隣の席の太眉乙女   作:桟橋

8 / 36
学校6

・金曜日の午後

 

 今日最後の授業である漢文の授業をいつもの睡眠の構えで過ごしていると、神谷さんがチョップで小突いてきた。

 

 

「なぁ、高橋って週末暇か?」

 

「え?暇だけど……なんかあるの?」

 

「いやさ、その……あ、アニメが好きな先輩が居てさっ」

 

「あぁ、よく話に出てくる」

 

「その先輩が、今週末どっちも外せない予定があるのに欲しいグッズが販売されるイベントがあるみたいで」

 

「それを頼まれたけど、今週は自分も予定があっていけないってこと?」

 

「そうなんだよ!ずっと欲しいと思ってたのに……いや、その、とりあえず!どっちかの日の暇な時に買ってほしいんだ。駄目……か?」

 

 

 神谷さんが申し訳なさそうに上目遣いでこちらを見てくる……別に買ってきてあげる義理はないけど、幸い今週末の日曜は部活の予定もはいってないしすることもないから買いに行ってあげてもいいだろう。

 決して美人の上目遣いに屈したわけではないと、自分に理由をつけながら了承の返事をした。

 

 

「ほ、本当か!その先輩もすっごく喜ぶと思う!ありがとなっ!」

 

 

 神谷さんはすごく感激してくれているのか、こちらの手を握ってブンブン上下に振ってくる。ちょっと恥ずかしいし、授業中なんだけど……。

 先生がガッツリこっちを見てるし……あ、だんだん近づいてきてる。俺たちの席は教室の角っこだけど、やっぱり授業中にこんな事してると見つかってしまうか……。

 流石に先生の接近に気づいたのか、神谷さんが慌てて手を離す。いやもう手遅れだ。

 

 

「仲がいいのはわかったが、そういうのは放課後にしろ」

 

 

 パンッという乾いた音が教室に響く。先生が読み上げているテキストで軽く俺の頭をはたいて言った。頭というか、みんなの視線が痛いな……神谷さんはうつむいて顔が見れないが、耳が赤い。

 

 

「すいません。放課後にします」

 

「節度を持てよ」

 

「うっす」

 

 

 クラスの半分以上が眠気に負けて落ちていたので、突然誰かが頭を叩かれた事に起きて困惑しているみたいだが、真面目に授業を受けていた一部は事の顛末を見ていたのかヒソヒソ話している。

 先生の読み上げは再開したが、神谷さんはなんだかちっちゃくなってるし、周りはヒソヒソ小声でささやきあっていてとても居づらく感じる。それでも仲のいいやつらが軒並み、状況を理解できずに入眠の体勢をとったことは不幸中の幸いだろうか。

 

 

 しばらくしてチャイムが鳴り、授業が終わると先生はササッと号令をかけさせて教科準備室に戻っていった。

 神谷さんはあとでノートに写すためか、黒板を写真で撮影し教科書類をまとめると廊下にある自分のロッカーへ仕舞いに行った。が、後ろからニヨニヨと気持ち悪い笑みを浮かべた女子の一団があとを追いかけていく。……ウワッ ナンダヨ ヤメロ−……遠くから神谷さんが犠牲になる声が聞こえる……。R.I.P.

 

 

 俺の方はというと、寝てた奴らが起きてきて俺の方に集まったが、ナンデお前叩かれてんの、お前神谷さんにアタックしてたろ、マジか!抜け駆けかよ〜と頭の悪い会話を頭上で繰り広げているのを聞きながら帰りの準備をしていた。

 

 

「お前らバカだな。戦争ってあるだろ?じゃんけんの。あれで握手してたんだよ」

 

「はぁ!?授業中にするほうが馬鹿だろ」「それでどっちが勝ったんだ?」「俺、女子の手とかココ十年触ってない……」「小学生かって」

 

「うるせーな。俺は部活行くからついてくんなよ」「チョ・マテヨ」「説明責任を果たせ!」「有罪じゃないか?」「処す?処す?」

 

 

 苦し紛れの説明では納得しなかったのかしつこく追求してくるが、荷物をまとめて机を下げ、さっさとラケットを取りに部室に向かった。

 

 

 

・帰宅

 

 放課後の部活は、結局ラケットを取りに行ったのにもかかわらず新入生歓迎メニューだとかなんだと部長が騒ぎ、サッカー部からボールを借りてきたかと思えば近くの公園に移動し、学年対抗でドッジボール対決をして終わった。

