「調理団体の抽選が通ったので、役割分担をしまーす」
この前と同じ様に学級委員が取り仕切って話し合いを始める。抽選の結果が知らされておらず、今日の話し合いで娯楽団体の案の候補を絞ると思っていたため、クラスが若干ざわついた。
「その前に一つ悲しいお知らせがあります。申込みは喫茶ということなんですけど、調理は教室で行えません!調理場は野外で、教室まで料理を運んでくることになります」
あー、なんとなく気になっていたけどやっぱり教室で調理はできないか。神谷さんに借りたアニメではそこんとこ有耶無耶になっていたけど、今の時代に教室でガスを使わせて良い道理はなかった。そもそも教室は大して広くないし。
サプライズのおかげで上げられていたテンションが少し冷え込んだ気がしたが、それでも第一案が通ったことが嬉しいのか必要になるであろう役割をポンポンと上げていく。
調理器具、食材の手配、内装の飾り付け、目玉となる仮装の調達。ある程度割り振るべき役目が決まると、そこからはアレがやりたいコレがやりたいとワイワイそれぞれの主張をしあって役割を決めた。
俺は何をやろうかな……楽そうなのは実働が文化祭の前日準備からの飾り付けとかか?いや、飾りは各自家で作ってくるようにとか言って実は楽ではないパターンだな。
一番華やかで楽しそうな仮装の調達は、すでに大部分が女子の立候補で占められていて、自分が名乗りを上げると明らかに浮いてしまう。
そうすると必然的に器具、食材の準備か……男女比も半々でやりやすそうだし、器具はレンタルで揃える予定だからトラブルがなければかなり楽ができる部類だろう。なにより、食材の買い出しとしてみんなで買い物に行くという文化祭の醍醐味が体験できるはずだ!
希望をとって回っている学級委員に、器具と食材の調達係をやりたいと伝えた。
神谷さんの方は、女子の友だちに仮装衣装の調達係のグループへ引っ張られていこうとしていた。まぁ、仮装喫茶の案を出していたのは神谷さんだし、可愛いものも好きだろうから衣装を探すのも楽しめそうだ。
一緒の係になれないのは少し心残りだけど、同じクラスなんだから接点がないわけがない。
そう思いながら、学級委員が神谷さんの方へ希望を取りに行くのを眺めていると、神谷さんがまとわりつく女子たちの手を抜け出してこちらへ近づいてきた。
「なぁ、高橋はどの係にしたんだ?」
「え、俺?器具と食材の調達だけど」
「へぇ、意外だな。わかったよ。ありがとなっ」
聞くだけ聞いて満足したのか女子たちの方へ戻っていってしまった。意外って言っても俺が女子だらけの衣装調達に行く訳がないのは分かるだろうし、飾りなんて作るような手先の器用さも期待されていないだろう。俺歴17年の俺が見ても全く納得の選択なんだけどな……。
神谷さんを見ると、ちょうど学級委員から希望を取られているところだった。彼は少しおどろいたがメモを取り、また他の人のもとへ希望を取りに行った。
ちらっと神谷さんがこちらを向き、目が合う。ニッ、といたずらっぽく笑いかけられた。
そのままこちらへ歩いてきた。
「やっぱり、あたしも高橋と一緒にやりたいなって思ってさ。よろしくな!」
うぐっ……。真正面から向けられる純度100パーセントの笑顔に、深刻なダメージを受けて膝が折れた。その場に崩れ落ちる。
「お、オイっ!」
神谷さんが慌てて近づき支えてくれる。あぁ、会心の一撃だ……!思わず頬が緩み顔がにやけた所をバッチリ神谷さんに見られてしまった。
「な、なんだよっ!急に倒れそうになって心配したのに!……え?うれしい……?勘違いすんなっ!」
周囲からの生暖かい視線が痛い。見られている事に気づいた神谷さんは、慌てて俺を離して肩を怒らせたまま同じ係の集まりへ向かってしまった。生暖かい視線がより嫌にぬるくなった気がする。別にフラレたわけじゃないわ!
あの後、また機嫌を直してもらうためいつかのようにお菓子を渡したりするも、食べられるだけ食べられて無駄になってしまった。が、結局アニメの話をすると、またいつも通り目を輝かせて語りだした。
ふむふむ、なるほどなるほど。聞いていないようで聞いている、やっぱりちょっと聞いていないスタイルで話を聞いていると、この前貸したアニメがどうだったのか感想を求められた。
そうか、ひと通り見終わって返した時はすっごく面白かったぐらいしか言わなかったんだっけ。
それでも神谷さんはめちゃくちゃ喜んでくれて、オススメのアニメを選んでまた貸してもらうという約束をした。今回貸してもらったアニメが気に入ったから、次回も学校が舞台の物がいいって頼んだのだった。
肝心の感想だけど、2人が付き合うだけかと思っていたら、アイドルに恋愛はご法度!とか言いながらヒロインの髪の毛を刈ろうとしてくる敵キャラが現れ、ヒロインを守るために主人公が山ごもりして修行パートが始まったかと思えば、主人公が変身を習得すると颯爽とバイクで現れヒロインを連れ駆け落ちしてしまうという驚愕の展開で、いい意味でも悪い意味でも飽きなかったとしか言えない。
アニメを見るのに初心者とか言うものなのかは知らないけれど、少なくとも自分だったらコレは勧めないだろう。子供の頃は、前の週で滅びた世界が次の週で特に説明もなく復活しているアニメに心躍らせたりしていたが。
人に勧められないからといって楽しめなかったわけではないので、気に入った点をかいつまんで神谷さんに感想を伝えた。
「だよなっ!面白かったよな!……いや〜あたしもリアルタイムで追っかけて見ていた時は、なんだこれ無茶苦茶すぎるだろって思いながら見てたけどさ、全部見終わった後はなんだか寂しくなっちゃうんだよな〜」
「確かに。話の展開は恐ろしく雑だったけどそれぞれキャラが立ってたし、なにより健気なヒロインが気になってついつい応援しちゃってたな」
「そーなんだよ!主人公も好意に気づいてるのに、自分はヒロインに相応しくないとか言って山にこもっちゃうし。早く付き合えっての!」
「う〜ん。全くおんなじこと考えてたな。最初の頃こそ切ないすれ違いもあったけど、終盤には誰の前でもイチャイチャしてて腹がたったし」
「そうなんだよ!人前で抱きつくなんてもうカップルみたいなものだって!」
頭が悪いのかと思うほど要素が詰め込んである割に、各話の恋愛描写も抜かりなく入れてくる脚本には脱帽だった。なんてアニメの感想を語り合っているとコマ毎の休み時間では全く足りず、気がつけば放課後に事務所までお邪魔して、ゲームをやりながらずっとあーだこーだ言い合っていた。
相変わらずゲームの腕前は下手としか言えない有様だったが、プロデューサーを待っていた子供組と遊んでやったり、北条さんと神谷さんをいじったり、大満足の一日だった。
何故か事務所においてあった、神谷さんの私物のアニメを借りてまた今度感想を伝えることになっている。アニメ熱が高まっている今のまま、家に帰ったら一気見してやろうと息巻いて帰宅した。
気が付けば20話です。