理沙はそう言って、慧音を見やる。

 

「まさか、それで、私が犯人だとでも勘違いしたのか? そんなのは私だけが知っている事じゃない。たまたま君が知らなかっただけで、他にもまだたくさん霊夢の好き嫌いを知っている奴はいるだろう」

 

「そんなことは百も承知だぜ。だが、念には念を入れないといけないし、一度本気でお前を疑ってかかってみたんだ」

 

「………」

 

 慧音は、何も言わず、魔理沙の言葉に耳を傾けている。

 

「しかし、寄り合いの方にも出ていたみたいだし、お前が小鈴を殺すことは絶対に無理だ。―死亡時刻が正確でなかったらな」

 

 慧音は、わずかに顔を強張らせた。

 

「だいたい、死体鑑定は慧音が言い始めたことだったよな? あれは自分自身を死亡時刻と合わないようにするトリックだったんだろうが……

永琳は死体を鑑定するとき、〝腐り具合から死亡時刻を推測する〟と言っていた。では、腐るのが遅かったらどうだろうな。微妙に時間にぶれができると思わないか?」

 

「だが、私の身の回りには防腐剤のようなものは置いてないし、河童の持っているような冷蔵庫なんてないぞ?」

 

 魔理沙は、その言葉を予期していたので、間髪入れずに答えた。

 

「いや、あったじゃないか。チルノの冷気だ」

 

「………」

 

「チルノの冷気は冬になって強力になっている。周囲の気温を急激に下げるぐらいな。その範囲内に死体を置いとけば、腐敗を遅らせることが出来るはずだ。そして、目立たないように死体をチルノの周りに配置しておけるのは……」

 

 とん、と魔理沙の靴が床を叩いた。

 

「―床下だ。事件の最初にここへ来た時、チルノの椅子は新しいものであるのにも関わらず、不安定で軋む音を上げてたな。あれは、椅子に原因があったんじゃなくて、その下、つまり床にあったんだ。で、案の上、床下には空間があったんだよ。それこそ人一人はいるぐらいのな」

 

 慧音の頬を、つうっと一筋の汗が伝う。

 

「で、最後の仕上げなんだが……」

 

 魔理沙は、ポケットから一本の薬瓶を取り出した。

 

「永遠亭で貰った、るみ……えーと、ルミノールっていう薬品だぜ。これを使うと、拭き取っても、洗い流しても血痕が浮かび上がるっていう優れものさ。これで寺子屋の床にまんべんなく振りまいて確認してみたんだ」

 

 魔理沙はそのために丸一日を費やした。慧音が寺子屋を休みにするときにこっそりと忍び込み、自身の仮説の検証を、かなり強引だが、やってのけたわけである。

 

「それで見てみたら、小屋の床下に血が落ちてたし、そこまでに血が点々と落ちてたからな。そのルートは寺子屋の玄関―鍵を持っているお前しか入れないはずのなーを通っていた。容疑者の中に鍵開けとかができる奴はいないし、考えられるのはお前だけ、というわけだ。これで十分か?」

 

 慧音は俯いたまま、何も答えない。

 

「つまりだな、今回の一連の事件の犯人はお前だってことだ。慧音」

 

 とん、と木箱から降りると、魔理沙は真っすぐ慧音を見つめる。

 

「もう言い逃れは出来ないぜ」

 

「……………そうだな。魔理沙の言う通り、私が犯人だよ」

 

 慧音は顔を上げた。その瞬間に魔理沙はその告白が諦めからではなく、全く正反対の感情から出たものであることを知った。

 

 慧音は口角が吊り上がり、異様な笑いを浮かべている。さらに瞳孔がきゅっと小さくなり、三白眼となっていた。

 

「そうだ。私が殺した……だが、生物は他の生物を殺さなくては生きていけない、これは当たり前のことだよな? 魔理沙」

 

 そこには既に寺子屋の教師という仮面を捨て去り、正体である殺人鬼の姿をさらした慧音が立っていた。

 

「まあそんなわけで、もっと生きる者は殺していること、殺されることがあることをもっと自覚しなくちゃならないんだ」

 

 性格逆転薬は、その人物の正気と狂気のベクトルを逆転させるが、考え方や性格といったものはそのまま変わらない。そのため、慧音は歪んだ倫理観が殺人の動機となってしまったのだろう。

 

「ふん、それで人を殺して回ってるってわけか? 笑えないジョークだな」

 

「なんとでも言うがいいさ、どうせお前はここで殺さなくちゃならないからな」

 

 慧音はそう言うと、一歩、近づいた。

 

「私はここへ来る前にお前の家へ行くことを霊夢に教えてきた。私が死ねば、誰が犯人なのか、一目瞭然じゃないか?」

 

「そんなことだろうと思ったよ。正体が知られてしまった時点で私の破綻は目に見えている」

 

 慧音はまた一歩、踏み出した。

 

「だから、私は最後まで足掻き続けることにしたよ。そのための時間稼ぎが必要だ」

 

 魔理沙の目の前に、慧音は迫って来ていた。

 

「だから、ここで死んでくれ、魔理沙」

 

 

 

 

 

 

 




 答え合わせです。推理は当たっていましたか?
……因みに魔理沙は妹紅が沈められたことに気づいていないので、妹紅には暫く湖にinしてもらうことになりそうです。
 
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