幻想郷の悪魔さん   作:りっく

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紅魔館の戦い

 

 

 

 霊夢が襲撃してくるまで、紅魔館の面々は朝食を取り終え、門を守る美鈴を除いて、各々好きな場所で好きなことをしてまったりと過ごしていた。

 

 レミリアとパチュリーはお嬢様の部屋でお喋りに興じており、小悪魔はその傍に控えている。フランドールは地下の図書館で本を探し、美鈴は外でうつらうつらしているに違いない。

 

 咲夜は、そんなことを考えながら、厨房で温かいお汁粉を作っていた。紅魔館は咲夜の能力で広げられてはいるものの、何しろ古い建物なので耐久性にやや難があり、断熱性が悪く、底冷えする。だから今日は、この前に買ってきておいた材料で、温かいものをふるまおうと思っていた。

 

 甘い小豆を煮詰め、餅をいれたおしるこを、椀によそった。吸血姉妹の分は、ちゃんと血を入れてある。

 

「さて、誰から配りましょうか」

 

 咲夜は少し考え、美鈴から順に配っていくことにした。厨房に近いというのもあるが、やはり屋外だから妖怪でも、寒がっているのではないか。

 

 咲夜はお椀の一つを取って、紅魔館の門まで歩いていくことにした。

 

 しかし、門に近づくにつれて、中庭の芝生がはげたり、木が倒れたりしているのを見つけた。一体誰が、こんなことを―

 

 その時、咲夜は視界の端に捉えた〝もの〟を認識して、凍り付いた。

 

「美鈴……?」

 

 燃えるような赤い髪に、緑のチャイナ服。それはまさに、いつも門の前に立っているはずの紅美鈴の姿だった。ただし、今目にしている美鈴は門から数十メートルも離れたところに倒れており、その目は虚ろだった。

 

「美鈴、どうしたの。起きなさい」

 

 咲夜は美鈴を揺り起こそうとして、はっとした。

 

 胴体の二分の一が、削り取られていた。傷口は焼き焦げており、血はそれほど出ていなかったが、もう美鈴が死んでいるのは医学に詳しいわけではない咲夜でもすぐに理解できた。

 

「美鈴……っ!」

 

 すすけた服の上に、鮮やかな紅が飛び散っている。それは美鈴が激闘の末、侵入者に敗れ去ってしまったということを雄弁に物語っていた。

 

 哀れな最期に涙が出そうになったが、堪えると、すぐさまレミリアに報告へ向かった。時を止めながら全力でレミリアの部屋へと急ぐ。

 

 瀟洒、という評価をかなぐり捨てるようにして、咲夜は勢いよくドアを開け、部屋に入った。中には把握していた通り、レミリア、パチュリー、小悪魔の3人がいる。

 

「お嬢様。侵入者でございます」

 

「何? 魔理沙だったら適当に……」

 

「違います。美鈴が殺されました」

 

 レミリアとパチュリーは息を呑んだ。

 

「咲夜……いくら何でも怒るわよ」

 

「冗談なんかじゃありません! 本当に殺されてたんです!」

 

 咲夜は叫んだ。普段はヒステリックに喚くことは一切無く、冷静な咲夜が取り乱している。レミリアとパチュリーは、その情報が真実だということを知った。

 

「美鈴……」

 

「今は感傷的になってる場合じゃないわ。パチェ。咲夜。指示を出す」

 

 レミリアは少し鼻声になっていたが、涙は見せず、てきぱきと指示を出し始めた。

 

「小悪魔はフランをここに連れてきて。咲夜はここの部屋への道のりを安全にすること。妖精メイドをいくら投入してもいい。パチェは、この部屋で一番強い結界を展開しておいて」

 

「分かったわ」

 

「了解しました」

 

「分かりました!」

 

 すぐに指示を受け取った3人は動き始めた。

 

(美鈴……仇は取ってやるから見てなさい)

 

 レミリアは、部屋に置かれている、鉄製の槍に目を向けた。

 

 

 霊夢はひとまず、地下大図書館へ向かって紅魔館の廊下を急いでいた。相手にすると面倒なパチュリー、攻撃力だけは一人前のフランドールを仕留めたい。レミリアは他の奴と連携されると不安だから後回し、咲夜はそのうち遭遇するだろう。

 

 飛んでいると、時折体のあちこちの骨が傷んだ。美鈴との戦いは当然霊夢が勝ったが、無傷と言うわけにはいかなかった。節々の痛む体に苛立ちを覚えながら、霊夢は図書館の扉を開け放った。

 

 1階から見下ろすようにして、並ぶ本棚を眺める。霊夢は知らなかったが、パチュリーはここにおらず、代わりに―

 

「んん?」

 

 フランドールがこちらに背を向け、座っていた。どうやら何か本を読んでいるらしく、霊夢に気付いた様子は無い。

 

