幻想郷の悪魔さん   作:りっく

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終末の黄昏

 

 

 

「とにかく、犯人を洗い出さないといけないんだぜ」

 

 魔理沙は、椛の死体を寺の一室に安置すると、神子と聖、藍を集めた。もちろん命蓮寺に潜む裏切者を探し出すためである。

 

「……しかし妙だな。霊夢の内通者がいるとして、その人物に何のメリットがあるんだ? 仮に命を助けてくれるといっても我々に見つかる危険などを考慮すれば、そんなたいそれたことをできるとは思えないが」

 

 神子の問いに、魔理沙も首を捻った。

 

「そうなんだよなあ……むしろ殺人鬼の約束なんかあてにできないし、馬鹿正直にこんなことをするとは思えない。何か裏があるか、それとも霊夢がその人物に強制的に内通者役をやらせることができるのか……」

 

「あ、それなんだが、私に心当たりがある」

 

 その時、藍が口を挟んだ。

 

「一度霊夢が私とか橙のような式神に興味を持った時期があってな。一つだけ、式神をつくる術式を応用して使用者を式、とはいっても命令にほいほい従うだけで自分では判断できない出来損ないだが、そんなものを作ったんだ。それで内通者は操られていると考えられないだろうか」

 

「……ああ、あれか」

 

 魔理沙は紫が冬眠する前に、それらしき霊夢のお札を見たのを思い出した。霊夢が独力でそんなものを作り出せるとは思えなかったが、藍が関わっていたのなら不可能ではなかったに違いない。

 

「しかしですね、何故そんなものを作ったんですか? そのせいで死人が出たんですし……」

 

 聖は、藍が面白半分に作って霊夢に与えたお札が現在の窮状を招いているのに、どうも納得がいかないようだった。確かに、今回は身から出た錆というやつだろう。

 

「まあとにかくそれを今いろいろ言ってもしょうがない。裏切者を探し出すんだぜ」

 

「……そうですね、仲間割れしてる暇はありません」

 

 ひとまず、藍の話は横に置いて、誰が敵の内通者であるかを調べなくてはならない。

 

「まず、椛の殺害が能力的に可能だったメンバーを上げていこう。寅丸星、村紗水蜜、雲居一輪、ぬえ、二ツ岩マミゾウ、物部布都、蘇我屠自古、霍青娥、宮古芳香、秦こころ、射命丸文、そして、豊聡耳神子、聖白蓮の13人かな」

 

 多々良小傘や幽谷響子は椛を殺せそうもなく、ナズーリンは不在である。藍はお札の実効が現れていれば直ちに自殺しているはずであるので、除外される。

 

「ふん、ちゃんと私たちまで犯人候補として挙げているのか。いい心掛けじゃないか」

 

「似たようなミスをちょっと前にしたからな」

 

 最初の調査で、慧音を無意識に犯人候補から外してしまったあの時から、魔理沙はひとまず怪しい人物を洗い出す時は、あらゆる可能性を検討するようにしていた。

 

「……しかし、その論法だと魔理沙さんも犯人である可能性がありますよね?」

 

「いや、私が霊夢に操られていれば、わざわざ射命丸に警告を書かせる必要は無いし、霊夢からすればこんなリスクのある方法をとる必要も無い。私はもともと自分が内通者でないことは分かっているが、まあこれで私がクロってことはないだろ?」

 

「……その通りですね。藍さん、そのお札はずっとつけていなくては効果が発揮されないのですか?」

 

 聖は藍に向けて言った。おそらく、犯人を見つける目印になるのではないかという考えからだろう。確かにお札が背中に貼ってあったりなどしたら一目瞭然だが。しかし藍は首を振って、答える。

 

「いや、一度対象に貼り付ければ、式が被使用者に刻み込まれ、お札を張り続ける必要は無かったはずだ。もちろんその札に用意してある術式は消えるが」

 

 つまり、内通者は一人だけだが、見分けはつかないということだろう。魔理沙は内通者の能力について、重ねて藍に質問した。

 

「それで、操られている者は霊夢に何か情報を知らせたりはできるのか?」

 

「可能だ。操られている者の位置や見たことを後で知ることができる」

 

「……これはいよいよ放っておけないな」

 

