「ハァー・・・・・・」
思わずため息が出る。
全く、気が滅入る。
俺達の世界の神を名乗る痴呆老人に会ったかと思えば、『別の世界の地球の人類滅びそうだから助けてあげて。あ、力あげるから上手く戦ってね。あと、向こうの世界の人に味方してる神々によろしく(意訳)』と、事情そのほか手短に説明されて、強制的に別世界に転移させられて現在上空数千メートルを落下中なのだ。
あー、そろそろ地面かな俺別世界に転移早々死ぬのかな、なんて思っていたら。
どっぼーん!
地面じゃあなくて海に落ちた。
*
あのボケ神野郎は、『あ、そういえば力の内容伝えるの忘れてたやっベー、君の前に転移させた奴に力の説明何にもしてねーや(意訳)』と、言いながら俺に与えた力の説明をした。
俺は、その時こう思った。
(死んでねぇよな俺の前に転移させられた奴)
どうにか自分に与えられた力を解明、推理し、使って生き残って欲しいものだ。
そして、あの阿呆曰く、俺にはポケモンの炎タイプの体、そして炎タイプの技全て、PP無限、そして全能力が高めなバランス型のステータスと、特性:ターボブレイズを与えたらしい。
タイプ相性さえ良ければ神さえも殺せるな。
・・・・・・それで、だ。それを踏まえて俺は思った。アレ、この状況ヤバくねーか、と。
俺は今現在、海に浸かった状態。
俺、今現在炎タイプ。
炎タイプは、水タイプに弱い。
・・・・・・アレ?
「死ぬじゃん俺」
遠く、地平線の彼方に見えた砂浜に向かい、命懸けで泳いだ。
*
『おにび』で、濡れた服を乾かす。
幸い近くにあった川で服を全て洗ってから乾かしている。
乾かした服を着て、空を見上げる。
「あっちいなおい」
太陽が中天で輝いている。
ムシムシジメジメとした暑さだ。
地面が熱せられて陽炎が見える。
今現在夏ってところか。
とても日差しが強く、暑くて堪らない。
・・・・・・と、急に太陽が大きな影に覆われて隠れた。
雲ではない。
・・・・・・それは、鯨よりもデカい魚の形をした化け物だった。え、何アレ。もしかしてアレが人類滅びそうな原因って奴か?
空を悠々と泳いでいるそれは、耳をつんざく程の金切り声のような泣き声を上げたかと思えば、おもいっきり潮を噴いた。
またもや身体がびしょ濡れになる。
「・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・良い度胸だ鯨野郎。今すぐにその身体をステーキにして食ってやるぜ畜生がぁあああああああああああああ!!!!
さて。あいつをステーキにするには焼く。つまり、炎でこんがりとジュージューすれば良いわけだ。
というわけで、まずは小手調べ。
「『はじけるほのお』」
俺の目の前に現れた幾つかの炎のつぶてが、鯨野郎に向けて射出される。
・・・・・・が。
それは、鯨野郎の表面で弾けて、軽く焦がしただけで終わった。
・・・・・・うん、知ってた。まあ、流石にこれであのデカブツ焼けたらそれはもう、ね?うん、ビックリするよ?
それで、次の技を使おうとした瞬間。
「あ、ヤバい」
鯨野郎が、俺の方に向かって来ている。
さっきの一撃でどうやら俺に気を向けたらしい。
何か意味不明なオーラを発しながら突撃してきている。
「うーん・・・・・・やれるかわかんないけれど・・・・・・」
腰をドシッと落とし、右の拳を構える。
狙うはそのデカい鯨野郎の鼻っ面。見るからに水タイプの奴に効くかは知らないが、とりあえずやってみるだけやってみよう。
別にあのノロマな突撃程度、避ける事も余裕で出来るが、迎撃して今現在の俺の『本気じゃない』一撃がどのくらい通用するか確認したいのと、あと、あのデカブツの突撃を避けたら今俺がいる島が沈み、また俺が海に落ちる可能性がある。流石に炎タイプの身体で水の中にまたダイブするのは勘弁願いたい。
拳にある技を局地的に発動させる。元は身体全体に炎を纏わせて突っ込む技だが、それを右の拳という一カ所に集中させる。普通は身体全体に使う火力を拳に集中させて、火力の底上げを狙おうという寸法だ。
別に『ほのおのパンチ』でも良かったが、それだと威力不足に感じたのだ。
だんだん右の炎が熱くなっていき、最初は黄色とオレンジの間の色だったのが、青色になり、最終的に白く煌めきだした。
鯨野郎も、調度良い具合の間合いに入っている。今がチャンスだ。
「こんがりと美味しく焼けるが良いさ。『フレアドライブ』!拳バージョンッッ!」
白く煌めく拳が、鯨野郎の身体を溶解させながらぶち抜いたーーーーーー
ーーーーーー・・・・・・ッ!?!?!?!?
*
鯨野郎の腹の中から女の子が出てきた件について。
真っ白い、何かカッコイイ服を着た褐色肌の女の子だ。めっちゃかわいい。
・・・・・・この娘までこんがりと焼かなくて良かった。途中でこの娘の存在に気がついて、拳を引っ込めて本当に良かった・・・・・・!
左手だけで抱き上げて、デカい樹木の木陰に寝かせる。
顔立ちからして日本人っぽいな。
お、目を覚ました。
「・・・・・・う、ううん・・・・・・」
「・・・・・・目、覚めた?」
・・・・・・うん、これが限界。
何か俺、挙動不信になってないよな?あー、同じ位の年頃の女の子、いや、まず人間とマトモに話そうと、それも自分から声をかけるなんていつぶりだろうか。
・・・・・・実は俺、コミュニケーション能力が致命的なまでに欠如しているのである。
「・・・・・・誰?」
「錦裕也。十五歳」
だから、自己紹介でもこれだ。
あいも変わらずぶっきらぼう極まりない。
ああ、これ絶対嫌われたわ・・・・・・。
*
尚、これが俺の初めての友達となる古波蔵棗との出会いとなるのだが、正直この時の俺はこの娘とどうすれば円滑にコミュニケーションが取れるか、ということしか考えてなかった為に、当然そんな事など知る由もない。
コミュ障系少年な錦裕也君。
同じ歳の女の子と仲良く出来るかな?