《前編:出題編》
千歌「なにそれ?24時間営業?なぞかけ?」
曜「違う違う。ネットで見つけた都市伝説なんだけど、何でもその部屋はどの時間でも必ず誰かがいるんだって。例えば夜で、その建物が全て消灯されていても、その部屋だけ電気が消えることもなくてずっと誰かが部屋のなかにいるんだって。」
千歌「へー。それで?」
曜「それだけ。」
千歌「ん?続きは?」
曜「これでおしまいなんだ。話は。」
千歌「そうなの?」
曜「うん。説明はこれだけしか書かれてなかったんだ。だから何でこれが都市伝説としてネットに書かれてたのかなって。これだけだと何でこれが都市伝説になるのかよくわからないしね。ふーん、で終わる話に見えるんだけどね。それで千歌ちゃんに聞いてみたんだ。」
千歌「ああなるほど。でも私も特に引っ掛かることはないかな。あるとすれば曜ちゃんと同じで「何で都市伝説?」ってことくらい。」
曜「やっぱりそうか・・。まあいいや。それじゃあ私はちょっと水泳部の方に用事があるからそれが終わったらすぐ練習に行くね。」
千歌「はーい。りょうかい!」
曜「うん!じゃあまた後でね!」
***
曜ちゃんと別れたあと真っ直ぐに部室へと向かう。次のライブは来週の週末。あまり時間はないし、頑張って練習しないと。
(それにしても曜ちゃんって都市伝説とかわりと好きなのかな。)
そんなことを考えながら歩いていると突然、通りすぎた準備室らしき部屋からドアをドンドンと叩く大きな音がした。
千歌「わ!?」
(びっくりした~)
???「誰かいませんか!誰か!」
扉の向こうで誰かがドアを叩きながら、誰かが必死に叫んでいる。
千歌「どうかしましたかーー!」
???「誰か!いるなら開けてください!」
どうやらこちらの声は聞こえていないようだった。部屋の中の人はずっとドアを叩き叫び続けている。
千歌「今開けます!」
横開きのドアに手をかけ勢いよく開く。
ガラガラガラ
思いの外ドアは簡単に開いた。特に鍵がかかっていたり、開くのが重かったりもなかった。
千歌「あれ?」
部屋のなかには誰もいない。ドアを叩く音も助けを呼ぶ声も、開ける直前まではしていたはずなのに。開けた瞬間ピタリと止んだ。
千歌「誰かいませんかー・・?」
誰もいない部屋に試しに声をかけてみるが返答はない。おかしいなと思いつつも部屋の奥にもドアがあることに気付き、そうか隣の部屋と繋がっているのかと納得する。そのドアにも手をかけて開いてみる。
ガチャリ
「あれ?」
奥の横のドアを開け隣の部屋を除いても誰もいない。自分は確かに叩く音と声を聞いたはずだった。だが誰もいない。隣の部屋の廊下へのドアも調べるが鍵は閉まっており、内側から鍵をかける仕様なので出られないはずだ。
(え・・これって・・ホラー?)
その可能性が頭をよぎり、急に怖くなってくる。
(やばい。すぐ出よう。)
すぐに最初のドアまでUターンし、ドアの取っ手に手をかける。が、
ガタッガタッ
千歌「え!?開かない?」
思い切り横に引いてみてもびくともしない。完全に鍵が掛かっている。
(何で?私が入ったときに誰かが外から鍵を閉めたの?管理人とか?でもまだそんな時間じゃないはずなのに…?)
(そうだ隣の部屋のドアなら…)
ガチャリ
(鍵は開いた、よし!)
ガタッ
(え!開かない!?何か引っかかってる?)
