幻想郷の悪魔さん   作:りっく

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 1週間空きましたが、何とか書けました。今後ともよろしくお願いします。




追う者たち

 

 〝里で起きた連続殺人! 犯人は上白沢慧音だった!〟

 

 人里で連続して起こった殺人事件のことは皆さんご存知だろうか。最初の犠牲者は本居小鈴、次に大勢の人間とともに幻想郷縁起を編纂している稗田家の9代目当主が毒殺された。これを追っていた博麗の巫女は、見事犯人を炙り出し、捕まえることに成功した。なお、犯人だった上白沢氏は何らかの薬物を飲み物に混ぜられ、事件を起こしてしまったとみられ、その犯人である鬼人正邪は目下のところ逃走中である。その天邪鬼はもう一本その薬物を所持しており、未だ緊張が解けない。早く逃走中の天邪鬼の確保と、第二の犯人が現れないようになるのを願うばかりである。

 

 

「どうですかね、魔理沙さん。今回の文々。新聞は。私、普段は殺人事件を記事にするのは好きじゃないんですがねえ、今回ばかりはあまりびっくりしたんで、記事にしたんですよ」

 

 慧音との対決から2日後。魔理沙は、魔法の森から博麗神社へと向かう途中、射命丸と出会い、新聞を一部貰っていた。

 烏天狗のわりに友好的な射命丸は、迷惑なパパラッチとして名を馳せている。普段は今回のような殺人事件は扱わないものの、痴情のもつれ、重要機密、なんでもござれの娯楽雑誌として読まれている。

 

「まあいいんじゃないか。ただ、明らかに誤情報がある」

 

「どこです?」

 

「犯人を炙り出したのはこの私、霧雨魔理沙だ。ていうか捕まえるのも私が割と体張ったんだぜ」

 

「へえ、意外ですね。将棋とか囲碁は魔理沙さんが強いイメージでしたけど、こういう推理系は霊夢さんの方が得意じゃなかったですかね」

 

 推理にはある程度の勘も必要で、それにおいて霊夢は〝巫女の勘〟というアドバンテージを持っているので、このような犯人の炙り出しと言うのが得意なのだ。もっとも今回は自慢の勘が冴えるよりも先に、魔理沙がトリックを看破したわけだが。

 

「まあでも、私の方が先に犯人を当てたんだからな、そこんとこちゃんと書いといてくれよ。ていうかそれもう発行したやつなのか?」

 

「いえ、これはゲラですので。当事者の魔理沙さんに一応修正点があるか聞いてみて、それで発行しようかと思ってたんです」

 

「割と几帳面なんだな」

 

「情報を正しく伝えるのがジャーナリストの務めですからね」

 

 もっとも、彼女は情報を誇大して伝えることにはやぶさかでないのだが。この烏天狗はちょっとした出来事でも面白おかしく、ドラマチックな記事にしてしまう。射命丸がその気になれば、里の子供の他愛ない悪戯は少年犯罪の嚆矢(こうし)となるし、男女が話しているだけでラブロマンスと化す。要するに、嘘は言わないが、著しい誇張癖があるのだ。

 

「そういえば、傷の具合はどうです? 確保の際に重傷を負ったと聞きましたが」

 

「ああ、それならもう大丈夫だぜ。慧音を運び込んだ永遠亭でついでに治療してもらったからな」

 

 現在、慧音は永遠亭の病室で、これからしばらくは決して目覚めない眠りについている。その管理を任されているのは永琳で、慧音の体調をチェックし、投与された薬を無効化する薬の開発を続けている。

 

「まあこれからの心配は、もう一人出てくるだろう殺人鬼を捕まえるえることさ」

 

「ほう、魔理沙さんはもう鬼人正邪が誰かを犯人に仕立て上げたと見るのですか?」

 

「或いは慧音の事件が起きる前にはすでに二人の犯人が揃っていたのかもしれないけどな。慧音がこれだけ派手に事件を起こした分、もう一人の犯行が見えにくくなっていたかもしれないし」

 

「なるほど、ではどうやって犯人を見つけ出すつもりで?」

 

