幻想郷の悪魔さん   作:りっく

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各々の“2日前”

 

 

 

 霊夢と魔理沙が次に訪れたのは不死の蓬莱人、藤原妹紅の家だった。思っていたよりも家具の類は少ない、というよりも置いてあるもの自体が少ない。不死となったため、すぐ壊れてしまう物への頓着が無くなっているのかもしれない。

 妹紅は二人が来たと見るや、一旦奥に引っ込んでお茶を淹れ、再び現れた。霊夢の家で使用されるような何度も使ったお茶っ葉ではなく、きちんと新しいもので淹れられているようだった。

 

「で、あんたらが来た理由は多分、小鈴の話だろう?」

 

「なんでそれを知ってるんだ? さっきまで霊夢が伏せていたことなのに」

 

「いや、私はあの死体を小鈴の両親の次に早く見たからな。鈴奈庵の前を通りかかった時、丁度中から悲鳴があがって、どうしたものかと覗いたのさ」

 

 妹紅はそう言って茶を注ごうとするが、霊夢がそれを制する。

 

「もしあんたが犯人なら、毒盛って殺すでしょ?」

 

「はは、違いない。死ぬ奴は確かにそこらへん注意しないとな。……でも私には霊夢を殺すことは出来ないな。というか幻想郷に住む者なら絶対にしない」

 

 妹紅は霊夢に疑われているのを不快に思った様子もなく、自分の湯飲みにだけお茶を注ぎ、口をつける。

 

「で、多分今は全員のアリバイ調べだろう?」

 

「ええ。矛盾がある証言を言ったやつはその場で吊るしてやるわ」

 

「ま、私は吊るされても大丈夫だけど」

 

「確かにあんたは死にそうにないわね……結局ずっと不死のまんまなの?」

 

 霊夢がそう訊くと、妹紅はにやりと笑って、

 

「いろいろ試して、復活の中心となる魂を破壊するというのが一番効果的だったかな。……といっても、完全に死ぬわけじゃないが、一回それをやって復活に一年程度かかった。本質的に私が消滅する手段は何もないことになるな」

 

「ふうん、それは輝夜も一緒なの?」

 

「ああ、何かに詰められて湖の底にでも沈められない限りはぴんぴんしてるだろ。私としてはそれをやられると辛いんだよなあ」

 

 魔理沙は樽に入れられて湖に放り込まれ、何もない闇の中に意識のみが存在しているーというのを想像してしまう。ある意味死よりもひどい状態かもしれない。

 

「ま、いいわ。妹紅、二日前は何をしてた?」

 

「人里の見回りだな。……火事が最近多いからな、始めたんだ」

 

「情報通りね。それで? 誰か妖怪とか力のある人間に会った?」

 

「うーん、妖怪なら永遠亭の薬売りの兎と、人間なら咲夜だ」

 

 鈴仙が出てきたので、今のところ嘘を言っているようには見えない。通常自分の犯行以外の関係ないところで嘘をつく犯人などあまりいないので、それが妹紅を信用に足る人物だと決定づける要因にはならないが。

 

「そういえば慧音も咲夜が来ていたって言ってたわね。なんで来てたのかしら。食材を買いに?」

 

「いや、武器屋でものを買っていたよ」

 

「武器屋?」

 

 幻想郷では、人里の外に野良妖怪が出没する地域も多い。人間は里の外を武装して歩くので、そんな商売が成り立っているのである。

 とはいえ、咲夜はそんな武器などなくとも、彼女の能力と銀のナイフで十分戦えるはずだ。今更何を買いに行ったのだろう。

 

「鉄の槍、だった。結構重たいやつ。なんでそんなもん買うのか聞いてみたら、お嬢様が槍投げにハマったらしくてな」

 

「スピア・ザ・グングニルじゃ駄目なのか?」

 

「さあ……というか私としてはそんなことより、鉄の槍で小鈴を殺せるんじゃないかと思うんだ。背後から殴られたんだろ? 槍は穂先の逆にある石突を使えば、棍棒みたいな使い方もできるのさ」

 

「でも人間である咲夜に頭蓋骨全体にひびが入るぐらいの殴打をできたのか、そして咲夜の筋力が槍を振り回せるくらいあったのかが疑問ね」

 

 咲夜が容疑者として考えにくいのはその点である。犯行を行えたのは力が強い者。咲夜は確かに能力や戦闘技術といったものは優れているが、身体能力はあくまで普通の、非力な人間だ。あの犯行が可能だったとは思えない。

 

「ま、あくまで当てずっぽうだ。そんなに気にしなくてもいい」

 

 妹紅は手をひらひらと振ると、そう答えた。

 

「で、妹紅は夜に、何をしてたの? 教えてくれない?」

 

 霊夢が少し踏み込んだ訊き方をする。

 

