彼等は総じて化け物(モンスター)である   作:千点数

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6:凍える世界

 眼前の景色を見やる。

 

 全てが凄く透明な、それこそ向こうの景色までが透けて見えるくらいの透明度の氷で覆われたボロボロの街。

 そして、その街と共に氷付けにされた化け物の群れ。

 様々な化け物が、俺と、俺が腕に抱いている少女を中心に、まるで波紋のように放射状に凍り付いて、固まって動けなくなっている。

 

 いびつな氷のオブジェを尻目に、俺はハァ、と息を吐いた。

 息が白くなって、天まで昇っていく。

 

 「あーあ、やり過ぎちまったなぁ」

 「別に、良いんじゃないかな。もう『何も残ってないんだし』。

 うーん・・・・・・その厳つい見た目からして、『氷結の魔王』と名乗っても良いんじゃないかにゃぁ?」

 「何そのカッコイイ二つ名。採用決定」

 「やたっ!・・・・・・ふふっ」

 

 たった数十分前に会ったばかりの少女と、凍り付いた街を背景にそんな軽口を言い合う。

 俺が腕に抱くその少女の顔はもう、笑顔だ。そうとしか言いようがない。だが、俺を見る目が・・・・・・まるで、最愛の人に何年ぶりかに再開した乙女のようで、そして、『何処までも吸い込まれそうな、暗い、暗い瞳だった』。光なんて一切ない。熱に浮されたかのように、うっとりと俺を見つめていた。

 

 その少女からねっとりとした、なにやら背中にゾクリと来る感情を向けられている。

 

 何故こんな目と感情を向けられているのか、は、俺にも解らない。

 ただ、俺がこの少女の心に響く何かをやったのだろう、という事だけは、何となくは解った。

 

 「・・・・・・勘弁してくれ・・・・・・」

 

 別の意味で、悪い予感がしてならない。

 ・・・・・・街の空気は、その少女が出すねっとりとした感情とも相まって、別の意味で凍えるような冷たさがあった。

 

 *

 

 [約三十分前/北海道/とある場所]

 

 「さっむぅ・・・・・・」

 

 改造した学ランの襟を立てながら、俺はガクブルと震える。

 ああああああああーーーーーーさっみぃぃぃぃぃいいいいいい・・・・・・。

 

 流石に寒すぎる。

 冬か?冬なのか?寒いにも程がある。

 俺をこの世界に転移させた神とか名乗る奴曰く、俺が元いた世界と同じく季節的にはまだ秋の中頃らしいが・・・・・・こりゃああれか。俺が転移させられたこの別世界が異常気象で異常に寒くなっているのか、それともただ単に北の方の土地なのか。

 

 ・・・・・・それにしても、これは一体どういう事だろうか。

 俺の目に映る景色は、すべからく破壊され、ボロボロになり、まるで終末世界のようだった。

 

 「あ“ー、どうにかならんものかね、この寒さは。いくら俺がポケモンの氷タイプの体と技を貰ったからと言ってもこれは寒すぎるぞ」

 

 周囲を見回しながら、ヤバい場所に転移させられたなぁ、と、考えながら、やはり寒い事に関する文句が出てしまう。

 実は、俺は神を名乗る奴の説明なんて、モトモに聞いていない。この世界にいる人間を助けろ、という事と、別世界に送る、という事、そして、俺が唯一やっていたゲーム、『ポケモン』の氷タイプの体と技全て、そしてPP無限なのと特性:マルチスケイルを貰ったくらいしか覚えがない。

 ・・・・・・ああ、そういえば、素早さ以外のステータスを神々をコロコロできる次元までむりくり押し上げたとか言ってたような?まあ、良いか。

 

 後は問答無用で、この世界に転移させられた。

 

 「くっそう・・・・・・次あの自称神に会ったら絶対に文句を言ってケツバット食らわせてやる・・・・・・!」

 

 悪態をつきながら、さっきからばっこんばっこん音が響いてくる場所に、俺は向かって行くことにした。

 そこで物音がする、という事は、誰かいるのだろう。道でも聞こう。そう思った。

 

 

 

 甘かった。

 そこは、誰かが生活していたのであろう街だった。

 先ほどまでの、ボロボロの街ではなく、確実に誰かが住んでいた。

 

