彼等は総じて化け物(モンスター)である   作:千点数

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2:星降る下の出会い

 その後ろ姿は、確かに魔王と言う他に有り得なかった。

 

 空から流星を降らせ、周囲一帯をバーテックスごと壊滅させるなんて事をやるような存在を表す言葉に、魔王以外の台詞は合いそうにない。

 

 「やぁ、お嬢さん達。大丈夫かい?」

 

 でも、先ほどの有様とは違い、腹が立つくらいその笑顔は無邪気で。

 

 「ええ。私達は貴方のお陰でノープロブレムよ」

 

 まあ、危険な人物ではないのだろう。

 

 *

 

 草薙竜介は、限界を感じていた。

 彼とて、一人の生物。動くにはそれ相応のエネルギーが必要だ。

 

 そして、そのエネルギーは今、彼から尽きようとしていた。

 

 つまりは、

 

 「お腹へった」

 

 空腹である。

 この世界に飛ばされ、早三日。何も食べず、雨水しか飲まず。

 風呂に入れず、気がつけば瓦礫の町で暮らす浮浪児の出来上がり。

 

 「お腹、へった」

 

 恐ろしく感じるほど、彼の目は今、死んでいた。

 竜介を襲った怪物が、今の彼に向かっていこうものならば「オレサマ、オマエ、マルカジリィー!!」と盛大にキャラ崩壊を起こす事だろう。

 最早理性もへったくれもない。それほどまでに、今の竜介は追い詰められ、ただ、食欲のみで動いていた。

 

 ・・・・・・だから、であろうか?

 彼がこの後、人間とは思えない行動でご飯にありつけたのは?

 

 それは、もうしばらく歩いて、瓦礫の町から元は田畑が広がっていたのだろう場所へと景色が移り変わった頃であった。

 

 ・・・・・・ピクリ、と鼻が動いた。勿論、竜介の鼻だ。

 辺りをスンスン、と嗅ぎ回り、ピーン!と目を見開き、輝かせる。

 

 「これは・・・・・・お蕎麦の匂いッッッ!!」

 

 犬か何かなのだろうか。

 とにもかくにも、目をしいたけにして田舎道を駆け抜ける竜介。

 ステテテテ、と前傾姿勢で駆け抜けていく様は、狼を彷彿とさせる。実際にはドラゴンタイプであるが。

 

 早くご飯にありつきたい一心で、竜介は『りゅうのまい』を発動させながら走る、走る、走るっ!

 

 そうして、匂いの元に辿り着いた、その時であった。

 

 目の前に怪物がいた。オマエ、マルカジリ、と言ったように大口をあんぐりと開けて。

 

 「テメェより俺が腹ぺこなんだよこの野郎ッッッ!」

 

 力の限り、『ドラゴンクロー』で引き裂く。

 一匹引き裂き、吠える。そうしたら出るわ出るわ。

 何処に待機していたのかと思える程に、怪物がまるでゴキブリのようにわき出してきた。実際の色は白であるが。

 

 「かかって来い、俺の昼飯前の前菜」

 

 かくして腹ぺこなお子ちゃま十三歳と、怪物の大群との戦いは幕を開ける。

 二人の観客を、前にして。

 

 一人は巫女服、もう一人は・・・・・・黄色い何かの装束か?

 何気にこの世界における第一村人だ。見殺しには出来ない。

 

 後から思えば、俺はこの時、俺以外の人間に会えた事が嬉し過ぎて、阿呆になっていたのだろう。だから、あんなヤベー事をやらかしたのだ。

 周囲に俺と、少女二人以外の人の気配がしないからって、アレはない。

 

 俺は、『りゅうのまい』を積みながら『ドラゴンクロー』で化け物の群れを吹き飛ばしつつ、少女二人の前に出ると、

 

 「さあ、来いよ化け物共。俺を打倒してみせろ!!」

 

 『りゅうせいぐん』。

 

 あ、やべぇ。そう思った時にはもう遅い。

 

 化け物は駆逐され、少女二人も助かった。

 ・・・・・・周囲一帯更地になってしまったが。

 

 ヤバいどうしよう。

 幸い人の気配しなかったから良かったけどぺんぺん草も残ってねぇよここら一帯。

 

 「やぁ、お嬢さん達。大丈夫かい?」

 

 とりあえず安否を確認する。

 二人ともかすり傷以外、怪我という怪我は負っていなかった。

 

