隣の席の太眉乙女   作:桟橋

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イベント1

・土曜日

 

 朝日の眩しさで目が覚める。布団の心地よさにまどろんでいると、枕元に置いていた携帯が震えた。

 

 

『おはよう、朝早くゴメンな。昨日話した事なんだけど、場所と時間とを詳しく書いたメモがこれな!』

 

 ―画像が送信されました

 

 

 どうやら、メッセージで神谷さんからお願いの詳細が送られて来たようだ。ルーズリーフに、癖のある丸っこい綺麗な字で日時と場所の簡単な地図、手に入れてほしいものが書かれている。右下の余白にはなんのゆるキャラだろうか、たのむっ!と言いながらこちらに手を合わせているヒトガタが描かれていた。

 

 メモの内容をよく読んでみると、やはり今日は部活とイベントの時間が被ってしまっている。明日は父親の店の手伝いをするのが優先だし、余り行く気のなかった部活をサボるか。

 そう結論をだしたので、さっそくグループLINEを開いて適当に理由をつけ欠席の旨を連絡すると、他にすることもないので連絡された時間には余裕があるものの外出の準備を始めた。

 

 イベント……コラボグッズの販売があるということだったけど、どれぐらいの集客があるかわからないなぁ……混雑するかも知れないし軽い服装で行くか。指定されたグッズも対してかさばらないだろうし斜めがけのカバンでも足りるだろう。

 幸い、場所は余り家から遠くなく自転車でも迎える距離なので、朝昼のご飯をあわせてブランチとして食べてさっさと向かうことにしよう。

 

 

 

 家から自転車を飛ばして30分ほど、メモに書かれた時間より10分ぐらい早めに着いたようだ。近場の駐輪場に自転車を停めると、目当ての建物に向かった。

 

 入り口に置かれた掲示物によると、このビルの1フロア丸々使ってイベントをやるらしい。すごい力の入れようだな……なんて思いながらエレベーターに向かうと、『5Fのイベントにお越しの方は左奥の階段をご利用ください』とはり紙が貼ってある。

 左奥……?エレベーターの前を通り過ぎて覗いて見ると、1階まで並んでいるのだろうか、行列が見えた。

 嘘だろ……さっさと買って帰ろうと考えていたがどうやら長期戦になりそうだ。持ってきた水をのみながら行列の後ろに加わった。

 

 

 

 

「スイマセン、ちょっと通してもらっていいっスか」

 

「失礼するじぇ」

 

「えっ?ああ、どうぞ」

 

 

 行列を眺めながらイベントの始まりを待っていると、今日のイベントに出る人だろうか、いかにも芸能人が変装していますと言ったような格好の2人が、脇を通り抜けて階段を駆け上がっていった。遅延でもあったのだろうか、ひどく焦っていたが。

 ん……?なんかのアニメのキーホルダーが落ちてる……。さっきの人たちのものだろう。後で届けてあげるか。

 それからしばらくして、ようやく行列が動き始めたことでイベントが始まったことがわかった。

 

 

 少しして目的のフロアにたどり着くと、想像以上の人の数と熱気でうへぇ、とあっけにとられたが、なるべく速くこの空間を抜け出すために頼まれた品々を次々に手にとって会計に向かった。

 

 

「お会計――――円です」

 

「えっーと、はい、お願いします」

 

「――――円ちょうどのお預かりですね。ありがとうございました。出口でキャストの方のサインが貰えるので、よろしければ是非ご利用ください」

 

 

 すばやく支払いを済ませてようやく帰れると一息ついた所、店員さんいわく出演者のサインがもらえるらしい。神谷さんもサインがあったら喜ぶだろうし、せっかくだったらもらってあげよう。出口のところに居るみたいだけど……。

 

 

「まだ帰っちゃ駄目っスよー」

 

「コッチだじぇ」

 

 

 俺が一番始めに帰る客なのか、いそいそと机と椅子を用意して座った2人組がこちらへ声をかけてきた。というか声から察するにさっき通り過ぎていった2人組だ。危うくキーホルダーを渡し忘れて帰るところだった、あぶないあぶない。

 忘れないうちに渡しておこう。

 

 

「あのー。これ落としませんでした?階段のとこにあったんですけど」

 

「あああああっ!それはユリユリのアクキーだじぇ!」

 

「急いでで落としちゃったんスかね」

 

「コレなくしてたら生きていけなかったじぇ……命の恩人だわ!」

 

「良かったっスね、ユリユリ」

 

 

 どうやら大切なものだったようでひどく感謝してくれているようだ。こんなに感謝されると、忘れて帰るところだったことが申し訳なくなってくる。

 気合い入れてサインしてあげるじぇ!と言いながら俺が買ったものを渡してとアピールしてきたので素直に手渡すと、コレは……チョイスが玄人っスね……と隣の子が分析している。

 自分で選んだものではないが、そういうふうに言われると少し恥ずかしく感じる。

 

 

「名前も書いてあげるんで、教えてもらっていいっスか?」

 

 

 名前か……神谷さんは作品の大ファンみたいだし、自分の名前を書いてもらえたら喜ぶかなと思い、正直に自分がお使いに来たことを伝えて奈緒ちゃんへ、と書いて欲しいと頼んだ。

 

 

「奈緒ちゃんへ、だじぇ」

 

「喜んでもらえると良いっスけど」

 

「多分喜ぶと思いますよ、ありがとうございました」

 

「こちらこそお買い上げありがとうございますっス」

 

「ありがと〜!」

 

 

 

 与えられた任務をすべて果たせたことを、家に帰り着いてから証拠画像と共に神谷さんへ送ると、もう仕事が終わっていたのかすぐに感謝の返信が帰ってきた。

 週明けに学校で渡すことを約束すると、なぞのゆるキャラが小躍りしているスタンプも送られてきたので、そうとうテンションが上っているようだ。

 

 神谷さんは明日も仕事ということなので、頑張ってねというやり取りをして、土曜日を終えた。

 




・数日後の事務所で


「うわっ!荒木さんと大西さんですよね!はじめまして!あたし神谷奈緒って言います!いつもアニメ見てます!漫画も読んでます!」
「奈緒ちゃんっスね。はじめましてっス。嬉しいけど照れるっスね。」
「奈緒ちゃんも原作ファンなの!?どんなカップリングが好きなんだじぇ?」
「い、いや〜!あたしはカップリングとかそういうのはあんまり考えたこと無いっていうか〜……あ、でも好きなキャラは○○です!グッズも持ってます!」
「あれ、それってあたしたちのサインがはいってるスけど、こないだのイベント来てたっスか?」
「……っ!!今、ユリユリの恋愛レーダーが反応したじぇ!もしかして彼氏が来てたの!?」
「ええっ!アイツはそんな関係じゃ!」
「友達以上恋人未満ってことっスかね……本のネタにしたいんで詳しく教えて欲しいっス!」
「いやいやいやいやっ!ほんとにたまたまお願いしただけで!そんなんじゃなくって!」
「ふふふ……腐っても乙女、このユリユリの勘はごまかされないんだじぇ!」

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