傭兵さんの放浪記二次創作 作:アインズ・ウール・ゴウン魔導王
「アフガニスタン?」
「うん、アフガニスタン」
「勤勉な労働者として拒否権を行使する。3日前にエジプトでアジアの第2王女様救出に駆り出されたばかりで、しかも未消化の有給休暇が本日までに4ヶ月分も溜まってる。この契約書でも有給休暇を消費する権利の旨が記載されて…」
「はい、ドーン!」
バリィッ!
「ああっ!な、何をするだぁー!許さん!」
私の目の前で、相棒兼上司の氏康が私が権利申し立てのために突き付けた契約書を真っ二つに引き裂いたのだ。
【氏康】
PMC(民間軍事会社)ノースボックスの実質的なボス。基本的にブラック企業と化してるノースボックスの職員をこれまた基本的に馬車馬の如く労働に駆り出している。
なお氏康という男名前だが、本人は立派な女性。
「で…任務内容は?」
「以前からうちに洒落にならないちょっかい掛けてきてた犯罪組織が居るんだけど、そいつらの本拠地がついに特定出来たの」
「それってバーとかで商売女や少年男娼装って連れ込み宿なんかでうちの職員殺してきた連中の?」
「うん、それそれ。多分依頼元は他の商売敵のNPCだろうけど、実行犯はそのアフガニスタンを拠点にしたイスラム系犯罪組織。とりあえずは連中潰してうちを目の前のタンコブ扱いしてるNPCに警告をかけるわ」
氏康はニコニコ顔でそう言っているが、きっと内心ではとんでもない報復方法を算段しているのだろう。
普段はあんなだが、伊達に【氏康】の名前を受け継いでいる訳ではない。
「目的は犯罪組織の壊滅で良いのね?」
「正確には殲滅ね。まず第一標的はラハドって名前の組織リーダー…こいつは絶対逃がさないこと。逃げる奴も標的よ。勿論武器を構えてきた奴は老いも若きも区別無し」
「老いも"若き"も区別無しね。オーケーよ」
私は殺人鬼ではない。しかし任務ならばそれを果たすまで。やるかやらないかである。
阿片戦争で清国と交渉したイギリス軍人の言葉を借りるなら「Yes or No」だ。
「あ、あと注意なんだけどね」
「何?」
「あそこ、サイレント・ピクシーの連中も徘徊してるから要注意ね」
「はい…?」
<<目標地点に到着。降下せよ>>
「…サイレント・ピクシーとか思いっきり大所帯会社じゃない…連中が徘徊しまくってる中、犯罪組織だけ潰せと?」
アフガニスタン某所────私はタクシー代わりのヘリから降下しつつ、氏康への恨み辛みが溢れてきていた。
サイレント・ピクシー(沈黙の妖精)は数年前からのしあがってきた大手PMCだ。インドやアフリカで手堅くやっている別の大手PMC(名前忘れたけど、確かダイヤモンドの犬だか狼だかそんな名前の会社)の補助で立ち上げられた会社で、近代兵器も多数揃えているという専らの噂。
そして何と、私たちにちょっかい掛けてた犯罪組織を同じように狙っている。どうやら連中も似たような手口で職員を殺られてたらしい。
その本拠地探索のためか、最近は市場にしてたアフリカからアフガニスタンや中東にも足を伸ばし出したらしい。
「っと…情報通りね…」
ヘリから降下した直後、直ぐ様近場の岩へと身を隠した。
サーチライトを照らしながら空を飛ぶのは、AH-64アパッチ・ロングボウ。アメリカが作り出した戦闘特化攻撃ヘリだ。
機体の胴体には、妖艶な幼い妖精が口元に人差し指を当てたイラストマーク───氏康から聞かされた例のサイレント・ピクシーのヘリだ。
恐らくは犯罪組織の根城探しの最中なのだろう。先ほどから怪しそうな洞窟が散らばる山岳や村を徘徊しては、攻撃を仕掛けられた場合のみだが容赦なくミサイルとロケットの嵐を見舞っていた。
あれ多分、攻撃を受けたか否かでしらみ潰しに反撃してるんだろうな。巻き込まれては敵わないし、さっさと犯罪組織のアジトに向かわないと…
氏康からの情報通り、犯罪組織は山岳地帯の奥にある集落を根城にしていた。だが集落といっても、軽く見ただけで数百件は家やら倉庫やらが乱立している。
どちらかといえば小さな町だ。
ゆっくりと屋根を伝って忍ぶと、あちこちで人間が煙草を吸ったり酒を呑んだりカードに興じたりしている。それだけならば普通の町だろうが、普通の町民は肩からスリングでAK-74やらGARILやらを下げたり、シートでカムフラージュされていた装甲車を整備したりはしない。
