隣の席の太眉乙女   作:桟橋

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メイド喫茶2

 特に気負いもなく目の前のドアを開ける。むしろ初体験なのでワクワクしているぐらいだ。すると店の奥から入り口までメイド服姿の店員さんが向かってきた。ものすごい美人だが無表情だ。頭についている猫耳と腰から伸びている尻尾がなんというか、絶妙に合ってないような……。

 

 

「……お帰りなさいませ、ご主人様……にゃん。お一人でのお帰りですか……にゃん」

 

「えっ……あー、後ろにもう1人居ます」

 

「……お二人ですね……にゃん。…………こちらのテーブルへどうぞ……にゃん。」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

「……のあさんだよな、絶対。何でこんなところで……あっ、待ってくれよっ」

 

 

 大人の落ち着きを感じる、というか感情が込められていない声と、無理やりさを感じるやっつけな語尾に違和感を覚える……が、その異質感も含めて人気がありそうな店員さんだ。神谷さんはなにか心当たりがあるのか、小声でつぶやき首を傾げているが店員さんが歩きだしてしまい聞くことが出来なかった。

 背中に回り込んで小さくなっている神谷さんを引っ張り出し、案内されたテーブルへ座る。この前のカフェのときと同様に、浮世離れしたファンシーな内装の店内にまだ落ち着かないのか辺りをキョロキョロ見回していた。

 

 

「うわぁ……あたし、本当に来たんだな。メイドさんが一杯で夢みたいだ……」

 

「メイドさんは逃げないから、先に注文を済ませちゃおうよ。もう頼みたいのは決まってるんだっけ」

 

「そうだなっ、来る前にちゃんと調べてきたからバッチリだぞ。あたしはコレと、コレな!」

 

 

 机に視線を戻し、メニューをさっと眺めてゆびを指した。スイーツとパンケーキのプレートに、パフェとドリンク……本当に食べ切れるのか?甘いものは別腹だなんて話を聞くけれど、その人の限界以上の量は食べられないだろう。神谷さんがこの成人男性並の量を食べるのは想像ができない。俺は抑えめにして置こうかな。

 

 

「あっ、なんだよその目は!疑ってるのか?自分の頼んだものは責任をとって全部食べるぞ!」

 

「はいはい。俺はこのパフェでいいかな。すいませーん」

 

「は〜いっス。ご注文はお決まりですか?……っス」

 

 

 注文を伝えようと店員さんに呼びかける。これまた特徴的な語尾の店員さんがテーブルまで来た。少し気の抜けた声になんだか聞き覚えがあり、ついマジマジと顔を見てしまう。

 

 

「ど、どうしたっスか?顔になにか付いてるっスか?……あれ、お兄さん最近見たことあるような」

 

「ひ、比奈さん……」

 

「んっ?あれ、奈緒ちゃんじゃないっスか。奇遇っスね。……あ、もしかしてデートっスか!」

 

「い、いやいやっ!デートなんかじゃないって!」

 

「えぇ〜怪しいっスね〜。あっ思い出したっス。この間イベントに来てたお兄さんじゃないっスか。」

 

「あぁ、あの時の!2人は知り合いなんですか?」

 

「この間のイベントの後に知り合ったっス。ユリユリとも一緒にアニメについて語ったっスよ」

 

「へぇ〜」

 

 

 以前イベントでグッズにサインしてもらった人のようだ。神谷さんとあの後知り合っていた事は意外だったが、このメイド喫茶がコラボしているアニメの出演者だからこの場にいることはそこまで不思議でもない。この間のイベントと同様、ゲストとして働いているのだろうか。

 

 

「あっ、とりあえず注文っスね」

 

「あーはい。コレとコレと、コレで。」

 

「承りましたっス。ごゆっくり〜」

 

「あぁ、そんな目で見ないでくれっ!」

 

 

 とりあえず注文を済ませると、伝票に書き取った店員さん……確か荒木さんが神谷さんを優しい目で見て「大丈夫、加蓮ちゃんには秘密にしておくっスよ」と小声で言う。うーん、人の口に戸は立てられぬと言うし、なんだかんだ北条さんの耳に入ってしまうんじゃ……複雑な表情ながらも、「ほ、本当かっ?」と安心している神谷さんを見ると、とてもじゃないがそんな事は言えなかった。

 

 

 

 

「こちら、ご注文のプレートセット……にゃん」

 

 

 しばらくして、入店したときにテーブルへ案内してくれた店員さんが、神谷さんの注文したプレートセットを運んできてくれる。心なしか神谷さんの顔が引き攣っているような……。

 持ってきたお皿を神谷さんの前に置き、少しかがんで目線を合わせるとケチャップでオムライスに文字を書き始めた。

 

【分かっているわ……にゃん】

 

 

「いやっ!何がだって!」

 

 

 文字でも語尾がつくのか……。神谷さんがなんのことか分からず焦った表情でツッコむと、少し口角が上がっていたずらっぽい表情になったような気がする。完全に手玉に取られてるな。

 

 

「美味しくするための呪文……いっしょに言って欲しい……にゃん」

 

「えぇ!のあさんがやるのか!?」

 

「私だと……ダメ?……にゃん」

 

 

 ぱっと見ではわからないが、少し眉根を寄せて寂しそうな表情になった。近くで見ていた神谷さんもそれに気づいたのか、うっ……と気まずそうな表情をしている。

 

 

「わ、分かったから!やるよっ!」

 

「萌え萌えにゃん……一緒に……にゃん」

 

「あーもう!やれば良いんだろ!も、萌え萌えにゃん!……うぅ……」

 

 

 手でハートを作り胸に一度近づけ、そこからオムライスの方へ伸ばす。神谷さんは恥ずかしさからか、きゅっと目をつぶっていた。限りなく無表情に近い店員さんと全く対照的だ。

 

 

「ありがとう……奈緒。……ちなみに、今のは録画されているわ……にゃん」

 

 

 気づかなかったが、取材が入っていたのだろうか。ビデオカメラが神谷さんと店員さんの一連の流れを撮影していた。言われて気づいたのか神谷さんがカメラの方を勢いよく向く。

 そこで、店員さんが特大の爆弾を落とした。

 

 

「ちなみに、今の動画は……ホームページに載せるわ……にゃん」

 

「ええええええっ!?聞いてないぞっ!!」

 

「入り口のドア……書いてある……にゃん」

 

「うわあああ!見てなかったっ!」

 

「この事は加蓮にも連絡済み……にゃん」

 

「の、のあさん!?」

 

 

 確かに荒木さんは北条さんに伝えないと言っていたが、この店員さんは何も言っていなかったな……。

 ダメ押しで、動画掲載の許可は事務所からも取れていると伝える店員さんは、表情こそ変わっていないが確実にこの状況を楽しんでいるように見えた。

 うーん、ご愁傷様です。

 

 

 

 

 後日、北条さんから『この奈緒が可愛すぎて生きるのが辛い』とメッセージが届いた。一緒に送信されていた動画には、北条さんがサイトに載っている動画を事務所のテレビに表示させていて、それをテレビの前で体を広げて隠している神谷さんが映されていた。

 ……非の打ち所のない可愛さだ。




この話を書いてて思ったんですが、奈緒って154cmでかなりちっちゃいんですね。
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