千歌「なん・・で・・・。」
こうして高海千歌は部屋に閉じ込められた。
***
あれから何度も開けようと試したがどちらもびくともしない。その間誰かが部屋の前を通る音もせず、自分が出す音以外は何もない、静寂に包まれていた。
千歌「はぁ~どうしよ・・。」
窓も念のため確かめてみたが開かず、そもそも開けれたとしても降りられるような高さではない。誰かを呼ぼうとスマホを開くが何故か圏外。
(早く練習に行きたいのに・・。待つしかないか。)
閉じ込められたと気づいたときは怖くて仕方なかった。が、部屋を調べても特に何も変わったところもなく、窓からは外が見えるのですぐに落ち着いた。まだ昼過ぎなので日が沈む様子もなく、外は明るい。ドアが開かないのは、鍵を誰かが外から知らずに閉めたか、ドアの取り付けが悪かったか、何かに引っ掛かって動かなくなったか。はたまた偶然そんな感じの不運が続いたか。そんなところだろう。
(なんか眠くなってきたなー…。)
待っても待っても人が来ない。ずっと立っていても疲れるので、部屋にあった(机に備えつきの)椅子に座ることにした。部屋には机が4つあり、2×2できれいに接して置かれている。その机の上には筆記用具や教科書が並べられていたが、埃を被っていた。廊下側の机の椅子に座る。
(みかんでも食べよ。)
鞄にはいつもみかんが携帯してある。練習のあと、昼食後のデザート、お腹が空いたとき。みかんの存在は私にとって欠かせない重要アイテム。
(練習のあとに食べようと思って一個だけ持ってきたんだけどね。まあいいや、今食べちゃっても。疲れちゃったし。)
机の上にティッシュを広げみかんの皮を剥き始める。
千歌「いただきま~す。モグモグ」
太陽をたくさん浴びて育ったみかん。栄養豊富、水分も豊富で甘酸っぱくておいしい。まさに内浦の宝、太陽と大地の恵みである。
千歌「ん~!おいしい!」
何度食べても飽きないこの味。たった5分で平らげてしまった。
千歌「誰か来ないかなぁ……。Zzzz…。」
***
千歌「Zzzz…。……ん……あれ?」
気がつけば机に突っ伏して寝てしまっていた。机の隅には先程食べたみかんの皮を包んだティッシュがそのままに置かれていた。
千歌「私寝ちゃってたのか……。今何時くらいかな?」
顔を上げて周囲を見渡したが時計はない。が窓から不意に見えたその光景に驚愕する。
千歌「!!もう夜になってる!」
外はさっきとは打って変わって、真っ暗になっていた。たまたま近くに街灯すらなかったのか、外の様子はよく視えない。スマホを確認すると時刻は既に22時を過ぎていた。
千歌「そんな……もうそんな時間…。そうだ、鍵は!」
急いでドアまで駆け寄って開けようと試みる。しかしどちらとも特に変わった様子もなく、依然として開かないままだった。
千歌「誰も通らなかったの?電気は付いたままだったのに。学校の鍵って最後に全部閉めるために管理する人が回りにくるはずだよね…。」
気づかなかったのだろうか。でもそんなはずはない。だとしたらそもそもここに誰も来ていないのかもしれない。戸締まりをするにしたって毎日校舎全てを点検するとは限らない。生徒数の少ないこの学校ならありそうな話だ。
千歌「どうしよ…。誰も来なかったら明日まで待たないといけないよね…。」
途方にくれ、その場に座り込む。私が帰らないことに気付いた志満姉や美渡姉が探してくれればいいが、それにしたってまさか”戸締まりの終わった真っ暗(準備室以外は恐らく)の”学校の準備室に閉じ込められているとは思わないだろう。帰り道や友達の家、近所を先に探すはずだ。期待度は高くない。
千歌「はあ~…。」
もう一度ドアが開かないか確かめてみる。窓も確認するがやはり閉まっている。スマホも残念ながら圏外のままだ。
(これが一番の謎だよね。なんで圏外なんだろ。故障?)