(後ろにご用心よ。フラン)

 

 霊夢は心の中で忠告すると、フランドールに狙いをつける。残念ながら、この忠告をフランドールに伝えることはできないし、できたとしてもそれを生かす時間は彼女にはもう残されていない。

 

 霊夢の放った霊弾は、フランドールの後頭部めがけて撃ち放たれた。通常の弾幕ごっこでは死者が出ない程度に調整していたが、これは、相手を殺すために一切手加減をしていない霊弾である。頭に直撃すれば吸血鬼とて死ぬし、美鈴のような無残な屍をさらすことにもなるだろう。

 

 事実、霊夢はそれでフランドールを始末できていたはずだった。

 

 小悪魔がその身でフランドールを庇わなければ。

 

 霊弾が炸裂する音とともに、攻撃を体で受けた小悪魔はぼろきれのように吹き飛んだ。

 

「え……?」

 

 フランドールはようやく霊夢に気付いたのか、振り返って狼狽の声を上げた。その足元には血まみれの小悪魔が横たわっている。小悪魔は霊夢の攻撃をまともにくらったにもかかわらず、まだ息があった。

 

「妹様……霊夢から…逃げて……ください。あいつは……間違いなく、美鈴を殺しています……レミリア様のもとへ逃げ……」

 

 余計なことを、と霊夢は思った。もうレミリアは美鈴の死を知ったのか。大方、咲夜辺りが美鈴の様子を見に行って異常に気付いたのだろう。レミリアは気づいてすぐさま、フランドールの保護を小悪魔に命じたのだ。

 

「フラン。大丈夫よ、何もしないから」

 

 言いながら、自分でも白々しいセリフだと思う。流石にフランドールも騙されず、後ろに一歩ずつ、後ずさっていく。

 

「霊夢……何で、こんな……」

 

 信じられない、とでもいうように、フランドールは目を瞠り、さらに下がろうとする。

 

「仕方ないのよ、これは。必要なことなの」

 

「……仕方ない?」

 

「ええ。私としてはここの奴らは皆死んでおいてほしいの」

 

 次の瞬間、霊夢は、無数の護符をフランドールに向けて放っていた。

 

「禁忌『レーヴァテイン』っ!」

 

 その宣言と共に召喚された、神の剣の名を冠した炎の刃は、陽炎を揺らめきたたせていた。フランドールがその剣で薙ぎ払うと、霊夢の放った護符は跡形もなく燃え尽きた―かに見えた。

 

「お見事。……でも、防ぎきれてないみたいね」

 

 霊夢の指摘通り、フランドールは右肩、左足に被弾し、命中した部分はずたずたに切り裂かれていた。レーヴァテインでは、すべての攻撃を防ぎきることは、できない。そうなればちくちくと負傷を受け、いずれフランドールが敗れるのは必至だろう。

 

「…………」

 

 フランドールと霊夢はしばらくにらみ合っていたが、フランドールは小悪魔を見おろして顔を歪めると、くるりと踵を返し、走り始めた。

 

「あ、ちょ、待ちなさい! ちゃんと殺してあげるから!」

 

 おそらく、図書館から脱出してレミリアの元へ向かおうというのだろう。外はまだ太陽が出ており、館の外に出られる心配はない。フランドールは単独で戦うのを諦め、姉やパチュリーと共に戦うことを決めたのだ。

 

「小賢しいわね」

 

 本棚が多すぎるため、フランドールを追うのには適さない。もっと追いやすい場所が、どこかにあれば―

 

「そうだ、もう脱出させてあげましょうか」

 

 霊夢は静かに微笑んだ。

 

 

 なんで、なんで、なんで、なんで………

 

 走りながら、フランドールは心の中で誰が答えるわけでもない問いを発し続けていた。

 

 霊夢が、小悪魔を、美鈴を殺した。

 

「嘘……嘘だ……」

 

 フランドールは呟いて、これが夢であったならどんなにいいかと思った。しかし霊夢は目の前で小悪魔を惨殺し、フランドールに向けて殺意のこもった護符を放って攻撃してきたのである。背後から聞こえてきた、「ちゃんと殺してあげるから」という言葉が、今でも脳裏にこびりついて離れない。

 

霊夢は、もう敵なのだ。

 

 フランドールは図書館を出ると、すぐさま二階へ跳躍した。

 

「待ちなさい!」

 

 背後から霊夢の鋭い声が聞こえてきた。咄嗟に身を躱すと、先ほどまでフランドールのいた空間をいくつもの霊弾が通過し、近くの柱を打ち砕いた。

 

「くっ………」

 

 この場では、逃げるしか手は無い。反撃に出るために止まった瞬間に蜂の巣だろう。フランドールはレミリアと比べて魔術適性の高い吸血鬼だったが、その反面自然治癒力や身体能力では姉より劣る。言うなればフランドールは魔術師タイプ、レミリアは戦士タイプの吸血鬼だった。

