とても難産でした。はい。
青森県、某所。
「フゥー、どうにかたどり着いたな、本州」
真っ白い息を吐く。
冬真っ盛り、海風はかなり体を冷やす。
「ばんちょー凄かった!」
「へへん、これが俺の力って奴よ」
ガキに笑いかけつつ、俺は背後を振り返る。
たった一○分前まで荒れ果てていた海。
そして、その中に潜んでいた超巨大バーテックス。
俺は、ただ数秒足止めが出来れば良いと、そう思って『ぜったいれいど』を使い、後方にいたバーテックスの大群を凍てつかせたつもりだった。
だが、蓋を開けてみればどうだ。
「番長、これスゲーな。カッチカチだぜ」
「かき氷作ったら美味しいかなぁ!」
「お腹壊しちゃうわよこんなので作ったら」
「おうありがとう。あと勇人、お前は食うなよ。・・・・・・技の規模が上がっていやしねぇか? 流石にこんなになるのは予想外だぞ?」
ガキ共がつんつんと足で突いているのは、氷ついた海。
そう、バーテックスどころか海、果てにはその海の中に潜んでいた超巨大バーテックスまで巻き込んでしまったのだ。
これには俺も驚いた。
威力が桁違い過ぎる。
そして、技の威力に比例するようにして。
(ッ、今度は右足の太股か)
だんだん、体が冷えてきていた。今の体温は三○度程度、といったところだろう。
そして恐らく、右太股を見れば真っ白い霜が生えたかのような変化が見られる筈だ。
(この世界に送り込みやがった野郎は、『勇者と世界を救え、世界は二の次でも構わん。力もくれてやるし、救うことに適した形へ最適化もしてやる。後はどうにかしろ』とか言ってやがった・・・・・・精霊にでもなっちまうのか俺は。
はは、まさかな。まさかそういう形にポケモンみたく進化して、勇者のバックアップに最適化するって訳でもあるめぇし・・・・・・)
嫌な予感しかしない。
だが、自分が持っているこの力と、神と名乗る謎存在の言った言葉。
それが今になって、俺の頭に妙に残っていた。
*
数日後。
本州に渡ってから、一度も戦闘を行っていない事に驚いた。
北海道はもう滅んだも同然。ならば、本州には大量のバーテックスが居るはずなのだが、本州はいやに静かで、軽トラを走らせていてもバーテックスの一匹にも会わなかった。
「何もねぇってのが逆に怖いな」
「鬼十郎君、次右だよ」
「りょーかい。・・・・・・諏訪までもう少し。もう後一○キロ。飛ばすからしっかりと捕まってろよガキ共!」
荷台から元気の良い返事が返ってくる。
荷台には木材とホームセンターに放置されていたブルーシートでほろと掴まるための台を作ってある。
荷台そのものも、鋼鉄の板を張り付けて、軽トラの荷台の囲いが下りないように固定してある。
少々飛ばしてもヘッチャラなのだ。
そしてすぐ後。
一度もバーテックスと戦わなかった理由が、漸く解った。
「雪花、運転変われ」
確かに、あんなとこにバーテックスが一点集中して集まってたら会わねぇに決まっている。
「・・・・・・私、運転したことないよ?」
「俺の運転毎日見てたろ。お前なら俺の動きトレースすんのくらいわけねぇだろうが」
「そうだけど・・・・・・でも」
「なぁに安心しろ。道は作る。真っすぐ、ただ走れば良い」
「・・・・・・私が心配してるのはそういうのじゃないってのを何で理解しないかなぁこの鈍感は」
悪いが、最後の言葉は意図的にスルーさせて貰うし、俺は鈍感じゃねぇ。
全部、終わってからだ。
俺は一度、
「まー、なんだ。絶対戻る。諏訪で待ってろ」
そして一言、雪花の耳元で呟いてから窓から身を踊らせ、着地する。
軽トラは一瞬蛇行したが、そのあと真っすぐ走り出した。
「さて。んじゃあ喧嘩と行くかね」
諏訪に真っすぐ走っていく軽トラが見えたのか。
群がるバーテックスのうち、幾つかが軽トラへと向かっていく。
大口開けて軽トラへ向かっていく姿から、軽トラごと雪花達を食い散らかすつもりだろう。
「ったく、畜生共が。そいつはお前ら程度の脳無しが近づいていい女じゃねぇぞ!」
まあ、俺がさせねぇけど。
軽トラへと向かうバーテックスに向かって全速力で走り出し、『れいとうパンチ』で凍らせながら吹き飛ばす。氷の破片が幾つも散らばり、玉突きのように他の雑魚も纏めて吹き飛んでいく。
その後すかさず『ふぶき』を使い、軽トラの進路上のバーテックスを全て凍らせてから砕き、邪魔な障害物を無くす。
軽トラが諏訪に入った事を確認してから、ホッと一息つく。
さて。
バーテックスは、諏訪を囲むようにしてワラワラと集まっている。
外側からも、まだ集まっている。
諏訪には、まだ人間がいて、俺と同じような奴が戦っているのが
なら、諏訪に入っていった奴は任せるとして。
せめて、これ以上増えないように俺は外側で戦うとしよう。
幸い、北海道のような豪雪地帯でなくとも、今は真冬。寒い時期だから、氷タイプの技は使いやすい。
『ぜったいれいど』で、空間とバーテックスごと厚く、高く、そして広く、凍りつかせていく。
作ったのは、壁。
今の俺の意思、『不退転』を体言するこれ以上ないモノだろう。
「来るなら来い。此処から先は通さねぇ!」
また少し、体が冷えた。
けれど、心は熱く、闘志を燃やす。
今の俺は、負ける気がしなかった。
*
「あの馬鹿・・・・・・!」
真っ赤になった顔を冷ますように、窓を開けっ放しにして走る。
諏訪まで一直線。進路上の障害物は鬼十郎が片付けてくれたから、私達は無事に諏訪に辿り着いた。
「待ってるから、あんな言葉くらい帰ってきてから言えば良いのに」
子供達を避難所に下ろし、突如として出来上がった、雲まで届く広い氷の壁を見て言う。
「不意打ちじゃなくて、今度は目を見て言ってね」
愛してるって。
次回。
四国。