幻想郷の悪魔さん   作:りっく

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貸本屋の死体

 

「どこにいるのかくらい書いとけよ……」

 

 魔理沙は霊夢の書き置き通りに人里へやって来ていたが、人里と一口に言ってもどこへ行けばよいのか分からない。人死にが出たか、と近くを歩いていた者を片っ端から捕まえて聞いてみたが、全員が知らないと答えた。

 

(まだ霊夢は殺人を隠蔽しているのか……?)

 

 公表すれば、不審人物の発見率は高まるのに、何故まだそれを明らかにしないのだろうか。

魔理沙は暫く考えると、ひとまずまだ殺人が露見していないと犯人に錯覚させるためと結論付けた。

 

 ともあれ、現場に急がなければならない。そんな理由は霊夢に会えばすぐに分かることだ。遠回りになるかもしれないが、人里の管理者である上白沢慧音であれば何かを知っているかもしれない。

 

 魔理沙は帽子を深く被りなおすと、慧音の寺子屋へと向かうことにした。

 

 魔理沙が外から寺子屋を覗くと、慧音は里の子供や妖精たちに簡単な算術を教えていた。床の軋む音が教室に響いている。

 

「チルノ。貧乏ゆすりがうるさいぞ」

 

 慧音は耐えかねたように言った。

 

「あたいが悪いんじゃないよ。この椅子がぎしぎしするんだ」

 

「でもそれ、最近新しくなったやつじゃない?」

 

「……まあいい。もうどうせ授業は終わるからな」

 

 慧音はそう言ってから、ちらりと魔理沙の方を見た。どうやら既に気づいていたらしい。大妖精の号令の後、里の子供や妖精たちはあっという間に帰ってしまった。

 

「で、何の用だい、魔理沙」

 

 慧音は最後の一人を見送ってから魔理沙に尋ねた。魔理沙は窓から教室に入っており、頭を掻きながら答えた。

 

「うん、霊夢の居場所知らないかと思って。誰か死んだんだろう?」

 

 途端に、ひゅっと息を飲む気配がして、慧音の顔が強張った。

 

「それを誰から聞いた?」

 

「霊夢から。書き置きがあったんだ」

 

 慧音はそれを聞いて、安堵の息を吐いた。

 

「なるほど。実は、霊夢の指示で事件が起こったこと自体を伏せてるんだ。魔理沙も霊夢みたいに事件を調査しているのか?」

 

「そうだぜ。で、来たのはいいんだが、どこへ行けばいいのか分かんなくてな」

 

「ああ、それなら案内してやろう。今、多分霊夢は鈴奈庵にいるはずだ」

 

「鈴奈庵?」

 

 鈴奈庵は人里にある貸本屋で、紅魔館の図書館には負けるがかなりの蔵書がある。店番をしている小鈴に釘を刺され、本を盗む……いや〝借りる〟ことは自重しているが。

 鈴奈庵に霊夢がいるということは、そこが事件の現場であるか、何か関係のある場所なのであろう。

 

「で、殺された奴は?」

 

「本居小鈴だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔理沙と慧音が鈴奈庵の中に入ると、むせび泣く声が店内に響いていた。うつ伏せに横たわる本居小鈴、その傍らには霊夢がかがみこんで死体の様子を調べている。この泣き声は店の奥から聞こえてきており、どうやら小鈴の母のものであるらしい。

 

「あら、魔理沙。……早速やられたわ」

 

「そのようだな」

 

 小鈴の市松模様の着物は自身の血で汚れており、時間がたっているのか、鮮やかな紅ではなく、闇のような黒に変色している。後頭部が少しへこんでおり、凶器に何か鋭い物体がついていたのか、殴打の痕に切り傷ができ、そこから血が流れたらしい。目は閉じていて、傷さえなければまるで眠っているようにも見える。

 

「後ろから何かで殴られているわ。それと、見かけによらず衝撃はかなり強かったみたいで、頭蓋骨全体に大きなヒビが入っているわ。多分、力の強い男……或いは妖怪の仕業ね」

 

 霊夢のそう評する声にはあまり感情は感じられない。どうせ復活させるからと命を軽んじているいうよりも、できるだけ自分を冷静に保っておこうとしている気配がある。

 

「でもここで殺されたわけじゃないんだろう?」

 

 魔理沙の言葉に、霊夢は頷いた。

 着物にべったりとついている血が床に全くこぼれていない。つまり、小鈴は別の場所で何者かに殺されて、ここに運ばれてきたことになる。

 

「すでに冥界に行って本人から確かめてきたのだけれど、小鈴は2日前に殺されたらしいわ。夜道を歩いていたら突然誰かに殴られてそのまま死んじゃったみたい。だから、残念だけど犯人の顔は分からないわね」

 