 もし何も伝えられないのであれば、藍を命蓮寺から移動させるという手も考えないでもなかった。が、内通者がいるのであれば、それは霊夢にとって逃げたことにはならず、かえって危険を招くことになりかねない。

 

「しかも、この前正邪追討のために命蓮寺に集合しているから、誰が裏切っていてもおかしくはない、と」

 

 これは難しい。椛を殺した以上は、相手もこちらが気づくことは想定済みのはずである。そんな奴が、やすやすと正体を現してしまうようなミスは犯すとは思えない。

 

「……まだこいつを探し出すことはできない。皆には、3人1組で行動するよう伝えてくれ」

 

 魔理沙は応急処置として、3人1組での行動を指示した。裏切者が新たな被害を生まないようにするための急ごしらえの対策である。神子も聖も、他に案は無かったので、それで落ち着いた。

 

「……敵の正体が見えるまで、待つつもりか」

 

 神子の問いに、魔理沙は頷いた。

 

「ああ。そのつもりだが……いつまでもつかな」

 

 もつ、というのは妖怪の山のことである。あそこが崩れれば、霊夢の標的となる勢力があるのはここ、命蓮寺のみである。内通者も分からぬまま戦いが始まれば、作戦は裏をかかれるし、味方の反撃を邪魔され、敗北してしまうこともあり得るだろう。

 

「……はあ、どうしてこうなったかな……」

 

 魔理沙は溜息をついて、ひとりごちた。

 

 

 

 

「ああ……」

 

 戦いを見守っていた妖怪のうち、誰かが諦めたように、声を漏らした。

 

「……神奈子、どうやら私はこれで打ち止めらしい」

 

 諏訪子は姿が薄れ、消えていこうとしていた。

 

「ああ、分かってる。先に行ってろ」

 

神奈子の返事を聞いて、ふっと笑ったかと思うと、諏訪子は不意にその姿を消した。ついに神力を使い果たし、存在が消滅したのである。

 

「意外と神なんてもろいもんね。信者がいなくなれば、楽勝じゃない」

 

 信者の一部、といっても早苗が死んだとき瞬間に2割にまでその数を落とし込んでいた彼らは、諏訪子の消滅で、1割に減った。信仰というエネルギー補給の無い守屋の神々は、早苗という力をブーストする者も消えてしまったため、とてもではないが霊夢との戦いを継続できるほどの力を保つことはできなかったのである。

 

 残る神奈子も、満身創痍で、ろくに大技を放つこともできそうもない。誰が見ても、敗色は濃厚だった。

 

「……そこの天狗」

 

 神奈子は、最初に助けた白狼天狗に声をかけた。

 

「はい、なんでしょう」

 

「ここにいる奴らを全員逃がせ。もう、我々では手に負えない」

 

「………わかりました」

 

 わずかに残り、なおも守屋を支援しようとする妖怪たち。彼らを逃がすということは、もう勝つことはできないと神奈子が判断をくだしたのを表していた。

 

「勝てなくて、すまなかったな」

 

「………いいえ、ありがとうございました」

 

 それだけ、言葉を交わすとその白狼天狗は仲間の元へ行き、逃げるよう呼び掛けていた。

 

 霊夢はその白狼天狗の脳天にアミュレットを投げつけたが、ぴたりと止まり、ちぎれ飛んだ。神奈子は、ふっと笑った。

 

「お前の相手は、私が存在する限りは、私だ」

 

「……そう。じゃあそろそろ、選手交代しないとね」

 

 霊夢は、神力の無駄な消費を抑えるため、地面に降り立っていた神奈子に合わせるかのように、地に降りた。神奈子の後方では、逃げ散る妖怪たちの姿があった。霊夢は狩り損ねたのを惜しんだのか、ちっと舌打ちをして、

 

「最後の最後で逃がすのは、良い判断だったとは思うわ。ま、ゆっくり休みなさい」

 

 神奈子に向けて、たった一発、霊気の塊を放った。

 

 神奈子は、迫りくる光球を、不思議と落ち着いた気持ちで見つめていた。もう、それを止める神通力も使えない。喰らえば、存在が消えてしまうほどのダメージを受けてしまうだろう。避けることもできない—

 

—まいったね、こりゃ。

 