「さて…壊滅とはいったものの、どこから手を着ければよいのやら…」
普通に敵が多い。勝てない訳ではないが、時間が掛かるし、あまり騒げばサイレント・ピクシーの連中が嗅ぎ付けかねない。
とりあえずは地道に減らすしかないと思い、真下へと飛び降りた。
丁度真下には、酒ビン片手に雑談に興じている2人組がいたからだ。
落下しつつ高周波振動刃を持つ小刀を抜き放ち、まず右側の敵の首を斬り裂いた。そして突然の襲撃に慌てたもう片方を袈裟掛けに斬り捨てる。
音をあまり立てないように敵2人を始末したついでに、宙を舞った酒ビンを受け止める。
「よしっ…と」
せっかく静かに始末したのに"敵の手から落ちた酒ビンが割れた音でバレました"じゃ、締まらない。
手にした酒ビンを地面に置いて、曲がり角から両脇に広がる道や民家の屋上や窓をくまなく確認し、敵がいないことを確かめてから進みだす。
「あ…」
「あ…」
気配はしなかった…とまでは言わないが、なかなかに高い実力の持ち主である。現に互いに気配を鎮めて動いていたために、互いに発見したのが曲がり角を出た瞬間であった。
直ぐ様曲がり角から身体を退いて近場の障害物に身を隠す。
「待て…俺は敵ではない…お前、例の犯罪組織の一員じゃないな?」
「答える義務はないね…で、あんたは?」
「俺はサイレント・ピクシーの人間だ。あんたもここを根城にしてる犯罪組織の殲滅が目的なんだろう?」
「黙秘する」
「別に情報提供しろとか手を組もうとかじゃない。要は俺は俺で任務を遂行する、あんたもあんたで任務を遂行だ。組織の殲滅も敵のリーダーの首も早い者勝ち…協力はしないが邪魔もしない───どうだ?」
ガスマスク顔の男?多分声色的に男だと思う兵士の問いに首を捻る。
うーん…邪魔はし合わないってのは良いかな?それに一応私が命令されてるのは一切合切の殲滅であって、残さず塵芥にすれば問題は無いだろうし…。
氏康から注意してと聞かされたけど、向こうから不干渉を貫いてくれるならいいかな…。
「オーケー、それで良いわ。協力は無いけど邪魔も無し…問題無しよ。で、ここで長話続ける?それとも任務に戻る?」
「了承して貰えて何よりだ。じゃあ、俺は行くよ」
ガスマスク顔の男はそう言うと向こうへ消えていった。とりあえずは余計なトラブルに繋がりそうな不安の種を潰せたのは重畳かな…。
「…で、見つけたはいいけど、ボスってどいつなんだろう?」
とりあえず敵の拠点というかボスがいる建物は見っけた。古いけどそれなりの大きさがある教会だ。
周りを巡回する連中の話を盗み聞きしてボスのいるそこを見つけ出すのは簡単だった。だけど今度の問題は、ボスの顔が分からないということ。
そもそも氏康からも殲滅を依頼された際に顔は分からないと言われていた。
で、ついでに「とりあえずしらみ潰しに頑張れ」と送り出された。
「映画やドラマなんかの定番通りみたくあそこで地図片手に喚いてるハゲで顎髭モサモサの親父?それとも偉そうに椅子にふんぞりかえって装飾付の拳銃磨いてる青年?いや、もしかしてその裏をかいて周りからいちいち頭を下げられてる、岩に腰掛けて朗らかにしてる杖持ったじいさん?」
不味い…どいつもおもいっきり怪しい。
ボスが1人だけってのは聞いたが、そのボスに該当するのが普通に何人も居るとは聞いてない。
情報が足りなさすぎる…これなら多少譲歩してでも、サイレント・ピクシーの偵察兵と情報交換をするべきだったか?
<クイッ>
そんな思考で頭をぐるぐる回していると、ふと腰辺りの服を弱々しい力で引っ張られた。
敵かと思いそちらを高周波震動刃を抜きつつ振り向けば、そこに居たのは大人しそうな顔をした小柄な少女だった。
そして私が抜いた刃に、その大人しそうな顔を驚きと恐怖にひきつらせてこちらを見ている。
「っと…ごめんね。悪い人だと思ったの。怖がらせちゃったわね?」
「えっと…お姉ちゃん、誰?叔父さんのお友達?」
「叔父さん?貴女の?」
「うん…私の叔父さん…あの人達より偉いお仕事してるの…」
お!これは貴重な情報源ゲットかな?
