[長野/諏訪/九月下旬]
「諏訪勇者、リボーン!アーンド、リメイク!」
「「おお~」」
とある神社の奥の部屋で、俺と藤森は、目の前でポーズをとってみせる白鳥にそんな声を漏らした。
二週間はかかると言われていた勇者装束の修復だが・・・・・・ここのところ調子が良いらしいこの土地を守護する神がハッスルした結果、何と一週間もしない内に修復どころか改造までやってのけたという事で、今日はそのお披露目のような感じの事をやっている。
そして白鳥は今、新しくなった勇者装束を着ている。
所々に花の刺繍や、造花のような飾りが追加されて、随分と華やかになったようにも思える。
それでいて、戦闘の邪魔にならないような作りで、和風のバトルドレスのようだと俺は思った。
俺が無自覚の内に出しているらしい『神秘』のおかげで、ここを守る神の力が上がった為に、加護もパワーアップしているらしい。
身体能力が上がる加護と、防御力が上がる加護が凄く強力なものになったらしい・・・・・・フムフムなるほど。大和撫子(物理)か。
武具の鞭も、少々大型化してがっちりとしている。
攻撃力が大幅に上がったそうだ。
「これで、りゅー君と一緒にバーテックスをクラッシュしてやるわ!」
「これは勇ましい。やはり大和撫子(物理)だったか・・・・・・」
「竜介君、今大和撫子の後に何か言葉が付いていたような・・・・・・」
「気のせいだ藤森」
*
[沖縄/本島/九月下旬]
あのあと、何やかんや(場所知ったら沖縄本島だった)あって・・・・・・。
「・・・・・・」
「・・・・・・?」
「・・・・・・」
「・・・・・・棗?何故俺を見る?」
さて、この世界に転移して初っ端から同年代の女の子に対する自己紹介で、何ともぶっきらぼうな感じになった俺だが、何と、何故か同じ家で生活している。
いや、何か鯨の化け物・・・・・・バーテックスと言うらしい・・・・・・に食べられたところを救ってくれたお礼とかで、無一文の宿無し戸籍無しで、外見無愛想な不審者丸だしで、更にコミュ障で人と話す時に極度の緊張で見た目と同じような無愛想でぶっきらぼうな物言いになるというのに、この女の子・・・・・・古波蔵棗は、俺と仲良くしてくれていた。
ヤバい。マジで超いい子だわ。絶対に嫌われないようにしよう。
尚、俺が名前呼び捨てなのは、そうして欲しいと
さて、そんなめっちゃいい子な棗に、俺はじぃ~っと見られていた。
俺はただ本を読んでいるだけなのだが・・・・・・。
「俺を見て楽しいか?」
「・・・・・・ああ。裕也を見るのは楽しい」
じぃ~。
「・・・・・・そ、そうか」
棗はそう言いながら、ただでさえ近かった距離感を更に詰めてきた。
背中に抱き着きながら肩に顎を載せるのはやめて何か柔らかくて良い匂いしてヤバくてもう心臓爆発して俺死んじゃう(お目目グルグル)。
絶対に顔に出さないようにしつつ、俺は本に集中した。
*
[恐らく岡山の何処か/あるビルの屋上/年月不明]
「何か涼しくなってきたなぁ・・・・・・最近はほんのちょっぴり寒いくらいだ。もう冬が来てるのか?」
有り得る。
俺がこの世界に来たのは夏だった。何日かは知らん。俺あまりカレンダー見ないし。
そして、今現在空腹と喉の渇きに耐え忍びながらもう二ヶ月は生活を続けている。もう秋が来て、冬に近づいてもおかしくない。
・・・・・・ヤバい。何がヤバいって、もう空腹感がヤバい。
もうここ最近、缶詰さえも食べていない。
飲み物は運よく大量に手に入ったが、食べ物はもうここ三週間は口にしていない。