 3年生は引退試合も近いのに一体何がしたいんだこの部活は……もう手遅れなのか。

 熱中する余り、大事な利き手の指を突き指する人が出て解散になったが、あの調子だとトラブルがなければ最終下校時刻まで続けていただろう。

 

 駅のホームに降りた瞬間に急行が出発するのをみて、ついてないなぁと思いながらポケットからイヤホンを取り出して耳にかけ、おすすめの曲を再生した。

 ストリーミングサービスは、普段よく聞く曲からおすすめを再生してくれるので聞く曲を選ぶ煩わしさがなくて良い。テンポの早いトランス系の曲から、ゆったりとしたジャズ、スウィング、オルタナなどなどその日の気分でおすすめのプレイリストを作ってくれる。

 有名なサービスは新譜の追加も頻繁で、世間の流行にも取り残されないので重宝している。今日は部活の件もあって、なんだか不完全燃焼だからBPM高めな曲が選ばれたプレイリストを選ぼう。

 

 

 

 最寄り駅で降り、毎日見る家路を歩いて帰る。アップテンポな曲は自然と足の回転数が上がってしまう。いつもより2、3分は早く家についたようだ。

 

 

「ただいま〜」

 

「おかえり〜」

 

 

 母親の間の伸びた声がリビングから聞こえる。晩御飯の準備をしているのか食器を用意していた。父親はいつも夜遅くに帰ってくるので普段は2人分の食器しか出され無いのに、今日は3人分の食器が用意されている

 

 

「あれ、今日って父さん早いの?」

 

「そうなのよ。いつも夕食に間に合う時間に帰ってきてくれれば、家族揃って食べられるのにね」

 

「そうだね」

 

 

 母さんとしてはやはり家族で一緒にご飯を食べたいのか、今日は嬉しいけど……と複雑な顔をしている。父と母は仕事の関係で出会ったと聞いたが、母は余り父の仕事をよく思っていないのだろうか。

 

 

「おーい帰ったぞー」

 

「おかえりなさい、もうすぐご飯できますよ」

 

 

 自分の部屋に戻り、カバンを置いてブレザーを脱ぎ一息ついていると父親が帰ってくる声がした。もうすぐご飯ができるらしいので、リビングに出ていくと父がコップに麦茶を注いで一気飲みしている。

 

 

「早かったね、おかえり」

 

「プハァ〜。おう、今日は明後日のイベントの準備だけだったからな」

 

 

 そこそこ名のしれたCDショップの店長をしている父は、よくショップ内でやるライブの企画をしているので特に珍しくはないが、丸々1日を設営に掛けたとは聞いたことが無い。

 

 

「今日はそれだけだったの?」

 

「あぁ、結構豪華だから人が集中して混乱しないように、店内の片付けをする関係で今日は閉めてたんだよ」

 

「へぇ、そんなすごいアーティストが来るんだ」

 

「今大人気のアイドルがユニットで来るらしくてな。ん、そういえばお前こないだアイドルのライブに言ったんだって?興味あるか?」

 

「それはチケットを友だちからもらったからだけど……。興味があるとなんかあるの?」

 

「実はな、普段店舗は4人ぐらいで回してるんだけど、明後日は盛況が予想されてておそらく人手が足りなくなるんだ。日雇いでバイトを入れるわけにもいかないし……お前が良ければ手伝いで出てくれないか?」

 

「俺が?」

 

「頼むよ、店が回らないと困るんだ。制服も貸すし、働いた分の給料は出してやろう。」

 

 

 どうしようか、今週末は神谷さんのお使いに行かなければならないけど……神谷さんからいつ何処に向かえば良いのかあとでLINEが来るだろうから、それを見た後のほうが……まぁでも最悪土曜日の部活を休めば大丈夫か。

 

 

「いいよ、レジ担当ぐらいなら任せて」

 

「本当か!いや〜良かったよ。なんか欲しいものがあれば割引で買わせてやるからな!」

 

 

 それは職権乱用では?と思ったが、母親はもう夕食の準備を済ませて座っているし、父親は食べる気満々で席につきこちらを催促してくるように見てくるし、追求するのもめんどくさくなったので素直に食卓に向かい、晩飯を食べ始めた。




日間ランキングに少しの間載っていたみたいで、評価や感想ありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。