隣の席の太眉乙女   作:桟橋

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長め。


文化祭1

 待ちに待った文化祭当日。前日の夕方から降っていた雨は夜中の間に止み、雨雲一つ残さない快晴になった。この分だと校庭を使う各部活も無事に発表をできるだろう。

 我がバトミントン部の出し物は、シャトルを投げて模造紙に開けられた穴を通すだけの簡単なもので、裏庭に回されているため校庭が使えなくてもなんともないが。

 

 クラスの方は、調理係はまだ食材の準備があるので校門が開く7時に集合する事になっている。学校まで1時間近くかかるから……30分で支度しなければ。急いで身支度を済ませ、持ち物を確認する。クラスTシャツ、事前に購入した金券、買い増し用の現金、携帯、定期。よし、全部持ったな。

 

 いつもは家で一番に起きてくる母親がちょうど寝室から出てきた頃に、朝の挨拶をして家の玄関を出た。

 既に太陽は上がって日が差しているが、時刻が早いため人の姿もまばらだ。サラリーマンだろうか、スーツを着たおじさんが大口を開けてあくびをしているのを見て、自分も眠気を催す。朝早いからなぁ……。

 

 っと、いけないいけない、このままだと電車で寝過ごしてしまいそうだ。ぼんやりした頭を覚醒させるため最寄り駅まで軽く走りながら向かった。

 

 

 

 

「おはよう!」

 

「おっ、来たか。もうそろそろ開くところだぞ。」

 

「5分前に着いたんだからいいだろ?川原たちが早すぎるんだって」

 

「どうだろうな?多分高橋がクラスの中で一番遅いぞ?」

 

「クラス?」

 

 

 正門に掲げられたアーチの前に出来ている人だかりの中に、同じ係のクラスメイトを見つけて声を掛ける。話を聞くと30分前からここで待機していたらしく、門が開くのを今までずっと待っていたらしい。アホだ。

 俺が着いたのはちょうど門が開くタイミングで、川原と話しながら門をくぐりその脇の駐車場に立ててあるタープテントへ向かう。あ、神谷さんだ。手を振ると、昨日の帰りを思い出してちょっと気まずいのか控えめに手が振り返された。それはともかく集合場所のテントにつくと、そこには集まる予定のない他の係のクラスメイトも含め、クラス全員が居た。

 

 彼らによると、前日準備であらかた準備を済ませたが、家に帰るとまだやり残したことや新たに追加したい部分が出てきたため、早めに集まるという連絡を送ったのだそうだ。「せっかく来たんだし僕らも手伝うよ」と爽やかに言ってのける会場準備,仮装作りのメンバーに思わずうるっとくる。良いクラスメイトを持ったものだ!

 

 優しいクラスメイトに感動している俺を尻目に、どんどん周りが自分たちの仕事に向かいだしたので慌てて食材を取りに行く。冷蔵庫から必要なソフトドリンクや痛みやすい食材などを用意したクーラーボックスに移す作業と、相当量のご飯を炊く作業をしなくては。こんな重労働を女子にさせてはならない。

 

 急いで動き出すと、周囲の男子たちも同じ気持ちだったのか、「私も行くよ!」という女子を抑えて我先にと走り出していた。皆一様にキザな表情で柄にもなくカッコつけているみたいだが、少し冷静になって振り返ると置いていかれた女子が「男子っていつもこうなんだから」と言わんばかりの冷たい目でこちらを見ていた。

 うっ……。多少傷ついたがそれでも神谷さんが見ていると思うと、ついついカッコいいところを見せようと張り切ってしまう。悲しき男の性である。

 

 

「持ってきたぞ〜」

 

「ありがとう!ご飯は炊くからそっちで、具材は切るからそっちに置いて!」

 

「了解っと」

 

 

 必要な食材を持ってきたらそのまま調理に取り掛かる。人が入って混雑するのは昼前からになるとは言え、その時までにある程度数を揃えて置かなければならない。ある程度料理の心得があるものと全く出来ないものでペアを組み、片方が居なくなっても同じ作業ができるようにやるべきことを教えていく。

 幸い、壊滅的な料理下手は居なかったようで、仕込みが終わる頃には全員がそれなりに作業を行えるようになっていた。

 

 仕込みを終えると、ちょうど衣装の装飾の追加が終わったのか仮装用意係から女子と一部の男子に声がかかる。残りの男子だけで調理は回せるようになっていたので快く衣装合わせに送り出した。

 ドナドナ運ばれていく数人の男子は抵抗を諦め死んだ目をしてこちらを見ていた。すまない……断ると女子が怖いんだ……。

 

 しばらくして見事に仮装を着飾った男子が帰ってきた。メイクをされ、カツラを被り、足や腕の毛は長い手袋とソックスで隠されていて、パッと見では完全に女子だ。

「物珍しいから校内を回る宣伝係にされたよ……」看板を持ち力なく掲げる姿は、なんとなく哀愁が漂っていた。

 

 

 

 

「カレー3つ持ってって!」

「ドリンク入れる用のコップをすぐに洗ってってさ!」

「焼きそば6つ急いで!」

 

 

 9時に文化祭が一般開放され続々とお客さんが入る……なんてことはなく、校内を回る女装に引っかかった人や教室で接客をする女子目当ての人以外は、ご飯時でもないので余り人が入らずに調理側ものんびりとしていた。

 が、時刻は11時を回り、ご飯が食べられるところは混雑するから早めに入ろうということなのか、途端に客足が増え接客も調理も運搬もてんてこ舞いである。

 