 「ええ。私達は貴方のお陰でノープロブレムよ」

 

 おお、今はその笑顔が俺にとっては眩し過ぎる。

 俺は気まずそうに、

 

 「あー、それと、ちょっとこの風景にしちまった事は謝るわ。なんか畑とか草木とかいろいろあったのが全部消えちまった。ほら、あそこの山なんて山頂えぐれてるし」

 

 俺がそう言うと、黄色い装束を着た少女の後ろにいた巫女姿の少女が、

 

 「い、いえ・・・・・・気にしないで下さい・・・・・・。結果的に、諏訪の土地は救われましたし。それに畑は・・・・・・」

 「私がまた耕して、復活させるわ!だから心配ナッシング!」

 

 ヤバい。笑顔が眩しい。本当に。

 

 *

 

 さて、その後。

 俺は、少女二人・・・・・・黄色い装束の方が白鳥歌野、巫女姿の方は藤森水都と名乗った・・・・・・に案内されて、さっき俺が更地にした場所から結構離れた場所にある公民館のような場所にいた。

 

 ・・・・・・いや、マジでここの人達いい人過ぎる。

 まず、俺が白鳥と藤森に連れられて来た時。

 白鳥が擬音と英語だらけの説明をし、次に藤森が簡潔でわかりやすい説明をした後、なんかものすっごい感謝された。

 

 で、俺がこの諏訪に来るまでの事を、ある程度ざっくりと面白おかしく、丸で冒険小説のような具合で説明をすれば、白鳥と藤森には驚かれ、子供の皆様方にはスゲーと言われ、大人の皆様方には「苦労したんだなぁ」とか言われて、何かめっちゃ泣かれた。

 

 で、俺が歳の割に痩せ型で背が低い事がわかった途端、俺は公民館の近くにあった大衆食堂に拉致され、大盛りのざる蕎麦を出された。

 

 「ほら、食べて身長伸ばしな!」

 

 久しぶりのマトモな食事ってところと、その気遣いと優しさに思わず涙が出たね。泣きながら蕎麦を食べたよ。めっちゃ美味かった。

 

 俺が戦った事で畑やら何やらが潰れてしまった事を話したら、救ってくれただけでも有り難いと感謝された。

 

 これは、何らかの形で恩返しでもしないとな。

 

 で、現在。

 俺は、白鳥と藤森と、公民館の会議室で話していた。

 

 「どうしようか」

 

 この諏訪の土地の問題。

 ・・・・・・まず、ここを守っているカミサマの力が、段々と弱っているらしい事。

 でもそれは、先ほど何故か力が回復したらしい。

 何でも、俺の存在がデカいとか。

 

 「貴方からは、神々が宿しているような・・・・・・『神秘』のようなものが常に溢れているんです。だから、神様がその漏れ出た『神秘』を吸収して力をつけたのでは・・・・・・と」

 

 わーお。俺ヤベー。・・・・・・アレか。ドラゴンタイプは伝説クラスが多いからか。それで『神秘』云々が溢れてんのか。

 

 「でも、問題が実はあって・・・・・・」

 「私の勇者スーツがねー」

 

 そう。一番の問題はそれ。

 ここの土地を守る勇者の装束がボロボロで、最早水着みたいな感じになっていたのだ。武具である鞭も、もうちぎれかけていたし。

 回復したカミサマの力でも、そう上手くはいかないらしく、修復には最低でも二週間ちょっとはかかるとか。

 その間、諏訪勇者は出撃が不可能なのである。

 

 「よっしゃ。じゃあ、その間は俺がここを守ろうじゃないか」

 「えっ?」

 

 ここの人達にはこの数時間だけでかなりの恩と借りが出来た。

 それを、少しでも返そう。

 

 「なぁに。ちょっとくらいの数の化け物なら、俺一人でもどうにかなる。

 ・・・・・・それに、ここの人達にはこの少しの時間の間にかなり世話になったしな。

 言わば、ちょっとした恩返しだ」

 「じゃあ、その・・・・・・お願いしても良いですか?」

 

 藤森が、そう申し訳なさそうに言うのを、

 

 「おうよ!任せろ!」

 

 胸をどんと叩いてそう返した。




 主人公の名前が出せなかったです・・・・・・。

 草薙竜介くんです。

 見た目:14歳なのに身長が平均よりも十四センチ短いショタッ子。

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