彼等は総じて化け物(モンスター)である   作:千点数

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 正直読者さんが待ってくれてるか不安ですが、続き投稿します。はい。

 投稿が遅れに遅れて済みません。


31:神話の戦い(下)

 本当は分かってる。

 俺が、自分がおかしいって事くらい。

 

 でも、まだ人間だって。そんな幻想を抱いていたかった。

 

 まあ、お前らの知ってる通り、もうイロイロ手遅れだったんだけどな。

 ほら、俺の今の状態を見りゃ解るだろ?

 

 ーー神世紀元年 記

 

 『大赦検閲不可』

 

 *

 

 枯れはじめた樹海で、俺と武甕槌は再度激突した。

 最早、五体満足で生き残る事は出来はしない。だからせめて、コイツだけでも地獄に叩き落としてやる。

 

 片足で、前方に向かってジャンプするように飛び出す。

 ぶつかるようにして突き上げた拳をいなされ、顎を蹴り上げられる。脳震盪で頭が痛いが、それを振り払って、一撃。

 

 武甕槌に向けて放った突きは受け止められる。

 片足が無いのは、やはりつらい。踏み込みが効かない。威力も、何もかもが足りなくなる。

 

 「遅い、足りないッ! 弱いぞッ」

 「言ってろ! そしてせいぜい油断しやがれ!」

 

 片腕を失っている筈なのに、目の前の武神はトンでもない量の拳のラッシュで俺を攻撃してくる。

 片足をだけで踏ん張り、残った両腕で弾くが、顔に、腕に、脇腹に掠り、時折刺さり・・・・・・。

 武甕槌は、傷らしい傷は片腕を失っただけで、それでもその傷のダメージを悟らせない・・・・・・というか、本当にダメージを受けているのかどうかすらも怪しい。

 

 「ッ、糞ッタレ」

 

 対してこちらは、傷口から漏れ出る血液で、視覚的にも精神的にも疲労が溜まる。

 そして、貧血やら何やらで意識が遠くなる。視界がぼやけ、集中力が一瞬、ほんの一瞬薄くなる。

 

 その一瞬。見逃すような甘い相手では無い事すら、今の俺には頭に無かった。それ程までに、理解力、そして判断力も薄くなっていた。

 

 「もう、限界か・・・・・・只人としては、良くやった方であるなッ!」

 「しまっーーーー」

 

 気がついた時には既に遅く。

 甲高い雷鳴が響くと同時に、目の前が閃光に染まった。

 

 *

 

 死ぬ前は、時の流れがゆっくりになるようだ。

 周囲の景色が、音が、ゆっくりと引き延ばされているように感じる。

 

 倒れていく自分の体、狭まっていく自分の視界。

 ゆっくり、ゆっくりと、確実にサヨナラに近づいていく。

 

 目の前には、つまらないものを見るような眼で俺を見ている武甕槌の姿。そして、俺の後ろに眼をやる。

 俺の後ろには、勇者がいる。

 

 守らなければ。

 でも、体が動かない。

 何か、自分の体から剥がれ落ちるような感覚さえする。稲妻を落とされて焦げた、自分の肉体だろうか。

 

 ああ、守れないのか。

 あの時、太陽のように大きいバーテックスを倒し、少女を守った。あの時から、俺はあの娘からヒーローのように思われている事を知っている。

 だけど、そのヒーローが。

 守るべき存在を守れずに、地に臥してしまうのか。

 

 情けない。自分に笑ってしまう。

 諏訪から四国へと超スピードで戻って行く道中、俺は何を思っていた?

 

 無事でいてほしい。必ず、間に合う。そして。

 

 (絶対に、守る。だっけか)

 

 結果はどうだ?

 間に合わず、歳場もいかぬ少女達は今にも倒れそうで、ボロボロで。今、自分で思った事さえもやり遂げる事が出来ず、今、俺は倒れていく。

 

 お笑いにも程がある。

 何だ。俺は、これ程までに根性無しだったのか。

 

 (今の、この状況を覆せないか?)

