隣の席の太眉乙女   作:桟橋

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なおかわマシマシなおマシマシカラメたかはし。



デート3

「前から思ってたけど、高橋ってイジワルだよなっ」

 

「気のせいじゃないかな」

 

「そんな訳無いだろ! さっきだって、競争しようって言ってたのに気づいたら二人乗りさせられてたし!」

 

「でも、すっごく楽しそうだったけどな〜。ほら、コレ見てよ」

 

「え?」

 

 

 ゴーカートでコースをぐるっと一周堪能した後、お化け屋敷に向かって歩きながら神谷さんと会話をする。

 ゴーカートで暴走運転をしてからかいすぎたのがお気に召さなかった口ぶりだが、アトラクションの後に係員さんから貰った写真では、カーブに差し掛かって楽しそうにこちらへ寄りかかっている、笑顔の神谷さんが写っていた。

 普段なかなか見ることのない角度で上がった口角を見れば、どれぐらい神谷さんがゴーカートを楽しんでくれたかが分かるだろう。

 

 最後の直線のところにもカメラが有ったらしく、その場所で撮影された写真も貰っていたが、そこにはカーブでもないのにこちらの方へ頭を寄せた神谷さんが、視線の先にゴールを見つけてなんだか寂しそうな表情をしている様子が写っている。

 自動で撮影されたものだけれど、カメラマンいい仕事するねぇと思わず褒めたくなるぐらい、どちらも神谷さんの素の表情を捉えたいい写真だった。

 

 

「な、なんだこれ!? あ、あたし、こんな顔してないって!」

 

「え〜、よく撮れてると思うし、どっちの神谷さんも可愛いけどな」

 

「顔の写りじゃなくて、表情の話だっ!」

 

「そっか。うーん、どっちかあげようと思ったけど、気に入らないなら両方共もらおっかな」

 

「そ、それもだめだっ! こ、こんなだらしない表情してるの……こっちはあたしが貰うからなっ」

 

「あぁ! 俺の神谷さん返してよ」

 

「あたしを見ればいいだろぉ!?」

 

「じゃあその写真と同じ顔してよ」

 

「やだっ!」

 

 

 

 

 

 

 夏休みで学生、とりわけカップルの多い場内の雰囲気に流され、いつもより大胆なやり取りを交わしながら目的のお化け屋敷までたどり着いた。

 

 入り口には、午前中に見た映画にも出てきていた変身する魔法少女の立て看板が置かれていて、お化け屋敷のはずなのになんだか明るくポップな雰囲気になっている。一応、お化け屋敷として成立する様に、お化けの代わりにアニメの敵が出てくるようになっているのか、少女たちの絵の後ろにおどろおどろしいタッチの怪物がいたる所に描かれた建物があった。

 

 時折、耳をすませば聞こえる程度の音量で建物の中から叫び声が聞こえる通り、意外と立派にお化け屋敷をしているのだろう。神谷さんはそんな事を気にせず、立て看板の方に夢中になっていたが。

 

 

「入る前に写真撮ろっか」

 

「いいのか!? 悪いな、ちょっと撮ってくる……」

 

 

 そう言って、そそくさと気持ち急ぎ足で向かっていく神谷さんを後ろからスマホで録画しながら、満足して列に帰ってくるのを待っていた。

 アニメの名場面だろうか、いくつかバリエーションが別れている立て看板をそれぞれ撮影した後、変身後の少女たちの隣に顔が抜かれている女の子が同じような衣装で描かれているパネルを見つけ、周囲の目を気にしながらそれに近づいていく神谷さんを観察する。

 

 キョロキョロと周りを見渡してから、その看板に近づき裏側へ回った……。

 

 慌ててスマホを構え、その看板を撮影する。動画を撮影しながら待っていると、恥ずかしそうに笑顔を浮かべた神谷さんが、穴から顔を出した!

