タイトルはいつか付けます。   作:補う庶民

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よろしくお願します


1話

見覚えのない部屋にいた。

広さは2畳ほどだろうか、四方は壁に囲まれていて窓もなければドアすらなく、息が詰まりそうだ。

電球は切れかかっていて、たまにしか部屋が明るくならない。

部屋の中には学校で使われている木の机、そして椅子が二脚置いてある。

 

俺は何故か疲弊しきっていて、息も絶え絶えになっていた。

 

「さぁ、契約だ。渡してもらおうか!」

 

隣にいる男は笑いながらこちらを見ている。

 

「わかってますよ。ほら」

 

俺は持っていた本を彼に渡した。

男はその本を白衣の内ポケットにしまうと机の上に置いてある二つの小瓶の一つを俺に差し出した。

小瓶の中には何か液体が入っている。

 

「これを使えば元の生活に戻れる。貴様との関係もこれで終わりだ」

「そうですね......」

 

小瓶を受け取って蓋を開ける。

かすかにアルコールの匂いがした。

 

「貴様は少なからずこの出来事を忘れてしまう。俺と出会った事も、この不思議な出来事もだ」

「こんなの忘れられるわけないじゃないですか!」

「いいや、忘れる」

 

男は小瓶の中の液体を壁に掛けた。

濡れた壁をよく見ると何か模様が書かれていて、男がその模様に触れると仄かに光りだす。

 

「貴様も早くやれ。ここに長くいてもなんもいい事はないだろう」

「ええ......。分かってます」

 

俺も向かいにある同じ模様の書かれた壁に液体を掛ける。

壁に手を置くと、体から力が抜けていくのを感じた。

 

「あの、最後に一つ言ってもいいですか?

「どうした?」

「俺も〇〇さんの———の一員に入れてくれませんか?」

「フッ、どうしても入りたいのか?」

「はい。どうしても」

 

体からどんどん力が抜けていく。

それに比例して模様がどんどん光っていき、

最終的に目の前の壁が消え去った。

 

「フゥーハハハ!覚悟は決まっているようだな。よかろう。貴様は———ナン———だ!」

 

頭にノイズが入る。

 

「よかった......」

 

足を一歩前に出す。

 

「さよなら」

「ああ。戻ったら———と——————くれ」

「ふふっ。—————————」

「———。——————」

 

会話もそこそこに、俺はゆっくりと歩き出した。

5分も歩かないうちに意識が朦朧としてくる。

 

 

そこまで来てようやく気付くのだ。

 

「ああ、なんだ。夢か」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

———次は〜 上野〜 上野〜。お降りの際は———

 

車内アナウンスで目が覚める。

いつのまにか寝てしまっていたらしい。

車内は満員で、俺のスーツケースは完全に邪魔になっているみたいだった。

 

「またいつものか......」

 

いつからか、変な夢を見るようになった。

夢の内容は変わらず、変な部屋から始まる。

夢の中で俺と男は何かをしたらしい。

最初は奇妙な夢、そして何度も繰り返して観るということでビビっていたが、最近だと見る頻度も減り、なんとも思わないようになった。

 

ドアが開くと人が一気に降り始める。

俺も急いで立ち上がって後に続く。

ほとんどの人はこの駅で降りていくようで、振り返ると電車内はもうガラガラになっている。

少しすると電車のドアは閉まり、走り去っていった。

 

「えっと、中央改札で良いんだよな」

 

まるで迷路のような駅を彷徨い、なんとか無事に脱出する。

待ち合わせ場所をマップで検索していると、友達からラインが届いた。

 

“もう待ち合わせ場所に着いちゃってたりするか?”

“今は上野駅に着いたところだよ。中で迷っちゃってさ”

“分かる分かる。俺でもたまに迷うからな”

“どうしたの?まだ時間はあるはずだけど”

“昼食がまだだったら先に飯でも行こうかと思ってさ”

 

時間はちょうどお昼時だ。

朝はしっかりと食べた筈だが、なんだかお腹が空いてくる。

 

“コンビニでおにぎりでも食べて行こうかと思ってたんだけど”

“だめだだめだ、そんなんじゃ!”

“なんだよ(笑) そのテンション”

“せっかくだからもっと美味しいもの食べようぜ。何か食べたいものはあるか?奢るぞ”

“丼ものかな”

“了解  じゃあ、待ち合わせ場所でな”

“わかった”

 

ラインを終えて検索に戻る。

 

「ここから・・・20分くらいか。思ったより近い」

 

マップを確認しながら目的地に向かって歩き始める。

少し急いで行こうか、とそんなことを考えているうちに......電車の中で見た夢のことは、すっかり頭の中から抜け落ちていた。

 

 

 

 

 

待ち合わせ場所に着くと、彼はもう着いていた。

俺に気付くと駆け寄ってくる。

 

「3年ぶりだなぁ、おい。一瞬、誰だか分かんなかったぞ」

「俺もだよ。身長も高くなっちゃってさ。あの頃は一番身長が低かったのに」

「ははは!まぁ、まだお前には負けてるけどさ。これからは分かんないぜ?成長期っていうビックイベントがまだ残ってるからな」

「俺の方が伸びるかもよ?」

「ないね。俺が勝つに決まってる」

 

互いに笑い合う。

こんな馬鹿みたいな会話も久しぶりだ。

 

「じゃあ、飯を食いに行くか」

「そうだね。ヒロ、案内よろしく」

「任せろ。こっちだ」

 

ヒロの後について行く。

人混みが多く、ちょっと目を離すと見失ってしまいそうだ。

 

「......あのさ。いくつか質問があるんだけど」

「どうしたのよ」

「なんでメイドさんがチラシ配ってるの?」

「メイド喫茶で働いてるからだろ」

「じゃあさ、なんでビルにアニメのキャラの絵が書かれてんの?」

「それは、まぁ、なぁ......」

 

彼は呆れたようにこっちを見ると、

 

「秋葉原なんだから当たり前だろ」

 

そう言った。

 

「そうなんだけどさー」

「言いたいことはわかるぜ。上野と比べると一気に変わるもんな」

「びっくりしたよ」

「わかるわかる。大丈夫、すぐ慣れるから」

「あんまり慣れたくないなぁ」

 

はっはっは、と楽しそうにヒロは笑う。

そして俺を見ると嬉しそうな顔で

 

「ようこそ、秋葉原へ」

 

「これから一緒にこの町に住むんだ。楽しんでいこうぜ、親友」

 

と、そう言った。

 




ありがとうございました

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