隣の席の太眉乙女   作:桟橋

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活動報告でアンケートしてます。気が向いた時にでもよろしくおねがいします。


3部
事務所3〜ファミレス1


「えいっえいっ。う〜ん、なかなかクリアできないなぁ」

 

「2人でやっても進まなそうだし、誰か助っ人で呼ぶ?今空いてる人誰か居るでしょ?」

 

「そりゃ事務所だし、居るとは思うけどな……いや、2人でやろう。今日は誰も来ないしなっ!」

 

 

 コントローラーを持った神谷さんがこちらにいたずらっぽい笑みを向ける。いつの間にか、照れた顔だけでは無く純粋に嬉しそうな素の表情を向けてくれることが増えた気がする。不意にされる、警戒を解いた猫が撫でられた時のようなにへらっとした笑顔も増えていて、嬉しい半面急にドキッとさせられることも多くなった。

 

 今日は事務所にお邪魔させてもらい、神谷さんと2人でゲームを遊んでいる。平日の部活がない曜日はこうして神谷さんと2人で遊ぶことが習慣のようになってきていて、大抵は事務所でゲームをして遊ぶか、神谷さんが一人では行きづらいというカフェなどに一緒について行ったり。

 

 意外とその時間に2人きりになるということは珍しく、事務所でゲームをしていると小中学生の子が真っ先に入ってきて、気づいたらローテーションを組んでかわりばんこにプレイしている事が多々あり、事務所以外のお店に行ってもその大半は事務所で流行っているから行きたいという場所なので大体いつも誰かに会ってしまう。

 

 学校でも周りに人がいる以上どうしても軽い雑談になってしまうので、こうして2人でゆったりゲームをしているのは結構貴重な時間だったりする。神谷さんも嬉しく思ってくれているのか、自然に同じソファに腰掛けていつもより距離感が更に近い。

 言っていることも、聞き様によってはかなり危険な発言なのだけど……本人は気にせずにテレビに向き直ってゲームをプレイし始めようとしていた。

 

 神谷さんが鈍いのか、それとも自分が信頼されているのか。できれば後者であれば嬉しいな、と思っていると神谷さんが不思議そうにこちらを見つめてきた。

 一体どうしたのかという思いを込めて見つめ返すと、次第に顔が赤くなっていき耐えられなくなったのか目線をそらされてしまう。よく分からないが勝ったな、と勝ち誇っていると手で顔を隠した神谷さんが怒りながら言ってきた。

 

 

「あ、アタシじゃなくて、画面を見てコントローラーを動かせよなっ!」

 

「ごめん、見とれてた」

 

「う、う、う、うるさいっ!」

 

 

 そっぽを向いてゲームを再開してしまった。

 色々魅力的な表情があるけど、やっぱりイジられた時の照れた顔だよなぁ……神谷さんをからかい続ける仕事に就けないだろうか。そしたら競合他社になるのは北条さんか、手強い。

 バカな考えを口に出して神谷さんに話すと、渋谷さんにいじめられたと言いつけるぞっと脅されてしまった。

 うっ……それは困る。あのジト目で見られたら悪いことをして無くても反省したくなってしまう。

 

 

「アタシをからかうのは悪いことにはいるんだっ!」

 

 

 ペチペチパンチが飛んできたので甘んじて受け、勝手にゲームを再開する。「あーっ!」神谷さんを持ち上げゴールまで運ぶと拗ねてしまったのか、「やっぱりアニメにするっ!」とゲームのディスクを取り出してしまった。

 

 

 

 

 

「そういえば再来週からテストなんだよなぁ〜」

 

「えっ」

 

「何だ、年間予定見てないのか?……アタシもまだ勉強始めてないけど、休んだ分の穴埋めから始めなきゃな〜」

 

「考えたくもないかな……」

 

「じゃあ誰が休んだ分教えてくれるんだよっ」

 

「え〜、先生とか?」

 

「あほっ」

 

 

 軽くこづかれる。全く痛くはないが少しムッとしたので脇腹をつつき返すと、「ヒィィィ……」と情けない声を出しながら遠ざかってしまった。面白くなったので、追いかけてつつき続けると、「やめろぉ!……やめろぉ!あっ……やめっ……」出す声が悩ましく、艶めかしくなり始めたので慌てて止める。

 

 これ以上は洒落にならないので止めるとして、おそらく言いたかったのは勉強会をしようってことだろう。いつもは一週間前ぐらいからノートやプリントを見返し始めるだけだったが、頑張って良い点が取れたら神谷さんにカッコイイ所を見せられるかも知れない。

 

 

「来週は部活無くなっていつでも空いてるから、神谷さんのレッスンがない日に勉強会しよっか」

 

「……!いいな!憧れてたんだ、友だちと集まって勉強会!」

 

「場所は……家は流石にマズイだろうから、ファミレスとかどう?」

 

「そうだなっ!ココは何かと誘惑が多いからな……邪魔してきそうなやつも居るし、一緒になってからかうやつが現れるそうだし」

 