 

 犯行現場をバッチリ押さえた後、神谷さんに気付かれないようにすぐにスマホを下ろす。一瞬だけ顔を出した神谷さんは、やはり恥ずかしかったのかその後すぐに列へ戻ってきた。

 良いものが撮れたな……満足気に頷いていると、神谷さんが訝しげな表情でこちらを見てきたため、慌ててごまかす。

 うん。これなら、北条さん秘蔵の神谷さんコレクションとも交換してもらえそうだ。神谷さんに怪しまれないようにほくそ笑んだ。

 

 

 あまり長くなかった列は、大体20分程で自分たちの番が来た。入り口のファンシーさからは想像もつかないような雰囲気の暗さである。先に入ったであろうお客さんが上げる叫び声がより一層恐怖を煽っていた。

 

 子供だましと侮っていたが暗ければどんな物もだいたい怖くなるもので、ビックリさせるような仕掛けには堪らず声を上げてしまう。よくよく見ればおもちゃのようなデザインの人形で、これで大きな声を出してしまうなんて、神谷さんに笑われないだろうかと考え、静かな神谷さんの方を見ようとした――

 

 瞬間に自分の手に温度を持った柔らかいものが触れる。ひっ、と出かけた悲鳴を何とか押さえながら見ると、きゅっと目を閉じた神谷さんが震える手でこちらの手を掴んでいた。

 人間、どんなに怖がりでも自分より怖がっている人を見れば冷静になるもので、そこそこ驚いていた自分を棚に上げ神谷さんを見て笑ってしまった。

 

 突然進まなくなり、気になるが目は開けたくないのか、お〜い、おいって! と小声で呼びかける神谷さんを無視してガンガン残りの道を進んでいく。

 最初は軽く握るだけだった手が、次第にガッシリと掴まれるようになり、最後には腕全体に抱きついてるような形でゴールした。

 

 うぅ……たかはしぃ……と小声でつぶやき続ける神谷さんに、もう外に出たよと声を掛けてあげる。恐る恐る目を開け、俺のことをペタペタと触って確かめる神谷さんを見て、また少しやりすぎた事を反省した。

 

 例によって、ゴール付近に仕掛けられたカメラで撮影された写真を受け取る。目を閉じて必死にこちらへしがみついている神谷さんはともかく、だらしなくにやけている自分の顔が見るに堪えず、神谷さんから隠すように懐へしまった。

 

 

 建物から外の明るいところへ出て、ようやくいつもの調子に戻った神谷さんが次はジェットコースター! と言いながら手を引っ張って走り出してしまった。思わずつんのめりそうになりながらも、遅れないように走り出す。

 お化け屋敷の中から繋がれていた手は、ずっとそのままだった。

 

 

「近くから見てもでっかいなぁ!」

 

「あれ、足がすくんでるけど高橋って絶叫系ダメなんだっけか」

 

「い、いや? まぁあんまり乗った記憶はないけど何とかなるって」

 

「そうか。空いてるみたいだし、平気だったら何回か乗ってもいいよな?」

 

 

 入場した時から見えていたジェットコースターのレールの、その高さに少し怖じ気着いていると不思議そうな顔をした神谷さんにそう聞かれる。思わず強がってしまうと、その様子を見て察したのか、神谷さんがニヤッと笑って悪魔の提案をしてきた。

 まさか……いくら待ち時間が殆どないと言っても、ジェットコースターにそう何回も乗るなんてありえない……。

 そうこうしている内に、自分たちの番が回ってきて1回目の乗車をすることになる。

 

 怖すぎる……人間の乗り物ではないぞこれっ……!

 カーブや落下でかかるプラスマイナスのGに恐れおののきながら、神谷さんと繋いだ手を握りしめて目をつぶっていた。

 

 恐怖の数分間をなんとか乗り切った後、上機嫌な神谷さんが素晴らしい笑顔でもう一回乗りたいと言い出す。

 その笑顔を見て、NOと言うことは出来なかった。

 

 ヒィィィィ……!

