隣の席の太眉乙女   作:桟橋

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学校5

・お菓子をあげてみよう

 

 女の子は甘いものをもらえたら喜ぶと聞いたことがある。というか女の子でなくても美味しいものをもらえたら嬉しいはず。神谷さんもきっと例外ではないはずだ。

 今日の朝登校してくる途中に買った、この新発売のチョコレート菓子。さり気なく興味を惹いて、それとなく一つ食べないか聞いてみよう。

 

 

「あの、神谷さん?」

 

「……なんだよ」

 

「この、チョコレート。美味しかったから一つどうかな? って思って」

 

「あー悪いな、あたしもう持ってるんだ。事務所で流行っててさ」

 

 

 そ、そんな!?いきなり出鼻をくじかれるなんて...いや、アイドルたるもの流行り物をしっかり抑えておく程度の女子力は備えているぞ、ということなんだろうか。

 仕方ない、切り替えていこう。次だ次。

 

 

 

・ライブの感想をちゃんと伝えよう

 

 これでいこう。当日にLINEで送ったメッセージではきっと感動の3分の1も伝えきれていないだろう。今、直接面と向かってだったら、あの時感じた思いを分かってもらえるかも知れない。

 

 

「あのさ、神谷さん」

 

「……なんだよっ」

 

「この前のライブのことなんだけどさ」

 

「……それがどうしたんだよ」

 

 

 やっぱり神谷さん的には触れてほしくない話題なのか、ジト目でこちらを見てくる。

 それでもファンとして、自分がもらった感動とそれに対しての感謝の気持ちは絶対に伝えたい。目が離せず虜になった経験なんて今までは無かったんだ。

 

 

「ライブを見て、本当に衝撃を受けたんだ。衣装や照明じゃなく、ステージで歌って踊ってる神谷さん自身が、キラキラ輝いててさ。体全体から楽しいって喜びが伝わってきて。感動したっていうか……。一瞬でファンになったんだ。なんか変だけど、あのライブを見せてもらって本当に感謝してる」

 

 

 言いたいことを全て言い終わって満足した。あんな体験は人生でも数えるほどしか無いぐらい衝撃的だった、ということを少しでも伝えられただろうか。

 神谷さんは意外にも真剣に俺の言うことを聞いているみたいだった。嬉しいと思ってくれているのか、ちょっと表情が緩んだように見える。すこし耳が赤い。

 

 

「っ、その、そんなに真剣に見てたとは思わなかったというか、いきなりそんなこと言われたら恥ずかしいというか……と、とにかくありがとなっ。すごくうれしい……うん」

 

 

 よくよく考えると、俺がさっき言ったことはとんでもなく気持ち悪い口説き文句だったかもしれないが、神谷さんは真面目に受け止めてくれて本当に良かった。

 お互い照れてしまって、さっきまでとは違った意味で話づらいくなってしまったが、神谷さんもこちらのことを憎からず思っているはず……結果オーライということにしよう。

 他になにか、話が盛り上がる共通の話題なんてあっただろうか。

 勉強のことなんて考えたくないし、もっとこう明るくてポップで楽しくなるような話題は……。

 そういえば神谷さんはアニメの話題に食いつきが良かったような?

 

 

・アニメの話をしてみよう

 

 

「ねぇねぇ、神谷さん」

 

「な、なんだよ」

 

「こないだ話してたアニメのことなんだけど、先週の、見た?」

 

「……あぁ!アレな!あたしも見たぞっ!なかなか熱い展開だったよな!主人公が敵の正体を突き止めたところで、そのままフェードアウトしてエンディングに入るなんてなっ!次の話が早く知りたくなって原作の本も買っちゃったしさ……ハッ」

 

「はは……すごく楽しみにしてるんだね」

 

 

 話を振った途端に神谷さんがパッと笑顔になり、先週の展開を饒舌に語ってくれた後、アニメの原作であるライトノベルを購入したことを教えてくれたが……本人的には喋りすぎたと思ったらしい。うっ……と言葉に詰まって停止したあと、顔を伏せてしまった。

 

 

「ちがっ、これはちがくて……その、そんなふうに事務所の先輩が話してたっていうか……」

 

「えーっと、前に言ってたアニメ好きの先輩だっけ?一度話してみたいなー。俺はアニメからしか知らないから、原作との違いとか是非教えてもらいたいや」

 

「え゛。そ、そうなのか?あぁ〜うんと、つ、伝えておくよ……その、先輩に」

 

 

 自分の話をしていることがバレバレなのに、どうしても取り繕おうとする所が、滑稽で可愛かったので話に乗ってあげる。まさかうまくいくとは思っていなかったのだろうか、なんだか微妙な顔をして頷いていた。

 アニメの話を振ってみると、興奮して語り出す神谷さん、自分の失敗に気づいて焦る神谷さん、いろいろな反応が見られるからやっぱり面白いな。機会があれば積極的に振ってみちゃおう。

 

 

「なぁ、さっきからあたしにやたら話しかけてくるけど、なにか言いたいことでも有るのか?あ、別に言いづらいならムリに言わなくてもいいけどな」

 

 

 なんてアホなことを考えていたら、流石にしつこく話しかけすぎたのか、不審に思った神谷さんが一体どういうつもりなのかを聞いてきた。

 昨日の不用意な発言を謝るとしたら今だろう。昨日は神谷さんと雑談ができなくて、寂しく思ったことも正直に伝えようか。

 

 

「言いづらいって訳ではないんだけど、いつ昨日の事を謝ろうかなって考えてて。昨日は本当にごめん。あの後、神谷さんに口を聞いてもらえなくなって寂しかったから、本当に反省したんだ。」

 

「……昨日の事はあたしも過剰に反応したなって家に帰ってから思い直したんだ。だから、お互い様ってことにしよう。てっ、てか、話せなくて寂しかったってなんだよっ……」

 

「それは、神谷さんともっと仲良くしたいなぁって思ってるから」

 

「か、からかってんのか!?」

 

「からかってないよ、本気で」

 

「えぇ……な、なんだ、その、距離感!距離感が大事だから!な!適度に友だちとしてというか……」

 

「じゃあ友だちとして雑談しよう」

 

「そ、そういうことなのかぁ??」

 

 

 煮え切らない口ぶりで人差し指と人差し指をツンツンしている。かと思えば、心底驚いた顔をしてリアクションをとったり、目まぐるしく表情が変わったが、最終的に和解して友だちということに落ち着いた。

 頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら、「友だちってこういうもんか??」とつぶやく神谷さんを見て、一先ず雑談が出来る関係まで許されて本当に良かった、とほっと胸をなでおろした。




総選挙お疲れ様です。

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