「叔父さんの名前は?」
「アリム…アリム・ラハド…」
「そう…ありがとうね。ところで名前を教えてなかったわね。私は"ヴォイナ"…貴女は?」
「サラームン…」
「よろしくねサラームン」
私は彼女、サラームンの頭を優しく撫でてあげる。
ファーストコンタクトで怖がらせちゃったから、少しは取り戻さないと。
「ヴォイナお姉ちゃんは…私の叔父さんを殺しにきたの…?」
おっと…こいつはなかなかにへヴィーな質問ね。さて、どう答えれば気まずくならずに済むのやら…。
「サラームンはどうしてそう思ったの?」
「叔父さん…いつも"正しい世界のため"って言ってるけど…危ないお薬とか鉄砲とかたくさん売ってるって皆から聞いたの…それに叔父さんの言うこと聞かない人たちとか考えてることが違う人たちなんかを"いたん"だって言って殺してるって…」
「それでサラームンは、私がそんな叔父さんを殺すためにきたと思ったの?」
「色んな人が叔父さんを殺そうとしてるって聞いたの…この前はお空を飛ぶ頭に羽根がついた乗り物がたくさん飛んでたわ…それでお家とかお店とか、色んなとこに爆弾を落としてたわ…」
「それはね、ヘリコプターって言うのよサラームン。…でも、確かに…うーん…そうね、サラームン。その通りよ。私は貴女の叔父さん…ここの一番偉い人を倒すために来たの」
少々迷ったが、隠し事をしても無意味だと考え、彼女には本当のことを伝える。そしてサラームンも、仕方ないと分かってるのだろう…しばし俯いていたが、キッと前に向き直ると、私に言う。
「お願いヴォイナお姉ちゃん…叔父さんを止めて…きっと叔父さんのやり方じゃ"正しい世界"なんて来ないから…」
「オーケー、任してね。じゃあサラームン…早速で悪いけど、叔父さんの居場所を教えてくれるかな?」
私はサラームンにここの犯罪組織のリーダー、アリム・ラハドの居場所を訪ねた。彼女なら居場所か普段はどこにいるかくらい知っているだろう。
万が一彼女が知らなくとも、顔さえ教えて貰えれば見つけ出せるだろうしね。
「アリム叔父さんはあそこ…あのお家にいるの。いつもそこで他の人とお話してるわ…」
「ああ…叔父さんはあそこのお家ね…」
あそこかよ!
そこは私が最初にヘリから降下して、町に辿り着いた時に最初に屋根上に忍んだ家だったからだ。初めからあそこ潰せば後はどうにか出来たってのに、無駄な時間を費やしてしまった。
だが居場所が分かったならとっとと済ませたい。これ以上時間を無駄にしていたくはないのだ。
そう思い、建物へと足を向けようとしたところでサラームンが私に呼び掛けてきた。
「待って、ヴォイナお姉ちゃん…私も行く」
この子は何を言ってるのだろうか?自分の叔父さんの喉がかっ切られる場面に居合わせたいとかどんな心境なの?
私はサラームンに思い止まるよう伝えようとしたが、ふとサラームンの眼を見てそれを止めた。
「分かったわ、じゃあ行きましょうか」
「うん…」
敵の首魁…犯罪組織のリーダーアリム・ラハドの暗殺は非常に簡単だった。
私が首を狙って高周波震動刃を抜きながら背後から忍び寄ろうとすると、サラームンが別方向からいきなり叔父を呼んだのだ。
最初はサラームンが裏切って叔父に危険を知らせるのかと思ったが、彼女は他愛ない会話で彼女の叔父───ラハドの注意を自分に向けさせていた。
その後は単純だった。警戒を解いて可愛い姪との雑談に入ったラハドの頭を押さえ付け、喉を一気に切り裂いた。
これで一番の標的は仕留めたのだ。後はここ一帯を殲滅するだけである。
私は後々の予定を考えながらラハドの喉を切り裂いた高周波震動刃を鞘に戻そうとした。
「ヴォイナお姉ちゃん!」
そこに響いたサラームンの私を呼ぶ悲痛さを露にした声。
だがサラームンの私への心配は、不必要なものだ。武器を仕舞おうとしていても、油断はしてない。
私はすぐさま鞘に戻そうとしていた高周波震動刃とは別に、懐に仕込んだ、普通の鋭いだけの隠し刃───それを背後から迫る脅威目掛けて勢いよく振り返りながら投擲した。