疑問に思いつつも分からないので待つしかないかと考えていたその時だった。
ガタガタガタガタ
千歌「うわ!地震?」
震度は2か3ぐらいだろうか。そこまで大きくはないが揺れで物や建物がギシギシといっている。此処はたしか3階だったので、余計に揺れは感じやすい。急いで机の下に隠れる。
(こんなときに地震だなんて運がないなあ。)
早くおさまらないかと待つが、揺れが収まる気配はない。1分、2分、3分と経っても同じだった。幸い揺れは大きくはなってはいない。
(危ないけど一回出てみよう。)
机の下からものや電灯が落ちていないか、落ちてきそうにないか確かめ机の下から這い出ようとする。だが窓の方を見ておかしなものがあることに気づく。
そこには窓がなかった。それどころか隣の部屋へ続く奥のドアもない。そして自分のいた机の奥(窓側の)の机2つが半分消えていた。
あったのは大きな”黒い壁”だった。
千歌「何なのこれ!」
その表面は沸騰した水のように、泡を吹き出していて何かの液体にも見える。壁に接する床をみると、徐々にだがこちら側に近づいているようだ。黒い壁の向こう側は何も見えない。
(これ飲み込まれたらヤバイんじゃ…。)
背中に寒気を感じる。もう誰かが探しに来るのを待ってはいられない。
(急がないと…!)
ドアを無理にでも開かないか、全力で力をいれ続ける。だがやはりびくともしない。次に体当たりや飛び蹴りで突き破れないかと試すがやはりびくともしない。ドアにある半透明のガラスは割れないだろうかと、椅子を振り上げ思いきり下ろすがヒビすら入らない。
そうしている間にいつの間にか黒い壁は最後の机をも飲み込み、距離は約2Mほどになっていた。
(早くしないと…!)
最後の手段とばかり椅子を振り上げては下ろし、ドアが開かないか試しを繰り返す。黒い壁との距離が1.5Mほどになったときだった。
バシャン
振り上げた椅子がたまたま黒い壁と接触してしまったらしい。その時に出た音のようで、少し驚く。もう一度椅子をドアに叩きつけようと椅子の足を強く握ったその時、さっきより椅子が軽くなった気がして不意に手元を確認する。
そこは…壁に触ったと思われる部分が消えていた。まるで鋭利な刃物で切ったかのようにきれいさっぱりに椅子の背もたれの2/3がなくなっていた。
千歌「ひぃ!」
そうこうしているうちに壁は残り1Mというところまで来ていた。もう十分に動ける場所もない。
千歌「誰かいませんか!誰か!」
必死にドアを叩いたり、開けようともがきながら叫ぶ。
千歌「誰か!いるなら開けてください!」
泣きながら必死に訴える。
千歌「お願い!誰か助けて!」
背中に壁の存在を感じる。ああもうダメだ。怖い。壁に飲み込まれたらどうなるのか。みんなに会いたい。嫌だ。死にたくない。怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
Aqoursとして活動した思い出、家族、友達、まるで走馬灯のように蘇ってくる。ああ、これが走馬灯なんだなとか思ってしまう。
背中に壁の感触を感じる。冷たくて、もぞもぞと動いていて気持ちが悪い。なんでこんなことになったんだろう。
段々と意識が遠のいていく。手が足が体の感覚が消えていく。
千歌「助けて……。」
終わりだと思った時だった。
ガラガラガラ
自分の体を支えていたものが突然消える。バランスを崩し、前に倒れこむ。
千歌「ふぎゃっ!」
眩しい。さっきまで暗くてひたすらに狭かったのにその圧迫感は突然に消え失せ、その明るさに目が開けられない。
千歌「開いたの…?」
ゆっくりと起きあがり振り返る。そこは紛れもなく準備室前の廊下だった。自分はその廊下にうつ伏せで倒れている。ドアの開いたその部屋の中には机、椅子、窓、奥にはドア。黒い壁は忽然と姿を消し、全てが元通りになっていた。
最後には持っていなかった鞄も何故か手に握られていた。
梨子「あれ?千歌ちゃん何してるの?」
声のする方へ振り向くとそこには梨子ちゃんがいた。
千歌「ヒック…うぅ…怖かったよ~!」
全力で彼女を抱き締める。思いきりいきすぎたせいか、彼女はバランスを崩し膝をつく。
梨子「えぇ!どうしたの千歌ちゃん!」
千歌「うぅ……ぐすっ……。」
梨子「大丈夫?」
千歌「大丈夫じゃないよ…。」
梨子「どうしよ。とりあえず部室いこ?」
千歌「うん……。」
こうして2人は部室に向かった
最後まで読んで頂きありがとうございます。面白かったら後編もぜひ。