 

 

「あー悪い。調子に乗りすぎちゃったな。どっかで休むか」

 

 

 少しバツの悪そうな表情で神谷さんがそう言う。4回目の走行を終え、完全にグロッキー状態になってしまった俺はフラフラと、神谷さんが指さしたベンチに向かっていた。

 

 

「その、ちょっと横になっててもいいぞ。……ほら」

 

 

 少し逡巡した後、軽く自分の膝をたたきながら神谷さんがそう言った。もちろん、ありがたく膝を枕にさせていただく。腰に当たる木の板の硬さと対照的に、程よく首を押し返す感触が心地よかった。

 

 

「少し、寝ててもいいから」

 

 

 ウトウトしていると、優しい声色でそう語りかけられ、お言葉に甘えて少し眠ることにした。

 眠りに落ちる寸前、小さな声でなにか聞こえたような気がしたが、なんて言ったのかはっきりとは聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

「んんっ……」

 

「あ、悪いな。起こしちゃったか?」

 

 

 頭を優しく撫でられるような、くすぐったい感覚で目が覚める。俺が起きた事に気づいた神谷さんは動かしていた手を止めてしまった。

 

 少し口惜しいが、膝枕のお礼を言ってゆっくり体を起こす。ジェットコースター4連続で感じていた疲れは全て吹っ飛んでいた。

 軽く伸びをしてあたりを見回すと、もう夕方で日がだんだんと落ちて空がオレンジ色に染まっている。ちょっと寝すぎたか……そう思っていると、神谷さんが観覧車に乗ろうと言い出した。

 この夕焼けを上から見てみたいらしい。

 

 幸いだんだん人も少なくなってきているので、急げば日が落ちる前に頂点まで行けるだろう。

 ベンチから立ち上がって観覧車の方へ向かおうとする。どちらともなく、差し出した手が繋がった。

 

 

「次の方、どうぞー」

 

 

 係員さんの誘導に応じて観覧車に乗り込んだ。二面ある椅子のそれぞれに座り、少しづつ高くなっていく外の景色を見る。陽はさっきよりも少し落ちて、丁度被った雲が赤紫に光っていた。

 

 

「ここから見ると、赤、橙、紫、青のグラデーションがキレイに見えるよ」

 

「ホントか? あたしにも見せてくれっ」

 

 

 その景色を指差すと、こちら側のシートに神谷さんもやってきて隣に座った。体の側面が密着し、急に意識しだしてしまう。ドクンドクンと激しい心音は、自分か神谷さんか、どちらのものか分からなくなってしまった。

 

 

「どこらへんだ?」

 

「分かるかな、ここの辺りが――」

 

 

 指で窓を指して、場所を説明する。頭の中ではそれどころではなかったが、頑張って平静を装い律儀に答えていた。

 

 ――不意に、頬に柔らかい感触があった。

 

 2人しか居ない静かな環境にやけに大きくリップ音が響く。

 

 

「こっちは、見ないでくれっ」

 

 

 絞り出すような神谷さんの声に、逆らうことが出来ず、2人で向き合うことのないまま窓を眺めて、観覧車は一周した。

 

 

 

 

 

 

「楽しかった?」

 

「うん……また、来たいな……」

 

「そっか。……良かった。」

 

 

 観覧車から降りて、閉園までの時間は僅か。そのアナウンスを聞きながら、特に何かに乗るわけでもなく2人で歩いていた。

 まだ、互いの顔を見ることは出来なかった。繋がれた手は嫌という程相手の存在を意識させてくる。

 無難な会話を2人でしながら、今日の昼、入ってきた出入り口へ向かった。

 

 どうしても今、言わなければいけない。そんな気持ちになり、出口へ向かう足を止め神谷さんの方を向く。足を止めた自分に引っ張られ、少し先に進んだ神谷さんがこちらを振り向いた。

 

 

「今度。次はさ。俺の方からちゃんと、言葉にして伝えるから」

 

 

 思わず口から飛び出したその言葉を、神谷さんは唖然としながらもゆっくり噛み締め、そして笑顔を浮かべた。

 

 

「ちゃんと、待ってるからな」

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