《後編:解答編》
~部室~
果南「それで…これはどういう状態なわけ?」
床に座った梨子の膝の上にはうつ伏せで顔を沈める千歌。それを取り囲むように立ったり座ったりしている7人。
曜「水泳部の練習が終わって校門前で千歌ちゃんを待ってたら、梨子ちゃんから急いで来てって電話が来て。ビックリしたよ。」
ルビィ「ぅゅ....掛け持ちは大変だね…。」
善子「ところでこれは何イチャついてるの…?」
ダイヤ「違いますわ、善子さん。どうも千歌さんが泣いていて梨子さんから離れないようですの。今は落ち着きましたが。」
善子「そうなの?ていうか善子じゃなくてヨハネ!」
梨子「うん…。だけど私もなんで千歌ちゃんがこうなったかわからないんだ。部室に来る途中に千歌ちゃんにあったんだけど、教室から出てきたと思ったら急に泣き出しちゃって…。それからずっとこんな感じなの。」
曜「何かあったの?千歌ちゃん。」
曜の問いかけに反応し、千歌ちゃんは体を起こす。眼は少し充血しており、泣いた跡が残っている。
千歌「うん…実はね…。」
✳✳✳
千歌「…ってことがあったんだ。それでその教室を脱出した後、偶然梨子ちゃんが通りかかってここまで連れて来てくれたんだ。」
花丸「何ずらそれ。心霊現象とかミステリーずら?」
果南「とても信じられないけど…。夢とか幻覚みてたわけじゃないよね?」
千歌「ホントだよ~!」
善子「その前にさ…、まず千歌の話が本当なら昼過ぎに閉じ込められて少し昼寝したら夜になってて。だったら時間はどうなってたの?」
千歌「そ、そうだ!今は何日の何時なの?」
スマホを確認する。時刻は昼の1時過ぎ。日時は閉じこめられてスマホを確認し、22時が表示されていた日時と同じ。
千歌「私が部屋に入ってからほとんど経ってないじゃん…。」
梨子「タイムリープでもしてきたの?」
善子「そういうことになるわね…それかその部屋の時間が止まっていたか。」
鞠莉「とりあえず見てきましょ、その教室。ちかっちのように誰かがまた閉じ込められる危険性もあるだろうし、理事長としてそんな危ない部屋は放っておけまセーン!」
千歌「行くの!?危ないよ!もしなにかあったら!」
果南「大丈夫、私も行くから。ちょっと見てくるだけだし大丈夫だよ。他に誰か行く?」
花丸「オラも行くずら。ちょっと興味わいたずら。」
ルビィ「ぅゅ…る、るびぃは怖いしいいや…。」
善子「私は気になるけど、この不幸体質があるから止めとくわ。」
花丸「善子ちゃん…成長したずらね…!」
善子「私を何だと思ってたのよ!ていうかヨハネよ!」
ダイヤ「私はいいですわ。鞠莉さんたちに任せますわ。」
鞠莉「そんなこと言ってほんとは怖いだけなんでショ(笑)?」
ダイヤ「な!?ち、違いますわ!」
曜「私もいいや。ここに残るよ。」
梨子「私も千歌ちゃんが心配だし…。」
果南「よし、じゃあこの3人で行ってくるよ。」
千歌「ホントに気をつけてね!」
鞠莉「任せなサーイ。心配しなくても大丈夫よ。」
花丸「じゃ、行ってくるずら。」
✳✳✳
果南「千歌が言ってた部屋はここだね。」
人通りは生徒の人数の少なさもあり多くはないが、同じ階にいくつかの特別教室や生徒の教室があるため、時々人が通る場所。ドアは開きっぱなしで、廊下からみる限りは千歌の言っていた通りの間取りに見える。
鞠莉「特に変わったようには見えないけど…入ってみる?」
果南「うん。念のため閉じ込められないように、花丸はここで待っててくれる?」
花丸「わかったずら。」
~2分後~
花丸「どうだったずら?」
鞠莉「特に何も起こらなかったわ。ただの準備室だったわ。ちかっちの言う通りね。」
果南「とりあえず戻ろうか。」
✳✳✳
〜その頃の部室〜
千歌「果南ちゃん達大丈夫かな…。」
善子「大丈夫よ、私の勘だと十中八九何も起きないわ。そんな都合よく怪奇現象なんて起きない。ましてただの学校の一室ならなおさらね。」
ルビィ「善子ちゃんがいうと逆になにか起こるんじゃ…。」
善子「だ、大丈夫よ!この体質は基本的に私自身しか不幸にならないんだし。ルビィだって今まで一緒に居たけど大丈夫だったでしょ?」
