[北海道/電波塔/一月末/朝]
この電波塔に住み着いて、早二ヶ月強。
「うー、さっぶゥ~・・・・・・」
鬼番長服部とまで謡われたこの俺も、こうも寒いと敵わない。
・・・・・・背筋が凍える程の視線が後ろから注がれているから、尚更。
あの日から、密着されて抱き着かれて見つめられるのがもう日常になっちまった。
別の部屋からは、ガキ共がじゃれついてる声が聞こえる・・・・・・まあ、あの声を『じゃれついてる』と言っていいのかは甚だ疑問だが。
ガタガタ震えながら、切った張ったで適当に制作した通信機器の周波数を、これまた適当な位置に合わせ、何時もの日課を行う。
「あー、どうも。こちら北海道。聞こえてるかーーーー」
こちとら電波塔に超巨大パラボラアンテナと設備は揃ってんだ。日本の何処かに届くだろ。
「頼んだぜ・・・・・・ッ」
俺はそう願いつつ、受信機の感度を最大にした。
*
[沖縄/古波蔵棗の家/同日/朝]
「・・・・・・ちくしょお、勝てない」
俺、錦裕也はそうぼやきながら起き上がる。
最近更にヤバくなった棗に朝っぱらからムシャられて、真っ白の状態でメシの準備をする。
台所の脇にあるラジオのスイッチを押し、そこから流れる音楽番組の曲に合わせ鼻歌を歌いつつ、昨晩食べた残りの沖縄そばの麺を潰し、こねて丸めて胡麻をかけてサラっと揚げていく。
「ま、小麦から作るらしいしイケるだろ」
おやつ感覚の朝食になってしまったが、あと二時間程で昼メシに良い時間、という事を考えれば、このぐらいで良いだろう。
さて、棗を起こしに行こうか・・・・・・。
『~~ーーーー~~♪・・・・・・ガガガ、Peeeeeeeee』
と、思った瞬間、ラジオから流れる音楽番組が不意に乱雑なノイズに変わる。
「・・・・・・壊れた?」
あー、買い替え時か?
『Gaーーーーあー、どうも。こち[ガー]北海道。聞こ[ガ、ピー]か? 今、ガキ六人と女一人、そ[ピピー、ガー]、男一人の計八人で[ガガガ、ピー]延びてる[ビリビリ、ガガガガ]ーーーー~~~~♪』
「ッ!」
一瞬、誰かの声が聞こえたが、直ぐに元の音楽番組に戻る。
「ええとーーーー?」
さっきの放送、何時もとは別の情報番組かと思ったが、ここにはラジオ局も番組も一つしか無いし、新しい番組も増やす予定は一切無いと聞いている。つまりコレは。
「海賊放送・・・・・・しかも、情報を鵜呑みにするならこことは対極の北海道から・・・・・・どんだけ性能良い設備持ってんだよ・・・・・・衛星でもジャックしたか?」
ところどころノイズが酷いが、それでもこれだけハッキリと音声が拾えるとはな。
「おはよう、裕也。さっきの放送は・・・・・・?」
「・・・・・・棗、ええと、あ、うんと」
はー。彼女にさえもこんなどもるとか、マジで俺コミュニケーション能力皆無だわ。
「裕也、落ち着いて、ゆっくりで良い」
「・・・・・・ゴメン。その、海賊放送。多分、北海道から」
「生存者か。助けに行きたいが・・・・・・」
「・・・・・・無理。・・・・・・距離がある」
こういう時、俺は無力だ。
せめて、水タイプなら、『なみのり』や『アクアジェット』で海を渡って行けるのに。
でも、今無いものねだりしてもしょうがない。
今は無事を祈ろう。
「さっきの声、少し恐怖も混ざってた気もするし・・・・・・化け物に囲まれて不安なのかもな・・・・・・せめて、生き残って欲しいな」
さっきの声の主が、別の意味で恐怖してたなんて、俺には知るよしもなかった。
*
その頃。
諏訪と四国。
そして、知らぬ間に、沖縄と北海道。
偶然ながらも、繋がりを得た『俺達』に、脅威が迫っていた。
あと少し。