隣の席の太眉乙女   作:桟橋

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デート1

「わ、悪いっ! 待ったか?」

 

「いや、いま来てちょうど連絡しようとしてたトコ」

 

「そ、そっか? 良かった……はぁはぁ……」

 

 慌てた様子でこちらへ駆け寄ってくる神谷さんに、自分もいま来た所であると伝える。

 今日は、神谷さんの宿題に手伝った対価で神谷さんの自由な日を貰い、そこそこ大きな駅の時計の下で待ち合わせをしていた。時計の表示を見ると、待ち合わせの時間丁度から5分ほど過ぎている。このぐらいなら待った内に入らないし、嘘はついてないだろう。

 

 膝に手をついて荒い息を整えている神谷さんを少し待って、声を掛ける。

 

 

「まだ目的の時間までちょっとあるから、どっかに入って休憩しよう」

 

「ふぅ〜……まだ時間あるのか? じゃあ、あれ行こう! 抹茶フラペチーノって飲んでみたかったんだ!」

 

 

 カフェに入って神谷さんは目的のフラペチーノ、自分はカフェモカのショートを注文する。それぞれ頼んだものを受け取って横並びに座った。

 神谷さんが美味しそうにストローを咥えてる様子を見ながら、下ろしたボディバッグから神谷さんの分の映画のチケットを渡す。

 

 

「共通券だから、映画館いって神谷さんが見たいのがあったらそれを見ようか」

 

「映画っ! だからこの駅で待ち合わせだったのか! 見る映画が決まってないなら早く行った方がいいよな?」

 

「まだ8時過ぎで、どの映画も9時くらいだからあんまり急がなくてもいいよ」

 

「そっか、だったらゆっくりコレを飲もうかな」

 

 

 そういってフラペチーノに夢中になる神谷さんを、カフェモカを飲みながら眺める。白のTシャツに軽めの色調の紫パーカー、薄茶色の短パンをといった服装で、結構歩くから動きやすい服装でと言っていたのを気にしてくれていたようだ。

 

 小さめのカフェモカを少しずつ飲んでいると、獲物を見つめる猛禽類のような目をした神谷さんと目が合う。

 こちらが首をかしげると、座高の関係で見上げるような体勢の神谷さんが咥えていたストローを離し、手に持ったカップを差し出してきた。

 

 

「なぁ、こうかんこしないか?」

 

 

 交換! やけに見てくるから飲みたいのかと思ってはいたけれど、間接キスとか気にしないのだろうか。ダメ……だよな、と固まったこちらの反応をみて残念そうな神谷さんに、慌てて否定をしカップを差し出す。

 それを見て顔を輝かせた神谷さんが、こっちも飲めとばかりにフラペチーノのカップに刺さったストローを差し出してきた。

 

 横並びとは言えそこそこ距離があるので、互いに差し出した手に向かって顔を近づけてお互いの頼んだものを飲む。顔が触れ会うほど急接近し、さすがに照れて恥ずかしくなったのか神谷さんが目をぎゅっと閉じてカフェモカのカップに口をつけた。

 

 時間の流れが止まってしまったかのように長く感じる時間も、実際はほんの数秒だったのだろうか、フラペチーノの抹茶味を感じる前に急いで離れた。

 

 同じ様に、こちらの差し出したカップから口を離して元の体勢に戻った神谷さんの口元には、カフェモカにのったクリームが白いヒゲの様に着いていた。

 ドキドキするような甘酸っぱい空気が消え去り、思わず吹き出しそうになるのをこらえて懐からスマホを取り出した。

 

 

「神谷さん、もう少しそのままで」

 

 

 キョトンとする神谷さんを置いてけぼりに、手早くカメラを起動してシャッターを切った。

 

 一拍置いて、写真を撮ろうとしているに気づいた神谷さんが慌てて顔を隠した。そこで自分の口元に着いたクリームに気づき慌てて口を拭う神谷さんを続けて撮影する。

 

 ぱしゃ、ぱしゃっと小さな音がスマホから鳴った。

 

 

「やめっ、と〜る〜な〜よ〜っお!」

 

 

 休日朝のカフェに、神谷さんの大きな声が響いた。

 

 

 

 

 

 

「美味しそうなカフェモカに負けてひどい目にあった!」

 

「まぁまぁ、神谷さんの好きな映画見て良いから」

 

「そんなことより写真消せって!」

 

「だめだよ可愛かったから」

 

「えっ……って誤魔化されるか!」

 

「ははは……ほら、映画館着いたよ」

 

 

 駅から歩いて5分ほど、目的の映画館までたどり着いた。ちなみに、消せと言われていた写真は既に北条さんの手に渡っている……というか送信してあるので、この端末の中の写真を消されても流出は免れないのだ。

 

 道中ずっとプンプン怒っていた神谷さんも、いざ映画館まで来るとワクワクが隠しきれないようで、飾ってあるポスターを見ながらどれを見ようかな、なんて呟いていた。ちょろい。

