隣の席の太眉乙女   作:桟橋

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そういえば9/16が誕生日なので、奈緒は本作中では16歳なんですね。


学校7

「クラスの出し物決めまーす」

 

「調理、食品販売は早めに締め切りがとってあるので、急いで下さいね」

 

 

 学級委員の2人が教壇の上に立ち、出し物の案を聞いていく。1人が黒板に板書して、もう1人が挙手をした人を当てている。二年目とあって去年やりたかったことや出来なかったことを中心に、クラスメイトが活発に発案してくれていた。テキパキと話し合いをまとめる学級委員と、以前の反省を活かした意見を積極的に発言するクラスメイトが合わさって最強に見える。

 

 楽しみではあるけれど特にやりたいこともないので、話し合いが拗れないうちは傍観と決め込むことにしよう。

 劇、縁日、喫茶、お化け屋敷など定番の出し物から、占いの館、スタンプラリー、クイズ、自主映像制作など変わり種な案もドンドン出されて黒板に書き加えられていく。神谷さんもアレやコレや挙手して意見を言っていた。喫茶とかやるんだったら、それだけじゃインパクトが弱いから仮装しようだなんて言っているけど、言い出しっぺの法則を分かっているのだろうか。

 

 1人が意見を出さないぐらいでクラスの話し合いには影響はなく、つつがなく進行した結果、一先ず期限の迫る調理団体の抽選には神谷さんの出した仮装喫茶で申し込みをすることになった。抽選に漏れた場合には、また話し合いの場を設け娯楽団体の残っている案から多数決で決めるそう。

 抽選に行くのは各クラスの文化祭実行委員なので、クラスの期待を一身に背負ってくじを引いてくれるのだろう。彼の幸運を祈る。

 

 

「いや〜去年はそもそも一年生で許可されてなかったから、今年はできると良いなぁ」

 

「あぁ、そういえば調理・食販団体って二年生からだって言われたんだっけ」

 

「そうそう、去年は案を出したけど却下されちゃってさ。でも文化祭といえばカフェってところあるだろ?アニメとかでも定番だしな!」

 

「へぇ、いろんなアニメでよく見ると」

 

「そうだな!今期だとアレとアレでもあったし、ちょっと古いけどアレも有名だよなっ」

 

 

 今までも幾度となくボロを出していたが、今回もテンションが上っていたのか口が滑ってしまっている。そのまま気づかずにアニメの文化祭回あるあるを語って満足げな表情だ。本人が幸せそうなので指摘しないであげようか迷っていると、ようやく気がついたのか目を泳がせて「〜って比奈さんに聞いたんだよなっ」とごまかしにかかった。こちらの反応が薄いのを見てさらにテンパっているのか目がぐるぐるとギャグ漫画のように激しく泳ぎだす。

 

 

「なんか、話を聞くと見たくなってくるな」

 

「ほっ本当か!?……だったらオススメがあるんだけど、こ、今度貸そうか?」

 

「え、じゃあ借りようかな……あの、ちょっと近いかな」

 

「ん?うわぁ!!わ、悪いっ」

 

 

 神谷さんの話に興味を持ったことを伝えると、焦りの表情から一転して明るくなる。話題の共有ができる仲間が増やせると感じたのか、ぱぁぁ……と表情が輝き出した。

 語気にも力が入り、据わっていた椅子ごとこちらへ近づいて身を乗り出してきた。

 軽い出来心で発した言葉でここまで反応してもらえると思っておらず、嬉しいという気持ちよりも先に日和ってしまう。距離のことを伝えると、神谷さんも自覚したのかすぐに飛び退いて離れてしまった。

 盛り上がっていた勢いを急激に失ってしまい、「今度オススメのアニメのDVDを持ってくるから……」という事でその話は終わってしまった。

 

 

 

 今日の放課後はいつも通り部活に行って練習をする。新入生も入部して少し経ち、ある程度勝手を覚えたのか率先して準備や手伝いができるようになっていた。

 相変わらずダラダラと練習をしていると、部長から「なんだかお前を久しぶりに見た気がするな」と言われた。「別に普段から休んでるわけじゃないですけど、自分も久しぶりに見た気がします」と返す。何がとは言わないが、具体的に言うと一ヶ月弱ぶりだ。

 

 部活が終われば駅が同じ方面の仲間でグダグダ話しながら帰り、自分一人だけ違う路線なので最寄り駅で別れる。電車に乗り込んだらイヤホンをつけ、音楽を聞きながら明日の単語テストの範囲を確認する。

 近頃今までにない経験ばかりで、普通の放課後が逆に珍しく感じた。

 

 家に帰ればご飯にお風呂。明日の時間割に合わせて持ち物をカバンに詰め、少し早めに就寝した。

 

 

 

 

 翌日、いつもどおり始業の五分前に着席するよう登校すると、カバンから何かを取り出し手渡してきた。渡された紙袋の中を見ると、プラスチックの縦長なケースが3,4枚入っている。

 なんだこれ。取り出してよく見ようとすると、慌てた神谷さんに制止された。

 

 

「わわっ、こんな所で出すなって!」

 

「えっ?いや、何か分からないから見ようと思ったんだけど。……もしかして、人前に出せないやつとか?」

 

「ばっ、バカ!そんなもん持ってくるかよっ!……ほら、昨日言ったろ?オススメのアニメ貸すって」

 

 

 そう言われてようやく合点がいく。そうか、DVDのケースね。見てみたいとは言ったけれど、まさかこんなに早く持ってくるとは。周りにあんまり見られたくなさそうなので、カバンに押し込んで周りから見えないようにパッケージを見た。

 

 ふむふむ、文化祭の話が出るってことで当たり前だけど学校が舞台か。説明を読むに、主人公はやれやれとか言いそうなあまり活発的でなさそうな男の子で、ヒロインはなかなか素直になれない強気な女の子。

 ひょんなことから、主人公はヒロインがアイドルをやっていることを知ってしまい、自分も気づかないうちに恋心を募らせる。ヒロインは、たまたま主人公が野良猫を交通事故から身を挺して助けた所を目撃し、気になりだしてつい目で追ってしまう存在に。

 互いを意識し始めたた2人、学年が上がり新学期から同じクラスの隣の席に……!

 

 いや、コレって……。説明を読み終えて神谷さんの方を向くと、うっ、とバツの悪そうな顔をした。

 

 

「ち、違うんだって!本当にいい作品だから見てほしいだけで、わざとじゃないんだ!」

 

「いや、……ほんとに〜?」

 

 

 尚も疑いの目を向けるが、たまたま自分たちと似通っているところがあるだけと、どうやら折れる様子がない。まぁ似ていると言っても恋心なんて大層なものは、少なくとも自分にはあまりないし、俺は神谷さんがアイドルな事を知っているけど、轢かれかけた猫を助けても居ない。せいぜい、通学路に居る猫を寄ってきたときに撫でるぐらいだ。

 

 せっかくおすすめされたからにはちゃんと見ようじゃないか。見たら感想を伝えると神谷さんに言うと、心底嬉しそうな表情で、「楽しみにしてるなっ!」と言われた。

 この顔が見れるなら、設定が多少自分たちに似ているだけで敬遠するなんてとんでもない。帰ったらすぐ見よう。

 そう思いながら、とりあえず一コマ目の準備を始めた。




他の作者さんの作品を読むのが楽しくて、自作を書くための2時間の捻出に困ってます。

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