幻想郷の悪魔さん   作:りっく

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永遠亭にて

 

 

 紫が冬眠してから3日。再び神社に遊びに来ていた魔理沙が阿吽とお喋りに興じていると、新たな来客が現れた。

 

「すみませーん、霊夢さん居ますか」

 

「いるわよ。……それにしてもあなたが来るのは珍しいわね。鈴仙」

 

 やって来たのは永遠亭の薬売り、鈴仙・優曇華院・イナバだった。いつもは人里で薬を売るか、永遠亭に居るので、神社に来ることは滅多にない。よく見ると、背中に薬の入っている籠を背負っていないので、人里へ薬を売りに行くついでというわけではなく、何か特別な用事があるのだろう。

 

「気持ち良くなるクスリを秘密裏に売りに来たのなら出て行ってもらうけど」

 

「永遠亭を何だと思ってるんですか。ちゃんとした頼みですよ」

 

「頼み?」

 

 霊夢の目が鋭く光った。

 

「はい。いつもならこういうことは紫さんに頼んでいるのですが、冬眠中とのことで」

 

「で、頼みって何よ」

 

「実は永遠亭に入った泥棒を捕まえてほしいんです」

 

「泥棒?」

 

 鈴仙は頷いた。霊夢がその説明を続けるよう促す。

 

「昨日のことなんですが、私は師匠の指示で薬を貯蔵している倉庫に入ったんです。目的の薬はすぐに見つかったんですが、どうも他の薬の配置がおかしくて、最初はイナバたちの悪戯かなって思ってたんですけど、よく考えてみたら師匠の渡す鍵が無いと入れない倉庫なので、それは無いってことに気づいたんです」

 

「それで?」

 

「師匠は貴重面な人ですし、誰がやったんだろうと思って元の場所に片付けたんですが、一種類だけ無くなっている薬があったんです」

 

「高価なの?」

 

「……いえ、作ろうと思えば簡単に出来ます。材料も入手は容易ですし」

 

「じゃあいいじゃない、多少泥棒に入られたところで」

 

「入られたことが問題なんですよ! 倉庫には高いのもありますし……だけど本当に重要なのはそこじゃないんです」

 

 魔理沙はいつの間にか話に聞き入っていた。では何が問題なのだろうか。

 

「盗まれた薬は“性格逆転薬”といって、薬の名前から分かるように性格を真反対にする薬なんです。本来は精神病で他者への攻撃性が異常に高まった人物ー例えばフランドールさんとかですねーに投与して、普通に戻すものなんですが…」

 

「普通の人に投与したら、逆に狂人になるという事?」

 

「その通りです。生物を殺すのになんの躊躇いもない人物に早変わりします」

 

「完全にやばい薬じゃない……」

 

 ぞくりとする話である。いつも普通だと思っていた人物がいつの間にかサイコ・キラーになってしまっているかもしれないのだ。

 

「とにかく現場に行ってみないことには分かんないわね」

 

「ということは、調査してくれるんですね」

 

 霊夢は紫にしてみせたのと同じように指で輪っかを作った。紫から報酬は貰えるというのに、さらに永遠亭からも搾り取ろうという魂胆だろう。

 

「その代わり、ちゃんとこれ用意してね」

 

「私もついていっていいか?」

 

 魔理沙が訊くと、鈴仙は少し考えてから頷いた。魔理沙が調査にかこつけて薬を盗むかどうか思案していたのだろう。なんとも失礼な話である。

 

「ま、ちゃちゃっと解決してあげるわ」

 

 霊夢は自信満々に言い放った。

 

 

 

 

 迷いの竹林を抜け、永遠亭に到着した。鈴仙が先頭になって歩いたので特に迷うことなくたどり着くことができた。

 

「あら、霊夢。来てくれたの。魔理沙も」

 

 永遠亭にやって来たの霊夢と魔理沙を迎えたのは永遠亭の薬師、八意永琳だった。彼女は「あらゆる薬をつくる程度の能力」でさまざまな薬品を作ることでこの永遠亭を切り盛りしている。月の頭脳とも言われた天才で、幻想郷の重要人物の一人である。

 

 永琳も薬の盗難については重く見ているらしく、犯人を捕まえられなかったら他の勢力との連携も吝かでないと考えているらしい。

 

「何でそこまで心配してるんだ?」

 

 サイコ・キラーといえども少数であれば鎮圧は簡単だろう。何故わざわざそこまでしなくてはならないのか。

 

「じゃあ逆に訊くけど、あの薬を命蓮字の聖が飲んだら?レミリアが飲んだら?強者の頭がおかしくなったら大変なことになるとは思わない?…まあレミリアは歪んだ性格が矯正できるかもしれないけれど」

 

「なるほど、そりゃ大変ね」

 

 霊夢は納得した様子で頷いた。

 

「そうなれば早速調査を始めましょう。倉庫はどこ?」

 

「こっちです」

 

 鈴仙の案内で霊夢と魔理沙はその倉庫までやって来た。

 

「開けられるか?」

 

「はい。鍵持ってますんで」

 

 中に入ると、ところ狭しと薬が棚の中に収まっているのが見えた。一つ一つにラベルが貼ってあり、なんの薬か分かるようになっている。

 

「ここに置いてあった性格逆転薬は2本です」

 

「それってどれぐらい飲んだら効果あるの?」

 

「えーと、頓服だったから、丁度1本ぶんです」

 

 ということは、犯人は 2人の狂人を生み出すことができるということか。

 

「この薬の存在を知ってる人は何人いるの?」

 

 霊夢の問いに、鈴仙は頭をコツコツ叩いて記憶を辿った。

 

「私と師匠、それに紅魔館のレミリアさんと処方したフランドールさんですね」

 

「じゃあその吸血鬼姉妹で決まり…にはならないわよね」

 

「はい。フランドールさんはもう頭は正常になったようですし、レミリアさんもわざわざ盗まなくてもお金を払えます」

 

「レミリアが何か企んでるとしても、サイコ・キラーを増やして事件を起こすってのはあいつのやり方としては考えにくいしな」

 

 霊夢は伸びをしてから、

 

「とにかく紅魔館へ行けば何かわかるでしょ」

 

と言って倉庫からさっさと出ていってしまった。

 

「ちょっと待てよ」

 

 魔理沙は慌てて霊夢を追いかけた。その途中で、視界の端にあるものが映った。

 

「……穴?」

 

 倉庫には小さい穴がぽっかりと開いていた。腕が通るかどうかというほどで、無くなった薬品から遠い位置にある。

 

「ここから犯人は薬を盗んでいったんじゃないか?」

 

 霊夢を呼び止めて言う。

 

「まあこの小さな穴からなら吸血鬼の霧化とか萃香の能力で入れないこともないけど……そもそも青娥なら壁抜けは出来るし、紫の能力なら壁なんて無意味だわ。だからまず薬の存在を知っていた者から疑うべきよ」

 

 確かにその通りだった。ぐうの音も出ない。

 そして霊夢と魔理沙はその足を紅魔館へと向けることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 




 書く前からうすうす思っていましたが、幻想郷のメンバーでミステリーって難しいですね。密室殺人なんて容疑者のオンパレードになりますし。
 だから自分が想定していない「こうすれば良くね?」があったら頭を抱えてしまいまいそうで、こわごわ執筆している次第です。
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