隣の席の太眉乙女   作:桟橋

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後書き追加(5/15)


ライブ2

 ライブの開演時間が近くなってきたので自分の席に戻ると、もうすでに知り合いへの挨拶周りを終えたのか一足先に席についている松下がいた。

 高揚感からか、いつもより表情がニヤついているような気がする。ウザさ3割増だ。

 

 

「同僚とか言ってた人たちへの挨拶はし終わったのか?」

 

「おう。Twitterで交流ある人で、今日会場に来れた人にはざっと挨拶して回ったし、初めて知り合った人もたくさんいて始まる前から大満足だぜ」

 

「ライブ見に来たのにそれで満足しちゃうのかよ」

 

「こういうのもライブの醍醐味なんだよ。お前こそさっきより機嫌が良そうじゃないか。なにかいいことあったのか?」

 

 

 うぇ、確かに機嫌は良かったがそんなに露骨に顔に出ていたとは思わなかった。俺もライブなんて初めての経験で舞い上がっちゃってるんだろうか。さっきあったことの経緯を簡単に松下に話した。

 

 

「アイドル級にカワイイ女の子がいて二人組だった〜?馬鹿だな−お前めったにいないカワイイ子だからアイドルなんだぞ?そんなホイホイ可愛い女の子が居てたまるか」

 

 

 確かに信じられない気持ちはわかるし、実際にあった自分でも相当レアな体験をしたと思うが、かなり言い方がムカつくな。普段は良いやつなのにことアイドルとなると拘りがあるのか無意味に頑固だ。

 

 

「そうだ、名前は聞かなかったのか?そんなに可愛い子なら、もしかしたら本当にアイドルなのかも知れない」

 

 

「えーっと、島村卯月さんと渋谷凛さんって名乗ってたはず」

 

「はぁ?お前本気で言ってるのか?からかうにしたって適当に調べたアイドルいうだけじゃ俺はだまされないぞ?その二人は確か仕事の関係でライブはおろか会場にさえ来れるはずもないんだが」

 

「知り合いのアイドルの応援に来たとかじゃないのか?それで休みが取れるのかは知らないけど」

 

「まぁなんにせよ、それが本当だったらお前めちゃくちゃツイてるな。単純に羨ましい」

 

「まぁまぁこれからステージで確実に本物を見れるんだから」

 

 

 まさか本当にアイドルだったかも知れないなんて予想外だ。松下が言うにはスケジュールの関係で会場には居るはずがないそうだが、もしかしたらライブ中にサプライズ出演とかがあるのかも知れない。

 サプライズだとしたら、致命的なネタバレを食らっていることになるが、他の人が知らないことを知っているという優越感もあるし……なんだか複雑な気持ちになりながら開演時間を迎えた。

 

 

 

 会場全体が真っ暗に暗転する。周りの観客は小さな声で「ついに始まるな」なんてささやきあっている。松下はもうすでにサイリウムを指に挟んで準備万端だ。

 モニターに今日のライブに出演するアイドルたちの映像が流れ始め、会場中からウオオオオという野太い歓声が上がった。

 曲が流れ始めると次第にライトが点灯し、ステージを眩く輝かせる。

 奥、左右、せり上がる床からアイドルたちの影が現れ、綺麗に揃ったダンスを踊り始めた。

 

 観客席から挙がるコールの声と同時に、会場全体には星のように瞬くサイリウムの光が浮かび、波の様に大きなうねりが起きている。

 歓声に応えるように歌声は重なって力を増し、一列に並んだ迫力のダンスはキレを増していく。

 

 息苦しいほどの熱気が会場中を包み込んだ。

 

 

「お前も声を出せって!言わなくてもわかるだろ?どうすれば良いか!」

 

 

 松下があっけにとられて唖然としたままの俺に声を出すように促してくる。完全に空気に飲まれてしまった俺は頭が真っ白のまま、適当に手にサイリウムを掴むと、響き渡る歓声と同調した。

 

 

 

 一曲目のパフォーマンスが終わって会場が少し落ち着きを取り戻すと、MCパートに入るのかアイドルたちの自己紹介が始まった。神谷さんはバックダンサーをすると言っていたけど、メインで曲を歌わないだけでアイドルの一員として出ているのだろう、最後の方ではあるが神谷さんも自己紹介をしていた。

 

 俺は興奮冷めやらぬ中、聞き覚えのある名前が聞こえてきて余計混乱したが、松下の方はさっきまでの興奮は何だったのか今は冷静に聞くモードになっている。

 どういう精神構造をしてたらそんなすぐに興奮冷静を一瞬で切り替えられるのか、これが分からない。

 

 ステージの方は、各自の紹介が終わるとすぐに二曲目のメンバーを残して準備を整えている。

 所詮アイドルのライブなんだろうと考えていた自分を反省し、また歓声とコールにノレるようにサイリウムを掴み直した。

 

 

 

 今が何曲目だろうか、それともまだ数曲なのだろうか。時間の感覚が麻痺するほど必死に声を出し続けている中、アイドルたちも歌って踊って、ステージを所狭しと走り回っている。神谷さんも、昂ぶっているのか近くの観客にマイクアピールなんかしたりしながら縦横無尽に動いている。

 学校では絶対に見ることのできない輝いたその表情を見て、なんだか胸が高鳴るのと同時に、遠くへ行ってしまったように感じて胸にチクリとした痛みを覚えた。

 

 

 

 一旦パフォーマンスは小休止に入り、またMCパートに入った。

 どうやらいくつかのチームに分かれてクイズを出すらしい。さっきまでの派手なパフォーマンスとは打って変わって、気の抜けたゆるい雰囲気にすこし安心した。

 早押し勝負で得点を競うらしく、各チーム一進一退を繰り返しながら最終問題になった。

 

「問:花の色は うつりにけりな いたづらに

   わが身世にふる ながめせしまに というのは平安時代の歌人小野小町の詠んだ歌ですが、その醜く衰えた姿を描いた能の曲目はなんという…」

 

「わ、わかったぞ!ハイ!」

 

 神谷さんが、他の回答者が悩んでいるうちに手元のボタンを押した。これに正解すれば、某クイズ番組のような陣取りパネルで、他のチームの陣地を一気に奪うことができる。

 

「えーっと…卒塔婆小町!であってるか?」

 

「正解です!奈緒ちゃん、よく覚えてましたね」

 

 チームのアイドルたちと、観客が歓声を上げる。地道に稼いだパネルが効果を発揮し、陣地の形勢が完全に変わった。そのパネルを見る限り、どうやら神谷さんの居るクールチームが優勝ということらしい。

 

「あー、なんというか、ついこないだやったんだよな。授業で。たまたま覚えてたっていうか」

 

「そうなんですか!すごい偶然ですね〜」

 

 

 どうやらごく最近習ったようだ。いつの間に。同じ授業を受けているはずなのに、自分には全く聞き覚えがない知識を覚えているのはどういうことなのだろうか。まぁ古典の時間は結構な高確率で寝てしまって、神谷さんに起こしてもらうことがしょっちゅうだが。

 アイドルのライブにきて、普段の授業態度の反省をするとは全く予想していなかった。





「すごく良いライブでした〜!」
「そうだね。奈緒も加蓮もメインじゃなかったけど、すごくいい表情してた。」
「美穂ちゃんも響子ちゃんも、この間一緒にライブしたときよりダンスが上手になってました!」
「未央のことは見てなかったの?」
「ええっ!?もちろん見てましたよ!」
「未央に言っちゃおうかな。卯月が話題にもあげなかったって。」
「そんな〜。ゆるしてください〜。」
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