「ここは・・・・・・」
自分自身気がつかない内に、どうやら気絶してしまったらしい。
フワフワと、まるで下から押し上げられているかのような感覚がする。身をよじろうとして・・・・・・止めた。自分は今、湖に浮いているようであった。
寝転んだ状態で見上げる上空は真っ青。雲一つ無い快晴である。
自分が何故、このような状態なのか。まるで理解が出来なかった。
脚を片方喪ってしまった歌野を見た瞬間、自分の中の何かが切れたという事だけは覚えている。
が。
「そのあと、一体・・・・・・」
一体全体、どうなった?
負けた? それとも勝った?
歌野と水都は無事だろうか。農家のおっちゃん達の安否も気になる。
遊んでやっていたガキ共は、料理を教えてもらったネーチャン達は、毎朝おっちゃんと夫婦漫才を繰り広げていたオバチャン達は・・・・・・
自分の中で、色んな人の無事が心配になってくる。こうしてはいられない。
「・・・・・・っ、ぐっ・・・・・・」
だが、身体が動かない。
寝転んだ状態で顔を限界まで上げ、よく見れば、身体の至る所が腐りかけていた。
どうやら、自分の気がつかない力を使いすぎたらしい。そりゃそーだ。元々身の丈に合わない力を使いつづければ、何時かはこうなると最初から解りきっていた事じゃあないか。力に身体が着いていってない。龍の力を無理矢理人間の身体で使ってたんだ。
乗用車にジェットエンジン乗っけるようなモノだろう。
『ホンット、お前の想像力には感服するよ。まさか無色の神の力を龍の力に近い何かにまで変質させるなんてな。・・・・・・ま、身体の方がそんなんじゃ、そんな力も意味ねーけど。つか、良く持った方だわ』
不意に、そんな声が聞こえた。
男とも女とも、子供とも老人ともとれるような、どっちつかずな声。
目の前には、湖の上空の景色ではなく、見下ろすようにして、ファッションセンスをこれ以上無い程疑うくらいのダサい仮面を付けた、男か女かよくわからない奴が立っていた。
・・・・・・いや、コイツは。
「よぉ、久しぶりだな」
『おう久しぶりクソッタレ』
俺をこの世の中に身勝手に放り込み、力を押し付けた張本人。
俺の身の丈に合わないクソッタレな能力を知ってて植付けた糞野郎。
そして、この世の全てを網羅する、文字通り全知全能の絶対存在。
「元気してたか・・・・・・? 『神』」
『そういうお前は死にかけてるな。草薙竜介。うん馬鹿か? 馬鹿なのか? 馬鹿じゃねーのか!? 力を意図的に暴走させて死にかけてるとかマジで馬鹿かお前。いや、ホントに』
今更何の用なんだか。
こちとら現在進行形で死にかかってんだ。見送りにでも来たのかよ畜生。
『あー、そんなおバカさんなお前に耳寄りなニュースが一つある』
わざとらしい口調で、大袈裟な身振り手振りしつつ軽快に言う『神』。
湖の上を、どういう技かは知らないがパシャパシャと音を立てて歩いている。
まったく、どうせコイツの事だ。絶対にろくでもない事に決まっている。そんな事聞かなくても別に構いやしない。
コイツの言うこと聞いてろくでもない目に会うより、このまま死んだ方がナンボかましだ。
『実は、死なずにこの世に残る事が出来る道が一つあったりする』
「詳しく聞かせろ」
前言撤回。
『簡単さ。お前、ここ護る神になる気ない?』
「は?」
マジでコイツ何言ってんの?
