傭兵さんの放浪記二次創作   作:アインズ・ウール・ゴウン魔導王

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〜前回のあらすじ〜


目的はイスラム系犯罪組織の殲滅───その目的を果たすべく上司氏康によってアフガニスタンに送り込まれた風魔。

彼女はアフガニスタンを徘徊する、同じ犯罪組織を標的としているPMCサイレント・ピクシーの偵察兵と鉢合わせしたり、犯罪組織のリーダー・ラハドの姪であるサラームンと出会ったりしつつ、ついにラハドの排除に成功した。

しかしその直後、背後から迫る何者かが凶刃を振るう。サラームンの悲痛な叫びが響く中、風魔は背後から迫る何者かにナイフを投擲するのだった…。


傭兵さんとアフガニスタン(下)

「な…なんで…?」

 

 

 

何で気付いたのか?普通は少女の悲痛な叫びに気を取られて安否を確かめようとするか、少女を守ろうと動こうとする筈だ。

 

なのに何故まるで初めから気付いていたかのように攻撃に移れたのか?

 

 

 

 

 

 

 

ヴォイナと名乗った女性に刃を振り降ろそうとしていた"サラームン"は、己の手のひらを壁に縫い付ける、ヴォイナが投擲した鋭い投げナイフを唖然と見つつ、思考を渦巻かせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い…いやぁぁ!痛い!痛いぃ!いだぃぃぃ!」

 

 

 

 

サラームンの痛みへの絶叫が響き渡る。しかし人が駆け付けてくる様子はない…当然だ。敵の首魁ラハドを殺すにあたって家と周辺を警備していた連中は既に始末済みなのだから。

 

サラームンの声を聞き付ける人間はいない。もし仮に聞き付けた人間がいても、すぐには来れない。

 

サラームンは痛みに叫びを上げながらも、それを上回る憎しみで必死に痛みを堪えながらヴォイナを睨み付ける。

 

 

「何故…」

 

「何故もなにも、悲痛な叫びを上げてもあんな殺気丸出しじゃ気付くわよ…まあ殺気丸出しだろうが悲痛な叫びだろうが結果は同じだったろうけど…」

「ふざけるな!くそアマがぁ!…づぁ…!いぃぃぃ!クソ!クソがぁ!!」

 

「人が気付かないとでも?名前がアラビア語で"サラームン(平和)"とか、舐めてるにも程があるわ」

 

 

サラームンは気付いたのかと更に顔を驚愕させた。

 

 

「ちなみに私も偽名だったんだけど、貴女は気付かなかったみたいね。後学のために教えてあげると、ヴォイナ(война)はロシア語…意味はWar(戦争)よ。ヴォイナ(戦争)とサラームン(平和)───これじゃまるであの超絶長い映画のタイトルね」

 

「いつ…気付いて…」

 

「気付くわよ。ついでに言うなら貴女がラハドでしょ?目の前の男は本物の叔父なんだろうけど、私が自分を殺しにきたのだろうと目星をつけて咄嗟に身代わりに差し出した。で、私が標的を殺して一息ついた辺りで悲痛に叫んで注意を向けさせた所で、その後ろ手で隠してるナイフ…臭いからして毒でも塗ってるのかな?…まぁそれで刺すなり引っ掻くなりしてカタを着けようとした…けど目論見は失敗。こうして虫の標本よろしく壁に縫い付けられてるという訳だけど…」

 

 

 

 

 

サラームンは憎しみをこめてヴォイナを睨み付けているが、彼女はどこ吹く風である。

 

 

「よくも!よくもぉ!今に見てろクソアマ!あんたには絶対この借りを返してやる!あんたの大事なもんぶっ壊して、殺して、潰してやる!この私…」

 

「あ、別にそういうの良いから…名前とか別に言わなくて良いよ。じゃあ私はこれでサヨナラね」

 

「は?」

 

「いやさ…私一応上から殲滅命令受けてんの。老いも若きも関係なくね?つまり貴女がこのイスラム系犯罪組織の一員ってだけで対象なのよ」

 

「ふざけるな!この殺人鬼が!あんたらPMCはいつもそうだ!あんたらの都合で争い持ち込んで、あんたらの都合で破壊して!私たちがどれだけ…」

 

「いや、それ私らじゃないよね?他の連中よね?そもそも理由は置いて、そんな逆恨みでうち(ノース・ボックス)に喧嘩売ってくる時点で宣戦布告じゃん。潰されて文句言うとか本当無いわー」

 

 

と言ったら、サラームンの顔がさらに怒りと憎しみにまみれた。

 

 

「まぁ良いわ。とりあえず殲滅は連中に任せるから…じゃ、いい夢見なさい」

 

 

そうサラームンに言うと、彼女は憎しみとか怒りが抜けて「え?」といった顔になり、こちらを見てきた。

 

コロコロ表情が変わって面白い女の子だなー。なんでこんな犯罪組織のボスとかやってんだろ?

