それは、物語の一幕。
窮地に陥った無垢なる少女を、ヒーローの少年がぶっ飛ばすという、ありがちなヒロイック要素。
さて、そんなありがちな場面がここに一つ、女顔の少年によって再現された。
*
その少年は、見事なまでに、伊予島杏の目にはヒーローに映っていた。
伊予島杏は、敵である超巨大バーテックスの炎の塊から逃げ遅れ、今にも焼かれそうになっていた。
足を負傷し、海に浮かぶ、現在では全くと言っていい程使われていなかった船の内の一つに倒れて、最早絶対絶命の大ピンチ。
死を覚悟し、目をつぶる・・・・・・・・・・・・
が、そんな絶望を、真っ向から切り裂いた者がいた。
何を隠そう、冒頭で書いた、女顔の少年である。
その少年は、太陽を小さくしてそのまま放っているとしか思えない熱量を持つ球体を何の苦もなく、蒼いオーラで出来た光輝の両刃剣の一振りで、全て消し飛ばしたのだ。
そして、少年は振り返って伊予島杏を見たとき、少ししゃがんでその頭をくしゃくしゃと撫でた後、
「よぉ、お嬢さん。目をつぶるのは良いが、せめて目の前の敵と攻撃を全てぶっ飛ばしてからにしようぜ?」
そう呆れたように言ったものの、優しく微笑んだのだ。
そして、少年は無自覚にも、ボソリとこう言った。
「まぁ心配するな。アンタは助かる。だから安心すると良い」
さて、伊予島杏は、間違いなく勇者であり、普通の女の子よりかは、ほんの少し心が強靱である。だが、心の根底、更にその奥の奥底に潜む、ロマンチックな乙女心的な何かが反応したのだろうか。
・・・・・・その時、しばらくの間、その心はその女顔の少年の事でいっぱいになってしまった様だ。
*
[四国/どこかの砂浜]
「だ、大丈夫・・・・・・?」
「だ、大丈夫だ。問題ない(震え声)」
「それ、絶対大丈夫じゃないでしょう・・・・・・」
俺は今、ピンク色の装束を着た活発そうな少女と、鎌を持った赤い装束を着た少女に支えられている。
・・・・・・後ろから絶対零度の視線が何故かぶつかってくるが気にしない。
何?あの太陽はどうしたって?
や、普通に潰したけど何か?いやぁ~雑魚を『グロウパンチ』で潰しまくって、俺の持っている特性のビーストブーストの効果で俺の一番高い能力である攻撃をガン上げしてからの『インファイト』でボッコボコにしたよ?
豆腐みたいに柔らかくてビックリした。高々攻撃を三十段階アップさせただけで倒せるとは思わなかった。
で、残りの雑魚な化け物を踏み台にしながら足場になりそうな船までジャンプしていって、その間に俺が助けた白い装束を着た美少女が足をケガして歩けそうになかった為に救出、砂浜にまで『ビルドアップ』を使い、それの副次効果で上がった身体能力を使ってジャンプ。
そして、抱えていた美少女を彼女の仲間と思わしい似たような装束を着た少女に預けた途端・・・・・・
・・・・・・俺は空腹と寝不足で頭から砂浜にぶっ倒れ、現在、俺は少女二人に支えられている、という有様だ。
「いやぁ~大丈夫だって極度の空腹と寝不足でめまいを覚えただけだから問題ないよ~ハハハッ」
「『だけ』ってレベルじゃないよね!?絶対大丈夫じゃないよね!?直ぐに病院に連れていこうぐんちゃん!」
「ええ、解ったわ」
少女二人に、俺は病院に問答無用で担ぎ込まれた。
*
さて、そんなこんなあって、病院で検査を受けたあと。
俺は病院できつねうどんを食べていた。何故かコレが、俺の病室の枕元にお見舞いとして置いてあった。
『大社』と呼ばれる組織からのものらしく、きつねうどんと一緒に置いてあった手紙には、明後日に俺に質問やら何やらをしに病室に来るとのこと。
尚、俺は一週間入院らしい。
・・・・・・三週間何も食べず、二週間寝てないのに入院が一週間だけ・・・・・・ヤベーな俺の体。
一週間入院かぁ・・・・・・だいぶ暇だなぁ・・・・・・。
そう思いながらきつねうどんを食い終わり、暇をどう潰そうか、と考える。
「本の一冊でもありゃなぁ・・・・・・」
俺はゲームも好きだったが、軽度の活字中毒でもあった。最近のブームはラノベだな。
だから、小説一冊あれば、一応五日くらいは時間を潰せるね。
まず普通に読んで、全て英訳して、今度はそれを独語にして、そしてそれを和訳して。
それを繰り返していればとりあえず暇は潰せるんだが・・・・・・
コンコンコン。
その時、病室の扉がノックされた。
「空いてるんで入って、どうぞ」
入室してきたのは、足に包帯を巻いた、俺が炎の塊から助けた美少女だった。
手には本を何冊か持っている。
「失礼します。今、大丈夫かな?」
「おおよ。暇で暇で仕方がなかったところだ」
*
息を整え、扉の前に立つ。
・・・・・・とても緊張する。人一人と会ってお話するだけなのに、どうしてこうも心臓が早鐘を打つのだろうか。
どうにも、私はおかしくなってしまったようだ。『彼』に出会ったあの窮地から、ずっと心と思考が『彼』の事でいっぱいだ。
私・・・・・・伊予島杏は、『彼』の病室の扉の前に立ち、深呼吸をして、そしてコンコンコンと扉をノックした。
「空いてるんで入って、どうぞ」
ガラガラと引き戸を開けて、病室に入る。
『彼』は真っ白い病人服を着て、ベッドの上であぐらをかいていた。
「失礼します。今、大丈夫かな?」
「おおよ。暇で暇で仕方がなかったところだ」
その返答を聞いてから、私はベッドの傍らにある椅子に座ると、
「その・・・・・・迷惑じゃなかったら、なんだけど、本持ってきたんだ。
入院中の暇をこれで・・・・・・」
『彼』に本を手渡す。
すると『彼』は目を爛々と輝かせ、
「え!?マジで!サンキュー!
へー、イロイロ種類あるなぁ・・・・・・おお、古事記もある。いや、マジでありがとう。暇をこれで潰せる」
よかった、喜んでくれて・・・・・・。
私は心のそこからホッとして、そして『彼』の笑顔を見ると、胸が満たされていっぱいになった。とても幸せな気持ちだ。
私はやはり、どうしようもないくらいに『彼』の事を好意的に思っているらしい。
*
「なんだかあんずが取られる予感がした!」