 

 窓口に表示されている上演予定を見ながら、時間が近くて神谷さんの興味がありそうな映画をチェックする。

 笑いあり涙ありのミュージカル、感動の実話恋愛ストーリー、日曜の朝の時間帯にやっていそうな変身少女アニメ、スリルショックサスペンス、パニックホラー……などなど。

 どれも盛んに広告がうたれているので、余り映画に詳しくなくても名前は聞いたことがあるものばかりだ。

 

 一度ポスターが目に入ってからそちらの方を見ようともしないホラーは止めておくとして、かなり暴力要素の強そうなサスペンスも止めておくのが吉だろう。少し手を握る力が強くなった。

 恋愛モノに関しては、なんとなくむず痒そうな顔をしていたのでそれも止めておく。

 

 一番反応が良かったのはミュージカル映画だったが、変身少女アニメのポスターを見た時に浮かべた、頑張って反応しないようにとでも言うかのような無表情が気になる。

 もしかして、アニメが好きなのはバレてるから良いとして、流石に高校生が子供向けなアニメまで見てるのは恥ずかしいという事ではないだろうか。

 

 

「あ〜、一番時間が近いのがアニメみたいだけど、どうしようか?」

 

「そっ、そうだな!? あ、あたしは別に気にしないけど!」

 

「き、気にしない……?え、えっと、神谷さんがそう言うなら見るのはそれにしよっか」

 

「い、良いのか? いや、時間が近いからなっ! 決してあたしが見たいってわけじゃ……」

 

「まだ変えられるけど?」

 

「いやっ! 大丈夫だって!」

 

 

 苦しい言い訳をする神谷さんの意向を汲み、変身少女アニメの劇場版をみる事で決定した。席は前後左右からど真ん中、一番見やすい席だろう。もしかしなくても周りは家族連れだらけになりそうだが、大丈夫なんだろうか。

 

 鼻息荒く早く行こうと急かす神谷さんを宥めながら、劇場内の売店でポップコーンとドリンクを買い、指定されたシアターに向かった。

 入り口で渡された小さなペンライトをしげしげと見つめる神谷さんを今度は急かしながら、目的の席がある列を見つけて自分たちの数字を探す。やはり、ど真ん中だった。

 

 

 

 携帯の電源をお切りくださいなど、様々な注意事項を纏めたムービーが流れる中、ふと神谷さんの方を向くと必死に目をつぶっている。どうしたのか小声で聞くと、小さい頃に見た海賊版は犯罪ですというムービーがトラウマで、未だに本編前の時間が怖いらしい。

 

 ギュッと力強く座席の手すりを掴んでいる様子から分かる通り、相当苦手なようだ。

 からかうつもりで自分の手を、強く握られた神谷さんの手に重ねると、少しピクッと動き驚いた反応はあったものの、逆に手を繋ぎ帰されてこちらが驚く。結局この時から上映が終わるまで、ずっと手は繋がれたままだった。

 

 

 

 映画の本編が始まり、主人公の女の子、その友だちとアニメにも出ているおそらくお馴染みのキャラクターたちが出てくる度に、神谷さんが小さく反応する。

 ちらっと顔を見ると澄ました顔だが、場面が盛り上がる度に隠しきれないのか繋がれた手から、小さく反応が伝わってきていた。

 

 物語の中盤、強い敵が出てくる辺りからハラハラした表情に変わり、終盤、歴代の仲間が現れる所で手に持ったペンライトで応援するようキャラクターから求められると、葛藤からか視線が手元のペンライトと画面とを行ったり来たりしている。

 

 子どもたちに混ざって声をだすのを恥ずかしがっていると察したので、自分の持っていたペンライトを繋がれた手に差し込み、声を出しながらスクリーンの方へかざす。

 

 神谷さんは自分の手を急に動かされ、かつ声を出している事に驚きながらも、今度は自分から繋がれた手を動かし応援するために声を出した。

 

 果たして、ヒロインたちが悪役を懲らしめ、世界には平和が戻った。

 

 

 

 

 

 

「いい映画だったなぁ!」

 

「神谷さんが楽しめたなら良かったよ」

 

「うっ……言えなかったけど、一番見たかったのはコレだったんだ」

 

「それは何となく察してたけどね」

 

「うぅ……ダメだよな、素直に言えないままじゃ……」

 

「えっ?」

 

 

 突然立ち止まった神谷さんに、繋がれていた手が引っ張られる。

 

 

「その、今日は楽しかった! これは……あたしの、素直な気持ちだからっ」

 

 

 振り向くと神谷さんの飾り気のない、きれいな笑顔が向いていた。

 

 

「えっと……この状況で言いづらいんだけど、これからまだ予定あるよ?」

 

「えっ」

 

 

 即座に神谷さんの顔が真っ赤に染まった。




更新遅れました。次回は今回の続きです。なるべく明日か、遅くとも月曜には上げます。
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