「2日前か。それなら、犯人は恐らく薬品で性格を逆転させられた者、つまり殺人鬼ってことになるだろうな。地底に行って分かったことなんだが、その時正邪は地底に潜伏している。おそらく薬を手に入れてから地底に潜るまでの空白の一日の間に誰かに薬を飲ませたんだろう」

 

 小鈴を殺した犯人はおそらく人間ではない。正邪の「幻想郷をひっくり返す」という目的のためには貧弱な人間を狂わせるだけではどうしようもない。有力な妖怪に薬を飲ませたと考えるのが妥当だろう。

 

「その日に人里に来た妖怪、もしくは有力者は?」

 

 魔理沙が慧音に尋ねると、慧音はその問いを予想していたかのようにすぐに答えた。

 

「ええと、マミゾウ、鈴仙、命蓮寺の寅丸星と聖、妹紅……あとは紅魔館のメイドが買い物に来てたぐらいかな。まあこれは夕暮れあたりの話だから夜になって入ってきた奴は分からんが、それは妹紅に訊けば良いだろう。最近は冬の乾燥で火事がでないか、見回りをしているらしい」

 

 慧音はそう言ってから、それは事前に里の者たちに聞いて集めていた目撃談が情報元になっていることを説明した。気づかれずに潜入できた者は他に居ないということも。

 

「確かにその6人の中に犯人がいる可能性が高いわね。それぞれ話を聞いときましょう」

 

 霊夢はそう言って小鈴に布をかける。

 

「……しかし死体ってのは冬場でも昼になったら日が照りつけたり熱がこもったりして腐るよな。なんで小鈴の死体は死んだばかりみたいに綺麗で、臭いも無いんだ?」

 

 霊夢は首を傾げた。

 

「さあ。犯人が死体を隠しておいたところに関係があるんじゃないの」

 

「その、死体を隠す理由もわからないんだよなあ。どうせここに置いてくなら殺したその日に持ってくれば良かったのに」

 

 魔理沙はその理由を考えようとしたが、流石に手がかりが少なすぎるので、すぐにやめた。

 

「……そういえば慧音自身は何かアリバイがあるの?」

 

 霊夢にそう言われ、魔理沙は内心ぎくりとした。確かに、今まで微塵も疑っていなかったが、慧音が犯人という可能性もあるのだ。神獣である彼女であれば人間の小娘一人ぐらい殴殺するのは容易いだろう。

 

「ああ、私はその日の夜、里の寄り合いに行ってた。他の者に聞けば分かるはずだが」

 

「ふーん、そう。じゃ、まずは妹紅のとこから行ってみようかしら」

 

 霊夢は一応納得したのか、くるりと踵を返して外へ出ようとした。

 

「うわっ!」

 

 しかし、中に入って来た新たな人間と正面からぶつかり、どちらも盛大に尻餅をついた。

 

「ちょっと、前見て歩いてるの?」

 

 霊夢はそう言ったが、それはお互い様だろう。それに、暖簾があるためかなり視界は遮られる。こうした事故が起きるのは必然といえるのだ。

 

「あいたたた……」

 

 腰をさすりながら立ち上がったのは幻想郷演技を編纂する稗田家の当主、稗田阿求だった。ぶつかった拍子に落とした花の髪飾りを拾う。

 

「お久しぶりですね、霊夢さん」

 

「あんたも元気そうね。ぶつかったショックで死ぬぐらいか弱いと思ってたけど意外と丈夫なのね」

 

「別に寿命は短いですがそこまで弱くはありませんよ。……というか小鈴は?」

 

 阿求は小鈴と話すためにやってきたらしい。霊夢が指で示した、布をかけてある小鈴の死体を見ると、先ほどまでの生気が嘘のようにしぼみ、みるみる顔が青ざめていく。

 

「え、これってまさか……」

 

「小鈴よ。何者かに2日前に殺されたらしいわ」

 

 それを聞いて、阿求はあからさまに不審なものを見る目つきで霊夢たちを見つめる。

 

「なんでそれを皆に知らせなかったの?」

 

 霊夢は肩をすくめた。

 

「まあ、死体を調べるのに野次馬が来たら面倒だし、犯人像が大体掴める前に公表したら、誰に注意すればいいのかなんて全く分からないでしょ? 余計な疑心暗鬼を招かないためよ。まあ、どうせこれから公表するつもりだけどね。慧音、今日の夜から妹紅以外にも警備を回しておいた方がいいと思うわ」

 

「分かってる。しかし次の被害者がここだとは限らないと思うが……犯人はここを狙ってくるのか?」

 

「どうかな。まあ……」

 

 霊夢は何故か歯切れの悪い返事をすると、3人を残して外へ出て行った。

 

 

 

 

 

 




 ようやくミステリーっぽさが出てきました。しかし、一話の文章量が少ないのが頭痛の種ですね。今見てる未来日記のアニメが時間を取っているせいではありますが。
 今のところ、日曜に定期更新できるようになるのが今後の目標ですので、頑張って続けられたらいいなあと思っています。
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