ルビィ「ま、それもそうだね。」
曜「千歌ちゃん、もう大丈夫?今日はこんなだし練習は止めておいた方がいいかもね。」
千歌「少し落ち着いたし本番まで時間もないから…。練習してくよ。」
梨子「あんまり無理はしないでね。私たちも心配だし。」
千歌「うん、気を付けるね。」
ダイヤ「とりあえず何か食べて元気でも出してはどうですか?長時間閉じ込められていた上にこのあと練習もするのですし。」
千歌「そうだね、でも不思議とお腹も減ってないんだ。疲労もないし。それもあってさっきの体験は夢だったんじゃないかとも思えてくるんだ…。」
梨子「それはないよ。そうだと千歌ちゃんがあの教室から泣いて飛び出してきたことも説明つかないし。まあ、無理矢理なら夢オチでしたーって説明をつけることもできるけど…。」
ダイヤ「その線は外しましょう。夢にしてはリアリティが有りすぎますもの。いくら悪夢でも、起きた途端号泣っていうのは無理がありますわ。」
千歌「そっか…。そうだよね。とりあえず何か食べよっかな。」
(部室には食べ物は置いてないし、みかんは一個だけあったけど食べちゃったし…。他に何か入ってたっけ。)
鞄の表のうちポケットには貴重品、スマホ。大きなスペースには練習着、水筒、タオルが入っていたはず。とりあえず全部取り出す。
千歌「あれ?」
食べ物があった。いつもなら幸福に包まれるこの瞬間が今日だけは違った。
千歌「なんで…なんでみかんがある…の?」
私の驚愕した声に、皆の注目が集まる。
曜「どうしたの?」
千歌「今日食べようと思って一個だけみかんを持ってきてたんだけど…教室に閉じこめられた時食べたんだ。でも今鞄を見たら…食べたはずのみかんがあったの。」
ダイヤ「2個持ってきたのでは?」
千歌「みかんは鞄にずっと入れとくわけにはいかないから、毎朝確認して入れてるの。だから間違えるはずはないよ!」
ルビィ「じゃあホントに復活したってこと…?」
善子「とりあえず、ずらまる達が帰って来るのを待ちましょ。そろそろ戻ってきてもいい時間じゃない?」
✳✳✳
ガラガラガラ
曜「お!おかえりー。どうだった?」
鞠莉「何もなかったわー、残念。」
果南「”よかった”でしょ。行く前から顔にも出てたけど、理事長としての建前はどうしたの?」
鞠莉「おっと忘れてくださいてへぺろ(小声)」
果南(小原ァ!)
千歌「何もなくてよかったよ。」
花丸「でも今回の現象について幾つか推測は立てられたずら。千歌ちゃんの方で何か新しくわかったことはあったずら?」
千歌「それが…閉じ込めれていたときに食べたはずのみかんが復活していて。鞄に一個だけ入れてあったのなんだけど。」
花丸「なるほど…とりあえずホワイトボード借りるずら。」
ホワイトボードの左端に縦に大きく書かれる「①、②、③、④、⑤」の文字。全員がホワイトボードの方を向く。その横に書かれたのはこんな文だった。
①寝ていた時にみた夢
②何らかの外的、内的要因による幻覚
③超常現象
④ ”①②③”のいずれかの組み合わせ
⑤その他
花丸「こんな感じずら。」
果南「まあ、こんなところだろうね。」
梨子「①の夢はないと思うの。さっきも話してたんだけど、それだとドアが開かなくなったことと、廊下に泣きながら飛び出して来たことの説明がつかないの。」
ダイヤ「現実的に考えれば②の線が妥当ですわ。外的要因は何らかの条件がない限りは、果南さん・鞠莉さん・花丸さんが行ったときに何も起こらなかったので、なかったと考えるべきでしょう。内的要因、例えば千歌さん自身の体の病気だったり異変が原因で幻覚をみたという可能性はありそうですわ。千歌さん何か心当たりはありませんか?」
千歌「特に…ないね。私自身、元気そのものだと思うし…。お母さん達からもそんな話は聞いてないし…。」
善子「なら③の超常現象の線になるのかしら。④は考えてもキリがなくなるし、どうとでも説明がつけられるから考えない方がいいかもね。」
ルビィ「ぅゅ…難しくてわかんない…。ぉねぃちゃぁ…。」