「ま、最初は物量頼みだ………あ、悪い、もう時間が無い」

 

 魔理沙は、箒の先に引っ掛けていた時計を見て言った。

 

「何か用が?」

 

「そうだ。取材の続きはまた今度な」

 

 

 

 

 魔理沙が向かったのは命蓮寺だった。今日は、ここで各勢力の主たちが集まり、緊急会議が開かれることになっている。

 

「魔理沙、遅いわよ」

 

 命蓮寺の一室に入ると、既に霊夢がいた。部屋は畳が敷き詰められ、中心に広い台が用意されている。その周りには座布団が置かれており、幻想郷各勢力の筆頭たる面々が座していた。

 

「先日の立役者だから少しぐらいは良いんじゃないですか」

 

 言ったのは白蓮である。一時は寅丸が犯人なのではないかと心配していたらしいが、魔理沙のおかげでその疑いを晴らすことができたので、好意的に受け止めてくれるようだ。

 

「私を待たせるとはいい度胸してるじゃない」

 

 レミリアは、白蓮の隣で頬杖をつきながらのたまった。

 

「ま、珍しく霊夢より早く推理して犯人を捕まえたんだ、手放しで褒めてやってもいいじゃないか」

 

 ぽりぽりと頭を掻きながら言ったのは、八坂加奈子。守矢の神々の一柱である。

 

 魔理沙の右側に座っている〝聖人〟豊聡耳神子、おなじみの薬師八意永琳は、ただ黙って座るのみだった。

 

「さて、ようやく面子が揃ったところで、話を始めようか」

 

 魔理沙と霊夢の向かいに座るのは、九つの黄金の尾を持つ妖狐、八雲藍だった。彼女は現在スキマ空間で眠る紫の式神で、管理者の代理を行っている。

 

「待て、まだ空いてる席はあるみたいだが……」

 

 魔理沙は、誰も座っていない座布団がいくつかあるのに気がついていた。

 

「ああ、それは妖怪の山代表と地霊殿代表、それと人里代表の席だ。妖怪の山はいつも通り会議には出ない。地霊殿の方は古明地さとりが業務に追われており欠席。ホームパーティーも延期らしいし、てんてこ舞いしているそうだ。人里は……まあ言わなくてもわかるか」

 

 藍は、欠席者たちについて簡単に説明すると、気を取り直して話し始めた。

 

「今回皆に集まってもらったのは他でもない、鬼人正邪ともう一人いるであろう精神異常者の捕縛に協力してもらいたい」

 

「ああ、話には聞いてるが、その、キ○ガイにする薬だったっけ」

 

「性格を逆転させる薬よ」

 

 神奈子の発言に永琳が訂正を加える。開発者の彼女からすれば、単に狂人をつくる薬だと断ぜられるのは不愉快なのだろう。

 

「じゃあその薬を正邪が盗みだして、大変なことになってるんだろ? 永遠亭の管理はどうなってたんだ。もし、管理状態が杜撰(ずさん)だったのなら、捜索義務は永遠亭にあるはずだが。その辺いかがお考えかな」

 

 神奈子は、やや挑発的に永琳へ言った。本人は神であるため、信仰が薄れていなければ殺される心配もない。そのため、余裕で構えていられるのだろう。

 神と呼ばれる存在は信仰が集まっている状態であれば死ぬ心配はなく、本人の力も増し、信者の数さえそろえば無敵といってもよいほどまで能力が昇華される。反面信仰が無ければその存在は人間よりも儚く、脆いものとなるので、人々から信仰を集めることは神々にとって重要なのだという。

 

「まあ管理が甘かったのは認めるわ。でも、それを言うのならあの天邪鬼を取り逃がした私たち全員が責任を取るべきじゃないの?」

 

 永琳が答えると、神奈子はぐっと言葉につまった。

 

「まあそうですね。永琳さんの言う通り、責は我々にもあります。私は藍さんの提案にのりますよ」

 

 言ったのは豊聡耳神子だった。白蓮も、同じように頷く。おそらく彼女らの思惑は、お尋ね者となっている正邪を捕まえ、自らの宗教のイメージアップを図ることにあるのだろう。だから、易々と引き受けたのだ。