「午後の6時くらいから慧音の家で飯を食ってたかな。で、慧音は6時半ぐらいから寄り合いがあるって言って出て行ったあとに、私は30分ほど見回りをして、慧音のところに戻ってきて10時に慧音は帰って来たな」

 

「ちょっと待て。なんでお前は慧音のところに居たんだ?」

 

「ああ、最近の見回りの為に慧音が家を貸してくれてるんだ。今日は非番だからここにいるけどね」

 

「ふむ。なるほど……」

 

 妹紅は30分ほど見回りに出て行ったと言っているが、これはアリバイにならない。妹紅以外にそれを示している者が居ないからだ。しかし、慧音は出かけた時間帯や戻ってきた時間帯が寄り合いにかかる時間を考えても、なかなか小鈴を殺す時間帯にはぶつからない。阿求に聞いたところ、寄り合いは7時から9時半の間に行われた、つまり慧音が犯人となるとどうしても死亡時刻と合わない。

 よって、妹紅自身の無実は証明できないが、慧音を犯人候補から外すことは出来るだろう。

 

「で、その日の夜の見回りに怪しい人物は居なかったの?」

 

「ああ、特に妙な奴は居なかったな。……いや、あれだ。命蓮寺の……」

 

「寅丸?」

 

「そうそれ。そいつが遅くまでいたから、声をかけたんだった」

 

「へえ、何て?」

 

 鈴仙も寅丸に会ったと言っていた。魔理沙が続きを促すと、妹紅は茶で喉を湿らせてから話し始めた。

 

「確か、聖とはぐれた、みたいなことを言っていた気がするな。私が「どうせ帰る所は同じなんだから、命蓮寺に帰れば」って言ったら、「ああ、そうですね」って帰っていったかな。よっぽど慌てて、そこまで気が回らなかったのかもな」

 

「ふーん……で、寅丸に会ったのは何時ごろ?」

 

「10時だ」

 

 妹紅が仮に犯人で無かったとするなら、寅丸はこの時点でほぼ犯人といってもよいほど怪しい。二人の目撃情報があることから、彼女が聖を探して慌てていたことは分かる。しかし、鈴仙と妹紅が寅丸を見たという間には少なくとも4時間以上の開きがあるのだ。普通、それだけ時間があれば落ち着いて命蓮寺に帰ろうという発想が出るのではないか。

 

 魔理沙が考え込んでいると、妹紅は、

 

「ま、話せるのはそれぐらいかな。そろそろ見回りだから、帰ってもらってもいいか?」

 

と、2人を追い出した。

 

 

 

 

 

「で、ここに来たわけですか」

 

 妹紅の家を追い出された二人は、命蓮寺へ行き、寅丸と聖に会っていた。

 命蓮寺の住職を務めている聖白蓮は僧侶であるが、種族的には身体強化の魔法を使う魔法使いである。寅丸と同じく、妖怪からも人間からも慕われている。

 聖は微笑を湛えたまま、霊夢と魔理沙を見た。その隣には寅丸が座っている。

 

「ええ、その日に何をしてたか聞きたくてね」

 

 魔理沙が言うと、聖が、

 

「その日は布教のために人里へ行っていましたね。昼頃から行って、夕方には帰ってくる予定だったのですが、星とはぐれてしまって、とりあえず先に命蓮寺に帰っていました」

 

と答える。それを聞いて寅丸はすまなそうに眼を伏せた。

 

「すみません、聖。私も気が動転していたもので」

 

「いいんですよ。あなたのおっちょこちょいは知っています」

 

 との答えに、寅丸は、責められなかった嬉しさと、粗忽者であると断じられた不満とがない交ぜになった、複雑な表情をした。

 

「寅丸はあちこち歩き回ってる最中に誰か見かけなかった?」

 

「うーん、慧音さんと妹紅さんですかね」

 

 寅丸は、歩き回っている時に、慧音とばったりであったのだという。慧音は寺子屋の方角から歩いてきており、寄り合いへ向かうついでに、寺子屋に置いていた忘れ物を取りにいっていたらしい。

 

「忘れ物って?」

 

「里の寄り合いの会費みたいなものらしいです」

 

「そりゃあ確かに必要ね」

 

 その後、散々歩き回った後、見回り中の妹紅に出会って、帰ることになったのだという。

 

「他に会った人は?」

 

「居ませんよ」

 

「ふーん、そう」

 

 寅丸に関しては情報が少なすぎる。聖はすでに帰っていたようだし、(後で確かめたら実際その通りだった)人里をうろついていた時間が長すぎるからだ。小鈴の殺害が最も容易であったのは彼女しかいない。

 事実霊夢も、言葉には出さないが、寅丸を怪しいとみているらしかった。寅丸の方はそれを知ってか知らずか、霊夢の質問に丁寧に答えていた。

 

「……まあいいわ、そうだ、マミゾウは? 命蓮寺に住んでいるんでしょう?」

 