 

真正面から霊夢に挑めば、レミリアならともかくフランドールは攻撃に耐えきれない。かといって先手必勝と霊夢の〝目〟を集めて破壊する、つまり殺すことはできない。殺せば、幻想郷が終わるのだ。

 

 高い攻撃力を誇るがゆえに、フランドールは霊夢を攻撃することができない。フランドールは唇を噛んで、悔しさを飲み下した。

 

 二階の通路にたどり着くと、フランドールは姉の部屋へ走りはじめた。道順は覚えている。そこにさえ行けば―

 

その時、足に凄まじい衝撃を感じた。

 

「なっ………」

 

 見下ろすと、右足が吹き飛んでいた。

 

 バランスを崩し、フランドールは前につんのめった。足の激痛が神経系を貫き、フランドールは悶絶した。

 

 フランドールの身体能力を鑑みると、屋敷の中を移動するならば飛ぶよりも走るほうが速いのだが、それは失策だった。霊夢から見ると、いくら足が速いと言っても飛行中と違って足は狙いがつけやすいのである。

 

「よし、おーけーおーけー」

 

 霊夢がひたひたと走り寄ってくる。死神の足音を聞きながら、フランドールは何とか飛んで逃げようと必死に試みたが、もう逃げ切ることはできないだろう。

 

 霊夢はフランドールの体を押さえつけ、動けないようにした。膂力はフランドールが遥かに勝っているが、少しでも動けば、その瞬間に霊夢は躊躇なくフランドールを殺すだろう。抵抗は出来なかった。

 

「これで三人目かしらね。死んでもらいますかっと……」

 

 霊夢の取り出した何本もの針の切っ先に、フランドールは目を釘付けにされた。

 

「吸血鬼って心臓に杭打たれれば死ぬのよね? こういう針ならどうかしら?」

 

「………やめて」

 

 霊夢は、フランドールの心臓に針を突き刺すと言っているのだ。そしてもちろん、刺されれば死ぬ。自分の胸を貫き、心臓を停止させる致死の針が、目の前に突き出されている。

 

「やめてやめてやめて! 私が何をしたの⁉ ねえ、答えてよ!」

 

 泣き叫ぶフランドールを、霊夢は子供をあやすようににっこりと笑って、

 

「何もしてないわ。でもごめんね、フランが死なないと、私が困るの」

 

 もはや、霊夢は理解不能の存在だった。フランドールは涙で潤んだ眼で、霊夢を見上げた。

 

「さて、いつまでもこうしていても仕方ないし……じゃあね」

 

 霊夢は、フランドールの胸めがけて、針を突き下ろした。

 

 

 

「時符『プライベートスクウェア』」

 

 

 

 目を瞑ったフランドールは、いつまで経っても死の痛みを感じないことを不思議に思って、そっと目を開けた。

 

「お逃げください、妹様」

 

 メイド服のスカートが翻り、握っている銀のナイフの煌めきが、目に映った。

 

「咲夜………」

 

 間一髪、咲夜は針が振り下ろされる前に時間を止め、フランドールを退避させた。咲夜は、フランドールを後ろに庇いながら、霊夢を睨む。

 

「まさかあなたが………」

 

「そうよ。意外だった?」

 

 霊夢はフランドールを仕留めそこなったことへの怒りなどはないようで、普通に応じた。

 

「別に。でも博麗の巫女は異変を起こしちゃならなかったはずよ。いや……もうこれは異変じゃないわね」

 

「……どうでもいいでしょ。異変かどうかなんて。死ねばあんたには関係ない事よ」

 

 霊夢と対峙しながら、咲夜は小声でフランドールに囁いた。

 

(妹様、早くレミリア様の部屋へ急いでください。パチュリー様が強固な結界を張っています。そこへ逃げれば安全です。もう飛べますね?)

 

(ええ、何とか逃げられるわ。咲夜はどうするの?)

 

(どうにかなります。さあ早く)

 

 頷くと、フランドールは自分の出せる最高速度でその場を飛び去った。ただし、

 

「禁忌『フォーオブアカインド』」

 

 ()()()()()()()()()。そのうちの一人を咲夜の元へ置いてきた。おそらく咲夜とフランドールの分身は勝てないが、霊夢が追ってくるまでに()()()()()()()()を楯にして、なんとかレミリアの部屋へたどり着かなくてはならない。

 

 フランドールは後ろを見ず、翔んだ。

 

 

 

 




 というわけで殺戮パートへ突入したはいいんですが、どうにもアクションが書けてないですよね……精進して、動きのある文をもっと書けるようになりたいです。
 それと、もし前回の魂の破壊について、こじつけのように見えた人は、一話に一応言及がありますのでそれで納得してください!
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