 

 無理だ。

 ・・・・・・と、そうスッパリと諦める事が出来れば良かった。

 だが、そうしようにもあいつらと仲良くなりすぎた。

 

 朝、盗撮する巫女を無視しつつ剣と拳の語り合いをし。

 シャワーを浴びた後に猫みたいな奴を叩き起こし。

 その隣の部屋で、何時も早起きしている少女に借りていた小説を返し、感想を言い合い。

 昼にうどんを明るい娘とたわいもない話をしながら食べ。

 夜まで、ただ言葉も交わさず、それでも気のおけない仲の少女とゲームをする。

 そして。

 寝る前に、巫女の少女と、今日の盗撮写真の良い部分を興奮気味に語り合い。

 

 そんな日常が、とても楽しくて。

 

 だが、俺がここで諦めれば、全てなくなってしまう。

 

 (それだけは、嫌だ)

 

 根性を見せろ。

 

 血が足りない(問題ない)

 内蔵が半分潰れている(問題ない)

 立てない(問題ない)

 今にも死にそう(問題ない)ーーーーッ!

 

 すべからく、全く、無事な場所は無い(問題ない)

 

 無事じゃない部分は全て無視する(問題ない)

 体の中に、有るべき物が無いなら、作れば良い。

 

 体が作り変わり、置き換わっていく感覚がする。

 脚が、腕が、腹が、そして、頭が。

 

 戦闘に(・・・)特化(・・)する。

 

 ああ、そうだ。これに勝てさえ(・・・・)すれば良い。

 それで彼女達を守る事が出来れば、それで良い。

 

 「む?」

 「Ge・・・・・・」

 

 そうだ。守るんだ。守らねばならない。

 

 「Ge・・・・・・ge・・・・・・geaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

 そのためなら、人を捨てよう。

 例え、化け物に成ろうとも、彼女たちをーーーー

 

 *

 

 目の前で、天地さんが変わっていく光景から、眼が逸らせなかった。

 

 体がボロボロになっていく天地さんを見て、もうやめてと。そう言いたかった。

 だけど、言おうとしても、体が動かなかった。

 

 そして、止めと言わんばかりの攻撃を受けて。

 それでも尚、立ち上がって、私達を守ろうと、絶対的な力を持つ神に今も相対している。

 

 「天地・・・・・・さん?」

 「Grrrrrrrrrrrr・・・・・・」

 

 変わり果てた姿となっても。

 

 天地さんの持つ力の影響だろうか。

 大社の解析班の人達でも分からない、力。

 

 天地さんはその自らが持つ、圧倒的で、暴力的なその力を体言するかのような姿に、異形に変わってしまっていた。

 

 まるで狼のような顔。

 逆間接の脚。

 肉球の付いた手。

 ところどころに存在する鋼のようなもので出来た(とげ)

 赤と黒、二つの体毛で包まれた、狼面の獣戦士に、天地さんは変わってしまっている。

 

 欠損した筈の脚が元通りになっているのに少し安心した。

 けれど。

 

 「天地さん、天地さん?」

 「Grrrrrrrrrrrr・・・・・・geyaaaaaaaaaa!」

 

 私達を守ろうと、向けた背中。

 でもそこに、理性は無く。

 

 ただの、本能だけで動くような、怪物(モンスター)のような有様だった。

 

 「ほう、理性亡き獣と化したか。来い、少々手荒になるが、飼い馴らしてやるとしよう」

 「Gaaaaaaaaaaaaaa!」

 

 *

 

 樹海が、赤く枯れかける中。

 

 獣と、武神は激しくぶつかり合い。

 

 私達、勇者は。

 

 「な・・・・・・んだ、あれは・・・・・・」

 

 樹海の空を、呆然と見上げていた。

 そこには、真っ赤な雲が広がっていて。

 

 それこそ、私達勇者の最大の敵とも言える、天の神だとは、思いもしなかった。




 次回、沖縄。

 天の舟VS活ける炎。

 そして、西暦最後の戦いは本戦へ突入する。

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