「い、嫌だな〜人聞きの悪い。むしろ止めてる方だと思うけど?」

 

「確かに、高橋よりは凛のほうがアタシをイジってくることは多いかも知れない……アタシのほうがお姉ちゃんなのに」

 

 

 そうとう鬱憤が溜まっていたようで、「年上の威厳がー!」と騒ぎ出してしまった。渋谷さんが神谷さんをイジるのは渋谷さんなりの愛情表現というか、単純に甘えているように見えるのだけれど神谷さん的には許せないらしい。

 

 それはそうと、勉強会については来週のお仕事やレッスンの無い日の放課後に行うことで決定し、場所は学校から一番近いファミレス……だと他の生徒しかりアイドルしかり誰かに見つかってしまいそうなので、話し合って互いの家の中間にあるファミレスにすることになった。

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

 

「2人で」

 

「2名様ですね、こちらのお席へどうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

「ごゆっくりどうぞ」

 

 

 テスト前1週間になり、神谷さんのレッスンが無いみたいなので勉強会を行うつもりでファミレスに来た。食事を目的とせずにファミレスに来る事に罪悪感があるのか、神谷さんは少し落ち着かない様子で案内された席に座る。

 

 

「ドリンクバーだけ頼む?」

 

「え、流石にそれで居座るのはマズイんじゃないか?」

 

「だったら、晩ごはんの時間帯に他のもの追加で頼もう」

 

「あぁ、それならいいかな。家に連絡入れとけばいいし」

 

「じゃあ取り敢えずドリンクバーだけで。ボタン押すよ」

 

 

 店員さんを呼び注文をとってもらう。ドリンクバーと、小腹が空いたのでポテトを頼んだ。「只今お持ちします、少々お待ちください」という店員さんの声でふと我に返る。

 あれ、ドリンクバーだけ頼むつもりだったのに当然のようにポテトをオーダーしていた……!?

 神谷さんが、何か恐ろしいものを見たような表情でこちらを見ている。ち、違う……俺は正常なんだ……!

 2人で目を合わせて小芝居をしていると、ポテトを持ってきてくれた店員さんに変な目で見られてしまった。

 

 一気に頭が冷え、恥ずかしくなったのでドリンクバーを取りに行く。何気なくコーラとメロンソーダを混ぜると、「そうだよな!やっぱり混ぜてこそだよなっ!」と神谷さんがやたらハイテンションになっていたが、誰かに否定された事があるのだろうか。何を入れるのかを見ていると、やたら嬉しそうにメロンソーダと烏龍茶を混ぜていた。えぇ……。

 

 テーブルに戻って勉強道具を広げると、プリントを見せながら教える関係で同じ側に座る事になる。教科書やノートを2人で覗き込むのでどんどん距離が近づき、近くなるほどに気恥ずかしさで口数が少なくなっていく。気がつけば無言で問題を解き続け、しゃべるのは同時に消しゴムを取ろうとして手が重なったときぐらいだった。

 

 

「え〜勉強よりギター教えてよなつきちー。せっかく教わりにわざわざ来たのにさー」

 

「テスト期間だからってレッスンサボって来るようなやつには教えられないな」

 

「うぐっ。だ、だって〜勉強もしないでサボるなんてロックじゃんか!」

 

「あのなぁ、だりー。勉強もレッスンもギターも、全部できたほうがロックだと思わないか?」

 

「た、確かに……でも、だったらギターを教えてよ!」

 

「ダメだ。勉強するって休んだんだから、ちゃんとやって貰うからな。アタシも見てやるから」

 

「う〜。こんなはずじゃなかったのにー」

 

 

 そこそこ空いていて静かな店内に、新しく入ってきた2人組の声が響く。それまで順調に動いていた神谷さんの腕が止まった。

 

 

「……知り合い?」

 

「……同じ事務所だ」

 

 

 346プロ所属のアイドルは神出鬼没だなぁと感心していると、どうしても見つかりたくないのか、きゅっと見を縮めて周りの席から見えないように隠れてしまった。

 上体を折りたたんで背を低くしているので、上手くバランスが取れないのかこちらにもたれかかってくる。あまりにも大胆な行動に驚きつつも、なんとしても見つかりたくないという気持ちを感じ取りなるべく冷静であるように努めた。

 

 隣の席に案内されてしまったようだが、後ろを振り返って確認するとこちらと同じ様に片側に2人で座り、ちょうど背中合わせのような状態になっていたので、小声で神谷さんに大丈夫だと伝える。

 恐る恐る神谷さんが上体を起こし、元の高さに戻る。バレていないことを確認するため、そのまま後ろを振り返った。

 

 

「あれ?……何やってんだ?」

 

 

 後ろの物音が気になったのか、ちょうどそのタイミングでなつきちと呼ばれていた女性が振り返り、神谷さんと目が合う。急に後ろを振り返ったのが気になったのか、だりーと呼ばれていた子もこちらへ振り返ってしまった。

 

 

「あああっ!」






知らなかったのか…? 346プロのアイドルからは逃げられない…!!!

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