幻想郷の悪魔さん   作:りっく

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マッドドクター永琳

 

 

 

 

 

 

 人里を出て、霊夢と魔理沙は再び永遠亭へと向かった。鈴仙が容疑者の一人だから、というのもあるが、用事はもう一つある。

 

「ほんとに小鈴の死体を持っていく必要があるのか?」

 

「大ありよ。小鈴は出かけた時に時計を見なかったらしいわ。つまり死んだ時間がいまいちわからないの。殺された時刻が分からないんじゃ、犯人の割り出しようがないでしょう?」

 

「まあ確かに……」

 

 魔理沙の箒には、大きな布の包みが縛りつけられている。もちろん中身は小鈴の死体で、魔理沙が霊柩車のような真似をするきっかけは、鈴奈庵を出ようとする霊夢に、

 

「待て。一応死亡時刻ははっきりさせておくべきだろう。永琳にこの死体を見せれば容疑者を絞り込む材料になるんじゃないか?」

 

と慧音が言ったためだった。

 

 具体的な死亡時刻が不明のままでは当然調査に支障が出るため、この死体運びは必要な仕事なのである。

 

「……でもわざわざ私にやらせなくてもお前が持ったり藍に頼んでスキマで永遠亭まで一気に行ったりすればいいんじゃないか?」

 

「小鈴の体重を私がずっと支えられるわけないでしょ!……まあこれは決して小鈴が重いというわけでは無いけど。藍に頼むのも無理よ。あいつは紫の能力の一部だけ式神としてプログラムされてて、紫の眠っている空間にしかスキマが開けないのよ」

 

「それじゃあ確かに無理だな」

 

 魔理沙は霊夢に死体運びを押し付けるのを諦めて、ため息をついた。

 

 

 

 

「なるほど、それでまた私のところに来たってわけ」

 

 永琳は椅子に座ったまま椅子を回転させ、2人の方に向き直ると、魔理沙の置いた布の包みに目をやる。

 

「まあ死体鑑定なんて久しぶりね。月ではほとんど死者なんて無かったし、幻想郷でもこういう犯人の分からない他殺体なんて滅多にないもの」

 

 永琳の言葉を聞いて、魔理沙は少し不安になってきた。つまり死体鑑定の経験があまりないのではないか……

 

「それって正確なの? 時刻がずれたりしない?」

 

「そこは大丈夫。経験が少ないっていっても、死体を扱うことは割とあるから。医者になる奴はたいてい死体を扱ったことがあるはずよ」

 

「扱うって……?」

 

「そりゃ、新種の病気にかかって死んだ患者とか変死の原因を突き止めるためとかね。まあ、死体の死亡時刻なら胃の中にある内容物とか死体の腐り具合でだいたい分かるわ」

 

「聞いてて吐きそうになるぜ……」

 

「よく平気でいられるわねえ……この事件の犯人よりよっぽどあなたの方が狂っているように見えるわ」

 

「検死しろっていったのはあなたたちでしょうに……それに、人の命を救うためにどんな気持ちの悪いことでもやるのが医者の務めなのよ。………まあ、ちょっと解剖楽しいなー、なんて思うことも無きにしもあらず、だけど」

 

「霊夢、もうこいつが犯人で良くないか?」

 

「そうねえ……まあ、手っ取り早く検死して頂戴。私たちは出て行って鈴仙に話を聞くから」

 

「分かったわ。15分くらいで終わるから、それまではこの部屋、空けない方が良いわよ」

 

「頼まれても開けないぜ……私はグロいの嫌いなんだよ」

 

 2人が出てくると、ちょうど鈴仙が廊下の向こうからやってきた。あちらも気づいたらしく、駆け寄ってくる。

 

「お二人とも、なんでまた永遠亭に来たんです? ……ひょっとして犯人捕まえて薬を回収してくれたんですか!?」

 

「いや、流石にそこまでスピード解決は出来ないわ。ちょっとあなたに聞きたいことがあってね。まあ立ち話もなんだし、どこかゆっくり話せるところはないかしら」

 

 霊夢がそう訊くと鈴仙は少し考えて、

 

「それなら私の部屋で話しますか」

 

 

 

 

 鈴仙の部屋はこざっぱりしており、無駄な調度の類は一切ない。一度見たことのある輝夜の部屋とは大違いで、脱ぎ散らかされた服や乱雑に積み上げられた外の世界の漫画本などは一切なく、掃除も行き届いているようだった。

 

「それで、お話とは何でしょうか」

 

 魔理沙と霊夢は足を崩して畳に座っているが、鈴仙は正座をしているため、見降ろされるような形になっている。

 

「ああ、確か鈴仙は2日前、人里に薬を売りに行ってたよな。いつからいつまでいた?」

 

「……それって私が疑われてるんですか?」

 

 訝しむように鈴仙は魔理沙に聞き返した。

 

「いや、そうじゃない。犯人を目撃したんじゃないかって思ってな」

 