 霊夢は、これ以上有効な情報を引き出せないと思ったのか、命蓮寺のもう一人の容疑者に話を聞くことにしたらしい。しかし、寅丸は首を横に振った。

 

「いえ、今あの人は人里に遊びに行ってます。なんでも、鈴奈庵に行くとか」

 

「………」

 

 犯人は現場に舞い戻るとは言うが、それなのだろうか。単純に、鈴奈庵の常連であるから、ということも十分にあり得るが。

 

「じゃあ一応咲夜に話を聞いてから人里に戻りましょう」

 

 

 

 

「咲夜にお使い? させたわよ」

 

 レミリアは地下図書館でパチュリーとチェスを指していた。勝負は今のところ互角のようで、パチュリーの手番である。

 

「最近運動不足で不健康だから、槍投げでも嗜もうかと思ってね」

 

 レミリアが指を鳴らすと、鉄の槍を携えた咲夜が現れた。咲夜が半ば引きずるようにして持っている槍をレミリアは軽々と持ち上げると、

 

「魔力で作り出すグングニルと違ってしっかり重みがあるほうがいいのよね」

 

くるくると人差し指の上で回す。やはり見た目は幼くても吸血鬼、並外れた力を持っている。

 

「それで、咲夜がいつ帰って来たか、ねえ。よく覚えていないわ」

 

「咲夜は?」

 

「覚えてないわ。大体、何でそんなに二日前の話を聞きたがるの?」

 

 どうやら紅魔館には人里での事件はまだ伝わっていないらしい。レミリアも咲夜も、(チェスで長考しているパチュリーを除いて)ここにいる紅魔館の面々はきょとんとして二人を見据えた。

 

「鈴奈庵で小鈴が殺されたんだ」

 

 魔理沙が事件の概要を話すと、レミリアは納得して、

 

「……ふうん、なるほどね。咲夜を疑ってるってわけ」

 

 先ほどの質問から、こちらの考えを推測したらしい。レミリアは目を細めた。

 

「まあ、そうね。でも、咲夜は能力的にアリバイを絶対に作れないから、聞いてもどうしようもないのだけれど」

 

 例えば時間を止めている間に紅魔館から人里へ行き、小鈴を殺害してから帰ってきて、時間停止を解けばそれでいい。つまり、咲夜に対しては一瞬でも誰かに姿を見られていなければ、アリバイは成立しないのである。

 

「いや、私は基本的に十数秒しか時間は止められないわ」

 

 咲夜の言葉に、レミリアが頷く。

 

「ええ。時間停止に使う霊力とか、体に掛ける負担を考慮して、咲夜は長く時を止めることはできない」

 

 それはおそらく本当のことだろう。それほど長く時間を止められるのなら、目の前にいる咲夜はこれほど若々しい容姿ではありえない。とっくに寿命がきているはずだ。

 

「じゃあ咲夜のアリバイは一応あるってことね」

 

 レミリアも、先ほどの性格逆転薬の話を聞いていれば、身内だからと言ってかばうような真似はしないはずである。

 その後、咲夜に誰かと会ったか聞いてみたが、それも覚えていないとのことだった。

 

「邪魔したわね」

 

 霊夢はそう言って、さっさと出て行った。もうここに居ても収穫はないと思ったのだろう。残された魔理沙は、レミリアに一つだけ聞いておきたいことがあったので、とどまっていた。

 

「運命が操れるんなら、犯人が捕まるようにしてくれないか?」

 

「貴方、強引と言うか……手っ取り早い解決法がお好みみたいね」

 

 レミリアは呆れたように言った。

 

「私の能力はぼやっとした未来のイメージを予知して、出来事を推測して、行動を変える、いわば未来視のようなものなの。直接どうなるかはわからない」

 

「じゃあ、この事件がどうなるか見てくれないか?」

 

「それくらいなら……」

 

 レミリアはしばらく目を閉じ、開いた。

 

「で、どうだった?」

 

 魔理沙が訊くと、レミリアは首を捻った。

 

「よく分からないわね。なんというか、恐ろしいことが起こるような、取り返しのつかない破局が訪れるような、不吉なイメージはあったけど」

 

「また誰か死ぬのか……」

 

 容疑者はある程度絞り込んではいるが、まだ特定はしていない。このままもたもたしていると、さらに数人は死ぬだろう。

 

「いや、違うわ。この予知は個人に、ではなく幻想郷全体を対象としている……つまり、幻想郷全体に不幸が降りかかるわね」

 

「どういうことだ?」

 

 魔理沙が聞き返すと、レミリアは首を傾げた。

 

「さあ? 私には見当もつかないわね」

 

 ふと目にはいったチェスの盤には、破滅の未来を暗示するように、シャンデリアの光が暗い影を落としていた。

 

 

 

 

 

 

 




 今回はパソコンで書いてみたのですが、やはりスマホよりも断然書きやすいですね。おかげで調子に乗って、事情聴取のシーンが長めになってしまいました。
 次回から事件が動き出します。
 
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