隣の席の太眉乙女   作:桟橋

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しんげき3期楽しみですね。


水族館1

 少し早めに家を出たつもりだったけれど、遅延が重なり乗り換えに失敗して遅刻気味になってしまった。時間にルーズだとは思われたくないな、そう考えながら早足で改札に向かう。

 駅での待ち合わせは9時だったが、その頃はまだ電車に揺られて一駅前を通過していた。

 電車の中で五分ほど遅れるとメッセージを送ったが、返事はまだ帰ってきてなかった。

 

 急いで改札を抜けようとする自分の前で、女の子が小走りで改札に突っ込み弾き出された。後ろ姿で分かる、神谷さんだ。

 あわわ、ごめんなさいっと後ろの人に謝りながら再度ICカードをタッチして、今度は無事抜けられたみたいだ。

 それからまた少し駆け足で券売機の方へ向かい、柱にもたれ掛かって一息ついている。

 

 なんだ、神谷さんも遅れ気味だったのか。

 神谷さんはしきりに腕時計を確認してあたりを見回している。約束の時間を過ぎているのにそれらしき人影が無くて心配なのだろう。

 神谷さんがスマホでメッセージを確認する前に送信を取り消して、『先に行っちゃったよ』とメッセージを送ったらさぞ慌てるだろう。……やってみた。

 

 メッセージを送信すると同時に、携帯の通知に気づいた神谷さんがスマホを取り出す。画面を見て慌てだした。

 少し距離があるのでなんて言ってるかは分からないが、混乱していることは分かる。

 携帯と周囲の間を目線が激しく動きながら、キョロキョロするスピードが早くなってきたので、何だか可哀想になり神谷さんのもとへ駆け寄った。

 

 

「ゴメン! 遅れちゃった。待った?」

 

 

 携帯でこちらに送るメッセージを打ち込んでいた神谷さんが、突然声を掛けられ驚きながら目線を上げる。ちょっと涙目かもしれない。携帯と俺を見比べながら、口をパクパクさせていた。

 

 

「なーんて、実はそこで神谷さんが改札通るとこ見ちゃってさ。神谷さんも遅れてるならからかっちゃおうと思って。」

 

「ば、バカだろおまえっ! す、すっごい不安だったんだからな!」

 

「えぇっ、そんなに」

 

「二度と逃げられないようにしてやるっ」

 

 

 ようやく声を出した神谷さんは、怒りを顕にして叱りだす……が、腕をすごい力で掴まれて引き寄せられた。

 

「ちょっと、歩きづらくない?」

 

 思わずそう言うと、

 

「反省するまでこのままだからなっ」

 

 と返されてしまった。

 

「じゃあ一生反省できないかな」

 

 そう考えが声に漏れると、しがみつくような状態から少しだけ距離が開いて、神谷さんの顔が赤くなった。

 

「……ずるい」

 

 

 

「あ、ワンピース似合ってるよ」

 

「……あたしじゃなくて、海を見ろよ」

 

「海に嫉妬しちゃうから……」

 

「しないっ!」

 

 

 駅から海沿いの道を少し歩いて水族館の方へ向かう。家族連れが多い道で、流石に人目が気になったのか手を繋ぐだけの体勢に移行した神谷さんだった。

 服装髪型をどんどん褒めてから、言葉では嫌がりながらも態度が軟化する神谷さんが面白くて調子に乗っていると、段々と神谷さんが恥ずかしさからか早歩きになっていくので次第に駆け足になり、完全に悪目立ちしてしまった。

 逃げようとするのに手を離さない神谷さんサイドにも問題があると言うと、もとに戻ったはずの歩く速度が加速し始めたので、慌てて素直に謝る。

 満足げな表情の神谷さんは、褒めてとねだる子犬みたいだった。思わず撫でるとへそを曲げられてしまったけれど。

 

 

 

「高校生2人ですね。はい、こちら入場券です」

 

「ありがとうございます」

 

 

 入り口で入場券を買い、お目当ての水族館へ入る。その時、しきりに売店の方を見る神谷さんの目線を追うと、一メートルはありそうな巨大なシャチのぬいぐるみを食い入る様に見つめていた。

 なるほど、どうしても気になるのなら買ってもいいけど……

 

 

「食べられないよ?」

 

「誰が食べるんだよっ」

 

 

 キレのあるツッコミ、慣れてるねと返すと誰かさんのお蔭でなっ、と言われてしまった。北条さんかな?

 

 

「……クシュンっ」

 

 

 後ろに並んでいるお客さんがくしゃみをして、なぜだか気になってそちらを向こうとしたが水族館にはしゃぐ神谷さんに引っ張られ、よく見ることが出来なかった。

 

 

 

 イワシ、クラゲ、カニ、サメ……覗き込むような小さな水槽から、開けた空間にある大きな水槽まで1つも見逃さないように見て回る神谷さんに連れられ、隅から隅まで水族館を堪能する。

 見たこと無い魚や、面白い生態が書かれたパネルを見る度に感嘆の声をあげる神谷さんが子供みたいで、これがスゴイあれがスゴイと声を掛けてくる神谷さんの事を見ていた。

 

 ギョギョっと言うのが口癖の海洋学者の先生は、水族館にいる魚の殆どを食べたことがあると聞いたけれど、実際この水槽の中の何割が食べられるのだろうか、なんて考えているとたまらなくお腹が空いてしまい、その事を神谷さんに訴えると、なんて不謹慎なっという顔をされてしまった。

 ただ、時間はちょうどお昼。神谷さんもお腹が空いているのは同じだったので、水族館内のレストランに入ることになった。

 

 

「おぉ、やっぱり水族館で魚を出すわけないよなっ!」

 

「このオムライスの形は完全にエビだけどね」

 

「それとこれとは別だろ? さっきまで見てた魚が犠牲になったわけじゃないんだし」

 

「なるほど、別物だしね。……決めた、マグロ丼で」

 

「えええッ!?」

 

 

 メニューに出すほうがおかしい、でも美味しいから気にせず食べる。そう言い切ってネギトロ丼を食べ始めた俺を、神谷さんは信じられないものを見るような目で見ていたが、自分もエビ型のオムライスの皮をはぎ、頭えぐり出しているのはどうなんだろう。

 笑顔の神谷さんが嬉しそうに食べるので、深くは考えるのは辞めた。

 それよりも、水族館に入ってからやたら視線を感じるのだけど……。

 ご飯を食べ終わった神谷さんが、もうすぐイルカショーが始まるからと急かすので慌てて会計を済ませて店を出た。

 

 

 

 着いたのは開演10分前、前から3,4列目になんとか座る事ができ無事にイルカショーを見ることが出来た。

 飼育員の合図をしっかり聞いて、見て? 輪っかをくぐり抜けたりジャンプをしたり、水をかけてきたり、大暴れのイルカに隣に座る神谷さんも大はしゃぎだった。

 自分としては、もっとイルカさんには頑張ってもらってこの列までビショビショにしてほしかったんだけどな……そう神谷さんにこぼすと、顔を真っ赤にした神谷さんが「し、下着が見えちゃうから……こんな所じゃ、だめだっ!」と言うので、どこなら良いのかと追求するも逃げられてしまった。

 

 

 

 夕方になるまで水族館内をくまなく探索仕切り、そろそろ花火を見に向かおうかと言う時間になった。

 最後に、出入り口のおみやげ屋さんでちっちゃなシャチのぬいぐるみを買い、神谷さんに手渡す。

 喜ぶ神谷さんの笑顔で、自分も笑顔になった。




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