ダイヤ「大丈夫よ、ルビィ。ルビィはかわいいですわ。」
ルビィ「うぅ…ぉねぃちゃぁ…!」
梨子「なにこれ?」
千歌「いつものだよ。考えるな、感じろーってやつだね。」
曜「千歌ちゃんのいうことも大概だと思うよ…。」
ここで会話は止まってしまった。皆は各々考えたり考えていなかったりしているように見える。これ以上特に情報もなく私も元気にはなったし、ここで話は終わりにぢて練習を始めた方がいいかと思い、皆に提案しようとしたその時だった。
曜「あ、わかった!」
唐突に曜ちゃんが声をあげる。また一人に注目が集まる。
曜「これ、”いつも常に誰かがいる部屋”なんじゃないかな。」
鞠莉「なにそれ?」
曜「都市伝説だよ。千歌ちゃんにはさっき話したんだけどね。あ、千歌ちゃんの感覚でいったら何時間も前だね。」
千歌「ああ、そういえば言ってたね。」
曜「ネットで見つけたんだけどさ、何でもその部屋はどの時間でも必ず誰かがいて、例えば夜でその建物が全て消灯されていても、その部屋だけ電気が消えることもなくてずっと誰かが部屋のなかにいるんだってさ。そういう都市伝説があるらしいんだ。」
花丸「そういうことずらか。わかったずら。」
善子「どういうこと?」
曜ちゃんと花丸ちゃん以外は、私も含め分かっていないといった顔をしている。
曜「今回、千歌ちゃんが巻き込まれたのは多分この都市伝説なんだ。やっとわかったよ。”その話を知る”ってことが巻き込まれる要因にもなる得るからね。ちょっと説明するね。」
曜「いつも常に誰かがいる部屋っていうのは、文字通りその部屋には誰かが、いつでも、必ずいるんだ。その「誰か」は”分からない”から「誰か」と表現されているんじゃなくて、なかにいる人間はいつも同じ人じゃないんだよ。入れ替わる時があるんだ。千歌ちゃんは誰かに呼ばれてあの教室に入った。そして誰かに外からドアを開けてもらって脱出した。つまりそれが繰り返されることで、”いつも常に誰かがいる部屋”が存在・維持していたんだ。人が出るのと入るのを同時に行うことによってね。」
果南「理屈はわかったけど…何で中の人間を入れ換える必要があるの?それに千歌が教室から脱出する前にあった迫ってくる黒い壁はどうなるの?」
曜「だからこそ都市伝説としてあったんだ。この都市伝説に巻き込まれること自体が、私たちにとって”被害”とか”不運”にあたるから。警告の意味合いも込めて都市伝説として存在していたのかもね。現象自体にあまり深い意味はないのかもしれないね。」
鞠莉「でも結局はちかっちが巻き込まれてもこの部屋のシステムが分からなかったわけじゃん。警告の意味を為していないわ。」
曜「明記するのを避けたんじゃないかな。詳しく知れば知るほど危険性が高まるからとか、ね。もしかしたら唯の遊び心かもしれないけど。少なくとも怖い思いをするだけで死ぬことはないし、現実での時間も経っていないわけだからね。見方を変えれば幸運だったともいえるね。ある意味、精神と時の部屋じゃん。」
鞠莉「なるほどね…。」
梨子「あと、こっちでの時間が、入るときと出る時でほとんど変わってないってことは、部屋の中の時間はどうなっているの?こちら側からみれば、入ってからすぐ出てきたように見えるよね。それだったら常に部屋に誰かが居続けるには、たくさんの人が部屋に入っては出てをしているはずじゃない?」
花丸「たぶんだけど、こっちの世界の時間を基準になってないんだと思うずら。こちらの世界の時間の流れが”線”なら、あの部屋の時間はこっちの世界からみて”点”で存在しているはずずら。つまり千歌ちゃんが誰かの声がして部屋に入った時も、閉じ込められていた時にドアを開けてくれた人も、過去か未来か別の時間の人間だったことになるずら。そう考えれば人数が多いとは限らないずら。」
ルビィ「あの…ちょっと気になったんだけどね、もし千歌ちゃんが声が聞こえたのに部屋に入らなかったり、千歌ちゃんが助けを呼んだ時に誰かがドアを開けてくれなかったらどうなってたの?」