*
神のパワーがどんどん抜けていくのを感じる。
蕎麦の実食べればまだ動けそうだけど・・・・・・うん、血が足りない。圧倒的に。
「みーちゃんは・・・・・・大丈夫かしら・・・・・・?」
りゅー君の方は大丈夫。多分生き残ってる。
万が一にも有り得ないが、死んでいたら、後を追う。もれなくみーちゃんもついて来る。
「でもたぶん、このままじゃ諏訪の全人類で心中かなぁ・・・・・・?」
空が割れるように、結界が消えていく。
りゅー君が凄い勢いでバーテックスをデストロイしていったけれど、恐らく外にはまだバーテックスがいるだろう。
「ほら、カミングしたわ」
空から、何時かの時のように降って来るバーテックス達。
血が抜けて、動けないとぬかすこの身体を無理矢理起こす。
千切れた右足の太股から血がドバドバ流れ、正直ダウンしそうだけど、ここはグッと我慢我慢。ここで私がダウンしちゃあ、いけない。
「もう、りゅー君。バーテックス来たのになんで出て来ないのよ。
・・・・・・何時もみたいに恥ずかしがってる場合じゃ、無いのよ?」
ベッドの上で私とみーちゃんに押し倒され、ちっちゃくなってしまうりゅー君を想像し、クスリと笑う。
そして、そんな想像で勇気を貰い、片足で、しっかりと立つ。
睨みつける。
撤退は無い。何せ、もう、先の無いライフだ。
だが。それでも。
「『彼』に会うまで、まだ死ねない」
逃げたところで怪我をした私では後ろから貪り喰らわれるだけ。
ならば、真っ向から相対する他に無い。
「相手は頂点、神の手先」
尽きかかる力で鞭を握り、私は吠えた。
「敵にとって不足は十二分にあり!! 不満だから全員纏めて掛かってきなさい!!!!」
*
「ま、一旦落ち着いて。歌野」
*
「へ?」
何処からか、声がした。
その瞬間、私の後ろから、膨大なエネルギーの波動がバーテックスへと打ち込まれ・・・・・・爆ぜた。
それはまるで、太陽のように煌々と私を照らす。その眩しさに、思わず手を目の前に
そして、へたり込む。
タイミング悪いわよ。
覚悟完了して、突っ込もうとしたその瞬間に現れるなんて。
「ねぇ、りゅー君。貴方今・・・・・・タイミングがかなり最悪だったわよ。物語なら尚更」
後ろを振り向かずに言う。
影は二つ。りゅー君とみーちゃんだ。
りゅー君の影にもたれるようにして、ミーちゃんの影が重なっている。ずるい。後で私も絶対にやってもらうとしよう。
「ま、理性を失うなんて馬鹿らしい事を彼女の目の前でやっちゃった馬鹿男だしねぇ・・・・・・嫌いになったか?」
「まさか」
足が千切れて、血がどばどば出て。
余裕なんて無いのに、笑ってしまう。
「二人とも、まずやることやろうよ。うたのんは止血と治療、りゅー君はうたのんのサポートと結界の修復!!」
おおっと、みーちゃんをほったらかしにし過ぎちゃった。
忘れてないから怒らないで、どうどう。
切羽詰まった声で言うみーちゃんに慌てて従うりゅー君にお姫様抱っこの状態で担がれつつ、りゅー君に問う。
「りゅー君もしかして、背が高くなった?」
「まーな。どうだ? 新しい俺は?」
そう言って無邪気な表情を作る彼は、身長が数センチ程高くなって、目が金色に光輝いていた。
身体は前よりちょっとスラッとして、まるで女の子みたいなスタイルだけど・・・・・・多分、無駄な肉や脂肪をそぎ落としたら、こうなるんだろう、といったような肉尽きだった。
首筋には、六角形の鱗状の何かが見え隠れしていて、彼がもう隠す気がない事が伺える。
また何やら、彼の身体を青く光り輝くオーラが包んでおり、私の傷口をそれと同じものが覆っている。
空を見れば、何やら青いオーラがドーム状に広がり続けていた。
ホントに、今諏訪で何が起きているのやら。私にはサッパリ解らない。
少なくとも、今まで守ってくれていた神が亡くなられたのは確かだけれど。
「ええ、ちょっとハンサムになったわね。そ、れ、よ、りぃ~、この不可思議な謎のオーラと、尽きかけていたゴッドパワーが復活してる事には後でしっかり、ベッドの上で追求するから覚悟しなさい?」
「あ、それ私も聞きたいな♪」
「お手柔らかにお願いします・・・・・・」
あら、何顔反らしてるの? こっちを向きなさいりゅー君? 私は別に今、また、ユーが私の知らない何かをしょい込んだと思って、それで怒ってる訳じゃないから。ね。だから、こっちを向きなさいりゅー君?
さ、みーちゃん。私が治療を受けている間、逃がさないように捕まえてて!
*
まあ、最後の最後まで解らないまま、締まらないままだけれど。
とにかく、もう安全だ、って事は解った。
*
『さて、と。これで二人目か』
ゆーなちゃん以来だよねホントに。こーゆーの。
『おい、独り言聞かせる為だけに俺呼んだんなら帰るぞ』
『ああ、ちょっと待ってゆーなちゃん』
あー、もう。少し放置したからって不機嫌にならなくても良いのに。
『いやぁ、実は、ね?』
『おう』
『実は
『・・・・・・拒否権は』
『無い』
『っち、詳しく聞かせろ』
次回
沖縄
燃え尽きた男の話