 実行委員会から調理したものの運搬に対して配慮してもらい、1階の教室を割り振られたといってもかなりの混雑で、人混みの中をカレーや焼きそば、焼き鳥その他諸々を持ちながらダッシュするわけにもいかず、常にテントと教室を行ったり来たりしていた。もちろん調理も大忙しで運搬と時間交代で行っているがどちらも休むことは出来ない。

 

 朝の早い間はかなり余裕があり、接客担当の女子たちが直接調理場まで料理を取りに来てくれていたのに……。とにかく今はこの地獄を何とか乗り切ろうと、必死で手足を動かし時間を気にする余裕すら無く3時間。

 ようやく1日目分の食材が尽きる。業者から買って多めに用意していたアイスからなくなり、最後にはドリンクしかメニューの中で出せるものがなくなってしまった。

 それでも人が入るのは宣伝が有能なのか、それとも店員が人気なのか。後者であると信じたい。

 

 

「もう出せるものなくなったし、売り切れって事でお店を閉めるか」

 

「あー、実行委員から机と椅子は出しといて休憩スペースとして開放してだってさ」

 

「なるほど。とりあえずもう片付け班が終わったら全員この後はフリーなのか?」

 

「いや、一応何かあったときの為に1人か2人教室に置いてほしいらしい」

 

「へぇ、どうやって決めるんだ?」

 

「ここにクラス全員の名前が書かれたあみだくじがある」

 

 

 模擬店として提供できるものがいよいよなくなり、店を閉めることにしたところでクラスの文化祭実行委員である国木田から待ったがかかった。店は閉めてもいいが場所は開放してもらいたいらしい。いつの間にそんな話しが?と聞くと、ついさっき運営本部から連絡があったそう。

 教室に残さなければならない人を決めるために急遽あみだくじを作り、クラスのグループに運営から送られた内容を説明するメッセージを送ったそうだ。

 

 

「ちょうど良いから高橋くん、選んでくれよ」

 

「俺で良いのか?えっと、2人だよな。じゃあ……ココとココで」

 

 

 クラスの人数分伸びている線の先を、適当に2箇所指差す。なになに、……高橋。うげっ、今係が終わったばかりなのにまたしばらくシフトに入らなくちゃいけないのか。

 国木田のこちらを見る、可哀想にという視線に腹が立つ。それで相方は誰だろうか。1時間も一緒に居ることになるんだから会話が続く人が良いんだけど。

 指したもう一つの箇所から指を線に沿って下ろしていくと、神谷と書かれていた。

 

 

 

 

「それで、今2人でこうして店番みたいな事をしている訳なのか」

 

「いや〜悪いね。神谷さんも文化祭回りたいだろうに、あみだくじで当てちゃって」

 

「そんな、気にするなって!あたしは別に、高橋と一緒だったら1時間ぐらいどうってことないし」

 

 

 言い終わってから自分の発言に気づき、慌てて「そういうんじゃないからな!」と否定する。

 あぁ、文化祭だけどいつもの神谷さんだな。焦りで変な動きをしている神谷さんをみながらそう思った。

 1時間教室に残れと言われた時はどうなることかと思ったが、その一緒に居る相手が神谷さんとは不幸中の幸い、というかむしろ幸運である。

 

 普段と変わらぬ雑談をして、そこそこの時間を過ごした。そろそろ1時間が経つので交代になる。次のペアは国木田があみだくじで決めているそうで、連絡がいっているからその2人が来たら交代できるそうだ。

 あぁ、あっという間の1時間だった……。少し別れを惜しんでいると、突然ひらめいた。

 

 そうだ、神谷さんを一緒に回らないか誘ってみよう!急遽この1時間の店番が入ったから、もともと一緒に回る予定だった人はもうすでに回っているはず。自分も松下を含めた仲のいいグループで回るはずが、俺だけ店番ってことで置いていかれたんだった。

 

 

「か、神谷さん。この後、一緒に回れないかな?」

 

「えっ、一緒に!?この後か?」

 

 

 意を決して神谷さんに声を掛ける。もうすぐ次の店番ペアが来てしまうから、今、このタイミングが絶好の機会だ。神谷さんは声を掛けられた内容に驚いてはいるが、嫌がっているようには見えない。いけるか……?

 

 

「あっ!奈緒!店番終わったんだよね〜!早く回りに行こ!

 

 あれ?高橋くんじゃん。もしかして奈緒のこと誘ってた?ごめんね?奈緒は私のモノだから!」

 

 

 突如現れた北条さんが神谷さんの腕を取り、教室を出ようと促す。神谷さんは突然の登場に驚いた顔をしたが、すぐにこちらを向いて申し訳なさそうに北条さんと回ることになっていたのを伝えてくれた。

 

 

「そういう訳だから、今日の奈緒は私のモノなんだ。じゃーねー!」

 

「わわっ!ちょっ!引っ張るなって!!」

 

 

 なんだ、先約があるなら仕方がないか……。急展開に頭がついていかないが、もし先に誘っていたらと後悔してもしょうがない。前から約束していた仲間にメッセージを送って入れてもらおう。

 

 合流した友だち達に「なんか元気ないけど、どうかしたのか?」と心配され、なんとなく原因を察した松下が無理やりその場を盛り上げようとしてくれたのが胸に来た。

 いい友達を持ったな……!

 結局男グループで馬鹿騒ぎをして文化祭1日目を過ごした。




フラれる主人公。明日があるさ……!
キリが悪かったので1日目を1話にまとめたところ4000文字を超えてしまいました。
2日目からがなおかわの本番です。
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