 八坂神奈子という神は、その瞬間、神力を使い果たし消え去ってしまった。

 

 

 

 霊夢は、戦いの後、しばらくそこにたたずんでいたが、やがて大きな舌打ちを一つすると、守屋神社の方へ歩き始めた。

 

 霊力の消費が激しい。何しろ、天狗どもと守屋の神々と連戦したのだから、余裕があるほうがおかしいのだ。紅魔館の時よりもさらに消耗は大きく、何か食べないと持ちそうにない。というわけで、守屋神社で食料の調達と休憩をとるべく、動き始めたのである。

 

「……もうっ!」

 

 霊夢はいらいらして、転がっていた石を蹴り飛ばした。というのも、紅魔館のようなパーフェクト・ゲームができたわけでは無く、さらに守屋の神々が霊夢の期待しているような表情も浮かべず、消えて行ったためであった。

 

 今回はかろうじて早苗の表情と血しぶきが及第点だが、他の天狗どもも、天魔も、守屋の神々も、斃せはしたものの霊夢を愉しませるような死とはかけ離れていた。

 

(ああ、紅魔館を襲った時は良かったのに)

 

 あの時は奇襲をかけて終始霊夢の思い通りに行き、なかなかエキサイティングな場面もあった。が、今回はきついばかりで、全く面白くなかったのである。

 

(今度は、何か工夫しないとなあ)

 

 次に向かうのは地底である。ずっと引きこもっているつもりなら命蓮寺へ行って藍もろとも襲えば良いのだが、地底のさとりに出てこられるとやはり挟み撃ちの格好になって都合が悪い。入り口を何らかの方法で封鎖しても、勇義ならこじ開けて出てきそうである。幸い残り時間はまだ13日もあるので、直接霊夢が地底勢力を一掃することも可能だろうが。

 

 考えているうちに守屋神社に着き、霊夢は黙って中に上がり込んだ。食料は残っており、味噌汁とおにぎりの余りものが、ちゃぶ台の上に置いてある。まさか早苗は、帰ってきて食べるつもりだったのだろうか。

 

 霊夢はそう思って、鼻で笑った。もしそうなら、早苗は死ぬべくして死んだのである。心のどこかで自分は死なないとでも思っていたのだろう。だから、〝後で〟食べようなどという発想が生まれ、油断を作り出すのだ。

 

(それをいただくんだから、ちょっとは感謝しないといけないかもしれないけど)

 

 霊夢はおにぎりにかぶりつきながら、〝内通者〟の位置を確認する。ぼんやりとした方向しか分からないが、おそらく命蓮寺だろう。さらに相手側にいた椛を殺すことに成功したらしい。

 

 これらの情報は、霊夢の所持している例のお札に文字がにじむようにして報告が出てきて、それを読み取ることで操っている者は何をしたのかを知ることができるのだ。

 

「……相手の目を奪ったのはラッキーね。じゃあ引き続きチャンスがあれば殺しなさい」

 

 指示を与えると霊夢はおにぎりを食べ終え、食器を片づける。おそらくこれから使う者はいないだろうが、おにぎりを貰った感謝のしるしとでもしておこうか、と霊夢は皿を拭きながら思った。

 

(とにかく、命蓮寺はあいつが何とかしてくれるだろうから、差し当たって明日からは地底攻略ね)

 

 何故守屋に加勢せず傍観していたのかは分からないが、このまま放っておくわけにもいかないのだ。ここさえ叩けば、霊夢は背後の心配をせず、藍と魔理沙、聖と神子の集う命蓮寺を襲撃することができるのである。

 

「……しかし、眠いわね」

 

 霊夢は襲撃のための手立てを考えようかと思ったが、急激な睡魔に襲われ、やめた。神経を削る戦いを夜の間、ずっと行っていたせいだろう。霊夢はふわあと一つ、あくびをすると布団の入っている押し入れを探し始めた。

 

 寝よう。また明日も、大忙しになるだろうから。

 

 

 

 




 ようやく守矢神社との戦いも終わり、戦いは佳境に移ります。そういえば、妖怪の山には華扇とかにとりもいるのですが、出てきていない人たちは何らかの事情で戦いに参加していません。……別に忘れてたというわけではなく、そうなるとダレてしまうし、何より私が体力的に死にますので……
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