 

 それを察知したのか、神奈子は、少し考えてから、

 

「分かった。私も参加しようじゃないか」

 

 賛成した。その後、まだその意思を明らかにしていないレミリアに、全員の目が向く。

 

「勿論私も協力するわ。その生意気な天邪鬼の鼻っ柱も叩き折っておきたいしね」

 

 鬼人正邪は、この時点で地霊殿と妖怪の山を除く全勢力から追われる身となった。話を通せば、残り二つの勢力も正邪の捕獲に乗り出すだろう。

 

「しかし、賛成しておいて何なんだが、わざわざ私らがこんなことしなくても、紫の復活まで待てばいいじゃないか。紫が戻ってくれば天邪鬼も簡単に追い詰められるだろうし」

 

 神奈子が言うと、

 

「いや、そうして待っている間に、例えば正邪が薬を混ぜた食品を私が食べてしまったらどうする? 飲み水なら? おそらく慧音は同じ手で服薬させられたに違いない。私が本拠地とするマヨヒガの位置はまだ誰にも知らせてはいないが、いつ、誰が、どこで狂人に仕立て上げられるのか分かったもんじゃない。無論、私も身を守る手段は講じてあるが、万一を排除するなら、本人を追い詰める方が早いだろう」

 

 藍はすばやく切り返した。攻撃は最大の防御、敵の攻撃を恐れるならば、その源を探し、断ち切ってしまえばよいという考えなのだろう。

 

「最近おとなしくしていたと思えばこれですからね……幻想郷は全てを受け入れるといっても、何をしてもいいという場所ではない。早急に始末するべきです」

 

「前回の追討も懲りていないようですし、仕方ありませんね」

 

 普段は穏健派の神子と聖も、反対の色は示さなかった。

 

「まあ、そんなわけで私たちが来たら情報の提供をスムーズに行えるよう、部下とかに連絡しといてくれないかしら」

 

 霊夢が言うと、藍は重々しく頷いた。

 

「そうだな。……魔理沙も引き続き調査を続けてくれるか?」

 

 本来は博麗の巫女にのみ依頼されていた仕事である。魔理沙がノーといえば、断ることはできる。

 

「ああ。私も得体のしれない奴が外をうろうろしてるんじゃ、うかうか枕を高くして眠れもしない。協力するぜ」

 

「ありがとう。紫様の復活まであと十九日だ。それまでに見つけ出して、天邪鬼を始末しなくてはならない。頼んだぞ」

 

 

その後、会議はお開きになり、メンバーが命蓮寺を後にして、魔理沙も帰ろうとした時、魔理沙は藍に呼び止められた。

 

「魔理沙」

 

「どうしたんだ。何か頼みごとか?」

 

「いや、一応マヨヒガの位置はお前にだけ知らせておこうかと思ってね」

 

「霊夢には言わないのか?」

 

「あれは大丈夫だろう。もし何かお前の手に負えないことが起きた時は、マヨヒガへ来て知らせてほしい。霊夢でもどうしようもないときだ」

 

「それは一体………」

 

「混乱させるかもしれないからな。今は言いたくない」

 

 魔理沙は、その言葉が引っかかったが、

 

「まあいいや。覚えとく」

 

「重ね重ね申し訳ないな。あくまで保険だから、気にする必要もないと思うが……まあ頑張ってくれ。二人目を捕まえたら、報酬は存分に出そうと思っている」

 

「お、期待するぜ」

 

 藍は、魔理沙にマヨヒガの位置を小声で教えると、命蓮寺を後にした。

 

「なんだかどんどんヤバい感じになってる気がするぜ……」

 

 誰も居なくなった部屋で、魔理沙はぼそりと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




このお話も、折り返し地点を過ぎようとしています。やり過ぎた正邪は、再び追っ手がかかるようになってしまいました。弾幕アマノジャクと違うのは、まだ正邪がどこにいるのかが分からないというのと、犯人がもう一人、追手の中に紛れているかもしれないというところですね。
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