・・・・・・あ、ヤバい。意識がマジで飛びかけた。
最近、妙に眠くなる。生存本能が、眠ったらマジ死ぬぞと訴えている為に、ここ二週間くらい寝ていない。
あぁ~・・・・・・俺、本当に空腹と睡眠不足が原因で死んじゃうんじゃぁないだろうか・・・・・・。
「しにたくないなぁ・・・・・・」
こんなどんよりとしてローテンションで更に死にそうで、そんな状態な為に曇りに曇って雨ザーザーな俺の心に対し、ごろりと寝転がって見る空は晴れ渡っていて、腹が立つくらいに透明で。宇宙の果てさえも見えそうだった。
「・・・・・・で、こんな状態の俺にも容赦なく化け物は襲いかかってくる、と」
そして、しばらく見上げていれば視界を埋め尽くす化け物の群れ。
ああ、もう死ぬのかな俺・・・・・・。
「・・・・・・でも、死にそうでも戦うけどな」
流石に、化け物に喰われて死ぬのは痛そうだし死に方としては却下だ。
「来いや、化け物共。纏めて鏖殺してやんよ」
『インファイト』で、早速向かって来た化け物をぶっ飛ばし、俺はそう言い放った。
*
[北海道/カムイコタン『跡地』/十月上旬]
「ねー!缶詰見つけた!いっぱい!」
「お、マジで!やったぜ」
ところどころ氷が残る廃墟に、雪花の声と、
「ばんちょー!こっちはお菓子見つけた!」
「いっぱいだよー!」
「服いっぱいー!」
「・・・・・・鞄と靴もあった」
「番長、こっちは傷薬いっぱい。ほら」
「使えそうな大きい車を見つけたぜ番長。なんだっけか・・・・・・真っ白い、確か軽トラとか言う奴」
六人の、五~六歳の元気な子供達の声が響く。
「おおー。お前らもなかなかやるじゃねぇか。あと最後の。よくやった。場所何処だ」
俺達は現在、化け物の襲撃で滅んだ街で食料と日用品を探していた。あと移動の為の足も。
俺が出した氷で化け物ごと氷付けになった街だが、それも俺の意思で砕け散らせて、そして化け物の襲撃と俺の氷によってほぼ更地のカムイコタンを、俺達以外の生存者を探す為に雪花と化け物に警戒しつつ歩いていたら、幼稚園のような場所で身を寄せ合い震える子供達を発見したのだ。
いやぁ・・・・・・あの時はヤバかった。化け物だと思われて泣きわめくわそれを宥めると、今度は安心して嬉し泣きするわで・・・・・・。
その子供達以外には生存者はいなかった。死体すらも無かった。
それで、ここ数日子供達の面倒を見ていたら・・・・・・何かすっげー懐かれた。
雪花は『お姉ちゃん』、そして俺は何故か『番長』と呼ばれている。
・・・・・・過去の行い見返してみれば、番長ってのもあながち間違いじゃあないけれど・・・・・・。
「おお、こりゃあ綺麗に残ってんな。この車のキーは?」
「ほい。刺さったままだったから一応抜いて持ってた」
「ん・・・・・・よっしゃ。コイツなら爺ちゃんが運転してたのを覚えてるから行ける。おい、お前ら拾った荷物拾ってきたリュックに詰めて背負え。寒いかもしれんが荷台に乗れよ。さっさとこのさっむい街からずらかるぞ」
子供達が全員荷台に乗ったのを確認して、俺は周囲を確認しながら静かに車を走らせた。
いざとなれば、荷台に子供と乗っている雪花が投げ槍を投擲し、俺が『ゆきなだれ』なんかの威力の低い遠距離系の特殊技でどうにかする。
「さて、そうだな・・・・・・丁度いい感じの広さで、尚且つ丈夫な廃墟とかあれば良いんだが・・・・・・」
そんな感じで、俺と雪花、子供達による、行き場が殆どない終末世界の北海道旅行が始まった。