 ・・・・・・が、それも俺の目の前で壊されていく。

 口だけが付いている、餅のような見た目の化け物が、ヒトガタの何かをぐっちゃぐっちゃと喰らい、咀嚼していた。

 

 ・・・・・・全く、

 

 「全く俺って、タイミングが何時も悪いか遅いかの二択だよなぁ!」

 

 別に、妙な正義感が湧いた訳でもない。

 別に、自称神にこの世界の人間を助けて欲しいと言われたからって訳でもない。

 

 だが、何故か体が動き、化け物を俺は潰していった。

 

 さて、氷タイプの技はかなり強力なものもあるが、殆どは威力が百にも満たないか、命中率が低いかのどちらかだ。

 

 「『ふぶき』!」

 

 だが、現実では違ってくる。

 吹雪なんて起こそうものならば、それは面となって化け物を押し潰しにかかる。つまり、ゲームでは命中率が低かったこの技も、現実だとほぼ、『必ず当たる』。

 俺の放った『ふぶき』によって、俺の周囲にいた化け物は殆ど氷付き、地面に落ちて砕けた。

 俺は走った。時々化け物を踏み越え、凍らせ、殴って破壊した。

 今だ爆発音が響く方へ、遅い足を全力で回した。

 

 そして、爆発音の中心地が見えた。

 そこには、ボロボロの紫色の衣装を纏った、眼鏡をかけた女の子が、槍を持ったまま棒立ちしていて、そこに無数の針のような物体や、細いレーザーが飛んで来ていた。

 

 「オイオイ・・・・・・!」

 

 孤立無縁。そして絶望。

 あの少女の、今の状態を表すならばこれだろう。

 周囲すべてを、様々な種類や大きさの化け物で囲まれて、そして前方向からレーザーや光輝く針のような物体が飛んで来ているこの状況を表す言葉に、これ以上のものがあるだろうか。

 

 ・・・・・・そして、だからこそ、俺は走った。

 孤立無縁な状態の、その少女に向けて。

 状況は違うが、孤独で孤立しているのは、ちょっと、昔の俺と重ねてしまって、何か・・・・・・放っておけなくなった。

 

 ある二つの技を同時に、軽く発動させながら走る。

 その影響で、足が付いた場所が凍りつく。

 ギリギリのところで、少女とレーザー及び針の間に割って入ると、

 

 「『こごえるせかい』@『ぜったいれいど』込みバージョンッ!」

 

 俺は軽く発動させていた二つの技を、本格的に発動させた。

 その瞬間、猛烈な吹雪と冷気が辺りを包んだ。

 

 そして、数秒の内に、周囲全てを氷の中に閉じ込めた。

 さながら、今のこの風景は『凍える世界』と言って差し支えないだろう。

 

 「・・・・・・え?」

 

 俺が出した技の余波を受けないように、片腕で抱き寄せていた眼鏡っ娘がマヌケな声を上げる。まるで、目の前の光景が信じられないといったような、そんな感じの表情で目をパチクリとさせ、次に俺を見た。

 

 その目には驚きと、それ以上の、恐怖の感情がごっちゃになっていた。

 心なしか、少女の体が震えているようにも感じる。

 

 ・・・・・・既にあの時、死ぬしか無かったが為に感覚が麻痺していたが、そんな状況じゃあ無くなって後から恐怖を感じたって感じか。

 

 俺は、それを察すると、眼鏡っ娘の顔を見て、安心させるように笑って言った。

 

 「よお、理不尽(化け物)と孤独からお前を救いに来たぜ」

 

 実際には俺のタイミングがヤバかっただけで自分から救った感じは全くないが、まあ、そこは御愛嬌、という事で。

 

 *

 

 後は、冒頭に戻る。

 

 ・・・・・・今思えば、この言葉が後の俺の、あの何ともヤベー状況を作り出してしまったのかもしれない。




 前作と同じく、なっちが病むと思いましたか?
 残念!闇眼鏡が病みました。

 ・・・・・・正直、病んで好きー、みたいな感じになる理由的なものが弱い気がしますが(若しくは全然上手く書けていない)。

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