 もしも鈴仙があの日人里にいなかった者がいたとでも言おうものならクロである可能性はかなり高まる。それはつまり、偽証で誰かに罪をなすりつけようとしている犯人の行動だからである。

 

「うーん、確か私は昼の2時から6時まで人里に居ました。その日は薬が思ったよりも売れなくて、いつもより長めに居たんです」

 

「怪しい人物は?」

 

「特にいませんでしたね。顔を隠す人も居なかったし」

 

「じゃあ誰か妖怪とか有力者に会ったりすれ違ったりしたか?」

 

「ああ、それはありますね。妹紅さんと、命蓮寺の……誰でしたっけ。そう、あの毘沙門天代理の人です」

 

「寅丸ね」

 

 寅丸星は命蓮寺にいる、毘沙門天の化身で、妖怪でありながら命蓮寺の信仰を集める、本尊代理である。かなりの人格者で、聖と共に妖怪からも人間からも慕われているが、多少抜けているところがある。

 

「それならその2人に聞けば、あなたが嘘を言っているかどうか分かるわね」

 

「やっぱり疑ってるじゃないですか!」

 

 鈴仙は憤慨した様子で、顔を紅潮させている。

 

「しかし妙だぜ。聖と寅丸は人里に来るときはいつも一緒だろ? その時聖は寅丸の近くに居たか?」

 

「いいえ、でも何か慌ててるようで、わたわたしてました」

 

「ちょっと怪しいわね」

 

 寅丸はきっちりしていそうで実はかなりのおっちょこちょいであり、何かミスをして慌てていたか、聖とはぐれてしまっていたというのはありそうな話である。とはいえ、その慌てていた原因が小鈴と関係している可能性は大いにある。

 

「まあ後で本人に聞くし、今はいいか。妹紅はどんな様子だった?」

 

「普通にすれ違っただけです。あ、あちこち辺りを見回してはいましたが」

 

 慧音は妹紅が見回りをしていると言っていたのでそれは不自然ではないだろう。話を聞くのには変わりないが。

 

 その後、3人で喋っていると、永琳が部屋に入って来た。

 

「鑑定終了よ。というか鈴仙の部屋に行くならそう言えばいいのに。探すのが大変だったわ」

 

「悪いわね。それで、どうだった?」

 

「残念ながら胃からは食べ物が出てこなかった、つまり夕飯を食べる前に家を出てきたってわけね。それで死体の腐り方から推測したんだけど、死亡時刻は午後7時から9時の間」

 

「なるほどね。一応聞いておくけど、冬の温度で計算した?」

 

「もちろん。外にほっぽってた時の時間ね。でも、すぐに騒ぎにならなかったってことはどこかに隠してあったんでしょう。それを加味してこの時間なのよ」

 

容疑者はこの時間に人里に居た人物、ということになる。それに照らして考えれば鈴仙はシロである可能性が高い。本人の言葉を信じるならば、だが。

 

「鈴仙は2日前いつ帰ってきた?」

 

 永琳に訊くと、「丁度6時くらいかしら」と答えが返ってくる。

 

「鈴仙は犯人じゃなさそうね」

 

 霊夢はがっかりしたように肩を落とした。

 

「なんで残念そうなんですか!」

 

 鈴仙の抗議を左から右に受け流すと、

 

「さあ、次は妹紅のところに行きましょう」

 

 霊夢は魔理沙に言った。妹紅の住処は竹林周辺にあるので、近いところから寄っていこうというのだろう。

 

 魔理沙が頷いて腰を上げたその時、「ああ、ちょっと待って」と永琳は2つの緑色の液体が入った小瓶を渡した。

 

「これは?」

 

「怪我を完治させる薬。犯人の抵抗があって怪我をしたらこれを使いなさい。まあ霊夢に致命傷を与えようとするとは思えないけど、魔理沙は十分気を付けたほうが良いわ」

 

 霊夢を殺すということは幻想郷そのものを壊そうとすることで、犯人自身も巻き添えで死ぬ。それを理解していない者は幻想郷にはおらず、霊夢は全員の命を楯にすることで、自身の命が保証されている、いわば「絶対に安全」な探偵だ。

 といっても魔理沙の方は殺される心配があるので、おとなしくそれを受け取っておくことにした。霊夢も一応と一本貰っている。

 

「ストックはもうこれ以外に2本ぐらいしかないから、いつでも渡せるってわけじゃないけどね」

 

「いや、ありがとう。これで多少致命傷を受けても大丈夫だ」

 

 魔理沙の言葉に永琳は少し笑った。

 

「じゃあ行きましょうか」

 

「そうだな」

 

 魔理沙と霊夢は永遠亭を後にし、妹紅の家へと向かった。

 

 

 

 

 

 




 法医学の本って読んでて楽しくなりませんか? 検死官はどこを見るとか知っていれば、完全犯罪もできるんじゃ……とトリックを考えてみたくなります。……やらないけどね!
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