 

 

「ほら、聞こえない?外からヘリコプターのプロペラ音が?」

 

 

そう言ってサラームンに外を指し示せば、建物がガタガタと風圧に揺さぶられ、外から実際に幾重にも重なるヘリコプターの重厚なプロペラ音が響き渡る。

 

 

「あんたら、いくつかのPMCにちょっかい出してたじゃない?うち1つのPMCの潜入員がここに居てね?多分そいつが本隊にここが犯罪組織の拠点だと伝えたみたいね。そいつらが大挙して押し寄せてきたってこと」

 

 

言葉と同時にサラームンの顔が青ざめた。痛みも忘れて身体をブルブル、口をカチカチ震わせている。

 

まあ身動き取れない状態でちょっかい出してたPMCの報復部隊がヘリコプターで大挙して押し寄せてきたって聞いたら普通そうなるわね。

 

もっとも私にはサラームンの心境なんて関係ないし、私がやるよりも連中に任せたほうが楽だしね。

 

 

「じゃあね、サラームン(平和)。次はもう少しまともな人生歩みなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が丘から見る中、町は凄まじい勢いで廃墟に変わっていく。AH-64Dアパッチが機関砲とロケットをばら蒔き、Mi-24ハインドDとUH-1が兵員を次々と降下させていく。

 

そして町中ではM1エイブラムスなんかが突入してあっちこっちに砲弾のプレゼントだ。

 

多分乳飲み子抱えた母親とか子供守ろうとする父親とかも居るんだろうけれど、連中───サイレント・ピクシーはお構い無しだ。

 

あのガスマスク顔が伝えたのは間違いない。そして連中は私がまだ町中に居たとしても攻撃を開始したことだろう。

 

とりあえずは、敵のリーダーラハドと排除と殲滅命令は果たされた。そして私自身、無差別殺人せずに済んだのだ。

 

無差別殲滅や虐殺任務はサイレント・ピクシーの連中が肩代わりしてくれている。私の仕事はようやく終わりだ。

 

丁度そんな中、山々の谷間から夜明けを告げる太陽が登りだしていた。ああ、いい夜明けだ…そしてやっと休暇に入れるよパトラッシュ…。

 

すると胸元の無線機に通信が入るので、スイッチを入れて通信に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<<もしもし、任務お疲れ様…で、次の仕事だけどね…>>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞き終わるのを待たず、私は胸元から外した無線機を勢いよく地面へと叩き付けていた。

 

 

 

 

 

 

 

「休ませろぉぉぉ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソっ!クソっ!抜けない!」

 

 

あれから数時間、サラームンは必死に己の手に刺さった投げナイフを引き抜こうと格闘していたが、深々と突き刺さるナイフは一向に抜ける気配はない。

 

むしろ引き抜こうとナイフを動かす度に自分の手に激痛が走るだけだ。

 

しかも、ナイフを突き刺されてからはずっとこの体勢だ。

 

外をPMCの軍隊がヘリや車両で破壊し続ける間ずっと格闘し続けたが、結果は変わらず。

 

それでも何とか痛みに耐性が出来てきたのか口を強く食いしばり、血走った眼で涎を垂らしながらも諦めようとはしなかった。

 

すると、外から再び音が聞こえてきた。

 

家の前に車が停まる音だ。そして銃器をガチャガチャ言わせながら何人もの人間が建物内に入ってくる。

 

 

サラームンは叫んだ。

 

 

「お願い!誰か助けて下さい!」

 

 

それを聞き付けたのか、足音が早まり部屋へと近付いてくる。

 

そして扉が開かれると、砂漠用の迷彩をした野戦服の男達が慌ただく室内に雪崩れ込んできた。

 

男達は壁にナイフで手のひらを縫い付けられたサラームンを見て、何かを話し出す。

 

 

(なにしてんの!こっちは何時間も痛みに耐えてんのよ!さっさと助けろ、争いしか持ち込まないPMCのグズどもが!!)

 

 

サラームンはそれを見て内心グラグラと怒りが煮えたぎるが、今はか弱い少女を演じなければならない。

 

決して罵倒や余計な言葉を出してはならない。助けて貰えなければ、飲まず食わずの今のままでは数日と身体が持たないのだ…ましてや犯罪組織のボスなどと気付かれてはならない。

 

 

「お願いします!助けて兵隊さん!」

 

 

ようやくそこで叫びが通じたのか、指揮官らしきガスマスクの男が周りに指示を出した。

 

彼らが動き出したのを見て、ようやく助かる…そうサラームンは息を吐いて安堵した。

 

 

 

 

 

 

 

「撃て」

 

 

 

 

 

 

 

 

安堵したサラームンは次の瞬間、己の身体を次々と穿つ容赦の無い銃弾の嵐に薙ぎ倒された。

 

次々と銃弾がめり込み、彼女の身体をぼろ雑巾のように変えていく。綺麗な髪は血飛沫にまみれ、口からは血を吐き、痙攣する股からは尿を垂れ流す。

 

壁に縫い付けられていた細い腕は銃弾の嵐に骨まで砕かれ、ブチブチと音を立てて引き千切れた。

 

サラームンはうっすらと意識を残したまま、支えを失った身体ごと己が垂れ流した尿と大量の血液が混じった汚水の中に倒れ込む。

 

それを見てから近付いてくるガスマスクの兵士…兵士はサラームンの前まで来ると、顔を隠していたガスマスクを脱いだ。

 

中から現れたのは男の顔ではなかった。

 

すらりとした細目の顔立ちに太陽のようなセミロングの金髪と、澄んだ深海を思わせる瞳…真一文字に結ばれた唇。

 

兵士は女性であった。

 

彼女は腰から鈍く光るストレートスコップを取り出すと、それを振り被った。

 

 

「さようなら」

 

 

サラームンが最期に消え行く意識の中見たのは、そう呟く女性と、彼女が振り被ったストレートスコップをサラームンの顔目掛けて振り下ろす光景───そして己の顔に走った鈍器を叩き付けられたような衝撃であった…。

 


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