曜「それは分からないね。部屋と一緒に消えていたかもしれないし、気づいたら部屋の外に出てるかもしれないし。それに入り口にしても出口にしても、一つだとは限らないしね。。複数存在してたら、一人の助けを呼ぶ声に何人も反応してドアを開けて部屋に入ってくれるかもしれないし、逆に何人もの助けを呼ぶ声に一人がドアを開ければその全員が出られるのかもしれないし。今回はあの教室だったけど、部屋がどこに出現するかもわからないしね。」
善子「そう考えれば確かに辻褄は合うわね。」
曜「辻褄はあっても証明はできないからね、妄想と変わらないよ。ただ幻覚をみただけとか夢でしたって可能性もあるしね。あくまでこういう現象が起こったと考えればこういうことだっていう仮定の話だよ。」
千歌「結局は推測でしかないってことかぁ…。まあでもスッキリした!ありがとう曜ちゃん、みんなもね!そろそろ練習行こう!」
梨子「千歌ちゃん…?わかってると思うけど念のため病院行ってね?千歌ちゃんが幻覚を見ただけって線も十分にあるんだからね?」
千歌「ええ!?この曜ちゃんの華麗な謎解きを聞いた後なのにぃ?」
梨子「当たり前よ…、まずそっちを疑うほうが先でしょ。曜ちゃんが超常現象の方で先に納得できそうな謎解きを披露するばっかりに…。」
曜「ははは…最近オカルトとかミステリーとかSFものにハマっててね。読んでるんだ。」
ルビィ「でもかっこよかったなぁ…ルビィもそういうジャンルの本もっと読んでみようかなぁ…。」
曜「じゃあ面白いの何冊か貸してあげるよ!」
花丸「まるもそういうジャンルがメインではないけど、よく読むずら。まるにも任せるずら!」
ルビィ「ホントに!二人ともありがと!」
鞠莉「私の方でもあの教室調べておくわ。見ただけじゃ分からないこともあるかもしれないしね。」
千歌「うん。じゃあ練習行こう!」
(全員)おおーーー!
✳✳✳
その後、練習の成果もあってライブは成功した。
私は病院に行って一通り検査を受けたが、特に異常は見つからなかった。
鞠莉ちゃんの方も特に何かしらの発見はできなかったらしい。
そういうわけで私たちの中では曜ちゃんの説であってるのかもしれないという結論に達した。
もちろんだからといって何かするわけでもないし、ただ納得しただけ。
千歌「後で改めて考えて思ったんだけどさ、もし誰も教室に入らずに、私が脱出できていたらどうなってたの?例えば、ドアを開けて誰もいないことを確認してすぐどこかに行っちゃうこともあるよね。それに私も声がしてたのに開けた途端消えたのは怖かったもん。すぐ逃げる人も絶対いるよ。」
曜「うーん…その場合だと”いつも常に誰かがいる部屋”自体が存在しなくなるんじゃないかな。」
千歌「どういうこと?」
曜「多分だけどね、あの部屋に人がいて初めて”いつも常に誰かがいる部屋”が存在できるんだ。人がいなくなったらその部屋の存在自体がなくなるんだ。人が入って始まり、人がいなくなって終わるってこと。そう考えれば辻褄は合うね。」
千歌「それずるくない?その通りなら確かに”いつも常に誰かがいる部屋”だけど。もっと良い名前ないの?」
曜「うーん…思いつかないなぁ。」
千歌「あ!良い名前思いついた!」
曜「え!?なになに?」
千歌「○○○○部屋ってどう?」
曜「えー…こっちのほうがてきとうじゃない?」
千歌「いいのいいの!こっちのほうが楽しそうでいいじゃん!」
曜「まぁね…。」
こうして一連の事件は幕を閉じた。
✳✳✳
××××年○○月△△日
???「面白い都市伝説何かないかなー。ん?」
都市伝説 NO.**「いつも常に誰かがいる部屋」
その部屋はどの時間でも必ず誰かがいる。例えば夜でその建物が全て消灯されていても、その部屋だけ電気が消えることはなく、ずっと誰かが必ず部屋のなかにいる。別名「みかんをたらふく食べても太らない部屋」。
???「なにこれ?どういうこと?」
最後の一文がよけいに、彼・彼女を混乱させたのはまた別の話である。
~fin~
最後まで読んで頂きありがとうございます。わかりづらい点、おかしな点、感想などあれば教えてください。